連呼しないで
ロリコン呼ばわりして、言い逃げしてきた張本人(私)と、ロリコン呼ばわりされて自警団に捕まった、あるいは到着早々の役人に捕まったと思われていた不審者。この二人が出会い頭にぶつかったとき何が起きるのか。
……正解は、
「見つけたぞおチビ。さっきはよくもやってくれたな……!」
「アラー何ノ事カシラー」
「目ェ見て話せや」
やだー、据わった目のお兄さん怖ーい。そんなんじゃモテないわよ?
「ったく、あの後誤解解くのが大変だったんだからな」
「そっちが詰め寄るのが悪いんでしょ。てかいいの? こんなトコ見られたら、それこそロリコン認定されるわよ」
「あ。」
ロリコン不審者は慌てて自分の状態を見下ろした。幼女(私)を組み敷いてる大人の図。うわー、犯罪臭しかしなぁーい。
「お巡りさーん」
「だから呼ぶなっつーの!?」
軽く頭を叩かれる。暴力的なのもモテないわよー。
「もー、早く退いてよー、変態」
「うっせー。分かってら」
案外素直に聞いて貰えそうで良かっ……
「……やっぱやめた。あんた、さっきの続きに答えろよ。それでチャラにしてやる」
「はぁ?」
「だからグレイシアの」
驚いた。まだ諦めてなかったの。
「……どうしてそこまでグレイシアにこだわるのよ」
「聞きたいことがあるんだよ。俺の欲しい答えを持ってるかもしれないから」
欲しい答えねぇ。でも残念。彼はグレイシアに会うことは叶わない。
「欲しい答えって?」
「……何でも良いだろ」
ぷいっとそっぽを向かれる。案外子供っぽい所があるなぁ。
まー、そろそろこの体勢もやめて貰いたいし? 情報くらいはあげましょうか。
「……グレイシアがこの図書館に提供した研究書が全部で三冊あるわ。前はこの棚にあったんだけど、今はないから第三書庫を解放してもらいなさい。引っ込められた本はそこにあるはずよ」
「! そうか、ありがとな!」
ぱあっと表情が明るくなる。子供かっ! ユートみたいだわ。
「お姉ちゃーん、この本どうー!?」
って、あー。また空気の読めない子が来たか。図書館内で走り回っちゃいけないのにっていつも行ってるのに。
「いたー! お姉ちゃ……ん?」
そして目撃。ユートは手に本を持ったまま、首を傾げる。
「お姉ちゃんがしらないお兄ちゃんにつぶされてるー」
「ユート、そのままカウンターに行って誰か大人を呼んできなさい」
「はーい」
「待て待て待て!」
慌てた不審者は私から身体を離して、ユートを捕まえに行く。
「おいチビ、余計なことすんなー」
「チビじゃないやい!」
ぷらーん、と首根っこを捕まえられて吊されるユート。人の弟に何してんのよ。
「お巡りさーん」
「まだ呼ぶの!?」
「だってほら、変態は捕まえないと心配じゃない」
「変態変態連呼すんなし! 俺はフィルレインって名前があるんだからな!」
「はいはい、どーでも良いし。用事は済んだんだから行ったらどう?」
めんどくさいのに付き合ってる暇ないのよー。
ジトー、と半眼で睨み続けてると、変態はやっとユートの襟から手を離した。
「あんたいったい幾つよ。小さいわりにはやけに達観してんな」
「ユート、本決めた?」
「うん、これにするー」
「って話聞けや!?」
もー、騒がしい人ねー。
「まだ居たの」
「居るよ!? 居ちゃ悪いのか!?」
「お巡りさーん」
「三回目!?」
だってうるさいし。目的は果たせそうだから良いでしょ。
向こうが立ち去らないようなので、こちらが立ち去ろうとすると、また声をかけられる。
「おいおチビ!」
「何よ、まだ何かあるわけ」
「名前。俺だけ名乗ってあんたが名乗らないのは理不尽だ」
「残念。変態に教える名前はないわ」
「じゃねーとお前の呼び方おチビに決まるぞ」
「お好きにどーぞ」
もう二度と会うことなんか無いでしょうから構わないし。
そう思って、私はユートの手を引いて魔法学書の棚から離れた。




