Lv92
舞とのレコーディングが終わってから二週間。
その間、俺はドリムとしての最後の動画投稿を行った。
ついでに、過去の動画を消してしまおうかとも思ったが、桜ちゃん曰く、消したら増える可能性があるとかなんとか言われたので思い留まった。
動画を投稿してから今まで、流石の俺もその動向を気にしていたが、何というか瞬く間に再生数が伸びて行って同時にコメントも増えていったことに驚きを隠せない。
最初の頃は悪戯だろうと言うコメントが多くみられたが、その間に舞の方の動画が投稿されたり、桜ちゃんがブログで舞に曲を提供するに至った経緯を上手く説明したり、翠さんが良いタイミングで後ろ盾をしてくれたり。
何よりアカウントが初代ドリムのものと同一なので、動画内のコメントに混乱と、落胆とが見え始めた。
で、今もまだその混乱は続いているが収束に向かいつつあり、どうやらユメ=ドリム説を説いていた人が謝罪したり、失踪したり、開き直ったりしたらしい。
これでドリム問題も解決したと言って良いだろう。
そして、舞とのレコーディングの日と言うと、同時に舞から告白された日でもある。
この二週間舞について色々と考える必要が……と、思ったのだけれど、あれ以来以前にも増して舞がメールをしてくるようになり、それ自体は嫌でも無ければ、内容も日常的なものが多かったのだけれどどうしても返信に困る日々が続いた。
逆にそのお蔭で舞に告白――未遂に終わったようなものだが――された事に関しては深く考える事もなかった。
それでも、どうしても気になってしまう事には気になってしまうので何度かユメに「舞のアレってどういう事だったんだろうな」と尋ねる。
そのたびにユメは『わたしに聞かれても困る』と言いつつも『たぶん舞ちゃん自身はそんなに気にしてほしくないんじゃないかな』と付け加えた。
確かに仮に舞が本当に付き合って欲しくて告白したのだとしても、それを撤回したと言うことは今まで通りの関係で居て欲しい事ではないかと思う。そう考えるのは自意識過剰と言うやつだろうか?
ともかく、舞とは出来るだけ今まで通りの関係で居ようと心に決めるのに今までかかってしまった事には違いない。
幸い部活の方は大きな行事も終わった――本当は北高祭で終わっていたはずなのだけれど――ので、さほど忙しいわけでもなく、ここ最近の事を考えればむしろ静かすぎるくらいだったので直接何かに障ると言うこともなかった。
「それにしても最近暇になっちゃいましたね」
月曜日の昼休みいつものようにやって来た桜ちゃんが腕を枕にして横を向きながら、本当に退屈そうにそう呟いた。
一緒に来た鼓ちゃんがそれを困ったように見つつも頷く。
「なんだかいつもライブに追われていたよね。
楽しかったけど、急に何もなくなってちょっと気が抜けちゃったかも」
「これが十月ならここで一誠先輩が来月の休日の予定を聞いてくるところなんですけどね」
「それは残念だな、さくらん。流石にそう何度もライブには誘われんよ」
「俺は妙に忙しかったここ数か月の休みがやっと来たような気がしているけどな。
年明けたら今度は卒業ライブの練習が始まるだろ?」
『今年は生徒会長だったのが秋葉会長だったこともあって去年より盛大にやるとか言ってなかったっけ?』
「そう言ってた気もするな」
途中から話に入って来たユメにそう返すと、いつものように視線がこちらに集まる。
ユメが言った言葉はこの前の部活の時に稜子が言った言葉で、それと同時にその卒業ライブまでは今のところ全く予定はないと言うことも伝えられた。
ひとまず、集まった視線をどうにかするべくユメが言った言葉を繰り返す。
「盛大とはいっても秋ちゃんはどうさせる気でしょうね。
そう言えば去年ってどんな感じだったんですか?」
「遊馬が歌っていたな」
「そうだな。俺が歌ってた」
「それは分かってます。どこでやるかとか、どんな形式でやるかと言う話です」
「だそうだ、一誠」
「遊馬もオレに説明は投げるんだな……まあ、しょうがないかねえ。
それだけオレが人気者って事だろうし」
「お前が人気者で良いから早く説明してやってくれ」
俺が急かすと一誠が「はいはい」と適当に相槌を打って桜ちゃんと鼓ちゃんに話を始める。
「確か去年は卒業式の後、体育館を貸し切って、希望者が演奏をする中にオレ達も呼ばれたって感じだったかねえ」
「いつだったかのライブハウスみたいにって事ですか?」
「イメージとしてはそんな感じかねえ」
「果たして今年はどうなるのかって感じですね。それを今秋ちゃんが考えていると……」
一誠の返答に桜ちゃんが興味があるんだか無いんだかわからない感じで返す。
そう言えば秋ちゃん秋ちゃんと秋葉会長を呼ぶだけあって、桜ちゃんと秋葉会長は仲が良かったことを思い出した。
それならばと俺は口を開く。
「桜ちゃんなら秋葉会長にどうなっているのか聞けるんじゃないか?」
「まださほど形にもなっていないでしょう。
流石に受験を控えていますし、何かやりたいとは思っているとは思いますけどね」
「それもそうか」
それでも秋葉会長ならしれっとすでに何かやっていそうな感じがするのだけれど、流石に進路との天秤ならば進路を選ぶのが普通か。
そう思っていると桜ちゃんはまるで溜息でもつくかのように呆れた顔で言葉を続けた。
「とはいっても、本人は十二月前半にある推薦入試で受かる気満々って感じでしたけどね」
「秋葉会長なら国立推薦とか普通に受かりそうだもんな」
「秋ちゃんの合否は置いておいて、秋ちゃんはもう会長ではないのでせめて先輩とかつけておいた方がいいですよ?」
「そう言えば、そうなんだよな。秋葉会長のイメージが強すぎてどうしても、会長ってつけたくなるんだよ」
「気持ちは分かりますが、今の会長さんが泣きますよ?
あと、卒業ライブがどうこうって話は桜が秋ちゃんに聞くよりもユメ先輩から聞いた方が答えてくれると思いますよ?」
『それは……ちょっと……』
「嫌だってさ」
「でしょうね」
そこでようやく笑ってくれた桜ちゃんが何かを思いついたのかハッと頭をあげる。
それから何やら一誠に耳打ちをすると、一誠が「それじゃあ、いったん席を外させてもらいましょうかね」とかなんとか言って桜ちゃんと二人で教室を出て行ってしまった。
残された俺と鼓ちゃんは互いに顔を見合せてから困った笑顔を作る。
「また何か企んでいるんだろうな」
『また何か企んでいるんだろうね』
「また何か企んでいるんだと思います」
俺とユメがほぼ同時に、鼓ちゃんがそれに返事をするようにそう言うと一つ溜息をついた。
「別に変な事を企んではいないとは思うんだけどな、今までの経験上。
まあ、変な事と言えば変な事を企んでいるんだろうけど……なんて言うか……」
「大丈夫ですよ、先輩。分かりますから。
桜ちゃんが計画することって何だかんだでよくあるイベント事ですもんね」
「それに俺達も十分に楽しませて貰ってはいるからな」
桜ちゃんや一誠も俺達を本当に困らせたくて計画を企てている訳じゃないことくらいは知っている。
むしろ俺達を楽しませようとしてくれているのは重々承知だが、何だかいつも桜ちゃんの手の上と言う感じがしなくもない。
「先輩、先輩」
そんな風に楽しそうに俺を呼ぶ鼓ちゃんの声に我に返り「どうしたんだ?」と尋ねる。
鼓ちゃんは妙案を思いついたと言わんばかりの顔をして話し出した。
「桜ちゃん達が何をしようとしているのか、考えてみませんか?」
「で、それを言いだした時に驚かないようにしようって話だな」
「そうです」
自分の言いたかったことが伝わった嬉しさからか、鼓ちゃんが無邪気な笑顔を見せた。
その頭を思わず撫でたい衝動に駆られてしまったが、その衝動を抑えて口を開く。
「もう十一月も終わりだからな……今月何かするって事は無いと思うが……」
「そもそも十一月に何かイベントって思いつきませんよね」
「となると十二月だが……」
そうなると一つしか思いつかない。
「クリスマスだな」
「クリスマスですね」
あっけない話の終わりにやや肩を落としながら鼓ちゃんと声が重なる。
しかし、今日の鼓ちゃんはそれだけでは満足しないらしく、そこから話を広げ始めた。
「クリスマスって言ったらパーティでしょうか」
「そうだな。桜ちゃんの事だからツリーだけじゃなくてせっせと折り紙で輪っかを作っていそうだな」
『それを一つにつなげて上の方に飾るんだよね』
「小学校の時とかに作ったよな」
「ユメ先輩ですか?」
「ああ、作った輪っかを一つにつなげて」
「窓の上の方とかに飾り付けるんですよね。
ツリーもただツリーのままってわけじゃなくて、綿で雪みたいにデコレーションしたりもしていそうです」
「で、メインはケーキとプレゼント交換って所か」
「ありそうですね」
そう言ってクスクスと声を出して鼓ちゃんは笑うが、これだとちょっと凝った普通のクリスマスパーティ。
桜ちゃんが一誠を連れて行ったのだから、他に何かあるのではないだろうか。
そう思って鼓ちゃんにそう伝えると「それもそうですね」と、一緒になって益体のない話で盛り上がってくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
やはりと言うべきだろうが、結局七面鳥でも持ってくるのではなかろうかと言う話にもなったが、まさかそんな事は無いだろうと言ったところで話が尽きる。
それでも、二人が出て行って十五分ほど時間が経っていて、いつになったら戻ってくるのだろうかと溜息でもつこうとしたら鼓ちゃんの声が聞こえてきた。
「先輩元気になったみたいですね」
「そうか?」
「はい。最近何だか考え込んでいる感じがしていたんですけど、それが今日は無くなったような感じがして良かったです」
鼓ちゃんはそう言って花が咲いたように笑うと少しだけ残念そうな顔をした。
どうしたのだろうと思っていると鼓ちゃんは「でも」と口を開く。
「これは無駄になっちゃいましたね」
「これって言うのは?」
言いながら鼓ちゃんが取り出したのは小さな袋。
かわいらしくリボンでラッピングされているそれを鼓ちゃんは照れ笑いながら開くと中にはクッキーが入っていた。
「先輩が元気になればって思って作ったんですけど、そう言えば先輩は前も……」
鼓ちゃんはそう言って口を閉じてしまったけれど、言いたいことはわかった。
「先輩は前もあたしがクッキーを作って来た時には元気になっていましたね」と言った所だろう。
俺は一瞬だけどうするかを考えてから、ヒョイっと鼓ちゃんの持つ袋からクッキーを一つ盗み取った。
それを口に持って行ったあとで「ありがとう、美味しかった」と鼓ちゃんに声をかける。
鼓ちゃんは嬉しそうに満足そうに笑ってくれたけれど、頭の中でユメから『遊馬のカッコつけ』と冷やかされる。
それは重々に承知だと心の中で無意味な反論をしていると、桜ちゃんと一誠が戻って来た。




