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Lv88

 拍手で見送られステージを後にしながら、俺の中は罪悪感と言うかやってしまったという気持ちが渦巻いていた。


 思いっきり歌った。思いっきり歌って楽しかった。それは間違いない。


 でも、もしそれで俺がユメを追い越してしまったら?


 もしもゆめチームに勝ってしまったら?


 そう思えるほどの、そう思ってしまうほどの出来だったと俺は思う。


 しかし、どうやら俺にその事を考えさせる時間は無いようで、すぐにユメと入れ替わらなくてはならない。


 ステージから降りた後、桜ちゃんに急かされて走るように俺だけ控室に戻って来た。


 走ってきたため上がった息を整えながらカードキーを使って中に入ると、ユメが俺に話しかけてくる。


『お疲れ様。すっごく良かったよ』


「ああ、俺が思っていたより良かったと思うよ」


『今度はわたしが頑張らないとね』


 明らかに気落ちしている俺の声にユメがそう返したのは気を遣ってなのか、それとも気が付いていないからなのか。


 ユメが何も気が付いていないことはないだろうから、恐らくは前者。


 ユメと入れ替わった後、しばらく黙っていたがいつものようにユメが相当な早着替えして「よし」と気合を入れて終わった時に俺は懇願でもするように、でも、出来るだけ平生を装ってユメに話しかけた。


『頑張れよ』


「勿論。それじゃあ、行こっか」


 誰もいない場所にユメは笑いかけると控室のドアを開けて意気揚々と会場の方に向かう。


 そんなユメの様子に少しだけ安心することが出来た。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ステージ上ではすでに稜子と綺歩の準備が終わって――一誠はななチームが演奏した時のままなので特に準備に時間はかからない――いた。


 ようやく現れたユメに稜子が「遅かったわね」と声をかける。


 特に不満があるわけでもなさそうなその言葉にユメは謝ると、目の前にあるマイクの電源が入っているかを確認して何かを探すようにきょろきょろと視線を動かす。


 そして絢さんを見つけると、絢さんが頷いてくれたのでユメが口を開いた。


「少しバタバタしてしまって申し訳ありません。


 ななゆめのチームゆめです。わたし達の事は先ほどのチームが説明してくれたと思いますので早速曲に入りたいと思います。


 では、楽しんで行ってください。『日々、道』」


 矢継ぎ早なMCの後、一度ユメはメンバーの方を向く。


 全員と視線を交わして、一誠がタイミングを計るようにスティックを叩き始めた所でユメは正面を向いた。


 聞こえてくる爽やかとも取れる前奏に、ユメは楽しむように目を閉じて体を揺らす。


 そしていざ歌う場面となった時にゆっくりと目を開いた。


「TIP TAP 弾む靴の音 青い空 白い雲


 見知った道 過ぎ去るエンジン音


 1 2の3 ステップ踏んで くるりと半回転


 歩いた道がほら 別の顔してる」


 歌うユメの細い腕がチラチラと視界に入ってくる。


 ユメの喉から、スピーカーからユメの高い声が聞こえてくる。


「柔らかな日差し誘われて 何処に向かうでもなく 歩く



 タッタッタ すれ違う子供たち 笑顔で見送り


 楽しくなって 真似して走り出す」


 ユメの視界に映るモノ。それは、さっき俺が見ていたモノとそんなに変わらない。


 こちらを見ている沢山の人。自由に歩くもっと沢山の人。


「ふいに吹く風が髪を靡かせて 抑える手の甲を 撫でる



 何にもない昼下がりの 良く知っているはずの道


 視線を変えるだけで ほら 物語の入口」


 一番が終わって間奏に入ると、ユメはやはり演奏しているメンバーの方を向く。


 その時のユメはさっき俺が楽しんでいた時よりも何倍もウキウキしていて、曲の歌詞にあったように『1 2の3』で客席側を向いた。


 そして見えるモノは先ほどまで俺が俺として見ていたモノと同じ光景のはずだった。


 しかし、そこに見えていたものは俺が見ていたモノよりも幾らか楽しそうな人達、楽しそうな会場。


 それはきっとユメを通してみているからなのだろう。


「ザッザと 駆け足 砂利を蹴飛ばす 白黒縞模様


 点滅する光 さらに足を速めてる


 ホップ ステップ ジャンプをすれば もう反対側の道


 あがる息 赤く染まる頬 疲れた体を そっと 壁によりかける」


 二番が始まっていっそう会場が盛り上がる。足を止める人が増えてくる。


 それを見ながら、もっと沢山の人が足を止めユメを見て欲しい等と自然に考えていた。


 ユメもそう言いたいと言わんばかりに歌い続けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ゆめチームの演奏が終わって、ユメがステージから降りる。


 この後に早速どちらが良かったかと言う投票を行うのだけれど、それまでは特にやることはない。


 むしろ、その発表自体大々的に行うわけではない――決勝は除くが――ので、自分でトーナメント表を見にいかなくては結果を知る事すらできない。


 休憩も兼ねて十五分くらいかけて行うらしい。


 投票が出来る人は二曲とも聞いたと明確にわかっている軽音楽部が場所として確保してあるところに居た人達。


 近くで聞くことが出来る代わりに二曲は絶対に聞かないといけないと言うことになっている。


 そんなわけでユメが控室に戻ろうとしている時にふとこんな会話が聞こえた。


「今年は最初っからレベル高いな」


「高校生って聞いて正直侮っていたけど、むしろこの二つに勝てるところあるのかしら」


「さあな。なんにせよ、どっちか選ばないといけない訳だ」


「どっちも凄かったけど、私はどっちにするかは直ぐに決まったよ」


「奇遇だな、俺もだ」


 それ以降はざわめきの中離れるように歩いていたので聞こえなくなってしまった。



 控室に戻ってきて、メンバー達は楽器を置いた後で結果を聞くためにまた外に戻って行った。


 そんな中一人控室で待っていると言ったユメと一緒に綺歩も控室に留まろうとしたが、桜ちゃんと一誠に半ば強引に連れていかれてしまった。


 そして、ユメと俺はそれを何とも言えない顔で見送るしかできなかった。


『ユメはいかなくていいのか?』


「わたしは良いよ。遊馬は行きたかった?」


 壁を背にしてユメがストンと腰を落とす。


 膝を立てるようにして床に着けたお尻からひんやりとした感覚を受けるが、ユメはそれを大して気にしていないように俺の問いに答えた。


『俺も別に良いな。どうせすぐにわからないし、すぐにわかるだろうから』


「いくら相手がわたしだからってもう少し分かり易く話した方がいいよ?」


『相手がユメじゃなかったらもう少し分かり易く話すよ』


「そっか」


 ユメはそう言いながら微笑む。


 それから、何か思い出したようにもう一度口を開いた。


「遊馬はどっちが勝つと思う?」


『さあな。俺には分からない事くらい分かっているだろ?』


「うん。わたしも分かんないもん。じゃあ、遊馬はわたし達に勝ちたいって思ってる?」


 そんな風に問われ直して、俺はすぐには答えられなかった。


 本音では否定したいが、それを口にするのが躊躇われる。と言うわけではなくて、勝ちたいし負けたい。


 ユメの歌を改めて聞いて、沢山の人がユメの歌を聞いている様を見て、少しだけ対抗心が頭をもたげた。


 なまじ、もしかしたら勝てるかもしれないと言われたので、そのもしかしたらが本当に起こらないかなと考えてもしまう。


 でも、もしも俺がユメに勝ってしまったら、それこそ歌うことが楽しいと実感したうえで俺の歌がユメの歌以上だと言われてしまったら。


 きっと、ユメと俺の関係は変わってしまう。俺の望まない方向に。


『わからないな』


「そっか」


 返すまでにどれくらいの時間がかかったかわからない。


 でもユメは何か聞くことはせずに、それだけ返すと何かを考えるようにそっと目を閉じた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それからユメが立ち上がったのはまだ例の腕時計が震えだす前。


 どうしたのかと思ったので『どうしたんだ?』と尋ねてみるとユメは「着替えようかと思って」と返した。


 ユメが黙っている間、落ち着くことが出来ずに一人堂々巡りをしていたのでユメが着替えようとする理由が分からずもう一度問いかける。


『着替え?』


「ほら、桜ちゃん言ってたでしょ? 一回戦が終わったら色々お話ししますって」


『そう言えば、そうだったな。今ここにいないって事は結果待ちって事か』


「そもそも、わたしとしては桜ちゃんが話があるだろうから、遊馬に替わるなって事で結果を見に行かなかったんだけどね。


 行って途中で遊馬に代わったら大変だし」


『それは気がついてなかった。ありがとう』


「まあ、そんなわけで着替えようかなって」


 少し照れながらユメがそう言うと着替え始める。今回は急がないで良いのでさっきよりもゆっくりと。


 ユメの話を聞くと確かにそうだなとすぐに理解することが出来た。その事に気が付かなかったのは、ちょっと自分の事、自分の頭の中を整理するのに夢中になりすぎていたからかもしれない。


 ユメが俺の服を着て、それから腕時計がユメでいられる時間が残り一分だと知らせた所でドアがノックされ「遊馬先輩いますか?」と桜ちゃんの声が聞こえた。


 聞こえたと同時に、受験の合格発表のような緊張がいきなり俺を襲う。


 ユメが「結果発表早めに終わったのかな」とつぶやきながらドアの方に近づきそれを開いた。


 そこにいた桜ちゃんはユメの姿を見つけると何故か不思議そうな顔をした。


「あれ? まだユメ先輩だったんですか?」


「もうすぐ遊馬に戻るよ」


「はい、それは今の格好を見れば何となく分かります。


 何の話に来たのかは分かっているみたいですね」


「うん。分かっているつもりだよ。


 でも、そうだとすると、特に綺歩には聞かれたら困ると思うんだけど……」


「あ、それなら大丈夫です。つつみんと御崎先輩が足止めしてくれていますから。


 稜子先輩は他のバンドの演奏を聴いているでしょうし。


 何よりここを開けるためのカードキーを持っているのは先輩方ですからね」


「それもそうか。っと、それじゃあそろそろ遊馬と入れ替わるから、遊馬の事よろしくね」


「ええ、よろしくされました」


 最後そんな会話をして俺とユメが入れ替わる。


 桜ちゃんの背が低くなって、俺が表に出て最初にその事を言うと、桜ちゃんは「先輩が大きくなったんですよ」と呆れたように言った。


「それで何から話していきましょうか?」


「結果から聞いてもいいか?」


 たぶんそれを聞かないとほかの事は何一つ頭に入ってこないように思う。


 内心それくらい緊張していたし、桜ちゃんも察していたらしく「そうでしょうね」と頷いていた。


 それから桜ちゃんはこちらに心の準備をさせる間もなくあっさりと口を開く。


「結論から言いましょう。ゆめチームが勝ちました」


「そう……か」


「票数の割合的に約四対一の大敗です」


 止めのように桜ちゃんがそう言うが、俺の中ではショックなような安心したようなよくわからない心地だった。


 そんな俺に桜ちゃんはそのままの変わらない口調で言う。


「良かったですね、先輩」


「良かった?」


「はい。遊馬先輩はユメ先輩に勝ちたくなかったんですよね?


 いえ、絶対に手の届かない所にユメ先輩がいて欲しいんですよね。そうしないと、また自分が表に立って歌いたいと思ってしまうから。


 でも、これで遊馬先輩がユメ先輩に絶対に追いつけないことが証明されました」


 「だから、良かったですね」とそう言って、桜ちゃんが笑顔を向ける。


 そんな風に桜ちゃんに言われてはっきりと分かった。なんで俺がユメに勝ちたくないと思っていたのか。


 ユメと約束をしたから。ユメが俺には到底届かない景色を見せてくれると。


 俺の力が到底及ばないユメだからこそこんな約束をしたし、俺が歌うことを、歌えなくなることを我慢してこられた。


 それなのに、もしも追いついてしまったら、追いつけると思ってしまっていたら俺はユメの存在を許せなくなるかもしれない。


 それが怖かったのだ。


 だから桜ちゃんの言葉は本当に俺にとって良かったと言って良い。


 ユメと約束を交わした俺の判断は間違えていなかったと言う事なのだから。


「ああ、桜ちゃんの言う通り……だな。でも、今回負けたことがその証明になるのか?」


「まあ、遊馬先輩がどこまで信じてくれるかにもよりますけどね。


 今回の票数割合にして約四対一で桜達が負けました。チームを決める時にも言いましたが、演奏側はほぼ同程度のレベルにしたつもりなので差が出たとしたらボーカルになります」


「ああ、そうだろうな」


 言い終わって俺に確認を取るようにこちらを見た桜ちゃんにそう返すと、桜ちゃんは順番にと言わんばかりに次を話し始める。


「まあ、これだけでもユメ先輩に遊馬先輩が到底追いつかないと言う理由としては十分だと思いますが、どちらかと言えば今回の件は桜の仮説が正しかったことを証明したことになりますね」


「桜ちゃんの仮説?」


「はい、桜の仮説です」


 そう言って桜ちゃんが何処からか二本のペンを取り出す。一本は赤。もう一本は青。


 それを俺に見えるように横向きにして一直線になるように持っている。


「先輩方は基本的に同じように成長していきます。例えば勉強をしたとしてどちらがどれだけ勉強しようともその学力は同じように増えていきます」


 そう言って桜ちゃんが両方のペンを同じ速度で上にあげる。


 恐らく青が俺、赤がユメを現しているのだろう。


 桜ちゃんの例を理解し正しいと示すために「そうだな」と短く返すと、桜ちゃんは満足げに笑って今度は赤のペンを青のペンより高い位置で持った。


「じゃあ、学力なんかと違って最初っから能力が違うものだとどうなるんでしょう?


 きっとその差は絶対に縮まる事は無い、という仮説です」


「確かに……言われてみればそうかもしれないな」


 赤のペンに決して追いつくことのない青のペンを見ながら、徐々に俺の中の歯車がかみ合っていくのを感じる。


「勿論、決して追いつくことは無いけれど限りなく近づけるって可能性はありましたが、見ての通り今回それが否定されたと言って良いと思います。


 四曲練習していたユメ先輩に対して遊馬先輩は一曲しか練習していなかったわけですし。


 遊馬先輩は、四分の一しか練習できていない曲、仮にゆめチームが新曲ばかりに力を入れていたとしても二分の一程度しか練習していない曲に負けたわけです」


 桜ちゃんは言わなかったが、きっとユメが『二兎追うもの』を歌った場合俺は更なる大敗を喫していたのだろう。


 何せ、ユメの中でもこの約一か月は『二兎追うもの』の方を多く練習していたはずなのだから。


 俺はユメには追い付けない。頭では理解出来た。どうしようもないほどに。


 しかし、何かもうひと押しが欲しい。そう思っているとユメの声が聞こえてきた。


『わたしが言って良いのか分からないけど、わたしは絶対に遊馬には負けないよ?


 だって、わたしは遊馬から遊馬が一番好きだった歌を貰ったんだから、こんな所で負けるわけにはいかないんだよ。


 例えそれが遊馬でも。ううん、遊馬だからこそ負けられないの』


「ああ、そうじゃないと困る」


『でもね。遊馬の歌聞けて良かったよ。遊馬の中から遊馬が楽しそうに歌うのを聞いたのは初めてだったから』


「で、そろそろ話し戻していいですか?」


「ん、ああ。そうだな」


 ユメに返事をするのが何だか恥ずかしくて、助け舟とばかりに桜ちゃんの話に乗っかった。


「何で一回戦目でななゆめを仲間割れさせたのかって話ですよね?」


「仲間割れとは違うと思うが……」


「運営上の話については良いですよね。盛り上げるためにもある意味で仕方がなかったと言うわけです」


「それは仕方ないからな。でも、それで快く受けた理由はあるんだろ?」


「それも、大体は遊馬先輩のせいです」


「そんな気はしてる」


 俺を責めるのが楽しいとばかりに笑いながら、そんな言葉選びをする桜ちゃんに、しかし俺は感謝するほかなかった。


 何せさっき少しだけそれっぽい話も出ていたし。


 俺が殊勝なせいか、桜ちゃんが少し詰まらなさそうに口を開いた。


「面白くない反応ですね。とりあえず遊馬先輩が何回も歌わないようにするためですね。


 やっぱりたった一回だったからこそ思いっきり歌って貰えたと思いますし」


「そう言う面が無かったとは言えないな」


「それから何回も歌わせないと言うのと同じようなものですが、全力を出せるようにですね。決勝で当たって負けて、疲れてたからなんて変な言い訳出来ないようにです。


 それからさっきも言いましたが、一曲しか練習しない事で実質的に遊馬先輩を有利にさせるためです」


「理由は分かったし、納得もできた。むしろ文句の言いようがないし、感謝もしたいくらい何だが、例えば抽選で稜子が一を引いた場合どうするつもりだったんだ?


 ユメから俺への入れ替わりが簡単にできないのは桜ちゃんも知ってるよな」


 俺の中で色々な事が解決にして、気持ち的に余裕が出てくるとちょっとしたことが気になってきて思わずと言った感じで桜ちゃんに尋ねた。


 桜ちゃんは俺の問いに手品のタネを明かす子供のように答える。


「その時は桜が二を引いて先攻後攻を入れ替えてもらうだけです。


 結局桜達の中だけの問題なので反対されることもないと思いますし、稜子先輩も事情を知っているので嫌だとは言わないはずです」


「そもそも、どうやって好きな数字を引いていたんだ? 何か妙にがさごそやっていたけど」


「あのボールに分かり難くですが点字みたいなのが打ってあるんですよ。それで判断していました。


 とはいっても、それを知っているのは桜達の中だと後は御崎先輩ですし、大学生側もチクバのメンバーとこのコンテストを仕切っている何人かだけですけどね」


 どうやら完全なやらせではなさそうで、むしろ盛り上げるのも大変なんだと変に感心してしまった。


「大変なんだな運営って言うのも」


「企画者は色々な事に気をつけなくてはいけませんからね」


「それで、多分桜ちゃんの事だからかなり前からその仮説を立てていたんだろ?」


「遊馬先輩にVS Aを歌ってもらった時にほぼ確信しました」


 今から聞こうと思っていたことから考えると、確信したと言う言葉に本当にため息をつきたいのだけれど、それをぐっと抑えて楽しそうな桜ちゃんに問いかける。


「そしたらなんで俺がユメには絶対に追いつけないと言うことを今まで黙ってたんだ?」


「遊馬先輩でもすぐに理解してもらえるような時に言わないと意味無いかなと思いまして。本当はもっと早く言いたかったんですよ?」


「確信はないが、確かに練習中に言われても変な励ましにしか聞こえなかったかもしれないな……」


 そう考えると本当に桜ちゃんには頭が上がらない。


 いや、頭が上がらないと言えば桜ちゃんだけでなくななチームの全員に頭が上がらない思いだ。


 それぞれどこまで事情を知っていたのかは分からないが、恐らく今日この最初の一回で負けてしまうことを分かったうえで桜ちゃんの策に乗っていたのだろう。


「そう言えば、前桜ちゃんが鼓ちゃんに謝っていたのって……」


「別に編曲作業をつつみんに頼んだからじゃなくて、今日のライブで一曲しか演奏できないことはほぼ決まっていたからです」


 その桜ちゃんの言葉を聞いて思わず「ありがとう」と漏らしてしまった。


 それを聞いた桜ちゃんが一瞬驚いたような顔をして、それから満足そうな表情で「桜を舐めて貰っちゃ困ります」と言ったのが印象的だった。


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