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Lv80

 次の日の部活。練習は別々にと言っても一、二度は全体の通し練習をしてから二つに分かれる。


 ななチームが音楽室、ゆめチームが音楽準備室。


 今日は俺が表に出る日なので全体の時に歌ったユメから俺に戻るまでに少しタイムラグがあるが、桜ちゃんはあまり気にしていない様子。


 そんな中一誠が桜ちゃんに問いかけた。


「なあ、さくらん。今日は何をするんだい?」


「さて、何をしましょうか」


「とりあえず、本番で演奏する曲でも決めないか? 俺には分からないが、新曲じゃなくても編曲とかする必要があるんだろ?」


 俺の言葉を聞いて桜ちゃんはハッと手で口元を覆う。


 その目は見開き如何にも驚いていると言うか、ショックを受けているような。


 そう、編曲作業が必要だなんて今の今まで忘れていたと言わんばかりの……


「え、あ……その辺何か考えているん……だよな?」


 桜ちゃんの珍しい表情に俺は不安になり尋ねると、桜ちゃんは口元の手を退けケロッとした顔で「そうですね」と答えた。


「いや、なんであたかも忘れていたみたいな表情をしたんだ」


『わたしもびっくりしちゃった……』


「ちょっとしたサプライズですよ。実際桜は編曲については何も考えていませんでしたし」


「何も考えていないって……」


 そう言えば桜ちゃんの問題発言に驚いているのは俺とユメだけで、一誠や鼓ちゃんは動じずに様子を見ている。


 一誠と鼓ちゃん表情はまるで違うけれど。


 一誠がこの上なく楽しそうな顔をしているのに対して、鼓ちゃんはやや呆れた顔をしている。


 たぶん、俺がいない所――例えば前回の部活の時――に一誠か鼓ちゃん――この場合鼓ちゃんだろう――が編曲を担当することを決めたのだろう。


 俺に連絡が来なかったのはわざわざ俺に言う必要が無かったからと言うこと以上に、今の俺の反応を見るためだと桜ちゃんと一誠の表情が言っていた。


「この件に関しては本当につつみんには申し訳ないです」


「ううん、気にしないで。あたしも楽しみだから」


 一度鼓ちゃんの方を向いた桜ちゃんが鼓ちゃんに声をかけると、鼓ちゃんは首を振って笑顔を作る。


 俺には分からないのだけれど、編曲作業って面白いんだろうか?


「でも、曲くらいは決めておきましょうかね。


 ところで向こうのチームが何を演奏するのか……を先輩方に聞くのはルール違反ですよね?」


「ルール違反って事は……」


『ないと思うけどね』


 選曲が被らないようにする最低限の配慮だと思うし。


 でも、ゆめチームの事を教えてしまうと言うことになるのだろうか?


 そんな事を考えているうちに桜ちゃんが綺歩と稜子のいる音楽準備室から出てきた。


 いつの間に向こうに行ったのだろうか。


「どうやらむこうはピュア&フーリッシュとVS Aは決まりみたいですね。


 取りあえずその二曲は無しとして、一曲はlost&foundでしょうね」


「出来るだけただみんが作った曲の方が良いだろうからねい」


「あたしも大丈夫だよ」


「皆が良いなら良いんじゃないか?」


「それで、もう一曲をななゆめにする気は流石にないんですよね」


「だろうな」


「でも、それなら桜ちゃんどうするの?」


「遊馬先輩的に歌いたい曲って何かありますか?」


「俺か?」


 急に俺に選択権が渡され驚き考える。


 桜ちゃんの表情を見る限り冗談で俺を指名したわけではなさそうなので、今まで軽音楽部で歌ってきた曲を必死に思い出す。


 これがユメに歌わせたい曲と言うのならいくつも思いつくが、俺が歌いたい曲となるとなかなか決まらない。


 皆に注目されているのも相まって変に焦って来た時、一曲頭の中で声がした。


「ユメが、初めて歌った曲……」


「良いですね。それで行きましょう」


 ほぼ無意識に言った言葉に桜ちゃんが反応してしまって取り消そうと思ったが取り消したところで他に歌いたい曲が無いので口を噤む。


 曲が決まったからか、桜ちゃんが満足そうな顔で口を開いた。


「それじゃあ、今日はあと新曲を練習して終わりにしましょうか」


「もうできたのか?」


「如何にただみんと言えど早すぎじゃないかい?」


 この前はまだ完成していないと言っていたのに、曲ってそんなに簡単に出来るものなのだろうか。


「だいぶ前から遊馬先輩に歌わせるかもしれないと思っていましたからね。


 とは言え、まだ仮完成くらいです。ドラムに関してはいっそ一誠先輩にどうしたいか聞いてみようかと思いまして適当にしか書いていませんし。


 とは言え一応歌詞等もこの間完成しましたし、歌う練習くらいなら出来るはずですよ」


「そう言うわけなら、楽譜見せてもらっても?」


「どうぞ」


 一誠の言葉に桜ちゃんがカバンから楽譜を取り出し一誠に渡す。


 それを受け取った一誠が眺めている隣で、今度は桜ちゃんが俺にペラッとしたコピー用紙を手渡してきた。


 受け取って眺めてみると一番上に『二兎追うもの』と書かれている。


 ザッと流し読みしたところこれが今回の新曲の歌詞なのだろう。


「遊馬先輩はとりあえずこの曲だけ練習していてください。


 VS A歌えた時点で他の曲が歌えないと言うことは無いでしょうから」


「ああ、わかった……が流石に俺に楽譜と歌詞だけを渡されても練習できないぞ?」


「そう言えば以前は綺歩先輩に教えてもらったんですよね。


 今回力を借りるわけにもいきませんし、桜は細かい調整があるので一誠先輩と一緒にいないといけません。


 って事でつつみんに教えてもらってください」


「えっと、よろしくお願いします」


 桜ちゃんに指名された鼓ちゃんは意外にも慌てる事無くそう言ってぺこりと頭を下げた。




「実は最初から桜ちゃんから遊馬先輩に教えるようにって言われていたんですよ」


「それで、妙に堂々していたんだな」


 ななチームもさらに二つに分かれて鼓ちゃんと二人で桜ちゃん達とは少し離れたところに移動した後、鼓ちゃんが少し照れながら言った言葉に俺は納得してしまった。


 対して鼓ちゃんは少し不満げな顔で「あたしってそんなにおどおどしていますか?」と尋ねてくる。


「昔はそうだったなって思ってな。


 今の鼓ちゃんは頼もしいくらいだな」


 俺の回答に鼓ちゃんが一度キョトンとしてそれから笑顔になってくれたので一安心する。


 それから、鼓ちゃんはギターを肩にかけて俺に問いかけた。


「とりあえず、どうしたらいいですか?」


「そうだな。主旋律だけ弾いてもらえたら嬉しい」


「わかりました」


 鼓ちゃんは笑顔でそう返すと、一度深呼吸をして「行きます」と言ってギターを鳴らし始めた。


◇◇◇◇◇


 二、三回ほど繰り返してもらい曲の感じを掴む。


 俺が新曲を歌うこと自体かなり久しぶりだけれど、思いのほかにあっさりと自分の中に曲が入って来たので少し驚いた。


 考えてみるまでもなくユメが同じような事をやっていたからなのだけれど。


「じゃあ、次は軽く歌いながらやってみたいんだけど、鼓ちゃん休憩取らなくて大丈夫?」


「大丈夫です。でも、もう歌えるんですね。


 やっぱり先輩は凄いです」


「そんなすごいとは思わないんだけどな。歌ってみると言っても軽くだし、本番同様でやられるとまだ不安なところが結構あるし」


 それに、まだ音と歌詞とが一致していない所があるから、本当にやってみるだけやってみようと言う感じだ。


 前奏は無いので鼓ちゃんに合図してもらい、ギターの音と同時に歌い始める。


「二兎を追うものは 一度諦め 目の前の現実に立ち止まり


 もう一歩 届かない理由わけを 考える事無くまた走り出す」


 本当に音を追うだけの歌。気にするのは音程だけ。


 それが逆に安心して歌える要因となる。


「もう何度目になるか 疲れ果て 倒れ込み空を仰ぐ


 もう一歩 あと十歩 ついには遠ざかる」


 『二兎追うもの』と言うタイトル通り二兎を追う者を歌っているのだが、今までユメが歌ってきた桜ちゃんの曲とは少し趣が違う。


 今まではユメが歌う前提で作っていて、今回は俺が歌う前提で作っているからと言う事なのだろう。


「二兎追うものは ついに諦め 朽ちる身体を 地面に預けたまま 


 空に浮かんだ 雲に手を伸ばす 求めるように」


 いつもの桜ちゃんの曲との違いの一つ目。Aメロ・Bメロ・サビ等の明確な違いが俺には分からない事。


 勿論少しずつ違いはするが、一曲通して似たようなテンションで歌い続ける上に、メロディーもそこまで大きな違いはない。


 大きな違いがないからこそ細かい部分でこんがらがり逆に難しかったりする。


 だが、声の出しやすさで行くと高めの曲であるが故多少気は使うが、終始出しやすくはある。


 サビだけ思いっきり歌える曲のサビだけ抽出したような、そんなイメージの曲。


「伸ばした手は 雲に届かず くうを掴みまた伸ばすを繰り返す


 遠すぎる 届かない理由わけに 気づきまた手を伸ばす」


 いつもの桜ちゃんの曲との違い二つ目は、カッコ良さの方向性。


 ここは単純にボーカルの性別の違いと言えるだろうが、この曲は男が歌ってカッコいいと言えるような曲になっている。


「二兎追うものは また立ち上がり 朽ちる身体に むち打ち走り出す


 地を走る一兎には 手が届くことを 確信して


 二兎追うものは 一兎追いかけ ついにはその手 求めたもの掴む」


 そして三つ目は歌曲自体がやや短い事。


 歌詞を見た時点で気がついてはいたけれど、あまり長い曲じゃない。


 たぶん、似たようなメロディーが続くのでこれ以上繰り返すと飽きられるからなのだろう。その辺のバランスが流石は桜ちゃんと言ったところなのかもしれない。


「二兎追うものは その名を捨てて 逃げる一兎を 追うことを諦めたままで


 叫……」


 歌詞とメロディーとの不和を感じて歌を止める。


 鼓ちゃんも少し遅れてギターを弾くのをやめた。


「何かちょっと違いますね」


「ここが特にどう歌って良いのかわから無くてな」


「あたしも分かりません……が」


 困った顔で少し俯いてしまった鼓ちゃんが、しかし、次の瞬間には何かを思いついたように顔をあげた。


「そういう時は、作った人に聞いてみませんか?」


「それもそうだな」


「桜の作った曲どうでした?」


 聞きに行こうかと思った所での不意打ちに驚き身構える。


 それは鼓ちゃんも同じようで「きゃ」と小さな悲鳴が聞こえた。


「タイミングがいいと言うか悪いと言うか……」


「どうやら試しに歌っている所みたいでしたので、こっそり聞きに来ていました」


「それで、桜ちゃんに聞きたいことがあるんだが……」


「その前に桜の質問に答えてくれるのが筋じゃないですか?」


 笑顔で言う桜ちゃんのいう事はもっともで「そうだな」と素直に頷いて答える。


「何かいつもの桜ちゃんの曲とは違うなって感じがしたな」


「まあ、遊馬先輩用に作りましたから。後は桜も色々やってみたいお年頃なんですよ」


 『どんなお年頃なんだろうね』と言うユメのツッコミに心の中で頷いてから続ける。


「でも、歌いやすくてカッコいい曲だよな」


「そりゃあ、桜が作った曲ですから」


「あと、兎が出てき過ぎだよな」


「タイトルが『二兎追うもの』ですからね。それとも先輩は兎よりも良い動物が居たりしますか?」


「そしたら歌詞の意味が分かりにくくなるんじゃないか?」


「まあ、そう言うわけです」


 誇らしげに笑う桜ちゃんは相変わらずで、こちらも笑顔になる。


 笑顔とはいっても呆れが混じった微妙な笑顔だが。


「それで、聞きたいことがあるんだが……」


「あそこは「ままで」を外して歌っていただけると上手くいくと思いますよ。


 最悪歌わなくても大丈夫ですが」


「ああ、なるほど。鼓ちゃん途中から頼んでも大丈夫?」


「えっと、じゃあ、いち……にい……さん……


 三回目の「二兎追うもの」からでいいですか?」


 三回目の二兎追うものは……と歌詞を目で追う。と言うか本当に「二兎追うもの」って言葉が沢山ある。


 それだけで六回あるうえ、一兎の兎もあるので全部集めたらウサギ園でも作れるんじゃないだろうか。


 「うさぎ」と読む「兎」は無いのだけれど。


「わかった。そこから頼む」


「それじゃあ行きますね」


 「せーの」と言う鼓ちゃんの掛け声に合わせて歌を再開する。


「二兎追うものは また立ち上がり 朽ちる身体に むち打ち走り出す


 地を走る一兎には 手が届くことを 確信して


 二兎追うものは 一兎追いかけ ついにはその手 求めたもの掴む




 二兎追うものは その名を捨てて 逃げる一兎を 追うことを諦めたままで


 叫ぶ 神は二物は与えない そうだろう?」


 桜ちゃんに言われた通り「ままで」だけ鼓ちゃんのギターから外れて一人で歌うと上手い具合に音に収まる。


 それに安心しつつも最後まで歌い切る。


「空を見上げ 一つ気が付く 手にあるモノは 俺が手にしたのだ


 神はただ 見てただけ でしかいない



 二兎追うものは また走り出す いいだろう?」


 軽く歌うだけの試しなので全くと言っていいほど余韻は無いのだけれど、それでも歌っている時の感じや男臭い感じのカッコよさは歌い終わった後にすがすがしさを与えてくれる。


「まあ、とりあえずはそんな感じですね。つつみんも先輩もお疲れ様です」


「あたしは楽しかったですよ。先輩はどうでした?」


「まだ、音を追いかけているって感じだったな。


 鼓ちゃんが練習してくれたって言うのに」


「え、いえ。あたしそんな事言いましたっけ?」


「いいや。でも俺をリードするために練習してきてくれたんだろう?」


 もしかしたら、鼓ちゃんも他のメンバーのように楽譜を渡されてほぼ即興で弾けるのかもしれない。


 ただ、ここまで何度も安定して弾けるって事は少なからず練習をしないと無理だっただろう。


 鼓ちゃんを見ると、何故か手を頬にあてて首を振っていた。


「あ、あたしはちょっとでも先輩の力になりたかっただけなので……」


 その姿が可愛くて思わずふわふわの髪に手を載せてお礼を言う。


 鼓ちゃんは一瞬驚いていたけれど、こちらの方に目を向けて笑ってくれた。



◇◇◇◇◇◇◇



 時間は進み十月十五日。


 部活の方はななチームもゆめチームも新曲が一曲ずつ完成してより練習に力が入るようになった。


 稜子が言うに次の部活にはもう一曲も出来上がると言うのだが、桜ちゃんの方は全くそう言う連絡は来ない。


 だから部活の時には『二兎追うもの』だけをやるのだけど、歌えるようになればなるほど何故か不安が募っていって楽しく歌うと言う当初の目標から遠ざかっているように感じる。


 対してユメが歌うときは相変わらず楽しそうで、自分とユメの違いを実感してしまった。


『そんな難しい顔しないで、今日は気分を入れ替えて舞ちゃんの付き添いするんだから』


「それもそうだな」


 今いる場所はここらへんだと一番大きい駅。


 遠くとは聞いていたけれど、ここで待ち合わせると言うことは新幹線にでも乗るのだろうか。


 それにしては俺の持ち物は特に指定されなかったし、格好だってほぼ普段着。一応小奇麗な格好はしてきたけれど、特に気合を入れてきたわけじゃない。


 ついでに今日は部活があり俺が歌う日ではあるのだが桜ちゃんと一誠に「気分展開にでも舞が頑張っているところを見て来い」みたいなことを言われたので、部活的な心配はない。


 舞との待ち合わせは九時半。現在時刻は九時を少し回ったところ。


『ちょっと早く来すぎたかな?』


「遅れるよりはマシだとは思うけどな」


『それはそうなんだけど。何かソワソワしちゃうよね』


「ここで待ち合わせって事は乗るだろうからな」


『新幹線にね。遊馬乗ったことあるんだっけ?』


「聞くなよ」


『だって遊馬がソワソワするからわたしもいっそうソワソワしちゃうんだもん』


「じゃあ、話を変えるか。結局どう桜ちゃんが動いたら舞がネットラジオに出るって事になるんだと思う?」


『どうしてなんだろうね。でも、舞ちゃんって元々人気があったみたいだし、一応この前の北高祭から活動を本格化するって言っていたから』


「まあ、話題性を求めてゲストで呼ばれたって言うのは分かるんだけど、やっぱり桜ちゃんとはつながらないんだよな」


『昨日の電話でも教えてくれなかったしね』


 今日ここに来るにあたって、昨日も含め舞とは連絡を取っている。


 とってはいたけれど、結局どこに行くのかも教えられてはいない。


 場所くらいは思って聞かなかったわけじゃないが、何度聞いても「行ってからのお楽しみ」と教えてくれなかった。


「じゃあ、舞がどっちの格好で来るか賭けるか」


『わたしは眼鏡をかけて髪をおろした変装スタイルね』


「俺もそっちが良いんだが」


『こういうのって持ち掛けられた方から言うものじゃない?』


「仕方ないか。俺はドリムスタイルだな」


『それで何を賭けるの?』


「何にしようか」


 そんな事を話している間に「遊馬君お待たせ」と舞が姿を現した。


 その格好はいつもの眼鏡をかけないで髪をおろしている状態。


 着ているモノは見慣れたブレザー。


 それだったら俺も制服で良かったんじゃないかと思わなくもない。


「ああ、だいぶ待ったな」


「そこは「今来たばっかりだ」とか言ってくれるところだよね?」


 舞はそう言って口を少しだけふくらませ、睨むようにこちらを見るがすぐに目が笑ってしまっていた。


「取り合ずいろいろ聞きたいことがあるんだが、なんで俺は私服で来るように言ったんだ?」


「何かの手違いでユメちゃんになった時にあからさまに男物の服を着ていると困るでしょ?


 それに、一応遊馬君はマネージャー代わりって事になっているから制服だと格好着かないかなって思って。


 わたしは高校生だってわかってもらっているから制服の方が向こうの人たちに分かり易いかなって」


 一応学生の正装は制服になるだろうし、舞の言いたいことも分かるのでそれで納得する。


「それで、結局今日はどこに行くんだ?」


「新幹線に乗って二時間くらい掛かる所かな」


「ああ、やっぱりそうなるんだな」


「国の中心だからね……っと。ちょっと早いけどもう改札潜っちゃおうか。


 はい、これが遊馬君の分の切符」


 そう言われて渡されたのは初めて見る大きめの切符。


 普段買っている百二十円とかのそれとはやっぱり違うんだなと、しげしげ眺めていると舞が俺の手首を掴んだ。


 そして楽しそうな顔をして「ほら、マネージャー。早く行こ?」と、からかうように言って、俺を引っ張り始めた。


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