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Lv77

「そう言えば昨日俺が歌う前に桜ちゃんが言っていた確認と予想って何だったんだ?」


「あー、アレはですね」


 何となく気になっていたので桜ちゃんに尋ねると、桜ちゃんはそう返して何やらカバンからノートと筆箱を取り出した。


 それから何かを書きながら口も動かす。


「曲を作るにあたって遊馬先輩がどれくらいの高さまで歌えるのかって言う確認と、あれくらいの高さなら歌えるだろうと言う予想です」


「確認の方はわかるとして、なんでVS Aを俺が歌えると思ったんだ?


 桜ちゃんも元々あの曲を安定して地声で歌えなかったことは知っているだろ?」


 当時俺が練習中だったとはいえ、桜ちゃんが知らないはずもなく、徐々に高くしていくならまだしもいきなりあの曲を選ぶのはやはり無理があるんじゃないかと思う。


 結果、恐らく桜ちゃんの予想は的中したのだけれど。


 俺が尋ねると、桜ちゃんが書いていた何かをこちらに見せてくれた。


 そこに書かれていたのは俺とユメの名前と何かを示す棒グラフのようなもの。


 ユメと俺の名前が横書きで縦に並べられ、棒グラフはそれぞれの名前の隣から横向きに伸びている。


 グラフの様ではあるが数値はなく、ユメのグラフの長さに比べて俺のグラフは三分の二あるかどうかと言ったところ。


「このグラフがおよそ遊馬先輩とユメ先輩が出せる……遊馬先輩のは出せていたが正しいですが、地声の音域って言ったら分かり易いでしょうか」


「そう言われたらそんな感じか。ユメの方が音域は広いのは間違いないからな」


「そこです。それが疑問だったんですよ」


「疑問だったって何がだ?」


「先輩方は経験値を共有しているみたいですから、ユメ先輩が歌えるくらい遊馬先輩も歌えるんじゃないかと思いまして。


 ただ、ユメ先輩が生まれた経緯を考えると、歌に関しては何か例外的なものがあるかもしれないと思ったのですが、ともかくグラフのこの音域の差は埋まるんじゃないのかと思ったので確かめさせてもらったんです」


「なるほどね」


 俺の学力が上がればユメの学力も同じように上がる、ユメが運動すれば俺も運動したことになる。


 それならばユメの歌が上手くなれば俺も上手くなると……少し考えればわかりそうなもの、なんで気が付かなかったのだろうか。


 気が付いていたのに気が付いていないふりをしていたのか。敢えて考えないようにしていたのか。


 ともかくこの場合、上手さとは少し違うしがユメが地声で歌っている間に俺も引っ張られるように地声の音域が広がったと言う所か。


 スタートラインが違ったのはそれこそ歌に関することで例外が働いたのかもしれない。


「ですから、遊馬先輩がユメ先輩くらい歌えるようになるかもしれないって言うのは理屈なしに言ったわけじゃないんですよ」


 桜ちゃんにそう言われて、ふとある事を考える。


 俺が裏声で歌っていた理由。裏声で歌った方が上手だから。


 もちろんそれだけじゃないが、一つの大きな要素には違いない。


 では、もしも地声ゆうま裏声ユメと同じレベルで歌えたら……


 そこまで考えて首を振る。俺がすることはドリムとして楽しみながら歌うこと。


 しかも、一か月近い時間があって、最終的にたった一度だけそうしたらいいのだ。


「さて、これで遊馬先輩の聞きたかったことは終わりでしょうか?」


「ああ、そうだな」


 桜ちゃんに声をかけられて話の内容を理解しないままで頷く。


 一歩遅れて桜ちゃんが言った言葉の意味を理解したが、今すぐ何か聞きたいことがあったわけではないので特に問題もないだろう。


 俺が頷いたのを確認してからか、一誠が待っていましたとばかりに声を出す。


「よし、それじゃあ今度はこちらから遊馬に聞く番だねい」


「練習するとかじゃないんだな」


「まあ、練習したいのは山々なんですが、流石に桜もまだ曲作れていませんから練習する意味無いと思うんですよね。


 既存の曲は遊馬先輩が練習しなくてもユメ先輩が勝手にやってくれるでしょうし」


『間違っては無いだろうけど、そんな風に言われるとちょっと嫌な感じだね』


「ユメが怒ってるぞ」


「でも、事実ですよね」


 悪びれずそう返してきた桜ちゃんにユメは『むう……』と不満げな声を上げただけで何も言わなかった。


 対して桜ちゃんは楽しそうに口を開いた。


「それで、遊馬先輩なら昔の綺歩先輩について知っていますよね?」


「まあ……それなりに知らないこともないだろうが、どうして綺歩の事が知りたいんだ?」


 急に意外な人の名前が出てきて尋ね返すと、何故か桜ちゃんは鼓ちゃんの方を見る。


 いきなり見られたのに驚いたのか、きょろきょろと鼓ちゃんが焦ったように顔を赤くしてあちらこちらに視線を向けている中、一誠が桜ちゃんの変わりとばかりに口を開いた。


「別になんでってほどでもないんだけどねえ。去年のミス北高で今年のファイナリストの綺歩嬢って昔からそうだったのかなと……ね」


「そうです。そうです。前々から気になっていたのですが、綺歩先輩がいる前だと聞きにくいですからね。


 メール等で聞いても良かったんですが、せっかくのこういう場なので聞いてしまおうかと思いまして」


「でもな……」


『綺歩の事、特に中学時代とかよくわからないよね』


 いつの間にか機嫌を直したユメの言葉に内心頷く。


「まあ、話せる範囲で良いから教えてくれよ。


 別にそれを悪用しようってわけじゃないんだから」


「わざわざそう言うあたりが怪しいんだが……何が知りたいんだ?」


 恐らく話さなければこの二人は諦めてくれない。


 一誠の言葉がうさん臭いとはいえ経験上そう言う結論に至ったので、話せることも対してないと思うのだが話を促す。


「そうですね。綺歩先輩って昔から人気があったんですか?」


「どうだろうな。ちやほやされだしたのは中学の頃からだったと思うが、それくらいから綺歩とは疎遠になったからな。


 クラスは何回か同じだったけど、殆ど話すこともなかった」


『綺歩の周りって絶対誰かいたもんね』


「じゃあ、小学校の頃は違ったのか?」


「人気はあったんじゃないか? ただその頃は逆によく一緒にいたからよくわからなったが」


 こうやって考えてみると、綺歩の事を大して知らないんだなと言う気になってくる。


 小学校頃は周りからの綺歩の評判をしらないし、中学校ではその頃の綺歩と言う人物についてわかっていない。


 ただ、小学校と高校とを比べて思うことは無くもない。


「ただ、昔から綺歩は変わっていないのかもな」


「そうなのか?」


「昔から、周りに気を遣うような感じだったし、雰囲気は少し大人びたかもしれないが、今の綺歩を少し活動的にしたらそのまま昔の綺歩って感じがするし」


「やっぱり昔から楽器上手かったんですか?」


「いや。昔は結構下手だったな。俺が言って良いものなのかはわからないが」


『でも、今と比べるとって感じだよね。当時は年相応って感じかな?』


「そうだな。年相応って言葉がちょうどいいかもしれない。


 でも楽しそうに楽器を鳴らしてたよ」


「へえ、綺歩嬢でもそんな時期があったんだねえ」


 頷きながら話を聞く一誠を見ていると、言わない方がよかったかとも思うけれど、例え綺歩の前でこの話をされたところで綺歩は少し恥ずかしがって、それから「そんな事もあったね」と笑うだろう。


 一誠はそのままこちらを真っ直ぐ見ると少し首を傾げて「今くらい上手くなったのはいつ頃なんだい?」と尋ねてきた。


 それに対して俺は悩むように腕を組む。


「たぶん……中学に入る前後……じゃないか?


 俺が綺歩とあまり話さなくなった以降って事しかわからないな」


「つまり、遊馬先輩が綺歩先輩の練習を邪魔していたんですね」


「そう言われると……否定できないな……」


 良い笑顔で返す桜ちゃんに俺は苦い顔を返す事しか出来ない。


 確かにタイミング的に俺の邪魔がなくなり、綺歩が練習に身を入れることが出来るようになった、と見てもおかしくない。


 それだったら、もしかしなくても俺は大変な事をしていたのだろうか。


 もしかして、俺が声変わりしたから疎遠になったのではなく、俺の邪魔にウンザリした綺歩が徐々に俺から距離を取り始めたのかもしれない。


 こればっかりは綺歩に聞いてみないことには何とも言えないか。


 聞くかどうかは別として。


「小さい頃は綺歩嬢と仲良かったんだろう?」


「ニヤニヤしながら聞いてくる奴に答えたくはないが、そうだな。


 知っているとは思うが」


「じゃあ、幼馴染的イベントの代名詞「大きくなったらお嫁さんにしてくれる?」イベントはやったのかい?」


 良からぬことを聞いてきそうだなと思っていると本当に聞いてきて思わず溜息が出る。


「残念ながら、そう言った約束はしてない」


「でも、一緒にお風呂とか、お泊りとかはやったんですよね?」


「……い、いや」


「やったんですね。分かりました」


 桜ちゃんの楽しげな笑顔が俺の心を沈ませてくれる。


 いつまでやったのかと聞かれないだけましかもしれないけれど。


 こうなると、桜ちゃんの表情だけではなくて一誠の表情までもが俺を憂鬱とさせてくれるものになるのだけれど、この俺としては嫌な状況を助けてくれたのもまた満足そうな顔をしていた桜ちゃんだった。

 桜ちゃんの視線を追ってみた感じ口を開く前、一瞬鼓ちゃんの方向を見たような気がしたのだけれど、気のせいだろうか?


「そう言えば、遊馬先輩は知っていますか?」


「何をかを言ってくれないとさすがに答えられないな」


「今度舞さんがとあるネットラジオに出演するんだそうです」


「へえ、マイマイもうそんな事までやってるんだねい」


「まあ、けしかけたのは桜なので桜からしてみたら、そんなでもないですけどね」


「それは知らなかったが、けしかけた?」


 最近までは桜ちゃんと舞の間には俺がいたとはいえ桜ちゃんと舞が連絡先を交換するように促したのはユメだし、二人がどんな連絡を取り合うかなどと言う事は俺には分からないのは当たり前だが。


 ただ、桜ちゃんがどうけしかけたら舞がネットラジオに出るのかと言うことが俺には分からなくて首を傾げる。


「遊馬先輩は知っているはずですが……


 まだ決まったと言う段階みたいなので、出演自体はもう少し先みたいですから、その時にでも確認してください。


 きっと放送日時に関しては舞さんが教えてくれると思います。と言うか桜は知りませんから」


「ああ、わかった?」


 何だかはっきりしない桜ちゃんの物言いに俺も何だかはっきりしない返しをしてしまう。


 だが、一誠が「マイマイが頑張っているって証拠だろうから、そんな深く考えなくていいんじゃないか?」と言ってくれたので、素直に喜ぶことが出来た。


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