Lv72
ゲームが終わって結果は惨敗。あのドラムゲーム以外はやった事がないと一誠は言っていたが絶対やった事あるだろうと思うくらいに上手かった。
確かにドラムゲームに比べたら下手だったのかもしれないが。
「リズムゲームとも呼ばれるゲームでオレに勝てるわけがないってのが現実ってわけだ」
「ああ、思い知った。思い知ったが多少は行けると思ったんだがな」
『考えてみるまでもなく一誠はバンドでリズムを作ってる人だからね』
「遊馬も善戦はしてたけどな。相手が悪い相手が」
よくもまあ自分をそこまで持ち上げることが出来るものだと言いたい。
でも、桜ちゃんも似たような節があるし、稜子だって自分の演奏に自信を持っている。
その自信が実力につながっているのだろうか?
「奢るのは良いが手加減はしてくれよ?」
「そりゃあ勿論。コーヒーとパフェだよな。店で一番高い」
「コーヒー代だけでいいか?」
「いやいや、遊馬よ。これは正当なる決闘の結果なのだから逆らえば切腹ものよ」
本気なのかどうかわからないトーンで言われても困るのだけれど。
結局パフェ代の半分って事で手が打たれた。
◇◇◇◇
近くにあったチェーン店に入ると、一誠は本当にパフェとコーヒーを頼んだ。
俺はカフェオレのみ。
一誠が頼んだパフェは二千円を超えるものでそれ以外に頼めそうもなかったとも言える。
四人席を二人で占領し、向かい合うように一誠と座っているのだけれどこれはどうするのが正しいのだろうか。
一誠と向かい合うというのは違和感があるし、隣に座られてもそれはそれで嫌だし。
そんな事は置いておいて、すでに呆れるべきことを一つ述べてあるのでそれについて一誠に言及することにした。
「男子高校生が普通にパフェ頼むか?」
「いや、頼むだろう。遊馬にはパフェがこの店の商品には見えないらしいな」
「ああ、バッチリ見えているよ。値段も写真も。
女性に人気とでかでかと書かれているのも」
「そりゃあ、女の子は甘いものが好きだって相場か決まっているだろう?」
「それを嬉々として頼むのはどうなんだ?」
「男が甘いものを食べちゃいけないと言う法律があるわけではあるまい?」
何だかこれ以上一誠に何を言っても一緒な気がするのでこの事についてはもう何も言うまい。
例えさっき注文を取りに来たウェイトレスが驚いた顔をした後笑いを堪えているのを目の当たりにしても。
頼んだのは一誠であり俺ではないのだから。
「それで、ドリム抗争について何だが」
「早速だねえ」
「これを相談しに来たからな」
「忘れていた癖によくそんなことが言えたもんだ……っと。
さくらんとも話したんだろ、なんて言ってた?」
「現状は何もせず何か案があるらしいから待っていてほしいと。
後は、別案があったらそっちの方が良いかもしれないとも言ってたな」
「やっぱりそうなるよなー……」
「って事は一誠も様子見が良いと思うのか?」
俺が尋ねると一誠は否定を示すように首を振る。
そこで注文していたものが来たので、やって来たチョコレートパフェを食べながら一誠が話す。
「遊馬とユメユメの事だけ考えれば、金輪際その問題には立ち入らないに限る」
「パフェはチョコレートに限るみたいな言い方だな」
「いや、ノーマルな奴は何でも美味しいし、たまにはゲテモノも食べてみたいが」
「まあ、お前のパフェ事情はどうでもいいんだが、立ち入らない方が良いってどういう事だ?」
俺が尋ねると、一誠がパフェから一度スプーンをおろし、それからコーヒーを一口飲んでから答える。
「遊馬ってあまりネット見てないみたいだから、ネットで何と言われようとも関係ないだろうし後は勝手に風化してくれるのを待つってのが楽だろう?」
「それ風化するのか?」
「無理だろうねぇ。マイマイが活動を続けている限り」
「それじゃあ意味無いだろ」
「でも、直接的に被害をこうむることはないだろうし、直接被害をこうむったらあとは警察なりなんなりに訴えればいいわけだからな。
それは置いといて、どうなるのが遊馬の理想なんだ?」
珍しく真面目な一誠に言われてこちらも真剣に考える。
「ユメがドリムじゃないと証明しつつ、初代ドリムと二代目ドリムが仲が悪いっていう誤解を解くことだな。
そしたら俺達も舞ももっと動きやすくなるだろうし」
「その為にどうなればいい?」
「ドリム同士仲がいい様子をどこかで発表する」
「ドリム同士ってマイマイと後誰になる?」
ユメ……では駄目なのだろう。それだと、桜ちゃんが言っていた通りユメ=初代ドリムの図式を崩すことが出来なくなる。
黙ってしまった俺を見て一誠が「な」と声をかけてきた、
「ところで仮にユメユメくらい歌える子が初代ドリムに成り代わりますよ、と言ってきたらお前はそれを受け入れるのか?」
「本人がやってくれると言うなら良いんじゃないか?」
「今後また色々な問題が出てこないと言い切れないのか?」
「……そう言われると無理だな」
むしろなんでその事に気が付かなかったのだろう。
仮に一度ドリム問題が収まったとして、いつか再発するかもしれないし、何よりドリムと言う名前に縛られることの大変さは舞や俺がよく知っているはずなのだ。
それを人に押し付ける事が出来るはずがない。
「でも、そこまでは桜ちゃんとの話で無理だとわかっていたから、こうやって一誠に相談しているんだよ」
「そうだろうなあ……ただみんがそんな事に気が付かないわけがないんだもんな。
遊馬の理想を叶えるとするならば、初代ドリムに消えてもらうのが最も楽と言えば楽だわな」
「それってどういう事だ?」
まさか俺に死んでくれと言っている訳じゃないとは思うのだが、今一つ一誠が言いたいことが理解できない。
一誠は一つ息を吐くと、スプーンを噛みカチャカチヤと遊ばせながら答える。
「例えば最初からドリムは一人でした。とかな。
ユメユメくらい歌えて、より初代ドリムに近い人物っていうのが幸いマイマイだからねえ」
「じゃあ、舞に初代ドリムのフリもしてもらえばいい……ってわけにもいかないんだろ?」
「こういう所は聡いのにな」
一誠がそう言って首を振る。何だか非常に不本意な意味に聞こえるのだけれど、今そこを言及しても話が進まないので諦めて一誠が何か話すのを待つ。
「まあ、これに関してはマイマイがやってくれるかって所が大きく関わってくるかねぇ。
後は、単純にマイマイが物凄く叩かれるかもしれない。ファンを騙していたような形になるからな」
「本当に八方塞がりな問題何だな」
「だからしたくなかったわけよ」
また、スタート地点に戻ったみたいで思わず肩を落としてしまう。
「オレとしてはさくらんの案に乗っかってみるのが何だかんだ最善だと思うぞ」
「でも、その桜ちゃんが別の案を考えていた方が良いって言ってたんだけどな。
そもそも、桜ちゃんの案が分かるのか?」
「何となくな」
「それ、教えてくれないか?」
「カラオケ付き合ってくれなかったから嫌だね」
一誠はそれだけ言うと、本格的にパフェを食べ始めてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
パフェを食べていた結果、三分の二ほど食べ終わったところでコーヒーがなくなり「甘い辛い」と言いだした一誠に無理やりパフェを食べさせたのが数日前。
結局大して良い案が出ることもなく舞と会う日になってしまった。
当事者である舞と相談してみると言う手もあるが、それよりも先にやっておかないといけないことがある以上そちらをどうするかが最優先だろう。
舞が指定した駅に向かう電車の中、ユメが着ていても違和感がないであろうジーンズにTシャツ、カーディガンと言った格好で揺られていると頭の中で声がした。
『遊馬はある程度事情を話してからわたしと入れ替わってくれたらいいから』
「最終的に入れ替わらないと信じてもらえないだろうからな。
でも、出来るだけ説明は頑張るよ」
『そうしてくれた方が嬉しいけど、入れ替わるのが一番簡単な説明方法だと思うから気楽にしてくれていいよ。
後わたしが何とか説明するから』
「たまには俺も格好つけたくはあるんだけどな。皆に頼ってばかりだし」
『遊馬は十分に頼りになるよ。今のななゆめがあるのは遊馬のお蔭みたいなところあるし』
「いや、それはユメのお蔭だろ」
ブロック席の窓際、外を見ながらユメと話をする。
窓の外、木の葉が少し黄色くなっているのを見るともう秋なのかという感じがした。
それはさておき、こういう時必ず話し相手がいるというものは助かるもので、しかも小さい声で十分会話できるというのは他の誰にもない利点じゃないだろうか。
それはさておき、ユメから頼りになると言われるのはまんざらでもないのだけれど、何というか過大評価されているのではないかと不安にもなってくる。
そうしている間に駅に着いたらしくユメが『遊馬下りるよ』と言ってくれた。
「悪いな表に出ているのは俺なのに」
『たまには役得したって良いんじゃない? 所で何か考え事?』
「ちょっとな」
『そっか』
ユメはそれ以上踏み込むことはせずに、短くそう返すと黙ってしまった。
始めてくる駅と言うものはどこに何があるのかさっぱりで、案内板を見ながら取りあえず改札を探す。
幸い人が多くなかったので人の波にのまれることは無く、全くいないこともなかったのでその人たちに何となくついていく事で簡単に改札にたどり着いた。
切符を入れて改札を出て、さて舞を探すかと思ったのだが「遊馬君」と言う声と共に舞が向こうからやってきてくれた。
「待たせたか?」
「ううん。今来たところだよ」
「それって待っていた人のセリフだよな」
「わかってるなら、遊馬君も気を遣ってくれたらいいのに。
でも、今日はわたしが早く来すぎただけだから気にしないで」
「待ち合わせまでまだもう少しあるもんな。
と言うか、やっぱり眼鏡なんだな」
髪をおろし眼鏡をかけている舞は、今日はブレザーではなくボーダーのTシャツにデニム生地のスカート、同じくデニム生地のジャケット姿。
舞は少し不安そうな顔で眼鏡を触ると口を開いた。
「遊馬君は眼鏡しない方が良いと思う?」
「いや、何というか眼鏡をかけていたら舞で、かけていなかったらドリムって感じがするなと思っただけだ」
「じゃあ、舞とドリムとどっちが可愛い?
って聞いたら遊馬君困るかな?」
「困るからやめてくれ」
悪戯っぽい笑顔で腰を少し曲げて上目遣いをしてくる舞に一瞬で主導権を握られたような気がしたけれど、舞は「それならしないよ」と笑って許してくれた。
それから「遊馬君の私服って何かシンプルっていうか中性的だね」と言って笑う。
これが桜ちゃんなら「じゃあどっちが可愛いですか?」何て聞いてくるに違いない。
それから舞は姿勢を正すと真面目な表情になって尋ねてくる。
「えっと今日はユメちゃんと遊馬君の関係について教えてくれるんだよね。
二人で来ると思っていたんだけど、遊馬君一人なの?」
「あー……その辺もちゃんと説明する。出来ればカラオケとか人目に付かないところで話したいんだが」
「遊馬君がそう言うなら良いけど、変な事しないでよ?」
冗談を言うように舞がそう言ったが、舞からしてみたら俺と二人きりと言うことになるのか。
何か色々と配慮を忘れているなと思うけれど、人目がある所でユメと入れ替わるのは避けたいしどうすることもできないと言えばできない。
そう言うわけで「約束する」と言って、舞に近くのカラオケボックスまで案内してもらった。
連れてこられたカラオケ店は俺がよく行っていたところとは別の系列のところだったが、システム等結構似ていて何となく安心した。
指定された部屋に行って明かりをつける。
L字型にソファが置かれそのソファに沿うようにテーブルがあり、ソファと反対側にテレビ等の機械が置かれているごく普通のカラオケボックス。
九十度の角度になるように舞と俺は座った後、思わず「何か懐かしいな」とつぶやいてしまった。
「懐かしい?」
「昔はよくカラオケに来ていたなと思ってな。最近は全く来てなかったが」
「それって……」
ユメが生まれて以来カラオケには来ていない。舞にその事は話していないけれど、俺が歌えなくなったことは知っているからだろう、申し訳なさそうに下を向いてしまった。
そんな舞を見ていると何か慰めと言うか、気の利いたことを言うべきなのかとも思ったけれど、話すなら今しかないとも思ったのでゆっくりと舞に声をかける。
「舞は二重人格とか信じられるか?」
「二重人格って、自分の中にもう一人別の人格がいますよってやつだよね?
漫画とかでたまに見る感じの。そんな人に会ったことがないから信じられるかどうかって言われても分からないんだけど……
それがどうかしたの?」
「実はもう会っているんだとしたら?」
「えっと、それって遊馬君がそれともユメちゃんが?」
少し考えた後の舞の返しを聞いてそう取られるのかと内心驚く。
ユメとの関係がどうこうって話だから二重人格が俺かユメかみたいなところにはいきつくが、身長から何から替わってしまうため俺達二人についてだとは思わない。
どちらかが二重人格でどちらかがそれをフォローしているという風に思われるのか。
いっそユメと入れ替わりたいが、舞へのショックを和らげるため少しずつ説明していかないといけないだろう。
「さっき何で俺一人なのかって聞いたよな」
「うん」
質問に答えない俺に少し不満はあるだろうが、それを表に出さずに舞が頷く。
「その答えなんだが、俺とユメは同時には居られないんだ。
それと、確かにユメも一緒に来てる」
「ねえ、遊馬君」
「なんだ?」
「わたしには遊馬君の中にユメちゃんの人格がいるっていう風にしか聞こえないよ?」
「ああ、それであってる」
「……でも、ユメちゃん小さかったよ?」
「俺の場合かなり特殊でな、体の大きさ、構造まで変わるんだよ」
「わたしをからかってる……ってわけじゃないよね。本当なの?」
信じたいけど信じられない。そんな舞の気持ちがその複雑そうな表情から読み取れる。
まあ、俺が初代ドリムだっていうよりも無理がある話だから仕方がないと思うが、事実なので「本当だ」と返すしかないのだが。
ただ、今回はあの時違ってとても簡単に証拠を見せることが出来る。
「今から起こる事に驚くなとは言わない。でも、とりあえず舞をからかっている訳じゃないって事は理解してほしい」
「遊馬君何を?」
困ったような不思議そうな顔をしている舞の質問に答えることなくユメと入れ替わる。
入れ替わった事を確認するように、一度瞬きをしたユメがその視線を舞へと向けた。
そこから先の舞の表情は過去何度か見たことのある、きょとんとした表情から衝撃と驚きの入り混じった表情への変化。
「これで信じてくれる? 遊馬が舞ちゃんをからかっていなかったんだって」
「本当にユメちゃんなの? ……ううん。ユメちゃんだよね。
遊馬君、遊馬君はどこに行ったの?」
「遊馬はわたしの中。ちゃんと今の状況も分かってるよ」
ユメの言葉を聞いて舞が二、三度深呼吸をする。
この状況それで落ち着けるのかわからないけど、舞はそのまま口を開いた。
「びっくりした」
「でも、ちゃんと遊馬説明してたでしょ?」
「だからって簡単に信じられることじゃなかったから……遊馬君には悪いんだけど」
「遊馬もそれは分かってるよ。だからわたしと入れ替わったわけだし」
「えっと、整理させてね。ユメちゃんが遊馬君の別人格……って事でいいの?」
「そんな認識で大丈夫だと思うよ。わたしはある日遊馬から別れた人格だから」
「って事は今話しているのは遊馬君じゃなくてユメちゃんって事でいいんだよね?」
「うん」
「それで、わたしとユメちゃんが話していることっていうのは」
「遊馬も分かっているし、わたしが見ているモノ含めて、感じるものすべて遊馬もおんなじように感じてるよ」
「じゃあ、こうやって手を繋いだら遊馬君も手を繋いでるって感じるって事?」
「そう言うこと」
舞が急にユメの手を掴んだ――と言うよりも上から覆った感じだが――がユメはあまり驚くことなく舞に事実を伝えていく。
それにしても、舞はどうしてこんなに冷静なのだろうか? まあ驚いてはいるみたいだけれど、俺が思っていたほど混乱していないと言うか、ショックを受けていないと言うか。
単純に舞がそう言う感情を隠すのが上手なだけな可能性もあるけれど、この場合拒絶されれば辛いものもあったと思うので気を遣っているのであってもそれはそれで嬉しい。
「舞ちゃん思ったより驚いてないね。もしかすると、軽く拒絶されると思ったんだけど……」
「これでもちゃんと驚いてるよ。でも、わたしが想定していたモノの斜め上と言うか遥か上と言うか、まるで想定していなかった事でどう反応していいのかわからなくて。
少しほっとしたっていうのと、わたしの中で謎だったものが少し解けていくのと、何か色々考えることがあるんだけど、取りあえずユメちゃんが携帯持っていない理由はわかったかな」
「遊馬の携帯が半分わたしの携帯だから。わたしの携帯持っていたとしても、結局遊馬にはメールの内容も電話の内容も分かっちゃうんだよね。
それはさておき、説明をしていきたいんだけど何から話したらいい?」
舞の反応が想像以上に拍子抜けだったのか、肩の力を抜いたユメが尋ねると、舞が一度目を逸らしてから言い辛そうに口を開いた。
「わたしがユメちゃんと言い合いになった時、それを遊馬君も聞いていたんだよね?」
「うん」
「じゃあ、その後遊馬君に会いに行った時わたしがユメちゃんに言ったこと全部わかっていたんだよね?」
「そうだね」
ユメの耳を通して舞の声を聞きながら、行ってほしくない方に話が進んでいるのが分かった。
行ってほしくはないけれど、舞として許せないだろうと言うことも分かる。
何せ舞が何をしたのかわかっていたうえでそれを黙って舞と話したのだから。
結果的に舞は真実を話してくれたのだけれど、見方によってはそれは舞を試したことにもなる。
そもそも、そう言う後ろめたさをどうにかしたくてこうやって舞に真実を話している所もあるのだから、行ってほしくないなんて事言って良い道理はないのだろうけど。
「何それ……って言いたいけど、遊馬君やユメちゃんもいろいろ大変だったんだよね。
それなら、わたしは遊馬君に感謝しないと。あんな姿見せたのにわたしにチャンスをくれてありがとう」
「それでいいの?」
「うん。遊馬君に会う前だったら怒ってたと思う、わたしの事試してたの? って。
でも、きっと遊馬君はそんなこと考えていないし、考えていたとしても試されるようなことをしたのはわたし。
それくらいは分かるようになったよ」
もしも俺が表に出ていたら安心して全身から力が抜けていただろう。
ただ、今主導権を持っているのはユメで、その真っ直ぐな視線に映っている舞は一度頷いてから改めて口を開いた。
「今ならわたしが遊馬君に何をしてしまったのか教えてくれるよね」
「たぶん遊馬は舞ちゃんにそれを知ってほしくないと思うよ?」
「遊馬君には悪いけど、知っておかなくちゃ駄目だと思うんだ」
「遊馬、良い?」
ユメに尋ねられて『ああ』と返す。返したけれど本当に舞に言ってしまっていいものなのかとも思う。
舞が変に責任を感じてしまうかもしれないし、大体自分が過去にやってしまった事を改めて聞きたいって人は居まい。
しかし、肯定してしまったのでユメの口は動いていく。
例のコメントを貰って以来歌えなくなった事。でも歌をやめられなくて誰にも聞かれないように一人カラオケに行くようになった事。
それから想像の女の子のように自分の歌を堂々と歌いたいと思っていた事。
巡先輩の謎の機械で中途半端に願いがかないユメが生まれ、それ以来俺が俺の歌を歌えなくなった事。
「直接舞ちゃんのコメントが関係したわけじゃないけど、多分それが無かったら今頃遊馬は自分の好きな歌を続けていられたと思うんだ」
最後をそう締めくくったユメが舞からの返事が来るのを待つ。
舞はユメが話している最中も時折頷きながら目を閉じ何かをかみしめるように話を聞いていて、ユメが話し終わっても少しの間目を閉じていた。
それから目を開けると最初にユメに笑顔を向ける。
「話してくれてありがとう。ユメちゃんに歌をあげたってそう言うことだったんだね」
「今までひどい事も冷たい事も言ったかもしれないけど、わたしは少し舞ちゃんに感謝してるんだよ。
遊馬にも悪いんだけど、舞ちゃんがいなかったらわたしは此処にはいなくて歌を歌うこともできなかったから。
それでも、舞ちゃんが本当に身勝手な人だったら許せなかったと思うんだけど」
「ううん。ユメちゃんの言う通りわたしは身勝手だったから、だから遊馬君に一杯恩返ししないと」
罪滅ぼしと言わなかったのは俺に気を遣ってなのか、それとも本心なのか。
舞の笑顔から読み取ることは出来なかった。




