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Lv69

 文化祭が終わって流石の軽音楽も休みとかあるかなと思ったけれど、そんな事もなくて今日もいつも通り部活。


「如何にも稜子らしいけどな」


『だけど、ちょっと気は抜けちゃうよね。ステージでのライブ以外にも色々あったし』


「明確な目標も無くなって少しやる気もない感じか」


 音楽室までの道のりそんな風にユメと話しながら歩いていると「燃え尽き症候群ってやつですか?」と桜ちゃんの声が聞こえてきたので足を止める。


『そこまで大そうなものでもないと思うんだけどね』


「そこまでってわけじゃないけどな」


「まあ、気持ちはわかりますよ。ようやくしがらみから解放されたって感じですもんね」


「解放にはもう少し届いていないと思うんだけど、ドリム問題がまだ結構残っているみたいだし」


「それはそうでしょうね。でも、桜的には現ドリムさんとの話がどうなったのかを教えて欲しいところです。


 と言うかそれを聞きたくてこうやって先輩を捕まえたんですから」


 それくらいわかってくださいよ、と言いたげなあきれた表情を向ける桜ちゃんに、しかしながら言い返す言葉が見つからない。


 俺達と舞がどう決着がついたのか教えないままにドリム問題と言っても桜ちゃんとしても答えようがないだろうし。


「綺歩が言っていた話っていうのはやっぱりそれなんだな」


「とは言え、ほぼわかっているようなものなんですけどね」


「そうか?」


「上手くいっていなかったら今頃遊馬先輩落ち込んでいそうですし、上手く仲直りできたみたいですね」


「桜ちゃんには嬉しい報告じゃないかもしれないけどな」


 確信をもって図星をつく桜ちゃんに何だかやられっぱなしなような気がして、反撃のつもりで嫌味っぽく言ってみたのだけれど、桜ちゃんは首を振った。


「そんな事ないですよ。あれだけの事があって遊馬先輩がドリムさんを認めたということはきっと一番いい形に落ち着いたと思いますし、桜も先輩が最も納得いく結末を望んでいましたし」


「すまん」


「どうして謝るんですか」


 殊勝な事を言う桜ちゃんに俺はなんて浅はかな言葉を返してしまったのだろうかと謝ると、桜ちゃんが笑いだす。


 どうなることが一番良かったのかそれはわからないけれど俺としては納得のいく形に収まったのは確かだし、ユメだってそう思ってくれているだろう。


 返す言葉が無くて俺がだまっていると桜ちゃんが続けて話した。


「まあ、桜はまだドリムさんを認めたわけじゃないですけどね」


「そうか……やっぱり、難しいよな」


「今でようやくプラスマイナスゼロってところです。


 後はこれからの舞さんの頑張り次第ってところでしょうか」


 「桜もSAKURAとして曲を提供するくらいなら考えるレベルですね」と最後に桜ちゃんが笑うが、やっぱり桜ちゃんも優しいよなと思う。


「やっぱり桜ちゃんは優しいな」


 そう言って頭をポンポンと叩くと桜ちゃんは二度ほど瞬きをして大きなため息をついた。


「こういうことはつつみんにしてください」


「やっぱり子供っぽいか?」


「そう言うことじゃないです。っていうか今の発言はつつみんの前でしない方が良いですよ?」


「それくらい流石にわかる」


 鼓ちゃんが子ども扱いされるのが嫌な事くらい俺でもわかる。


 しかし、だからこそそんな風に扱いたいオーラが鼓ちゃんにはあるのだけれど。


 桜ちゃんはジトーッと俺の方を見ると、何かを諦めたようにため息をついて口を開いた。


「それで、具体的にドリムさんとはどうなったんですか?」


「俺とユメみたいな関係……だな」


「じゃあ、遊馬先輩の中に舞さんもいるんですか?」


 桜ちゃんが真顔で問いを重ねてくるので反応に困る。


 絶対そんな事じゃないとわかっているはずだから、ここで馬鹿正直に「いや違う」なんて言おうものなら「わかってますよ」と悪戯っぽい笑顔で返してくるのは見えているし、下手に乗っても話が進まなくなる。


 結局ため息をつくしかなかった。


「そうじゃないってわかっているよな」


「もちろんです。でも話から察するに舞さんはドリムとしての先輩を正式に受け継ぐって事みたいですね」


「そこまでわかっているなら……いや、大体そんな感じだ」


「ユメ先輩はそれでいいんですか?」


『わたし?』


「ユメが……か?」


「そうです」


 俺とユメが同時に返すと桜ちゃんが冷静にそう返す。


 冷静にと言ってもあくまで俺達に比べると、であって桜ちゃん自身はいつも通りなのだろうけれど。


 ともかく、ユメに投げかけられた疑問なので俺は黙ってユメの答えを待つ。


『正直ちょっと妬けちゃうかな。でも、舞ちゃんにしか見せられないモノって言うのもあるだろうし、それはわたしも見ることが出来るだろうからきっとわたしへの刺激にもなるしいいと思うよ。


 何より初代ドリムである遊馬がそれで納得したんだし』


「舞にしか見せられないモノが自分の刺激にもなるだろうって。


 それから初代ドリムである俺が納得したからそれでいいだそうだ」


「それだけですか?」


「あと少し妬ける、とも」


 「なるほどです」と桜ちゃんが納得したところでちょうど音楽室の前にやってきた。


 話もこれで終わりかなと思って、ドアに手をかけたところで桜ちゃんにその手を掴まれる。


「それだとドアを開けられないんだけど」


「桜としてはもう少し遊馬先輩と話したいので今日の部活をサボると言うのはどうでしょう?」


「次の部活の時にユメの分まで俺がとばっちり受けそうだから嫌だ」


 確かに俺としても桜ちゃんには相談したいことがある。


 でもそれ以上に自分の身が可愛い。


 俺の言葉を聞いて桜ちゃんは考え直してくれるのか、考えるそぶりは見せたのだけれど相変わらず手は掴まれたまま。


 それから何か思い浮かんだような顔をすると携帯を取り出した。


「あ、稜子先輩ですか? 今日遊馬先輩と話したいことがあるから部活遅刻もしくは休みますね。


 はい。文化祭で提供した三曲分の御代と言うことで。では」


 慣れた手つきで携帯を切り仕舞うととてもいい笑顔で桜ちゃんが「これで大丈夫ですよね」と言ったので俺は諦めてドアから手を離した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 音楽室の前で話し合うなんて出来ないので、一つ階を下りて例の空き教室に向かう。


 こういう時に自由に使える――訳ではないけれど――教室を知っているというのは結構便利なもので、廊下や俺たちが普段使っている教室で周囲に気を配りながら話をするということをしなくていい。


 空き教室につくと、行儀悪く桜ちゃんが机に座ったところで話が再開された。


「さて、桜が話したいというのはズバリ、先輩の言っていたドリム問題です」


「俺もそれついて桜ちゃんに相談したいと思っていたところだ」


「それは助かります。先輩が解決する気が無かったら桜がいくら頑張っても仕方がないですからね」


 桜ちゃんは足をぶらぶらと揺らし、手で机の横の部分をつかみながらそう言うと笑顔を作る。


「って言うか桜ちゃんは知ってたんだなドリム問題が残っていること」


「文化祭で桜たちとドリムさんが一緒に歌ったということは多少噂になっていますが、あくまで北高の学生だけに向けてのライブでしたからね。


 情報として弱いと言いますか、むしろ一般的に解放されていた通常のステージ発表で判断されてユメ先輩が初代ドリムじゃないかという話だけが強まってさらに面倒なことになりつつあります。


 ユメ先輩が初代ドリムだということにしてくれると、ユメ先輩と舞さんが仲良くなったとするだけでだいぶ変わってくるのかもしれませんが……」


「それは駄目だな」


『それは嫌かな』


「そうですよね。桜としても今のユメ先輩がドリムと言う名前に囚われてしまうのは嫌ですし。


 ところで先輩方としては何か案とかあったりしないんですか?」


「ユメが俺の代わりに舞の曲を歌って初代ドリムのアカウントで投稿するとか、舞と一緒に歌った曲を同じようにネットに投稿するとかだな」


「その時に初代ドリムとしてのユメ先輩の正体は隠すのかもしれないですが、それをやってしまうとユメ先輩=初代ドリムって言ってしまうみたいなものですよ?」


「それは舞に否定してもらえばいいんじゃないか?」


 俺が言うと桜ちゃんが微妙な顔をする。


「それで騙されてくれる人もいると思いますが、時期的に厳しいと思います。


 それ以上にユメ先輩ほど歌が歌えて且つ初代ドリムみたいな人と言ったらそれこそユメ先輩しか今のところいないんですよ」


「つまり?」


「こちらがいくら否定しても答えを求める人々はとても高い確率で、こちらが嘘をついていて本当はユメ先輩が初代ドリムなのだと結論付けるということです。


 要するに否定自体が自演だと思われ兼ねないんですよ。


 実際自演することになりますから簡単にばれてしまう上そこを突かれてしまうとユメ先輩としても舞さんとしてもあまり良い事にはならないと思います」


 桜ちゃんの話を聞きながらネットとかに弱い俺としてはその言葉を理解するのにやや苦労した。


 でも言っていることが分からないこともない。


 ユメの歌はすでに色々な人に聞かれている訳だし、そのユメと同じ声の人が初代ドリムだと名乗り歌声をネット上に投稿した場合、それがユメだとバレるのはほぼ間違いない。


 しかもこちらがそれを否定しきるほどの材料を提出することが出来ないのだ。上辺だけで否定したところで少なくとも疑念は残る。


 そうなる前に桜ちゃんに相談することが出来たことは良かったのだけれど。


「何か八方塞がりだな」


「今考えうるベストは、新たに初代ドリムの上位互換が現れ上手い具合に桜たちに接触してくれる事でしょうか」


「それこそ無謀な気がするんだが……」


「やっぱりこの問題は一旦置いておくべきですかね」


「今のところは下手な事をしなかったって事を喜んでおくべきか。


 でもずっと放置ってわけにもいかないよな」


 代替案のない俺が言って良い言葉ではないかもしれないが、やっぱり出来るだけ早めに何とかした方がいいと思う。


 ユメのためにも舞のためにも。


 桜ちゃんは少し勢いをつけて机から跳び下りると「まあ」と口を開いた。


「別の案がないわけじゃないんですよ?」


「なんで早く……と言いたいけど、何か問題があるんだろ?」


「そうですね。一つとっても大きな問題があります」


「俺に手伝えることはないのか?」


 俺の申し出に桜ちゃんは首を振る。


「残念ながら今はないです。


 むしろ桜もできることは考えることだけなんです。


 まだ考えがまとまっていなくて、そんな中途半端な状態でお話しして誤解されても困りますし。でも、何とか考えを纏めようと思いますので桜の事待っててもらえませんか?」


「ああ、でも俺もできる限り考えるよ。桜ちゃんに頼ってばかりって言うのも悪いしな」


「桜も桜のために動いているつもりなので気にしないで良いと言いたいですが、今回は桜とは別の案を出してくれると助かりそうです。


 それでまた舞さんの話に戻ってしまうのですが、遊馬先輩は舞さんの連絡先は知っているんですよね?」


 少し重たくなりかけていた空気を掻き消すように桜ちゃんが話題を変える。


 それに助けられるようにして俺も声を出した。


「ああ、知ってるな。何か言っておきたいことでも?」


「今はないのですが、そのうち出てくるかなと思いまして。


 いざ連絡取ろうって時に取れなかったら笑うに笑えませんし」


「それもそうだな。でも、舞ってネットの中ではアイドルなんだろ?」


「舞さん連絡先をどこかに載せるようなことはしていないんですよ。


 今後は変わるかもしれませんが、ドリムさんに連絡するよりも舞さんに連絡取れた方が確実ですからね」


「そういうものなんだな」


「そういうものなんです。


 ところで遊馬先輩から見てドリムさんじゃない今の舞さんって結局どんな人に見えましたか?」


 いつものようにからかうように、なんてことはなく普通の疑問として桜ちゃんがそんな事を聞いてくる。


 それが意外で驚いてしまったが、すぐに答えを返した。


「どんなと言われると難しいけれど、芯が強くて素直で正々堂々って感じだったな。


 隠さず何でも話してくれたし、俺は信頼できる人だと思うよ」


 言いながらふとあることを思う。


 しかし、今はそれを頭の隅に追いやって桜ちゃんに問いかけた。


「どうしてそんな事を聞きたかったんだ?」


「単純に桜の中の舞さん像を書き換えるためです。


 遊馬先輩だって嫌いな人より少しでも好きな人のためにって思った方がやる気出ますよね? 半分は舞さんのために頑張るわけですし」


「何か悪いな、本当に」


「乗り掛かった舟って言葉もありますし、桜だって初代ドリムとの関係が無かったら一目置きたい人ですからね、舞さんって。


 現状ユメ先輩に歌ってもらうより舞さんに歌ってもらった方が桜の曲は広まりますから」


 最後軽口を叩くように言ったのはたぶん桜ちゃんなりの優しさなんだろうなと思ったけれど、ユメが『悪かったですね、知名度無くて』と半分拗ねたように言ったのでそのまま伝える。


 後で聞けばわかるだろうが、ユメも本気でそんな事は言っていないだろうし、何より桜ちゃんもいつものように猫のような笑顔を見せてくれた。

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