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Lv66

「とりあえず先輩方にドリムさんと演奏すると連絡入れておきましたよ」


「ああ、助かる」


 相変わらず桜ちゃんは行動が早いというか、気が利くというか。本当は俺がしないといけない場面だろうに、先輩としての威厳も何もあったものじゃない。


 今はまだ音楽室で桜ちゃんと二人きり。他のメンバーは恐らく楽器を見るためにステージの袖にいるか、もしくは閉幕式に出ているかだろう。


 去年の閉幕式がどれほどかかったかは覚えていないが、そんなに長くなかったように思う。


 閉幕式が終わったら後夜祭。その間に準備兼後片付け時間はあるけれども。


「遊馬先輩に替わってもらったのに、またユメ先輩になってもらわないといけないですね」


「そう言えばそうだな」


「やっぱりそういうことって大変ですか?」


「大変……だったけど、もう結構慣れたな」


「遊馬先輩みたいな状況でも慣れるってあるんですね」


「自分でも半分驚きだけどな。もうユメと替わった方が良かったりするのか?」


「いいえ、まだ大丈夫だと思いますが、よかったらちょっとユメ先輩と話したいので少し早めに替わってくれるとうれしいです」


 思いの他に桜ちゃんが真剣な顔で言うので、何を話すのだろうかと不思議に思う。


 しかし、すぐにどんな話をしたいのかわかったので、俺は首を振った。


「ありがたいけど、俺が話すよ。あんまり桜ちゃんに甘えていると対等な関係すら怪しくなりそうだからな」


「そうですか。では喧嘩だけはしないでくださいね」


「そんな難しい事、やろうと思ってもなかなかできないだろうな。


 じゃあ、少しユメとの話に集中するから」


 そう言って桜ちゃんから意識を外す。こういう時心で思えばユメと話せたらなんて思わなくもないけれど、それは今に始まったことでもないか。


「ユメさっきは助かった」


『ううん。むしろあれくらいしか言えなくてごめんね。


 えっと、本当にわたしが舞ちゃんと一緒に歌えるかって話だよね?』


「ああ、ユメが舞と一緒に歌えるかって話だ。でもその前にさっきは悪かったな」


『悪かったって何が?』


「成り行きとは言え、俺が歌えなくなったことが悪い事のような話になったからな。


 ユメが生まれたのは決して悪い事じゃないのに」


 「悪かった」ともう一度言うと、桜ちゃんも一緒に謝る。


 謝罪の後ユメは少しの間何も話さなくて、それから焦ったような話し方で話し始めた。


 その表情が一体どんなものなのだろうかとも思ったけれど、例えユメが表に出ていてもなかなか見ることは出来ないんだなと内心少し落ち込んでしまう。


『遊馬が歌えなくなったのは確かだし、それは良い事じゃなから。


 桜ちゃんも言っていた通りやっぱり難しい関係だから仕方ないよ』


「だからこそ、俺たちの中ではしっかりしておかないといけないと思ってな」


『うん、わかった。わたしもそのことは気にしていないから許してあげる』


「ありがとうな。


 それで、ユメは舞と一緒に歌えるのか?」


『歌えはすると思うよ。でも、いつも通り……は無理かもしれない。


 やっぱりどこかで意識しちゃいそうで』


「そうだよな」


『わたしの歌は遊馬がくれた歌だから、例えば舞ちゃんが遊馬の歌に相応しくないって思ったら歌うのやめちゃうかも』


「歌い始めたら歌い切ってほしいんだが」


『あくまで例えばだよ。わたしもそんなに子供じゃないんだしステージの上で黙るって事はしないよ』


「ああ、知ってる。たぶん歌わなくなるんじゃなくて、歌わせなくするんだよな」


『一曲くらいならうるさい位の声で歌えると思うしね』


 本当にそれをするのかは置いておいて、やっぱりユメの中にもいろいろ戸惑いがあるんだろうなと思う。


 いつもだったら「大丈夫、いつも通りに歌えるよ」くらい言ってくれるだろうが、自信と不安が半々くらいの声色と言葉しかもらえなかった。


 本当はユメも桜ちゃんも舞と一緒に曲をやりたくないんだから当たり前と言うか、俺の我儘によく付き合ってくれているというか。


「ユメも桜ちゃんも大概優しいよな」


「そうです。桜は優しいので大切に扱う権利をあげますよ」


 俺の言葉に桜ちゃんがいち早く反応する。それが何だか可笑しくて、少し笑いながら「桜ちゃんに優しくするには権利がいるんだな」と返した。


『遊馬の方が優しいよ。わたしなんて全然』


「そうか? 俺はいつも気を使われている気がするんだが。


 舞に怒ったのも、もとはと言えば俺がいたからだろ?」


『だってそれは……』


 ユメはそこまでいうと黙り込んでしまった。


 『それは』の後、ユメは何か続ける言葉があるのかそれともないのか俺には分からないけれど、多分ユメは何も言わないだろうから俺はユメに声をかける。


「ユメって俺が歌えなくなった事を気にしているだろ?」


『遊馬も歌いたいって思っていたんでしょ?』


「ああ、桜ちゃんと俺の会話聞いていたんだもんな……


 でも、それはユメのせいじゃないだろ?」


『ううん。わたしが生まれなかったら少なくとも遊馬は一人歌い続けていた。


 遊馬はそれでいいと思っていたはずでしょ?』


「ユメが生まれる前はな。でも、今は知ってしまったんだよ。


 俺が好きに歌うのと同じくらい楽しみなことを。そして俺はそっちを選んだわけだ。


 ライブ中も言っただろ、ありがとうって」


『うん。それはとても嬉しかったよ。


 でも、わたしは桜ちゃんみたいに遊馬が歌えなくなった事で悩んでいるときに肩を貸してあげることもできないから……


 遊馬が本当に辛い時に近くにいるはずなのに何もできない、ただ黙って抱きしめてほしい時にわたしは遊馬を抱きしめられないんだよ』


「俺ってそんなに抱きしめて欲しそうか?」


『ううん。でも、わたし達って声でのやり取りしかできないよね?』


 ユメの声がとても悲しそうで、寂しそうで。でも、それだけ俺の事を考えてくれている気がして嬉しかった。


「ユメは歌ってくれるだろ? 俺が嫉妬するのも憚られるレベルの歌をユメが歌ってくれるなら俺は胸を張ってユメに歌をあげてよかったと言える。


 それに今だって良かったと思っているんだ。


 後は俺がどう折り合いをつけるかっていう話だから、ユメが気に病む必要はないんだよ」


『わたしは……わたしだって遊馬の力になりたいの』


 先ほどまでとは違い訴えるような声でユメが言うので、出来るだけいつも通りの声で返す。


「それなら歌ってくれないか? 俺の選択は間違っていなかったと確信できるように、ユメに全てを託して良かったと思い続けられるように」


 一度そこで区切ってから、今度は軽い感じで言葉を続ける。


「それに、ユメも話し相手にはなってくれるだろ?」


『……うん』


 それでは不十分だとばかりのユメの不満そうな肯定。


 もう一つユメに言いたいことがあるんだけど、ちょっと桜ちゃんが隣にいると言い難い。


「桜ちゃん…ユメと二人きりにして貰っていいかな?」


「さっきも言いましたが……と言いたいところですが、もう大丈夫みたいですね。


 桜はお邪魔虫みたいですし、これ以上イチャイチャを見せられたら桜も嫉妬しちゃいそうですからね」


 駄目かなと思って尋ねてみると、思いのほかに桜ちゃんは簡単に引いてくれた。


 別にイチャイチャしていたつもりはないのだけれど、桜ちゃんの言い方はそれこそ冗談のようだったので本気で言っているのか違うのかはわからない。


 桜ちゃんが「迎えには来るのでそれまでにはユメ先輩の準備を終えておいてくださいね」と言い残し音楽室を後にするしようと立ち上がると、ユメが不思議そうな声で尋ねてきた。


『桜ちゃんがいると話しにくい事なの?』


「今までのも大概話しにくい事だと思うんだけどな」


『それ以上にって事だよね』


 そう言うつもりはないのだろうけれど、ユメのセリフがどうにも急かしているように聞こえる。


 一応桜ちゃんがいないかを確認して、それから、なんでさっきの雰囲気の時にやってしまわなかったのだろうかと、どうして仕切り直すようなことを言ってしまったのだろうかと後悔した。


 とは言えここで黙ってしまうわけにもいかないのでユメにばれないよう心の中だけで深呼吸をして口を開く。


「まあ、あれだ。ユメは声でしかやり取りできないって言ってたけど実はそうじゃないんじゃないかと思うんだ?」


『どういうこと?』


「あー……ユメが表にいた時の方が身体的接触って多かったからユメは思いつかなかったかもしれないが、例えばこうやって自分を抱きしめてみるとさ」


 言いながら自分自身に両腕を回す。


 正直恥ずかしいというか、照れるというか。実験もしたことないのに上手くいっているかなんてわからないし、傍から見ると男が自分を抱きしめているという嫌な絵でしかない。


 そのせいで言葉はどうしても尻すぼみに小さくなってしまう。


「ユメからしたら抱きしめられているような感じがしないかな……と」


『うーん……どうだろう? 抱きしめているような、でも遊馬の手で体だし……抱きしめられているって言われたらそうかも……?』


 反応が芳しくなくてやっている自分がどうしようもなく恥ずかしくなってきたところで、ユメが言葉をつづけ始めた。


『でも、温かい。これが遊馬なんだなって、わたし知ってたはずなのにね。


 遊馬が本当に傍にいるような。でも、遊馬は違うんだよね?』


「俺は自分を抱きしめている痛い奴だという感想しかないな」


『そんな気はしていたけど、やっぱり一方通行何だね。


 それはちょっと寂しいかな』


「その分他の人と比べると気持ちは伝わりやすいだろ? 表に出ていなくても表に出ている方の感情に多少引っ張られるんだから」


『うん。遊馬結構恥ずかしいし照れくさいでしょ』


「俺としてはそういうのは伝わらないで欲しいんだが」


『そんな遊馬に頼むのはちょっと気が引けるんだけど……』


「どうしたんだ?」


『もう少しだけこのままでいてくれないかな?』


「……了解」


 それから、ユメが満足するまで一人羞恥プレイをすることになった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ユメちゃん、桜ちゃんに色々あったって聞いたんだけど大丈夫だった?」


 後夜祭控室。室ではないし、文化祭中でも使っていた舞台袖だけれど。


 現在は後夜祭始まっていくつ目かの演奏が行われているところ。


 別に演奏以外にもしていいのだけれど、どういうわけかこういう時にはバンドが目立つ。


 バンドみたいなことをやってみたいけれど部活的にできないという人が結構いるからこんな状況になるらしい。


 まあ、唯一の軽音楽部が俺たちのところしかないのだからある意味で仕方ないのかもしれないけれど。


 綺歩に尋ねられてユメはいつもの調子で「大丈夫」と返す。


 目の端に移った桜ちゃんが何やらにやにやしていたのが少し気にかかるけれど、ユメの調子が戻ってくれたようで俺自身恥ずかしい事をした甲斐があったというものだ。


「それで舞ちゃんについてはどうなったの?」


「舞ちゃん?」


「あ、えっと。ドリムちゃん」


「彼女ならもう少しで来るそうですよ。何やら一人でずっと考え事をしていたみたいです」


「まあ、いろいろあったからね」


 桜ちゃんが綺歩よりも先に答えてくれたけれど、困ったようにユメがそう言う。そうしているうちに裏手にある外につながるドアが開いた。


 ドアの方を向くと案の定ブレザー姿の舞が立っていて「遅くなりました」と頭を下げる。


 それから少しあたりを見回して不安そうな顔をした。


「貴女がドリムね。話は聞いていると思うけど今日一緒に演奏する「ななゆめ」のリーダー稜子よ。よろしく」


「あ、えっと。よろしくお願いします」


「へえ、本物のドリム氏は本当に小っちゃいのな。オレ達のところにはさらに小っちゃいのが二人いるけどねん」


「御崎先輩、それってあたしの事ですか?」


「そうそう、つつみんと後ユメユメ。


 そう言えばドリム氏はオレ達とそんなに歳変わらんよね」


「えっと、そうですね。今高二ですし」


「だったら、そんな改まった話し方しなくてもいいんじゃないですか?」


「あ、う、うん。そうだね」


 やってくるなり部員に取り囲まれた舞が困ったように受け答えをする。


 困ったというよりも戸惑ったの方が近いかもしれないけれど。もしくは予想外。


 ユメが遠目で見ているのでその様子がはっきりわかるなとボーっとしていると、いつの間にか舞がユメの方へと近づいてきていた。


「あの、さっきは……」


「ううん.。わたしは良いの。だから遊馬の期待を裏切らないでね?」


「も、もちろんそのつもりだよ」


 やっぱりまだ少しユメには棘が残っているなと感じる。これでもだいぶマシにはなったのかもしれないけれど。


 それを見兼ねてか桜ちゃんが間に入ってきた。


「ユメ先輩駄目ですよ。表面上くらい取り繕っておかないと」


「気にしないで、もとはと言えばわたしが悪いから。


 でも、ちゃんとわたしなりに色々考えてきたからちゃんと見ていてね」


「うん。期待してる」


 顔をそむけるようにして、でもちゃんと舞には聞こえるようにそういうユメが妙におかしくて思わず笑ってしまう。


 それに対してユメは恨めしい顔をするしかできないのだけれど、こんなに素直じゃないユメも珍しい気がする。


 さっきの今で素直になれる方が難しいのは重々承知しているが。


「貴女達話は済んだかしら? そろそろ出番よ」


 稜子にそう言われ、ユメと舞が同時にうなずく。それからステージへと足を踏み入れた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 文化祭が終わった直後だというのに体育館の熱気は収まっていることはなく、俺達を包み込む。


 自由参加の後夜祭。学生が楽しむために行われるため一般の人は立ち入り禁止となっているそこには、全校とは言わないけれどかなり沢山の生徒が残っていた。


 三日間行われたお祭りの本当に最後、それが俺達が貰った時間。


 全校生徒には言っていないサプライズ。今夜限りのコラボレーション。


 それが形になりそうで、企画した側としては安心する心地もある。


 メンバーの準備が終わって、ステージに明かりが灯った。それと同時にマイクを持つユメが口を開く。


「皆さん三日間の文化祭どうでしたか?


 楽しかった人、満喫した人、まだまだ足りないという人たくさんいると思いますがこのわたし達のライブで最後になります」


 そこまで言い終わってユメが舞の方を見る。舞はうなずいて続きを話し始めた。


「ななゆめとドリムの今夜限りのコラボレーション。一曲だけですが楽しんでいってください。


 それでは聞いてください『miracle I love』」


 舞のMCが終わると同時に前奏が始まる。舞が一人でライブをしていた時の録音音源とは違う生の楽器の音。


 しかもそのレベルは高校生とは思えないほど高い。


 会場はユメと舞が並んでステージに立つという予想外の出来事に戸惑い騒めいていたが、すぐにその騒めきは歓声へとすり替えられた。


「周りで皆が恋の話をしても」


「私には関係なかった」


「恋なんてできないし 恋なんてしない」


「そんなの幻想で私は一人で生きていくなんて 関係のないフリしてた」


 最初はユメから交互に歌う。


 打ち合わせなんて殆どしていないはずなのに、よくもそんなに歌えるなと思わなくもないけれど、そう言えば練習段階でどうするのか決めていたんだっけか。


 舞には俺と別れてから多少時間もあったわけだし。


 それでも初めて合わせてここまで歌える事に単純に感動した。


「だけど貴方は」


「私の前に現れて」


「優しく私に」


「微笑みかけた」


「目が合ったその瞬間」


「「私の中の何かが叫んだ」」


 舞がいつものようにダンスをしているけれど、ユメはその動きの半分くらいしか動いていない。


 動いていないというよりも動けないが正しいのだけれど。


 それでも見ている人は楽しんでくれているようで二人の声に被らないように合の手等々が聞こえてくる。


「「miracle I love 今夜は


 miracle I love 眠れない」」


「貴方の瞳が忘れられなくて」


「「miracle I love 私は


 魔法にかかった みたい」」


「奇跡の瞳 君がかけた魔法」


 最初のサビが終わってユメが自分の頬の裏を誰にも気が付かれないように噛む。


 そうすることで表情を変えないように頑張っているのだろう。


 そうしなければ、ユメの表情が困惑したものに変わるから。


 たぶん俺が表に出ていても同じ顔をするに違いない。


「皆が貴方の話をする 私もそれが気になって」


「褒められる貴方が 何だか誇らしくて」


「そんな貴方が許せなくって嫉妬して」


「なのに目で追いかけてた


 だ……」


『ユメ』


 ユメが舞のパートを奪おうとするので俺が諌める。


 ユメの気持ちはわからなくもない。


 一番が終わって二番が始まっても舞はドリムのように歌っていたのだから。


 勿論全く何も変わっていないかと言われたら、そうじゃないのかもしれないけれど、やっぱり俺の知っている歌い方で舞は歌っていた。


 色々と考えてきたって言っていたのに、また裏切られたような気がして寂しかったのは確か。


「だけど貴方は 私の事も構わずに」


「いつものように 笑っていた」


「「再び視線が交差して これは奇跡と声がした」」


 俺に諌められたユメは恐らく舞の歌から出来るだけ意識を外そうとして、今まで以上にテンション高く歌い始める。


「「miracle I love」」


「貴方を」


「「見つめる瞳に 気づいて」」


「素直になれないこの恋が」


「「miracle I love」」


「苦しくて」


「初めて芽生えたこの気持ち」


「どうしたらいいの」


「「ねえ教えて」」


 幸か不幸かユメの複雑であろう心境に反して会場は盛り上がる。


 それを感じてユメが一度大きく首を振った。


「「miracle I love 今夜は


 miracle I love 眠れない


 貴方の瞳が忘れられなくて


 miracle I love 私は


 魔法にかかった みたい


 奇跡の瞳 君がかけた魔法」」


 ラストスパート、ユメの歌からわずかにあった迷いか消えたように感じた。


 来てくれた人を楽しませる、自分自身も楽しむそんな「ななゆめ」の夢を叶えるように。


「「miracle I love 貴方を


 見つめる瞳に 気づいて


 素直になれないこの恋が


 miracle I love 苦しくて


 初めて芽生えたこの気持ち


 どうしたらいいの ねえ教えて」」


「この胸の鼓動」


「どうやったら 貴方に届きますか」


 最後は舞の声。それから後奏が終わり、大きな拍手が聞こえてきた。


 それと同時に赤井さんから後夜祭終了のアナウンスが流れ順次移動が始まる。


 その中に一人二人「アンコール」という言葉を言っている人もいたが、これは学校行事の一環であり、時間的にもギリギリであるため強制的に撤収させられていた。


 全部終わって舞台袖に戻ってきたユメが舞に問いかける。


「どういうことか、説明してくれるよね?」


「うん。貴女の言いたいことはわかるんだけど、出来れば遊馬君に直接言いたい。


 それで駄目だったら、もう遊馬君には近づかない。約束するよ」


「じゃあ、遊馬に言っておくから後で校門まで来てくれる?」


「わかった」


 舞がそう言ったのを確認してからユメが稜子の方に歩いていく。


「ごめん稜子。そういうわけだからわたし先に戻って着替えちゃうね?」


「片付けくらいは各自で出来るから気にする必要はないわ。


 でも、ちゃんと片を付けるよう言っておいてくれるかしら?


 さっき歌、最後以外少しユメらしくなかったわよ?」


「ごめんね。ありがとう」


「あと、綺歩が心配していたから全部終わった後あってあげてくれるかしら?」


「うん。分かったよ」


 稜子との会話を終えて、ユメは音楽室に向かった。


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