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Lv64

「miracle I love 今夜は


 miracle I love 眠れない


 貴方の瞳が忘れられなくて


 miracle I love 私は


 魔法にかかった みたい


 奇跡の瞳 君がかけた魔法」


 軽音楽部と同じで、途中に休憩を挟んで一時間。それが舞が与えられた時間。


 時間的に最後の曲であろう「Miracle I Love」。


 こうやってライブをするのは初めてのはずの舞の曲に合わせて皆合の手を入れる。


 その一体感にユメもつられて――なのか、俺に戻らないためなのかは判らないが――一緒に声を出していた。


「miracle I love 貴方を


 見つめる瞳に 気づいて


 素直になれないこの恋が


 miracle I love 苦しくて


 初めて芽生えたこの気持ち


 どうしたらいいの ねえ教えて」


 曲が進むにつれてさらに感じるドリムの凄さ。


 まず、今着ている衣装が最初に来ていた黒のドレスではなく見慣れたブレザーを着ていること。


 さすがに毎回衣装を変えている訳ではなかったけれど、この衣装で三つ目。


 それからアイドルらしい細かいしぐさなんかも目を惹く。ちょっとしたときにスカートを一瞬つまんではためかせてみたり、要所要所で首を傾げてみたり。


 そもそも左右に踏むステップですら素人のそれとは違う。


「この胸の鼓動 どうやったら 貴方に届きますか」


 最後の歌詞を歌い切り、曲の終わりに合わせて笑顔を作る。


 それからライトが消え幕が下り始める。


『ユメ戻るぞ』


「うん。そうだね」


 幕が閉まったら舞が掃けてユメ達が準備を始める。放送部の子に一言お礼を言って急いで階段を下りる。


 階段を降り終ってもまだ幕は下りきっていなかったからか、綺歩に声をかけられた。


「ユメちゃんどうだった?」


「何かアイドルって感じだったよ」


「緊張してない?」


「緊張よりも楽しみの方が大きいかな。あの人とおんなじステージに立てるんだから」


 それを聞いて綺歩が安心したように笑顔を見せた。


 確かに直前にとてもうまい人が発表した場合緊張もするんだろうなと思うのだけれど、ユメの言葉通りユメはあまり緊張していないように感じる。


 それから幕が下りきり入れ替わるときに舞がユメの方を見た気がした。


 自分のステージを誇るような、挑戦状を叩き付けているような、そんな目をして。


『ユメ、舞のようにできると思うか?』


 ステージに上がったユメに問いかける。幕はまだ閉まったまま、他のメンバーの準備が整うまでは開くことはないのでその隙にと言ったところ。


「遊馬はわたしに舞ちゃんみたいなステージをやってほしいの?」


『いいや、全然。舞はアイドルでユメはボーカルだからな』


「じゃあ、歌だけで舞ちゃんより皆を引き込まないとね」


 そう言ってユメがクスッと笑ったところで皆の準備が終わる。


 今日の一曲目は桜ちゃんが作ってくれた三曲のうちの一曲。


 いつもと違って、使うマイクは六本。それとプロジェクターとスクリーン。


 一昨日のように最初っから何かをするわけではないので普通に幕が開くのを待つ。


 幕が開きステージから客席を見ると、ギャラリーから見ていた時とはまた違った感動が訪れる。


 今からこんなに沢山の人たちに自分たちの曲を聴いてもらえる、そんな感動。


 湧き上がる歓声はユメ達に向けられたものなのか、それとも舞の時の興奮が残っているだけなのか。


 ユメが一度メンバーの方を見て頷きあう。それから、客席の方を見るとしっかりとマイクを握った。


「one two three four five six seven GO」


 前奏無しでユメが歌いだす。


 踊らないとか言っていた割にはGOで飛び上がったのは、その分ユメも楽しみだったということか。


 飛び上がるユメを合図にして演奏が始まる。


 今までの曲の中でも上位に入るくらいハイテンションでノリがいい曲。


 その分皆には結構な技術を強いているらしいけれどそんな話あざ笑うかのような安定感の音が後ろから聞こえてくる。


「「sing」」


「歌うよ 声高らかに」


「「play」」


「鳴らすよ ボク達の曲


 ただ歌い 鳴らし 騒ぐだけ


 それが共通のmean それぞれのgoal


 音楽に集った ボク達の曲 盛り上がるためだけの歌」


 曲中にユメ以外が声を出すのはいつぶりになるのだろうか。


 綺歩や桜ちゃん、鼓ちゃんに至っては初めてだと思うけれど、声を合わせて合の手を入れてくれる。


 曲としてもノリ易いので客席の方からも自然と声が聞こえてきた。


 さっきはこの盛り上がりが舞によるものではないかと思っていたけれど、正直俺としてはどちらでも構わなかったりする。


 だってこのメンバーなら絶対に客席中を引き込んでくれるという確信があるから。


「放課後集う 音楽室 向かう道で 歌いながら


 昇る階段 はるか高みを 目指すように



 ドアを開ければ 仲間に出会い


 音楽に身をゆだねる」


 歌が進むにつれてユメの動きが大きくなっていく。基本的には手を曲に合わせて上げたり下げたりしているだけなのだけで、舞のそれには全く及ばないけれど。


 ただ一つ違うのはユメが動いているのはあくまでも自然に動いているだけだということ。


 歌が好きなユメだからこそ、昔の俺と同じように楽しさを全身で表現するのだろう。


 曲に合わせて思わず揺れてしまうように、思わず曲のリズムをとってしまうように。


「そうさ 約束しよう


 次会う時も 最高の楽しさを 最高のボク達を



 次会う場所が ステージの上でも


 non non ステージの上だったなら



 もうボク達を止める事は出来ないのさ」


 ここまで来たらプロジェクターとスクリーンの出番。本当は大きな画用紙にでも書こうかと思ったらしいのだけれど、それでは後ろの方まで見えなくなってしまう。


 今客席を見ている俺達にはスクリーンに何と書いてあるか確認するには一度後ろを見なければならないが、見なくても分かる。


 最初のサビで皆が声を出したところ。そこの歌詞が書かれているのだ。


 次のサビでユメと一緒に声を出すのは綺歩でも稜子でも、鼓ちゃんでも桜ちゃんでもなく聞きに来てくれた人たち。もちろんそんな事知っているはずはないけれど。


 合図はユメから。


「いっせーの」


「「catch」」


「つかむよ ボク達の夢を」


「「yes」」


「皆の 夢だって


 一緒に歌い 踊り 騒げば


 夢を追うための力 目的は違っても



 音楽が呼んだ 今と言う奇跡 今を楽しむためだけの曲」


 ユメが向けたマイクが聴きに来てくれた皆の声を捉える。


 最初は戸惑いも見られたけれど、二回目その声は大きくなって。


 きっと三回目、四回目ともっともっと大きな声が聞こえてきそうなそんな予感に、ユメの頬が緩む。


 いつもとは違う楽しさに、ユメの声がより弾む。


 よく楽しみ過ぎていると言われるユメだけれど、この曲に関してはそれこそが正解で。


 小気味好い間奏が終わって、またユメの歌声が響く。


「未知 歌 仲間 出会い 楽しさ 約束 頂点 七つの夢追いながら


 同じ場所で 違うゴールを 目指すボクら



 だけど 永久とわに作ろう


 ボク達の曲 別れが来ても その先の再開を


 集まる場所は きっと ステージの上


 no doubt 空前のステージを



 七つの夢がボク達を動かすのさ」


 桜ちゃんが作った“俺”達の曲。そして、“俺”達のバンドの名前を冠する曲。


 つまり、ユメ、桜ちゃん、綺歩、稜子、一誠、鼓ちゃん、そして、俺の曲。


 なんてことないかもしれないけれど、俺としてはそんな風に曲を作ってくれたことがとて嬉しかった。


 今から入るラスサビ。ユメが「せーの」と声をかけてからマイクを客席に向ける。


「「sing」」


「歌うよ 声高らかに」


「「play」」


「鳴らすよ ボク達の曲



 ただ歌い 鳴らし 騒ぐだけ


 それが共通のmean それぞれのgoal



 音楽に集った ボク達の曲 盛り上がるため」


 客席から声が上がるとき、沢山の手が突き上げられるようになって、メンバーの方からも歌わなくていいはずなのに声が聞こえてきて。


「「catch」」


「つかむよ ボク達の夢を」


「「yes」」


「皆の 夢だって



 一緒に歌い 踊り 騒げば


 夢を追うための力 目的は違っても



 今日の盛り上がりは 一人だけじゃないから



 無限の夢 また追いかけよう」


 最後の最後ユメが「一緒に!」と叫ぶとマイクを高々と掲げた。


 それと同時にすべての楽器の音が消える。


「「「one two three four five six seven yeah!」」」




 一曲目が終わって、一つ分かったことがある。


 大人数でジャンプすると振動がすごい。


 そんなしょうもないことを俺が考えているうちにユメがMCを始める。


「皆さんこんにちは。軽音楽部です。


 一曲目から予告もなかったのに一緒に歌ってくれてありがとうございました。


 とっても楽しかったです」


 MC中というのは基本的に歌っている時ほど盛り上がらないのだけれど、やっぱり中には「楽しかった」とか反応してくれる人もいて俺は結構好きだったりする。


 ユメに聞いたら歌っている方が楽しいって返ってきそうだけれど。


「さて、簡単にメンバー紹介をします。


 今日はメンバー紹介よりも大切な発表があるので本当は要らないかなって思ったんですけど、きっとわたし達の事初めて見たよって人もいると思いますので、ドラム以外紹介します」


「なあ、ユメユメ。もしかしてその為だけにオレの前にマイクがなかったりするのか?」


「ううん。単に一誠の声は歌の邪魔かなって思って。


 と、言うことでドラムの御崎一誠でした」


 ユメがそう言って拍手をすると会場からも拍手が上がる。


 一誠は何か言っているようだったけれど、拍手にかき消されて何も聞こえない。


 ついでに、最初は桜ちゃんが一誠にマイクを傾けていた。


「さて、次はギター。小さい方が初春鼓、大きい方が志手原稜子」


 紹介されて二人は手にするギターを鳴らす。数秒鳴らすとそれぞれの名前と共に拍手が聞こえてきた。


 ところでメンバー紹介で毎回一誠がネタにされるのはほぼ仕様のようなもので、実は完全にアドリブ。


 だから今回に関しては他のメンバーが喋らないのに一誠だけ喋った形になっている。


「キーボードは志原綺歩」


 先ほどと同様に綺歩がキーボードを弾ませると、歓声に迎えられる。


 最後桜ちゃんとユメ自身まで紹介し終わったところで、ユメが改めて前を向いた。


「では、重大……? 発表です。


 ようやくわたし達のバンドの名前が決まりました!」


 客席側から「わー」と声が上がったのを聞いてユメが安心した表情で話を続ける。


「こんなに反応がきてくれてよかったです。正直「だからどうした」みたいな顔をされたらどうしようかと思っていたんですが……


 あんまり溜めると変にハードルが上がるから早速発表します。


 わたし達北高軽音楽部の名前は『ななゆめ』になりました」


 ユメが拍手をしながらそういうと、客席からも拍手と歓声が返ってくる。


「実はさっき歌った一曲目も『ななゆめ』というタイトルで、その名の通りわたし達をイメージした曲になっています。


 意味は、一つ、歌い続けること。


 一つ、最高の曲、バンドを目指すこと。


 一つ、最高に楽しむこと。


 一つ、多くの人に出会うこと。


 一つ、最高の仲間であり続けること。


 一つ、自分たちの音楽でもって見たことのない景色を見ること。


 一つ、以上全てを約束すること。


 この七つの夢をでもって『ななゆめ』です。


 特に最後のは数合わせだろとか思われそうですが、これで『ななゆめ』なんです」


 ユメはそういうが、正確には俺も含めた七人の夢で『ななゆめ』。


 曲の方で七とか夢に拘っていたのは言わずもがなこのせい。


「そう言うわけで新生軽音楽部『ななゆめ』。記念すべき二曲目に移りたいと思います」


 こうして、文化祭三日目のライブ。『ななゆめ』として最初のライブが始まった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「世界は私を愛したけれど 私は恨む


 世界に反し 世界を守るため


 乙女チックで ヒロイックな そんなはなし物語おわり


 ユメが歌い終わり、伴奏も消えかかったところで「フゥー」と客席から声が上がる。


 休憩の前最後の曲。一度盛り上がった雰囲気を落ち着けようと敢えて選ばれたのが『loved girl』。


 その目論見通り最初から盛り上がっていた客席の熱が幾分か下がった。


「ありがとうございました。


 今から十分間の休憩になりますので、わたし達の事は気にせずに休んでください」


 ステージのライトが落され会場から力が抜けた雰囲気が漂ってくる。


 中にはもちろん席を立つ人も、誰かと話し出す人もいて。だけど、まだステージを見てくれている人もいる。


 そんな中ユメは一度切ったマイクのスイッチを入れなおした。


 曲の始まりは綺歩のキーボードから。その音を聞いた人たちの動きが一瞬止まる。


 ベースが入って、ドラムが入って。ギターの後、ユメの声が入る時には多くの人がこちらに意識を向けていた。


『何か今日は特にすごいな』


 ユメが声を出していることを厭わずユメに話しかけると、ユメが頷く。


 実際に練習の時にもこうやって簡単な会話はしていたので全く問題ない事はわかっていたが、本当は話しかける気はなかった。


 でも、話しかけずにはいられなかった。


 他愛のない事でもいい、今の感動を誰かに話したくて、でも今の俺にはユメにしか話すことはできないから。


『やっぱりユメの歌はすごいんだな』


 ユメが首を振る。


『少なくとも俺にはこんなことは出来ないから、ユメの力によるところだろ』


 ユメが困った顔をする。


 それでも、一つの楽器としてユメは変わらず声を出し続けた。


『なんて言うんだろうな……俺を此処に連れてきてくれたありがとうな』


 結局はそこに落ち着くだろう。


 少なくともユメが困った顔をする必要はないとわかってもらうためにそういったのだけれど、何故か視界がぼやけた。


 心なしか声も震えているような気がする。


 すぐにぼやけた視界も震える声も元に戻ったけれど、一曲終わるまでオレは何も言わなかった。




 『voice called tool』が終わって本格的に休憩に入る。


 ユメはメンバーに一言言って一度ステージ裏に向かった。


 最後の発表ということもあり誰もないステージ裏に来たユメに俺が尋ねる。


『ユメ、どうしたんだ? こんなところで』


「ねえ、遊馬。さっき言ってくれたことって本当?」


『ああ。前にも言ったことはあるかもしれないが、ユメには感謝してる』


「本当の本当に?」


『ユメに嘘言っても仕方ないだろ』


「うん。何かごめんね。ちょっとライブの雰囲気にあてられちゃったみたい」


『まあ、あと半分楽しめばいいんじゃないか?』


「言われなくても」


 ユメがそう言って笑う。


 それから、ユメは「よし」と気合を入れるとステージへと戻って行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 休憩が終わってライブが再開するとすぐに元の熱気が帰ってきた。


 今まで色々なところでやってきた俺たちのライブの中でも一、二を争うこのライブも次で最後の一曲。


「さて、次で最後の曲になります。


 休憩中にこっそり弾いていた曲も含めると三曲目の新曲。この曲はよりカッコいい感じの曲なので皆さんにも気に入っていただけたら嬉しいです。


 それでは聞いてください『lost&found』」


 途中で「えー」とか「わー」とか言われながらもユメが曲の名前をコールする。


 間もなく一誠がスティックを鳴らし前奏が始まった。


 改めて聞いてみると他の曲に比べてベースがちょっとだけ目立つような気もする。


 桜ちゃんもたまには演奏中に目立ちたいのかと思っていると、口が勝手に動き出しユメの歌声が聞こえてきた。


「モノクロだった世界 色をくれたキミは


 だけど 最初から居なかった



 夜空に浮かぶ 星のように 月のように


 はたまた 昼間の太陽のように


 輝いていた



 見ていたモノは ただの残光


 残った光 だからこそ 確かにそこにあったはず


 だからもう迷わない」


 いつかの練習の時のように楽しみ過ぎてはいない。むしろ楽しむ方向をよりその曲らしい歌い方をすることに向けただけかもしれないけれど。


 ユメの視線が客席全体を舐めるかのように動く。


 一人一人がちゃんと楽しんでくれているか確認するかのように。


「lost&found


 いつか僕が キミのように 輝けたら


 きっと見つけられる



 見つけてみせる たとえそれが不可能だったとしても



 make efforts


 立ち止まっていられない 今すぐに駆け出そう」


 ユメが色々なところに目を向けている中、出入り口のところに舞の姿が見えたような気がした。


 すぐに視界から消えてしまったけれど、聞きに来てくれていた事が嬉しくて。反面少し不安になった。


 でも、この期に及んでそんなことを気にしていても仕方がないし、今はユメの歌をユメが見せてくれる景色を楽しまないといけない。


 二番に入る前、客席に向いていた視線がグルリと反対を向いた。


 メンバー全員に笑顔を見せると、ユメが気持ちよさそうに歌いだす。


「色のついた世界 君に近づくほどに


 わかるのは キミの光の強さだけ



 夜空の向こう 海の向こう 水平線


 どこに キミが居ようとも



 探し出してやる それこそが夢


 諦めるなんて 絶対に できるわけがないんだから


 外の世界にも行ける」


 実はこの曲について桜ちゃんにどんなテーマの曲なのかと尋ねてみたことがある。


 そしたら「ライブで歌ったらたぶんわかるんじゃないですか?」と遊び半分に返ってきた。


 残念ながら一番が終わってもはっきりとテーマはわからなかったけれど、でも何となく頭に浮かんだことがある。


「lost&foud


 見つけたキミは 今の僕でも 霞みそうで


 それがとてもうれしくて



 外で輝く キミは僕の想像以上だから



 I struggle


 負けるわけにはいかない 僕も僕の想像以上へ」


 他のものが霞んでしまいそうな程の人。想像以上のものを見せてくれる人。


 それってたぶんユメなんじゃないだろうか。


 俺の過大評価という可能性もあるけれど、来てくれている人たちの楽しそうな顔を見ているとあながち間違いじゃないような気がしてくる。


 間違いなく初代ドリムとしての俺は今のユメの前には霞んでしまうに違いない。


「キミとなら何処までも」


 最後のワンフレーズを歌い切りユメが思わずと言った感じで笑顔になる。


 それからななゆめのメンバーの方を一度向いてから客席に向かって話し出した。


「最後の最後まで皆さんありがとうございました。文化祭が終わるまでもう少しあるので北高文化祭楽しみ切ってくださいね」


 そう言ってユメが手を振り始めたところで幕が閉じていく。


 体の半分が幕に隠れて手を振っていることなどわからない状況であってもユメは手を振り、それは完全に幕が閉じきりところまで続けた。


 幕が閉じすぐに放送部から閉幕に向けて準備をするため速やかに体育館から出るよう連絡が入る。


 それを聞き終わらないところでユメが大きく息を吐いて後ろを向いた。


「皆お疲れ様」


「まだお疲れには早いんじゃないかしら?」


「ひとまずって事でいいんじゃないかい? 稜子嬢」


「何か今日のライブ凄かったです。一体感というか、何というか」


「つつみん落ち着いてください」


「やっぱり桜ちゃんの曲凄いね」


 珍しく興奮している鼓ちゃんを落ち着かせるはずだった桜ちゃんが思わぬ反撃を喰らい嬉しいのか恥ずかしいのか照れるのか口の端を緩ませて「そんな事は今はいいんです」とそっぽを向いた。


「桜ちゃんじゃないけど、早く撤収しないと閉幕の準備始まっちゃうよ」


「綺歩の言うとおりね。とりあえず急いでステージから楽器を下すわよ」


「別に私は閉幕の時も貴女達に演奏してほしいんだけれど」


 稜子の指示が入った直後に、舞台下手の方から聞き覚えのある声が聞こえた。


「生徒会長さんがどうしたのかしら? どちらかというと、アタシ達に早く退いてほしい方の人でしょう?」


「早く退いてほしいなんて、私個人としては今すぐに全行事を乗っ取って欲しいくらいよ?


 新曲から始まったと思ったらバンドの名前を発表して、追加の新曲歌って。


 本当に私を悶え殺すつもりかしらななゆめさんは」


「生徒会長がそれを言うのはどうかと思うわよ?


 それで用件は何かしら」


 稜子が尋ねると自然と秋葉会長から離れるように動いていたユメが秋葉会長の視界に捉えられてしまった。


 それと同時にユメがビクリと震える。


「ライブが終わった直後で悪いのだけれど、ユメさんを呼んでいる人がいるのよ」


「それって桜もついていっちゃ駄目ですか?」


「桜ちゃん?」


 急に桜ちゃんがそんな事を言うのでユメが驚いた声を出す。


 そんな桜ちゃんに対して秋葉会長が冷静に首を振った。


「ユメさんを連れてきてとしか言われていないのよ。


 でも、もしもユメさんが行きたくないというのなら無理には連れて行かないわ」


「行きます」


「ユメ先輩誰が呼んでいるかわかっているんですか?」


「たぶんドリムちゃんだよね」


「それならどうして行くっていうんですか」


 桜ちゃんの声はとても心配そうで、ふと夏休み桜ちゃんがユメに言った言葉を思い出した。


 先輩は強くないんですから、という言葉。


「じゃあ、桜ちゃん途中まで一緒に来てくれないかな? それでもしもわたしが駄目になりそうだったら、駄目にならないようにしっかり支えて?」


「行かないって選択肢はないんですか?」


「避けて通っちゃいけない所だろうし、ドリムちゃんは遊馬の友達なんだから大丈夫だよ」


 ユメの言葉を聞いてか、ユメの表情を見てか桜ちゃんが諦めた表情で「わかりました」と答えてくれた。


「話はついたかしら。それじゃあ、連れていくけれど二人も抜けたら撤収大変でしょうからうちの副会長をこき使ってくれていいわよ。


 それじゃあ行きましょうか」


 秋葉会長はそういうとユメと桜ちゃんを引き連れて歩き始めた。


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