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Lv50

 綺歩と別れて、三人目は稜子。よくもまああの稜子が俺と二人で歩く気になったものだと思わなくもない。


 稜子の格好はジーパンにTシャツパッと見男かよと思わなくもないけれど、体つきがまったくもって男とはかけ離れている。


「稜子はいつも通りだな」


「遊馬と私服で会ったことなんてあまりないはずよ?」


「イメージ的にだな」


「まあ、アタシが桜や綺歩みたいな格好しても似合わないでしょ?」


「そんな事はないと思うけどな」


「遊馬がそう言うなら今度着てみようかしら」


「その時は写真おくってくれよな」


「何であんたなんかに」


「ユメだってみたいよな」


『見てみたいかもね。ギャップが過ごそう』


「見たいってさ」


「ユメを味方につけるのは卑怯よ。仕方ないわね、もし着る事があったらよ?」


「了解」


 稜子は溜息をつくけれど、俺としては少し楽しみではある。


 でもこうやって改めて稜子と二人で話してみると、だいぶ丸くなったよなと思う。


 昔なら「何言っているの? 馬鹿じゃない?」と言った感じでバッサリ切られて終わっただろうし。


「そう言えば、稜子がこの企画に素直に参加しているって意外だよな」


「そんな事もないでしょ? 買い物とかにもついて行ったわけだし。


 今回ユメじゃなくて遊馬なのが残念で仕方がないんだけど」


「でも今回は買い物とは違うからな……傍目デートみたいなものだし」


「でーと?」


 言葉の意味を理解していないかのように首をかしげていた稜子が、その言葉の意味を理解したのかゆでダコのように顔を真っ赤にしていく。


「ちょ、ちょっと何言っているのよ。そんなわけないじゃない」


「まあ、これがデートだったら俺はすごい女たらしだからな」


「ア、アタシだって別に参加したくて参加したわけじゃないわ。あんたに聞きたい事があったのになかなか聞けそうにないから了承したのよ」


 そう言えば、元々そういう趣旨だったっけ?


 桜ちゃんとも綺歩ともほぼ遊んだだけでそういう話はしていなかったので忘れていた。


 桜ちゃんとは俺の家で話したし、綺歩には話すわけにはいかないので当然と言えば当然か。


「ああ、俺とドリムの話だろ?」


「って事は、初代があんたでいいのよね?」


「そんなに驚かないんだな?」


「驚かないも何も遊馬が教えてくれたじゃない。その時には自分がドリムだなんて知らないみたいだったけどね」


「確かにあったなそんな事」


「でも、あのドリムが遊馬だったなんて普通思わないじゃない?」


「俺も初めは俺だと信じられなかったからな。


 で、立ちっぱなしって言うのも疲れるし、適当に座らないか?」


 家を出てからほぼ立ちっぱなしの俺としてはそろそろ休憩が欲しい。稜子も特に何も言うことなく了承してくれたので、祭りから少し外れたところにある階段に腰掛ける。


 そこには俺のように休憩したいのか何人かが座っていて、ぽつりぽつりと話声は聞こえるが先ほどまでの賑やかさとくらべると寂しく感じてしまった。


「それで、あんたはこれからどうする気なの?」


「どうする気と言うと?」


「自分の名前を語って活動している人が居るって状況じゃない? アタシなら耐えられないんだけど」


「稜子は今まで積み上げてきたものがあるだろうからな。今有名になっているきっかけは偶々かもしれないが、それまでにしっかりと準備をしていただろうし。


 それに比べて俺は何となく上げた動画がいつの間にかとても有名になっていただけだからな……」


「別に何とも思ってないと?」


「何ともって言うか実感がないな。それに、今のドリムって俺よりだいぶすごいだろ?」


「アタシにはどっちが凄いかなんてわからないけどね。


 でも一緒に音楽やりたいって思うのはやっぱりあんたの方よ」


「そりゃどうも。


 とは言え俺はもうドリムは名乗れないからな。あの声はもう出せないし」


「ユメも名乗る気はないのね」


「ないだろうな。ユメは俺じゃないし、何よりドリム……だしな」


「ドリームの伸ばし棒を取っただけだものね」


 笑う稜子を見ながらやっぱり碌な名前じゃないなと溜息をつく。


「それに、名を騙ってとは言っているけど、初代ドリムだとは言っていないからな。


 あくまで俺の後継者って事だから、そこまで俺にもユメにも不利益はないだろうし」


「ユメの出演問題を無視すればね」


「それは本人が悪いわけじゃないさ。それにその問題は解決したし」


「あんたがそれでいいなら別に構わないわ」


「心配掛けて悪かったな」


「心配なんてしてないわよ」


 そう言って顔をそむける稜子。


 これが世に言うツンデレと言う奴なのだろうかと思いながら、俺は声をかけた。


「それでこれからどうするか」


「どうするって何をよ」


「せっかくだし祭りを回るか」


「いや、いいわ。どうせあんたと別れた後綺歩や御崎達と騒ぐんだもの、今ぐらい休憩させて貰うわ。


 最初からそのつもりだったし」


「俺は休憩ポイントってか?」


「そうよ。文句ある?」


「いいや、俺も疲れたしな。家からずっと歩きっぱなしだったし」


「はあ、よく練習終わりで歩いてここまで来ようと思ったわね」


「練習していたのはユメだったからな。でも疲れも共有されるのか」


「大変ね、貴方達」


「そうでもないさ。ユメが居なかったら稜子とこうやって祭囃子を遠くに聞きながら話なんてできなかっただろうからな」


「そんな事はいいから、後二十分以上あるんだし適当に何か買ってきてちょうだい」


「休憩だったはずなんだがな」


「買ってきた後でも休めるでしょ? お金は渡しておくから」


 そう言った稜子にお金を握らされて祭りの喧騒の中に放り出されてしまった。


 仕方無いかと歩く後ろから「早く戻ってきなさいよ」とお声がかかったので「わかっていますよ、稜子嬢」と返しておいた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 稜子との休憩も終わり最後の一人が、おどおどしながら俺を待っていた。


「せ、先輩よろしくお願いします」


「そんなに緊張されるとこっちまで緊張してしまうんだが」


 俺の返しに鼓ちゃんが「そうですよね」と言って大きく深呼吸をする。


 そんな鼓ちゃんは黄色の浴衣。綺歩とは違い如何にも女の子と言う感じの浴衣が鼓ちゃんにとてもよく似合っている。


 そのうちにまじまじと見てしまっていたのか、鼓ちゃんが不安そうな顔で話しかけてきた。


「あの、浴衣どこかおかしかったですか?」


「いや、可愛い浴衣だなって思ってな」


 俺が返すと鼓ちゃんが恥ずかしそうに俯いてしまう。これは答えを謝ってしまっただろうか?


 とは言えこのまま黙っていても気まずくなってしまうだけだろうから出来るだけ自然になるように声をかけた。


「そう言えば鼓ちゃんも何か俺に聞きたいことが?」


「あ、いえ……あたしあんまりドリムちゃんとか分かりませんし、遊馬先輩ってやっぱり凄い人だったんだなあ……くらいにしか。


 だから聞きたいことって言うのもないんですよね。


 それよりも先輩。せっかくのお祭りですしちょっと歩きませんか?」


「そうしようか。立ち止まっていても迷惑だろうし」


「それで先輩……」


 鼓ちゃんが少し言い辛そうに上目遣い気味に俺の方を見てくる。


 そんな姿がまさに小動物って感じであやしたくなるのだけれどそれをグッと堪える。


 鼓ちゃんは意を決したように真っ直ぐこちらを見ると、口を開いた。


「あの、はぐれないように先輩の服の裾掴んでいていいですか?」


「ああ、いいよ」


 正直手をつないでと言われないでよかったと少し思う。


 物語何かだとたまに見るシチュエーションだけれど、間違いなく緊張が上回る。


 鼓ちゃんが左手でキュッと裾をつかむのを確認してから歩きだす。


 俺の少し後ろをちょこちょこついてくる鼓ちゃんはやっぱり可愛くて、でもとても緊張している。


 そんな鼓ちゃんに何を話していいのかわからなくて、どうしようかなと思っていると懐かしいお店が目に入ったのでそちらへ向かう。


 急に方向転換したためか少し驚いたような鼓ちゃんがちゃんとついてきてくれているかを確認して――その時に鼓ちゃんと目があったので笑顔を向けてみたのだが、顔を真っ赤にして目をそらされてしまった――キャラ物の袋に入っていないものを選んで出店のおじさんにお金を渡す。


 商品を受け取って、未だ俯いていた鼓ちゃんに手渡した。


「あ、えっと。綿あめですか?」


「何となく鼓ちゃん好きそうだなって思ってな」


「なんですかそれ、あたしが子供っぽいってことですか?」


 そう言って怒りながらも鼓ちゃんが笑ってくれた事に安心した。


 子供っぽいのかと怒っているのに、その怒り方がやっぱり可愛くて口の端から笑みがこぼれる。


「じゃあ、鼓ちゃんは綿あめ嫌いなんだね」


「好き……ですけど。今日の先輩は意地悪ですね」


「その綿あめ上げるから許して欲しいかな」


「じゃあ、許してあげます」


 大きな綿あめの向こう、鼓ちゃんの表情が見えなくなってしまったけれど、それはそれで可愛いなと思える。


 それから機嫌も良くなった鼓ちゃんと一緒に歩いていると鼓ちゃんから声をかけられた。


「こういうのって漫画とかでは見ますけど実際にやってみると恥ずかしいですね」


「夏祭りで二人一緒に歩くことがってこと?」


「そうです。結構周りの目とか気にしちゃって、先輩はそう言う事はないですか?」


「俺もそうだな。でも、少し慣れた感じはするな」


「そう言えばあたしの前に先輩たちや桜ちゃんと一緒だったんですよね。


 何かあったりしなかったですか?」


「そうだな。桜ちゃんとは結局出店で勝負しただけだし、綺歩とは昔話をしただけだし、稜子に至っては疲れたからって休んでいただけで、これと言って何もなかったな。


 桜ちゃんは俺とドリムの話をするのがメインだって言っていたから稜子とはその話をしていたけど」


 俺がそう返すと、鼓ちゃんは安心しているような、それでも少し心配しているような複雑な表情をしていた。


 でも、すぐに笑顔に戻ると話を再開する。


「ところで先輩って漫画とか小説って読んだりするんですか?」


「多少は読むが、どうかしたのか?」


「そう言えばあたしあんまり先輩のこと知らないなって思って」


「それもそうだな。部活のときくらいしか会っていなかったわけだし。


 漫画も小説も友達に薦められたのとか、妹の部屋にあるのをたまに借りて読むくらいだな」


「じゃあ、恋愛物とかも読むんですよね?」


「夏祭りとかだとアレだよな。思い切って告白はしたけれど花火の音に負けて結局上手くいかなかったってやつ」


「その手のなら、踏切で丁度電車が来てとか、クラクションが急になってとかありますよね」


「まだ二人をくっつけるわけにはいかないからって言うのはわからなくもないけど、ちょっともやもやするよな」


「そうですね。思い切って思いを伝えたのにって思います。


 でもあたしちょっとそれでもいいんじゃないかなって思うんですよ」


「どうして?」


「相手に聞こえなかったとしてもちゃんと相手に気持ちを言葉にできたら少しは変われるかも知れませんし、その人の事が好きなんだって確認できるかもしれません」


「鼓ちゃんはそんな経験があるんだ?」


「ないですないです。高校入学するまで恋愛なんて考えた事無かったですから」


 そう言われて果たして「そうだろうと思った」と返すべきか「意外だな」と返すべきか迷う。


 鼓ちゃんほど可愛かったら誰かに告白とかされてもおかしくはないとは思うが、鼓ちゃんが誰かと付き合っているという姿が想像できないのも確か。


 クラスのマスコット的立ち位置ならば簡単に想像できるのに。


 そう考えている間に、鼓ちゃんが続けて話し始めた。


「でも、最初から花火の音に隠して告白するんだったらあたしにも出来るんじゃないかなって思います」


「それだと相手に伝わらないだろ」


「まだ伝わらない方がいいってこともあるんですよ?」


 そう言って笑う鼓ちゃんがいつもより少し大人っぽかった。





「さて、そろそろ皆の所に行きましょう」


 また少しだけ歩いたところで鼓ちゃんがそう切り出す。


「そう言えば何処に集まるんだ?」


「確かこの辺りの神社だったと思いますが、桜ちゃんから聞いていませんか?」


「いいや。でも神社ならそれっぽいかもな」


「高い所から見た方が見やすいですしね」


 「こっちです」と鼓ちゃんに連れられて歩いていく。


 よく見ると川沿いには花火を見るための場所取りをしている人たちがたくさん座っていて、それでも出店がある通りは人がたくさんいる。


 どこからこんなにやってきたんだろうなと本気で思うが鼓ちゃんが向かっているのはその川沿いとは全く逆の方向。


 階段を上った先が集合場所だと鼓ちゃんが教えてくれた時には時間がギリギリでもしかしたら上っている途中で花火が始まってしまうかもしれない。


 それで急いでしまっていたせいだろうか、踊り場の所で「先輩ちょっと待ってください」と鼓ちゃんに裾をつかまれた。


「あ、ごめん。速かったよな」


「い、いえ。それはいいんですけど……」


 そう言いながら呼吸を整える鼓ちゃんに対して申し訳なく思う。


 鼓ちゃんが落ち着いたところでまた階段をのぼりはじめようとすると、もう一度鼓ちゃんに引き留められた。


「鼓ちゃん、どうしたの?」


「あの、先輩ちょっとだけいいですか?」


 俺が振り向いたとき鼓ちゃんはとても真剣な表情をしていて、言うつもりもなかったが「駄目」だとは言えそうな感じではなかった。


 俺は頷いて鼓ちゃんと正面に向きあう。


 鼓ちゃんは掴んでいた俺の裾を放して、履いていた下駄をカランと鳴らして俺から少し離れる。


 それから鼓ちゃんは時計を確認すると、意を決したように口を開いた。


「先輩。あたし先輩が……」


 ドーンと鼓ちゃんの後ろで大きな花が開花する。


 その残滓が落ちて行くを眺めながら肝心なところが聞けなかったと鼓ちゃんに尋ねようとした時には鼓ちゃんはもう俺の隣まで来ていて、俺の裾をつかんだ。


「花火始まっちゃいましたね。急いで行きましょうか」


 満足そうにそう言われて、俺は「そうだな」と返してついて行く。


 鼓ちゃんが下駄をカランコロンと鳴らし石の階段を登る姿が、時折花火に照らされていた。


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