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Lv43

「会長やっぱりここにいたんだね」


 屋上へ続く階段を降りたところで秋葉会長にそんな声がかかる。


 秋葉会長は動じることなく優雅とも言える動きで声がした方を見ると「あら、副会長どうしたのかしらそんなに急いで」と返事をした。


 俺も会長につられて視線を移すとそこにいたのは中肉中背の男子生徒。秋葉会長が言っていることが本当なら生徒会三年の副会長。


「急いでって言ったのは会長でしょう。もう一度対象の部活を……っと、例の生徒と一緒だったのか」


「は、はじめまして」


「はじめまして、ボクは生徒会副会長の新谷春仁しんたにはるひと


 ……で、会長噂はどうだったんですか?」


「根も葉もないって奴よ。それで、そっちはどうだったのかしら?」


「手掛かりは無かったよ。これはもう一人一人って感じになるかな」


「それは面倒ね」


「その時にはまたボクが調べるさ」


「春くんドリムさんのライブに関しても動いているでしょう? 大丈夫かしら」


「それを言ったら会長はボクの倍は働いているでしょう。それにこっちは好きでやっているしね」


「それじゃあ、その時になったらお願いするわね」


「了解。その代りと言ってはなんだけど、ちょっと彼、三原君を借りてもいいかな?」


 何だろう。生徒会は俺をモノか何かと勘違いしているのではないだろうか?


 まあ、モノが悲しそうだからと抱きつかれはしないだろうけれど。


「私の話は終わったけれど、それは私にではなくて三原君本人に聞かないといけないことじゃないかしら?」


「俺は別に構わないんですが、部活に何も言わずにって言うのは……」


「それなら私から言っておくわ」


「会長は軽音楽部に行きたいだけでしょう? ボクは助かるからいいけど。


 それじゃあ三原君、立ち話って言うのもなんだから空き教室にでも行こうか」


 そう言って歩き出す新谷副会長について行く。少しだけ階段を下って科学部室がある階へ。科学部室を通り過ぎて二つ目の教室の前で立ち止まった。


「副会長も鍵とか持っているんですか?」


「いいや、持っているのは会長だけ。でも、この教室ってここが……」


 そう言いながら副会長は教室の扉ではなく、その隣の窓に手を置くとそのまま開けてしまった。


「開きっぱなしなんだよ。生徒会の中では有名ではあるんだけど、科学部があるせいか学校全体としてはほとんど知られていないんだよね」


「生徒会って結構自由なんですね」


「生徒会役員イコール真面目ってわけじゃないからね。元は一般生徒なわけだから、結構いろいろするよ。生徒会室で誕生会とか」


 知られざる生徒会の真実と言うものを知ってしまったような気がする。


 どう返していいのかわからなくて「そうなんですか」と適当に相槌を打つと副会長が「それじゃ、入ろうか」と腰くらいの高さにある窓を乗り越えて中に入った。


 それに続いて入ると中は普通の教室と同じ構造の部屋。そこに椅子と机が集められていると言った感じ。


 副会長が適当な椅子に座ったのを見て真似して座る。


「ごめんね、急にこんなところまで連れてきて」


「別に構いませんが、話ってなんでしょう?」


「ちょっと、噂について聞いておきたくてね」


「俺が軽音楽部を辞めさせられたって言う奴なら根も葉もない噂ですよ」


「と、言う事は三原君にユメさんをどうこうしようって気はないんだね?」


「むしろサポートしていこうと思っていますが、どうしてそんな事を?」


 それはさっき秋葉会長も言っていたし、後で秋葉会長に聞けばいいんじゃないだろうか?


 副会長は張り付けたような笑顔で「悪いね」と言うと続けた。


「秋葉会長は軽音楽部を愛しているから三原君を疑うなんてことをしなかったと思うんだけど、正直ボクとしては君が一番怪しいと思っているんだよ」


「ああ、確かに普通そうなりますよね。ユメにボーカルを盗られたように見える立場にありますから。


 でも俺は譲ったんですよ」


「三原君の顔を見る限り本当にボクの杞憂だったみたいだね。疑ったりしてごめん」


「気にしていないのでいいですよ。


 そう言えば副会長がユメについてのこと調べているんですか?」


「そうだよ。言っている事は正論に見えるけど、こそこそやるって言うのはよくないからね。


 もしもこれが表だって言ってくれていたら、どう転ぶにしてもはっきりと結論が出るはずなんだよ。そう思って会長にボクがやるって言ったんだ。


 実際は会長と二人でってことにはなっているけれど、会長はああ見えて忙しいからね」


「副会長もドリム……さんの件で積極的に動いているんじゃなかったですか?」


「会長そんな事まで話したのか、やれやれ。


 恥ずかしながら、彼女のファンだからね。しかも彼女がこういったイベントに出るのは初めてだからボクとしても全力を入れたいところなんだけど、もう後はあまりやる事もないし私情が入った半分趣味みたいな活動だったから。


 他にも何かして置かないといけないって気になったんだよ。そもそも文化祭が上手くいかなかったら問題でしょ?」


「それもそうですね」


「ただタイムリミットも結構近いんだよね」


 副会長の言葉に思わず「え」と声を出す。


 確か秋葉会長はできれば八月中にと言っていなかっただろうか?


 それに文化祭までなら後一か月ほどある。こちらの反応を見てか、副会長が説明を始めてくれた。


「文化祭直前まで曖昧なままと言うのは通らないし、生徒会が意見を無意味に何度も二転三転させると信用にかかわる。


 だから、どんなに頑張っても恐らく夏休み中に先生と交渉できるところまで持っていかないと、欲を言えば今が八月の半ばくらいだから後一週間ちょっとでそうした言ってところだね」


「もしも間に合わなかったらどうなるんですか?」


「生徒会としてはユメさんの出演は反対と言う意見になるだろうし、学校側としても下手な問題も起こらないからその意見に沿うんじゃないかな。残念だけど」


 「そうならないように、ボク達が頑張っているんだけどね」と副会長はそう言うと内側から教室のドアの鍵を開けた。


「今日はありがとう。鍵はボクが閉めておくから、三原君はここから戻ったらいいよ」


「ありがとうございます」


 頭を下げて、開けて貰ったドアから外に出た後は早足で部室に戻った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「遅かったわね」


「でも秋葉会長から連絡はいっていただろ?」


 部室に戻って稜子にお決まりがごとくそんな事を言われたので、無難な返答をしておく。


 稜子も言ってみたかっただけなのかそれ以上帰ってくるのに時間がかかった事を追及はしてこなかった。


 代りに地面に散らばった楽譜やらなんやらを踏まないようにトットと跳ねる様に桜ちゃんがやってくる。


「どんな話をしたんですか?」


「会長とは噂の真偽とか、別に俺がボーカルやっていても良かったんじゃないのかとか、後はユメの件の進捗状況ってところか」


「進捗状況はどうだって言っていましたか?」


「進展はなさそうだったな。ただ、副会長との話を総合するとタイムリミットは夏休み中。


 会長はできれば八月中なんて言っていたんだけどな」


 たぶん、俺を不安がらせないようにそう言ってくれたのだろう。


 リミットが近くて変に焦ってしまわないように。


 桜ちゃんは「ふむ」とわざとらしく少しうつむき手を口の方に持って行く。


「それで何で副会長さんとも話すことになったんですか?」


「どうやら、俺が犯人だと思っていたみたいだな」


「なんで遊馬が犯人になるのよ。遊馬の事も知らない……」


「まあ、落ち着きなって稜子嬢」


「遊君達の事を知らない人にしてみたら、そう考えても仕方ないよ」


 声を荒げた稜子を二年の二人で窘める。


 俺としては稜子が俺をかばった事が意外で、口角が僅かに上がってしまうのを抑える事が出来なかった。


「副会長も俺が犯人じゃないって分かってはくれたから大丈夫」


「所で何で副会長がそんな事を聞いてきたんですか?」


「どうやら忙しい会長の代わりに主に副会長が訊きこみをやっているらしいな」


「なるほどです。なかなか大変みたいですね。タイムリミットって言うのは副会長さんが教えてくれたんですか?」


「正確なものはそうだな」


 「ありがとうございました」と桜ちゃんが元居た位置に戻ったところで、稜子が声を出す。


「さて、練習を再開するわよ。遊馬ももうユメと入れ替わっても大丈夫よね」


「はいはい」


 生返事をして準備室に向かう。


 扉を閉じ皆の姿が見えなくなった所でユメの声が聞こえたため足を止めた。


『ねえ、遊馬』


「どうしたユメ」


『ううん。何でもない』


「そうか。


 秋葉会長も巡先輩も協力してくれているんだから、心配するなよ」


『うん、ありがとう』


 ユメの俺を聞いたところでユメと入れ替わる。


『なあ、ユメ』


「どうしたの、遊馬?」


『いや、何でもない』


「そう?」


 そう返して小首を傾げるユメに「何があっても俺がユメの歌を聞いているから」なんてこと言えるはずがなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 それから一週間。事態に進展はなく練習はいつも通り行われていたが、日に日にユメの中に不安が募っていくのが感じられた。


 一層歌に打ち込んでいると言うか、逃げ込んでいると言うか。


 できるだけその不安を外に出さないように笑顔で取り繕っているが、それでも伝わってしまうものはあるし、伝わってくるものがある。


 そう言う俺も不安ではあったが、ユメに比べればだいぶましと言ったところか。


 今日もまた部活の日。最近はユメ曰く、顔を合わせて最初に笑顔で挨拶しないといつも通りでいられないかもしれないから、と言う事で音楽室に入る直前にユメと入れ替わることにしている。


 音楽室に入り「皆おはよう」と作ったような笑顔でユメが言うと、今までは普通に挨拶が帰ってきていたが何故か今日は「ああ、ユメおはよ」とそっけない返事が返ってきた。


 見ると、教室の前の方で何やらメンバーが集まっている。


「皆どうしたの?」


「今日部活に来てみたらこんなのが落ちていてね」


「こんなのって稜子……手紙?」


「そう、手紙」


「しかもユメ先輩宛てなんですよ」


「本当だ。わたしの名前が書いてある」


「だから、中も見てないしユメちゃんに渡すのが正しいとは思うんだけど……」


 何か不安な事でもあるのか、綺歩が俯き加減に煮え切らない言い方をする。


「綺歩嬢もあんまり深刻に考えなくてもさ、ユメユメへのラブレターかもしれないだろ?」


「それはそれで問題があると思うんだけど……」


「とりあえず、ユメ先輩に渡すべきなんじゃないですか?」


「うん……まあ、そうだよね。はい、ユメちゃん」


 綺歩がそう言ってユメに白い無地の封筒を手渡そうと手を伸ばす。


 しかし、桜ちゃんがその綺歩の手から封筒を奪い取った。


「桜ちゃん?」


「ユメ先輩、無理を承知で聞きますがこれを先に桜が見るって駄目ですか?」


「さすがにそれは……」


 桜ちゃんの奇行にユメが困ったような顔をする。対して桜ちゃんの顔はいつもの何かをたくらんだような顔……ではなくてとても真面目な顔。


 恐らくそれがさらにユメを悩ませる原因ではあったのだろう。


 「そうですよね」と桜ちゃんに手渡されたその封筒をユメはジッと見つめる。


 それから意を決したように封を開け二つに折られた便箋を開いた。


『二度と歌うな、この偽物』


 便箋の中央に大きく書きなぐられたこの文字を見た瞬間。パタンとユメがそれを閉じた。


「じゃあ、練習始めようか。わたし着替えてくるね」


「ユメちゃん、何て書いてあったの?」


「何でもないみたいだよ」


 心配そうな綺歩の言葉にユメは笑顔でそう返すと、準備室の方へと急いだ。


 その間俺はユメがどれだけ無理をしているのかが分かっていたのに、何も声をかけることができなくて。


 なんとなく、昔ネットに投稿した動画を思い出していた。『へたくそ』とコメントされたあれは俺の歌に対する確かな悪意で、今回の手紙に関してもそれに似たような雰囲気が感じられたからか。


 ユメの気持ちは分かるけれど、どう励ましていいのかわからない。


 気がつくとユメは着替え終わっていて「お待たせ」と音楽室に戻った。


「じゃあ、ユメも来た事だし確認ついでに一曲やってみるわよ。曲は鼓草」


 稜子の言葉に皆がいつもの位置につく。


 一誠のスティックの音に合わせて前奏が始まり、歌に入る。


 その直前、なんとも言い難い違和感を覚えたかと思うと本来入るべきところで、ユメの声が喉を通ることはなかった。


 普段ならありえないそんなミスに全員の演奏が止まる。


「あ、あれ? ごめんね。ちょっとミスしちゃった」


「ユメ先輩大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だよ。鼓ちゃん、心配しないで」


「本当にそう? ねえユメ、何でもいいから歌ってみてくれないかしら」


「稜子も大げさだって、そんな歌なんて……」


 その時にユメが何を歌おうとしたのかなんて俺には分からない。ユメは歌えなかったのだから。


「ユメ、今日はもう歌わなくていいわ。いいえ、落ち着くまで部活も休んでいてちょうだい」


「え、あ……そんな……ううん。そうだよね。歌えないんじゃ邪魔になっちゃうもんね」


 ショックを隠しきれないと言った様子でユメはそう言うと、一人音楽室を後にした。


 音楽室を出るまでは出来るだけ明るくふるまっていたユメも一歩そこを後にすると足取りが重くなる。


「ねえ、遊馬。わたし歌えなくなっちゃった」


『あの時の俺と一緒だな』


「そう言えばそうだね。ドリム何て名乗ってネットに投稿したはいいけど結局「へたくそ」ってだけコメントされてて、その時も歌えなくなったっけ」


『思い出したくもない黒歴史だけどな』


「遊馬はさ、歌えないわたしって必要だと思う?」


『急に何を言い出すんだ?』


「見知らぬ誰かに歌うなって言われて、歌おうと思っても声が出なくて。稜子にも歌わなくていいって言われて。


 そしたらわたしには何が残るのかな? 遊馬がわたしにくれたのは名前と歌だけだったよね」


『ユメは歌えなくなっていないだろう』


「でも、さっきだって……」


『さっきは誰かの前で歌おうと思ったから歌えなかっただけで、今ここで歌えば絶対に歌える』


 あの時の俺と同じなら。結局歌う事が好きなのだから、歌えないと言う事はない。


「今日道の端に見つけた 小さな小さな鼓草」


 朝とも昼とも分からない、そんな曖昧な時間。幸いと言うべきか人通りは少ない。


 その中でぽつりと呟くように歌い出したユメは、やっぱり歌う事が出来た。


「君に似ているねなんて 言ってみたけれど」


 だけれど、いつものユメの楽しそうな歌ではなく、鼓草には到底合いそうもない悲しげな歌声。


 しかも、それが風に乗って誰かに届いて行かないように小さな小さな歌声で、それでもユメは最後まで歌いきった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「僕が伝えたいことが伝わるまで」


 スッと消えていくかの様に最後のワンフレーズを歌いきったユメに俺は心の中で拍手をする。


 しかし、ユメの顔は晴れない。


「遊馬。怖いよ」


『怖いよな』


「このまま歌い続けていると、もっと酷いこととか言われたりするのかな?」


『それは俺には分からないな。俺はここで足を止めたから』


「遊馬が見たかったのはこの先なの?」


『違う……だろうな』


 結局何も結論も出ないまま家の前に辿り着いた。そこで、ユメがあることに気が付く。


「そう言えば、わたしのままで帰ってきちゃったね」


『藍か優希が居るだろうから電話したらいいんじゃないか?』


「荷物も全部学校に置いてきちゃったみたい。ごめんね」


『まあ、今日は仕方ないだろう。夏休み中には取りに行けたらそれで』


「うん。でもとりあえず今はどうしようか」


「あれ。ユメさん?」


 急に声をかけられたユメが声のした方を見る。聞き覚えのある声の主は買い物袋を持って驚いた顔をしている藍……と不思議そうな顔をしている母さん。


 昼前だから二人で買い物に行っていたってことなのだろうが、タイミングが悪い。


「あら、藍のお友達? でも、その制服高校のよね。って事は遊馬のお友達かしら」


「ううん。ユメさんは私の友達。お兄ちゃんを通じて出会ったんだけどね。


 ね、ユメさん」


「え、あ。はい、そうです」


「あら、そうなの? まあまあそんな所に立っていないで中に入って頂戴。


 大したお構いもできませんけど」


「きゅ、急に押しかけてごめんなさい。お邪魔します」


 話の流れについて行くのがやっとなユメが自分の親に等しい人物におどおどしながらそう言うと藍に続くようにして中に入る。


「お友達が来たんだから今日は手伝いはいいから、ゆっくりして行って貰いなさいね」


「わかった。じゃあユメさん私の部屋に行きましょうか」


「う、うん。お邪魔します」


 自分の家で二度目のお邪魔します発言をしたのちユメは頭を下げて藍について藍と優希の部屋に行く。


 部屋の中に優希はいなくて、二つあるベッドのより女の子らしい方へと藍が腰をかけた。


「ユメさんがその格好のままで家の前に居るからびっくりしました。それから、私の友達って事にしておかないとお兄ちゃんが帰ってくるまで家で待っていたら何ていいそうだったのでごめんなさい」


「あ、そっか。ううん。気を使ってくれてありがとう藍」


「聞いていいのかわかりませんが、何かあったんですか? 今日はまだ部活のはずですよね?」


「あの……えっとね」


 困ったように視線を動かしながらユメが何かを探すようにポケットに手を入れる。しかし何もなかったらしく空の手をポケットから出すと申し訳なさそうに首を振った。


 それを見て藍はユメが何も話したくないのだと分かったのか口を開く。


「さて、これからどうやってお兄ちゃんに帰ってきてもらいましょうか?」


「遊馬はわたしの中に居るよ?」


『そうだよな』


「いきなりお兄ちゃんが出てきて、ユメさんが消えているって状況はあまり良くないと思うんですよね」


 母さんの中では俺はまだ帰ってきていないと言う事になるのか。そこまで考える余裕がなかった。


「じゃあ、一旦わたしが帰るふりをして遊馬に戻って帰ってくればいいんだよね?」


「その前に服をどうするか考えないといけないです。さすがにお兄ちゃんが女子の制服を着て帰ってきたらお母さんも別の意味で心配しかねませんし」


「そっか。でも、遊馬の制服音楽準備室に置いてきちゃった」


「そうでしょうね。手ぶらでしたし。


 でも、お母さん料理しているから普通の服で大丈夫ですよ」


「それじゃあ、今のままでも……」


『それは嫌だな』


「お兄ちゃんが外で女装って言うのは……」


「あ、ごめん」


 うん。スカートと言うのは女の子が着る物であって決して男が着るものじゃないなと思う。


 何と言うかすぐに中が見えそうになってすごく落ち着かない。その辺りは慣れの問題かもしれないが。


 結局しばらく藍と話した後ユメがこっそり俺の部屋で着替えて「お邪魔しました」と母さんに聞こえるくらいの声を出した。


 それから下手な事を言われる前に家を出て、人目につかない所で俺に戻るのを待つ。


 数分後俺に戻ったところで、何事も無かったかのように帰宅した。


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