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Lv40

 文化祭でユメが歌う事が出来ないと言われた次の練習。ユメは明らかに元気がなかった。


 それによって歌が下手になっているかと言われたらそんな事はないのだけれど、むしろ歌う事で歌えない事を忘れようとしている感じがする。


 「歌うことで歌えない事を」って何言っているのかさっぱりだけれど。


 何にせよ、思考は読めずとも感情くらいは伝わってくるのでユメが元気がないと言う事は間違いない。


 一曲歌い終わり、後奏の余韻が無くなった所でユメが小さく溜息をつく。


「何ていうか、やっぱり違和感があるわよね。どうしてかしら、ユメ?」


「あはは、えっと……何でだろう?」


「今のは稜子嬢の言い方が悪いな」


「そうですね」


 稜子の問いに乾いた笑いで返すユメの姿を受けてか、一誠が稜子を非難――と言うほどでもないが――し、桜ちゃんが同調する。


「でも、落ち込んでいるユメも悪いと思わない? そんなにアタシ達を信用できないのかしら」


「稜子達を信用……?」


「それにしたって言い方はあると思いますが……


 ところでユメ先輩は、まさか桜達が先輩が出られない事に納得したとでも思っているんですか?」


「でも、生徒会にわたしは出ちゃいけないって……」


「それはあくまで生徒会の判断よ。正式決定じゃないわ」


「稜子なら正式決定でもユメちゃんが歌えるようにするよね」


「あら、綺歩は違うの?」


「違うわけないと思わない?」


「あ、あたしも先輩と一緒にステージに立ちたいです」


「まあ、そんなわけだよ、ユメユメ。ってか遊馬は気づいていたんじゃないのか?」


「え? 遊馬そうなの?」


『稜子がいる時点で気がつくも何もないと思うが……』


「言われてみれば……」


 ユメが失念していたとばかりに頭を抱える。それから、お礼を言う為に顔をあげて「皆、ありが……」と言ったところまでで「どうするのか、何か案があるなら是非教えて貰いたいものね」と言う声とともにドアが開かれた。


 現れたのは長髪・黒髪・眼鏡の女の人と呆れた様子でその女の人を見ているいかにも優等生と言った感じの男子生徒。


 二人ともどこかで見たことがあるような、と言うか男の方は同級生か。


「会長。軽音楽部の皆さんが引いていますので自重してください」


「そんな事無いわ。生徒会長様の突然の登場に感動のあまり言葉が出ないのよ」


「会長。彼女たちにとって僕達がどんな存在か理解していますか?」


 男子生徒の言葉を無視するように女の人がこちらを舐める様に見まわす。


 なるほど、生徒会の会長と書記の人か。道理で見たことがあるわけだ。


 それから、生徒会長からとても残念な人のオーラが出ているような気がするのは気のせいだろうか。


 気がつくと生徒会長はプルプルと身体を震わせながらユメを一心に見つめていた。


「よ、よ……」


「よ?」


「ようやく見つけたわ」


「ユメっ」


 稜子が何かを警戒してユメの名前を呼んだときには生徒会長はまるで獲物を見つめる野獣のような瞳でユメの目の前にやってきていた。


 その一瞬の出来事に俺でさえ驚いたのだから、ユメはもっと驚いて何も言えなくなってしまった。


「探したわ。探したのよ……」


「あ、あの……その、えっと……ご、ごめんなさい」


 血走ったような目をしている会長とユメの距離はわずかに数センチ。恐怖さえ覚えたユメが半分泣きながら謝る。


 これが俺だったらどうなっていただろうか。たぶん泣きはしないが、迫力に負けて土下座くらいならしていたかもしれない。


 ほどなく、生徒会長の後ろに人影が見えて呆れた声が聞こえてきた。


「会長、怖がらせてどうするんですか」


「そんな怖がらせてなんて……きゃー、何この生き物超可愛い。ギューってしてもいいギューって」


 会話の中でユメを改めてみた生徒会長が狂ったようにそう言ってユメを抱きしめる。


 うん。桜ちゃんよりは大きい。


 始め何が可愛い生き物なのかと思ったが、ユメが半泣きで震えている姿なんてそうそう見られるものではないし、確かに何この可愛い生き物と言いたい気持ちも分からなくもない。


 どうして俺は見る事が出来ないのだろうか。


「生徒会長はユメ先輩に注意しに来たんじゃないんですか?」


「そうだったわ」


 桜ちゃんの声にユメが解放され、何があったのかわからないと言った様子で何度も瞬きをする。


 生徒会長は背筋を伸ばして立ち直すと、先ほどまでの暴走が嘘のようにシャンとした立ち振舞いで話しだした。


「別に私は貴女達に意地悪をしに来たわけじゃないの。むしろ、その逆。


 我が校一レベルが高いとされる軽音楽部、その軽音楽部を最強にする可能性を秘めた新たなボーカル。そのユメさんを……ユメさんが……ユメさん……ふふ、本物、小さい、可愛い……ふふふ……」


「秋葉会長?」


「おっと、ちょっと興奮を抑えられなかったみたいね」


 書記の人――名前ははぎ冬夜とうやだっただろうか――が生徒会長を睨みつけると、生徒会長は口の端から垂れていた涎をぬぐう。


 それを見ていたユメが不安げな声を出す。


「遊馬、わたしちょっと怖い」


『俺もそう思う……が悪い人って感じはしないんだよな』


「だから余計厄介って言うか……」


「ともかく、私個人としてはユメさん含めたフルメンバーで文化祭を盛り上げてほしいのよ」


「でも、生徒会長この前の会議でユメを出すわけにいかない、みたいなこと言ってましたよね?」


「それはあくまで生徒会の意見よ、稜子さん。


 生徒会は文化祭の運営側、文化祭を盛り上げる事も大切だけれど、文化祭がトラブルなく終わることが大切なのよ」


「だから、どこの誰とも分からないユメをステージにあげて何かあったら困るって事かしら?」


「それもあるけど他の部活との兼ね合いね。どこの誰とも分からない人を出演させるのかって不満が出ないとも限らない。


 その不満は嫉妬や妬みに変わらないとも限らないし、今年は外部のお客さんが増える見通しだから小さな不安でも取り除いておきたいのよ」


 「私としては月初めにあったライブをもう一度学校でもみたいんだけどね」そう言って生徒会長が溜息をつく。


 その言葉に稜子が食いつく。


「生徒会長がライブに?」


「行かないわけないじゃない?」


「秋葉会長は貴女達の大ファンなんですよ。僕も何度か校内ライブに連れていかれましたし、この前のライブにも半ば強引に連れていかれました」


「えっと、それはお疲れ様です。何かごめんなさい」


「いいえ、軽音楽部のレベルが高いのは知っていましたし、僕自身行って良かったとは思っています。今こうやって噂のユメさんに会えただけで十分役得だと思っていますしね。


 それでも生徒会と言う立場上貴女方を贔屓ばかりしていられないと言う事は理解してくれませんか?」


「まあ、ユメさんがどこの誰かって事が分かればまだ生徒会としても動きようがあるんだけれど、それが分からないとなると私達個人としての協力しかできないのよね」


「それは、その……ごめんなさい」


 生徒会長の言葉にユメが申し訳なさそうに謝る。


 できるだけ俺とユメの事は秘密にしておきたいって言うことと、たぶん本当の事を言っても生徒会として動けないこと、ユメのせいではないのだろうけれど申し訳なくはなるのだろう。


 しかし、生徒会長は意外とあっさりと言葉を返してきた。


「まあ、そうよね。私が必死に調べたのに分からなかったんだからそう簡単に教えて貰っても困るわよ」


「わたしを調べたんですか?」


「ユメさんを調べたと言うよりユメさんと話をしたくて探していたってところね。


 まずはユメと言う名前の女子生徒をピックアップして、駄目だったから今度はユメと読まなくても読めそうな名前の子を当たってみて。


 それでも貴女には行きつかなかったどころか、何者か調べる足掛かりすら私は見つけることができなかったのよ」


 まあ、前提で間違っているから。とは言わない。


 ユメも乾いた笑いを返すだけにとどまっているし。


 何より今の状況では言いたくても言えないし。


「生徒会がユメちゃんを探しているってそう言うことだったんですね」


「そう言えば、そんな話聞いたね。少し前に」


「裏でこそこそとしているようで悪いとは思っていたのよ?」


「いいえ、秋葉会長は嬉々としてユメさんを探していました」


「もう、萩」


 叱りつけるような生徒会長の声が萩君へと振りかかる。


 しかし、当の萩君はよそ吹く風と言わんばかりに涼しい顔をしていた。


 生徒会長もその反応が分かっていたのか「こほん」と声に出してから話を進める。


「とりあえず私としてはここでユメさんが何者であるかって言うのは言及しないわ。それに可能な限りユメさんが文化祭で歌えるように手伝うつもり。


 ただ、一つだけ貴女達に聞いておきたいことがあるの」


「聞いておきたいことですか?」


「この部活もう一人居たわよね。彼、ユメさんが入ってから歌っている姿が見えないんだけど、まさか辞めさせたとか言わないわよね?」


 生徒会長の声が僅かに怒りの色を帯びる。


 ここにいるんですけどね。とは言わない。言いたくても言えないし。


 ただ、どうしようもなく当事者の俺が何も言わずにいていいものかとそう思う。


 そう思っていると稜子の声が聞こえてきた。


「辞めさせてはないですが、もう歌ってはいないです。それは本人も納得済みのことです」


「じゃあ、今ここに居ないのは何でなの?」


「今日はたまたま休みなんですよ。次の部活にはちゃんと来ていると思いますから、その時に好きなだけ本人と話してくれないかしら」


 そう言って稜子がユメを見る。ユメを、と言うよりユメの中にいる俺をと言ったところか。


 次の部活ではしばらく俺で居ろってことですね。


「じゃあ、今日はそう言う事にしておいてあげる」


「いいんですか? 会長」


「だって私は会長である前にこの子たちのファンだもの。 じゃあ、この子たちの言葉を信じるのが筋ってものじゃない? ちゃんと証拠も見せてくれるらしいし。


 ごめんね、まさかとは思ったんだけど、多少噂になっていてね。無理やり辞めさせたんじゃないかって」


 そんな噂聞いた事はないけれど、そんな噂が俺の所に来るわけがないのか。


 と、言ったところで何やらうずうずしていた桜ちゃんが声を出した。


「先ほど会長さん達が、今年は外部からのお客さんが多くなる見通しだ、みたいなこと言っていましたけど、それってどうしてなんですか?」


「今年は外部からゲストを呼ぶ事になっているのよ。


 インターネットでは話題のドリムって言う子なんだけど知っているかしら」


「会長、それはまだ公にしないはずじゃ」


「いいじゃない、どうせネットでは噂になっていることだし、休み明けまでには細かいところまで決まって発表するはずよ。


 それに、忠海さんはほぼ確信をもって聞いてきたみたいだし、下手にはぐらかしたらそれはそれで肯定しているようなものじゃない」


「流石は会長さんと言ったところですね」


「ちょっと待って、あのアイドルがやってくるの?」


 生徒会長と桜ちゃんの会話を聞いていて、稜子が驚いたような声を出す。


 今の会話のどこに驚く要素があったのだろうか?


 その答えを桜ちゃんが返してくれた。


「多少ネットやっている人って言うのはあの反応ですよ」


「そうなんだ」


「だから驚いていないのは先輩とつつみんくらいです」


 鼓ちゃんを見ると何度か目をぱちくりとさせて、首をかしげていた。


 その姿を見ているとユメが思わず微笑んでしまう。


「みたいだね。でも、よかったね桜ちゃん」


「よかった……ですか?」


「だって、ドリムちゃんに自分の作った曲歌って欲しかったんでしょ? もしかしたらその足掛かりになるかもしれないし」


「うーん……まあ、そうですね。


 でもそんな事より、桜としては如何に先輩をステージで歌わせるかの方が大事ですから」


「桜ちゃん……でも、夢だったんでしょ? それだったらわたしに気を遣わなくても……」


「まー、いいんですよ。チャンスなんていくらでもありますから」


 納得がいくようないかないような事を言われて、「むう……」と渋々ユメが引き下がる。


 ユメと桜ちゃんが話している間に話が進んでいたらしく生徒会長が不穏な事を言い出した。


「それから、どうしてもユメさんをステージにあげたくない人がいるみたいなのよね」


「わたしをステージに……?」


「単純に嫉妬の類じゃないかと私は考えているのだけれど「他校の生徒を文化祭のステージにあげてもいいのか」なんて先生に言っている人物がいるらしくってね。


 理由はどうあれ、言っている事は間違っていないし、下手に議論する事も出来ない。


 まずはその人、もしくはその人たちをどうにかしないといけないといけないのよ」


 「それは私達の役目だけどね」と生徒会長が笑顔を作る。


「会長さんはその人、その人たちの目星って付いているんですか?」


「それがよく分からないのよね。ステージでの出しものになるから、ステージを使う部活のどこかだとは思うんだけど。


 それだとどうしてユメさん個人なのかが分からないのよね。いっそのこと軽音楽部自体についての出演を問題視すればいいんじゃないかしら」


「少なく見積もっても校内一の人気はあるでしょうから軽音楽部を引きずり降ろすことは無理と見てせめてユメさんだけでもってことじゃないんですか?」


「やっぱりそうなるわよね」


「ところで、どうしてドリムさんを呼べる事になったかって聞いてもいいですか?」


 生徒会長と萩君が話している所に桜ちゃんがそう言って入り込む。


 さっきはあんな事を言っていたのにやっぱり気になるのだろうかなんて、桜ちゃんの意外な一面を見られた気がして少し微笑ましい。


 桜ちゃんの言葉を聞いて生徒会長が萩君の方を見る。


「別に教えちゃってもいいわよね?」


「さっき秋葉会長色々ばらしてしまいましたし、別に構わないんじゃないんですか?」


「それもそうね。


 生徒会の副会長がそのドリムちゃんの大ファンでね。何とか文化祭に呼べないかって頑張っていたのよ。


 学校側からも許可は貰ったんだけど、一度断られちゃって。それが八月二日に出させて貰えないかってメールが来たの。


 そのメールも丁寧だったし、何より副会長が張り切っちゃってね。一週間経たずに大まかな所は決めて後は細かい打ち合わせだけなのよ」


「そんな事があったんですね。ところで会長さん」


 桜ちゃんが生徒会長の話に感心したような声を出してから、彼女に近づく。


 それから何か耳打ちをすると、会長が要領を得ないと言ったような顔をした。


「まあ、調べてみるわね。ありがとう。


 それじゃあ、今日はお邪魔したわね。次の練習は明後日だったかしら? その時にまた来るわ」


「失礼しました」


 そう言って生徒会の二人が帰っていく。改めて帰っていく姿を見て見ると、やっぱり生徒会長なんだなって気品があるように見える。


 見送ったところで稜子が桜ちゃんに問いかけた。


「桜、最後に会長に何言っていたの?」


「何って事のほどじゃないですが、先輩方が知る必要のないことです」


「そう言われると知りたくなるのが人の性じゃないかと思うのだけれど、まあいいわ。


 ユメの事は会長に任せるって言うのもありだとは思うのだけれど、できる事はしておくべきだと思うのよね」


「できることって何かあるの? 稜子」


「一人でも味方は居た方がいいと思うのよね……って事でユメ行くわよ」


「え、行くって何処に?」


「決まっているじゃない、すべての元凶の所よ」


 そう言って笑う稜子に少しだけ恐怖を覚えた。


◇◇◇◇◇◇


 稜子に連れてこられた所は科学部室。


 ためらいもなく中に入ると、巡先輩が嫌なものでも見るかのような目でこちらを見てきた。


「どうしたのだね? 騒々しい」


「それは悪い事をしたわね」


「まあ、構わないが。今日は綺歩君ではなく稜子君が付き添いかい?」


「付き添いと言うか……」


「要領を得ないな。まあ、用件を聞こうか」


「ユメが文化祭に出られるように協力してくれないかしら」


 稜子の言葉を聞いて、巡先輩が訝しげな顔をする。


「とりあえず状況を説明してくれないかい」


 巡先輩がそう、稜子にではなくユメに尋ねて来たので、ユメが「実は……」と話しだした。




「なるほど。人とは何とも醜い生き物だな」


 生徒会役員二人との会話をほぼ網羅するように話し終えると、第一声巡先輩はそう言った。


「だが、生徒会長が動いているなら最終手段の一つや二つ考えていると思うが……


 一応原因はワタシにあるからな、できる事はしておこう」


「そうして貰うと助かるわ」


 最終手段って二つあったらそれは果たして最終なのだろうか?


 ともかく巡先輩も協力してくれる事はありがたい。変な人だが頭はいいし、俺たちでは思いつかない解決方法を思いついてくれるかもしれない。


 でも、巡先輩に頼るのはやっぱり少し気が引ける。はじめは俺から歌を奪った相手だと言う意識が少しはあったためあまり遠慮はなかったが、今は違う。


 ユメの事はすでにプラスマイナスゼロだと思っているから、例えば今と状況がガラリと変わることがあれば頼るかもしれないが、今回のように巡先輩が必須ではない場合はできればこちらからも何かを返したい。


 そんな事を考えているうちに巡先輩がパソコンを弄りながらユメに声を掛けてきた。


「せっかくだから、君らに変化がないか検査をしていくといい」


「あ、はい。そうですね」


「それって時間かかるの?」


「少なくとも元に戻ってもらわないといけないのでね。少しばかり時間はかかるな」


「そう、それじゃあアタシは先に戻っておくわね。今日はこれで練習も終わりにするから」


「それじゃあ、皆に先に帰っておいて良いって伝えておいてくれない? もちろん稜子もね」


「はいはい、了解」


 稜子がそう言って手を振ると科学部室から出て行った。


 検査も慣れたもので、と言うか基本的に俺達は何もしなくていいし、巡先輩もこの時によく雑談をしてくるので、ユメが先輩に声をかけた。


「よかったんですか?」


「何が、かをはっきりさせてくれるとありがたいんだがね」


「わたしが文化祭に出られるように手伝って貰うことです」


「大した手間ではないだろうからね。気にする必要はない。


 ただ、どうしても気が咎めると言うのなら一つ了承して置いてくれないかい?」


「わたし達にできることなら構いません。それでその内容は?」


「ちょっと文化祭を盛り上げてほしいのだよ」


「文化祭を……ですか?」


「意外かい?」


「巡先輩ってそう言う事には興味がないようなイメージが……」


 文化祭なんてやるくらいなら実験なり、観察なりしていた方が有意義だと思っているんじゃないかと思うのだけれど、違うのだろうか?


「そうはいっても、文化祭で何かを提出しなければならないだろう? 最近のワタシの関心事は君らなのでね。


 下手にそれを公にも出来ないだろうが、さしあたって他に何か興味があるものもない。それならば、学校側に恩でも売って免除してもらうのが最も楽だろうと考えたのだよ」


「わたしが文化祭を盛り上げればその分巡先輩の功績になるってことですか?」


「そう言うわけだね。とは言っても生徒会長が全てを解決した場合ワタシはお払い箱だから、その時には諦めて何か適当に作るさ」


 巡先輩が言っている事は筋が通っているようだけれど、不確定要素が多すぎやしないだろうか。生徒会長がいつ諦めるとも分からないし、いつ全てを解決するかもわからない。


 実はもう何か案はあってそれが面倒だからあわよくばと言ったところなのだろうか。


 でも、実は文化祭が楽しみで楽しみでならないのだ、なんて言われるよりも十分に納得は出来るか。


 その後は、誰も嬉しくないセーラー服姿の俺をさらした後、科学部室を後にした。


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