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Lv25

 基本的には夕飯中は雑談をすることが多いのだが、もっぱら姉妹で話しているのを聞くのが常。


 しかし今日は優希がそそくさと食べ終え自分の部屋に戻ってしまった。


「お兄ちゃんは優が元気なかった理由知らない?」


「俺帰ってきたばかりだしな」


「そうだよね。それに優単純に元気無いって感じではなかったし……」


「藍、後で様子を見ておいてくれないか?」


「任せて」


 藍とそんな会話をしながら夕飯を終え食器をシンクに持って言っている所で藍に「お風呂沸いているから、お兄ちゃんさきに入っちゃって」と声をかけられた。


 それに「了解」と返してお風呂場へと向かう。


 小まめに掃除しているからか、曇りなくこちらを映してくる鏡のある脱衣所で、さて服を脱ごうかと思ったところでユメの声が聞こえてきた。


『ねえ遊馬。我儘言っていい?』


「どうしたんだ急に」


『洗ったばかりのタオルならお湯につけても大丈夫だよね?』


「まあ、家のお風呂だしな」


『だったら、今日わたしがお風呂に入っちゃ駄目……かな?』


「俺は構わないが、俺が入ればユメも入った事になるんじゃないのか?」


『確かに遊馬がお風呂には言えばわたしも入ったことにはなるみたい。でも、遊馬なら分かってくれると思うんだけど、やっぱり自分で入りたいなって思っちゃって……』


 俺がユメが歌っているので満足できなかった感覚に近いのだろう、そうなると確かに女の子である所のユメには思うところがあるのか。


「まあ、時間がかかりそうだから洗うのは俺でいいよな」


『うん』


 ユメの了承を得たところで服を脱ぎ浴室に入る。その時にバスタオルを持ってはいる事を忘れないようにして、いつものように髪を洗い身体を洗う。


 この誰も嬉しくないシャワーシーンをユメは毎日見ているわけだが、曰く俺だった時に見ていたし今更気にはしないとか何とか言うので、極力俺も意識しないようにしている。


 湯船につかる時にしっかりとタオルを身体に巻いてユメと交代する。


「わっと」


 しっかり体に巻こうがそもそも俺とユメの体系の違いがあるのでどうしても入れ替わった直後は着ていた物が落ちそうになることは多々ある。


 今回のタオルもそのようで、慌ててユメが押さえたので落ちる事はなかった。


「見えた?」


『見えていないのは自分がよく知っているだろ?』


「そうなんだけど、一種の様式美って奴で」


『ユメ何か性格変わったか?』


 俺が呆れた声でそう返す時には、ユメはお風呂の蓋を半分ほど開けた状態で湯船につかった。


 家のお風呂は自動で沸かすタイプのものだからいつも入っているお湯の量は変わらない。そのため、俺が湯船につかるとある程度どこまで湯の嵩が増すのか何となくわかるのだが、やはりユメが入った時と言うのは俺と比べてあまり嵩が増すことはない。


 むしろ、ユメが入って何となく違和感のようなものを感じたので、普段の自分の感覚に気がつけたと言うべきか。


「わたしの性格は変わっていないと思うよ。今までが遠慮しているところがあっただけで」


『そんなものか』


「そんなものだよ」


 ユメはそう言うと、腕を湯からあげる。その白く細い腕に髪がくっついて妙な色気を醸し出す。


 俺はこんな風に緊張を覚えていてもユメは気持ちがいいのか満足そうに微笑んでいた。


 そう思っていたら、何を思ったのかユメが立ち上る。すると、水を吸ったタオルがユメの身体に張り付き、体のラインを鮮明に映し出した。


「あはは……やっぱり、こうやると体のラインが出て恥ずかしいね」


『分かっているなら、湯船にもう一度浸かるか、せめて目線を変えてくれないか』


 ユメの視線はささやかながらも確かに膨らみのある胸から動くことなく、その向こうに白く健康的な足が伸びているのが見て取れる。


「ああ、ごめんね。貧相な体見せちゃって」


『いや、俺としては役得だと思わなくもないんだが……』


「ふふ、ごめんね」


 肩まで湯船に浸かりなおしたユメにやや楽しそうにもう一度謝られた。


 これ以上この会話をつづけてもどつぼにはまりそうだったのに話題の転換を図る。


『遠慮があったことを抜きにしても、俺とユメってだいぶ性格違うよな』


「その理由は遊馬も気が付いているんでしょ?」


『別に違うわけじゃない……か』


「そうそう、わたしは遊馬が自信を持ってやりたいことができている状況での遊馬だから、性格が違うと言うよりも、環境が違うって感じなんだよ」


『確かに部活とそれ以外でキャラがだいぶ変わってしまうやつもいるしな』


「遊馬もわたしみたいになる可能性があったって事だね」


『それは嫌だなー』


「うわー、ひっどい」


 ユメが楽しそうに言って笑う。


『で、自分で入るお風呂ってのはどうなんだ?』


「何ていうか、懐かしいようないつもと同じなような、初めてなような」


『よく分からないな』


「でも、気持ちはいいよ」


 そんな風にユメと会話をしていて気がつかなかったのもある。ユメが声を出していたため外には女の子の声しか聞こえていなかったのもある。


 不意に浴室の扉が開かれた。


「藍、一緒に……」


 そこまで言うと優希は見知らぬ来訪者を見つめてかたまってしまった。


 幸いにしてユメは女の子なので即座に叫ばれると言う事はなく内心ほっとしていると、どうしても驚いて目線を放してくれないユメのせいで妹の身体を凝視するような形でいるのに気がついた。


 すらりと伸びた白い手足は健康的な印象を与え、腰がキュッと締まっている。


 やはりと言うか、ユメよりも大きくそれであっても膨らみかけと言う言葉が似合う胸もまた眩しいほどに白い。


 いつも一つに結んでいる髪を解いているため、雰囲気が違い思わずドキリとしてしまいかねない。


 先に口を開いたのは睨みつけるような表情になった優希。


「だ、誰なんですか貴女」


「あ、えっとその……」


「警察を……ってなんで湯船に髪を付けているんですか、痛んでも知りませんよ」


「あ、つけちゃ駄目なんだ。教えてくれてありがとう」


「そうです、綺麗に見えても見えない……じゃなくて」


 優希もだいぶ混乱しているのだろう。傍で聞いている分にはだいぶ可笑しな会話をしている。


「あ、あれ……兄ちゃ……」


 そう言われて気が付く。ユメと入れ替わってもう十五分も経ってしまったのかと。


 優希の顔がみるみると真っ赤になっていくのが分った。


「あ、あのな優希、これは……」


「兄ちゃんの馬鹿、変態」


 慌てて弁明を図ろうとしたが、その暇を与えられることもなく優希は俺を罵倒して飛び出して行ってしまった。


『ごめんね遊馬』


「ユメは悪くないだろう」


『でも、落ち込んでいるよね?』


「たぶんこれで優希に決定的に嫌われたからな。ここ数日少し距離が近くなったかなと思っていたのに」


『でも、優希だってちゃんと説明したら分かってくれるよ』


「ちゃんとって言ってもなあ……」


『まあ、普通は信じられないよね……』


 ユメと溜息が重なり一層落ち込んだ気分になってしまったところでもう一度髪を洗って浴室を出た。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 お風呂から上がって藍に「優が急いで部屋に戻っていたみたいだけど、お兄ちゃん何かあったの?」と問われたが「ああ、うん。ちょっとな」と曖昧にしか答えられなかった。


 次の日の朝優希と顔を合わせるのが気まずくていつもより早く起きると綺歩の家に向かう。


「まさか遊君がこんな朝早くに私の所に来るなんてね」


 綺歩は最初楽しそうにそんな事を言ったけれど俺の様子が変な事に気がついたのかすぐに心配したような顔になって「何かあったの?」と尋ねてくる。


「昨日優希に「兄ちゃんの馬鹿、変態」って言われてな」


「できれば、何があったのか最初から話してくれない?」


「ああ、昨日な……」




 すべて話し終わって「なるほどね」と綺歩が納得したような表情を見せた。


「どう謝ったらいいと思う?」


「優希ちゃんが何に傷ついているのかわからないから何とも言えないんだよね……」


「間違いなく俺に裸を見られたことだろ」


「確かにそれは結構恥ずかしいけど、ユメちゃんが遊君に替わるのを何の説明もなしに見せられたらそれはそれでかなりショックだと思うよ?」


「そんなものなのか?」


『だとしたら、やっぱりわたしのせいって事になるよね……』


 綺歩だっていきなり俺からユメへの変化を見せられたはずで、驚いているようではあったけれど優希ほどショックを受けている様子はなかった。


 俺の言葉に綺歩は困ったような笑顔を見せる。


「私が言ってもあまり説得力はないと思うけど、遊君もユメちゃんの存在に気がついた時には困惑したでしょ?」


「優希ほどじゃないと思うんだけどな」


「優希ちゃんの場合、遊君がライブに出ないとか、恥ずかしいところ見られたとかと一緒に来たから一層混乱しちゃったんじゃないかな?」


 「だから、一つ一つ説明して言って謝った方がいいんじゃないかな」綺歩はそう締めくくった。


 ライブに関しては置いておいたとしても、確かに昨日の優希は元気がなかったし、そんな状態での出来事だったのだから色々と心の整理ができていないのも頷ける。


「ありがとう綺歩。何とか謝ってみるよ」


「がんばってね」


 綺歩には笑顔でそう言われたけれど、難しい事だよなと先が思いやられた。


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