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ハロウィンイベント ※視点変更有

ハロウィン・1100pt記念最終ということにさせてください。

今更ですが、ミドリムラジオや両声類なオレの完璧計画を読んでもらえると、わかりやすくなるかと思います。

 さて、ハロウィンイベントの当日。あくまでハロウィンイベントであり、ハロウィンではないのだけれど、この辺りは休日を考えると仕方がないのかなと思う。

 ただし、参加するためには審査があって、イベント中に問題を起こせば大きな責任になる。

 そんな風になっている理由はお察し。


 桜ちゃんと俺は前乗りして、朝からラジオ局のメイクルームを借りている。

 桜ちゃんに手伝ってもらいつつも、あらかたメイクが出来るようになったので、準備自体はだいぶ時間を短くすることができた。

 そのことが桜ちゃん的には不満だったらしいけれど、普段と気を付けることが違うだけで、ユメがやっているのとそんなに変わらないのだから、すぐに慣れるのはわかっていただろうに。

 ウィッグを付けてメイクをして、今日着るのは黒い魔女の衣装。


 元来のハロウィンを意識したわけではなくて、単純にななゆめが関わった作品に出てきたキャラクターのコスプレ。

 髪が長くて、年上の女性的な立ち位置のキャラなので、今の俺にはぴったりだと言う。

 まあ、男としての骨格はどうしても変えられないので髪で隠したり、布で隠したりしているのだ。


『やっぱり、わたしと同じにはならないよね。わたしって、遊馬を女の子にしたときの姿だと思うんだけど』

「ユメの場合は遺伝子的に男女が違うからな。

 身長は変わらないし、骨格もどうしようもないし」

『あと、わたしには補正があるからね。

 それで結局極力喋らないんだっけ?』

「リディアーヌのキャラ的にも喋れない設定だからな」


 というわけで、このキャラ――リディアーヌのコスプレをする理由は、俺が喋らなくても不自然にならないためでもある。

 リディアーヌは見た目通り、魔法使いのキャラで、魔法を極めるために声を失ったとかそういう設定なのだ。

 コスプレするんだから勉強しろと、桜ちゃんに強制的に見せられた。


 コスプレ案自体は、他にもあった。例えば舞がドリムをしているときの衣装とか。

 ミニスカの小悪魔とか、セーラー服とか、カボチャのスカートとか。候補はいろいろあったけれど、実際に着たらいかがわしくなったので、却下された。

 ネタとしては面白いけれど、いっそ全力で女装させようという方向に桜ちゃんが力を入れたせいでもある。


 ということで鏡に映った俺を見てみると、際立って美人ではないけれど、男には見られないだろう女性の姿が映し出される。

 後輩の碧人君の女装姿――橙和と言うらしい――を見せてもらったけれど、それと比べると、些かクオリティに難があるといわざるを得ない。

 むしろ、良く後輩君はあのクオリティを出せたものだ。どう見ても、女の子にしか見えなかった。


 俺の場合、身長のせいもあって、フリフリした服や変に露出した服は、実用に耐えられなかった。

 後輩君のように、かわいい服は絶対に着られない。いや、ふいにユメから戻った時には、着ているかもしれないけれど。

 あとは仕草。いかに見た目が良くても、細かい仕草で男っぽさを出してしまうと、一気に印象が変わってしまう。この辺りは先人――後輩君――も言っていたらしい。


 正直ユメはちゃんと女性らしい仕草をしているので、それを真似れば大丈夫かと思ったけれど、俺がやってしまうと見た目のわりに可愛くなりすぎる。

 桜ちゃん的に許容範囲だというけれど、アニメを見てある程度は補正してきた。


「先輩準備できましたか?」

「一応な」

「その時に声出されると、違和感凄いですね。碧人君の前でそんな腑抜けたことすると、怒られますよ?」

「腑抜けではないと思うが、この格好をしたんだから、切り替えろってことか」

「ですです」

「でもまあ、今は良いだろ。外に出たら黙るから。基本的な会話は桜ちゃんがしてくれるんだよな?」

「もちろん。桜もといリゼットが承りますです」


 ビシッと敬礼をした桜ちゃんは、俺と似たような、でも少し地味な魔女服を着ている。

 リディアーヌの弟子たるリゼットのコスプレらしい。

 リディアーヌはリゼットにだけ言葉を伝えられるとか、まあそんな設定だ。そんなに設定を盛ってリディアーヌはどこに行きたいんだろうか。


「舞さんたちとの会話も、休憩所だけにしてもらいます」

「徹底してるな」

「どうせなら驚かせたいですからね。今日まで、遊馬先輩がどんなコスプレをするのか、女装したらどうなるのかほとんど伝えていませんし」

「驚いてくれるといいけど。

 ところで、桜ちゃん的にハロウィンにコスプレってどうなんだ?」

「まあ、ありじゃないですか? 節度を持って楽しむのであれば、何をしても良いと思います。

 特に今回はどういう人が集まるのか、選別済みですから」


 こちらとしても、問題が起きにくいならそれに越したことはない。

 俺としても迷惑かけないなら、楽しくすればいいとは思うし。


「とりあえず待ち合わせ場所に行きましょうか」


 桜ちゃんの言葉に、俺は佇まいを直して、ゆっくり頷く。

 それを見た桜ちゃんは、くすっと口元を緩めて、普段見せないようなひまわりが咲いたような笑顔を見せた。


「それじゃあ、行きますですよ」




※舞視点




 今日はいよいよハロウィンイベントの当日。わたしは翠さんと希さんと一緒に車で向かうことになっている。

 だから3人で同じ場所で着替えて、会場に出発。わたし達はそれぞれ、自分が関わったことのある作品のキャラクターの中で、ハロウィンっぽいのを選んだ。

 特に声優の2人は自分が演じていたキャラクターなので、ファンには大きなサプライズになるだろう。

 わたしはオープニングを歌わせてもらった作品のキャラに扮している。


 種族で言えば、翠さんが吸血鬼、希さんがメイドのゾンビ、わたしが小悪魔となる。

 割と露出度が高いけれど、正直これくらいならとも思わなくはない。仮にもアイドルだから、布面積の少ない衣装は着慣れているし、調べた見た感じ似たような露出度の人も少なくない。

 遊馬君と桜ちゃんは現地合流で、二人とも魔女に扮するということは聞いている。


「結局桜ちゃんは遊馬君がどうなったのか、教えてくれなかったね」

「きっと考えがあるのよ。翠が思いつかないようなね」

「普通に驚かせたいだけだと思いますけど」


 いつもの会話も格好のせいか、なんだかおかしく感じられる。

 準備も終わって、会場に向かえばたくさんの人が集まっていた。

 会場といっても、キャンプ場を貸し切っているだけなのだけれど。



 面倒くさい手続きを終わらせて、いざ会場入り。

 遊馬君たちとの待ち合わせ場所にたどり着くまでに、何人もの人に声をかけられて、写真を撮った。ハロウィンイベントということで、参加者は別の参加者に「トリックオアトリート」と声をかける権利を持っている。

 ただし、同じ人が声をかけられることを考えて、お菓子のやり取りはしない。代わりに写真を一緒に撮る。断られても、いたずらもなし。


 どこが「トリックオアトリート」なのかわからないけれど、節度を持って楽しめればいいのだ。

 そんなわけで、何人かの人に話しかけられつつ、写真を撮りつつ、サインを書きつつ待ち合わせ場所に向かっていると「リゼットの方SAKURAだったの? 普段と違いすぎない!?」とか「リディアーヌのコスプレしている人誰だったんだろう」と言った声が聞こえてきた。


「なるほど、遊馬君はリディアーヌのコスプレしているのね。

 話さなくていいって考えると、妥当なところかな」

「リディアーヌとリゼットかあ……」


 リディアーヌとリゼットは確か、ななゆめが主題歌を歌っていたアニメのキャラだったかな。

 主人公達と比べると出番は少ないけれど、それなりに人気があるキャラクターだったと思う。

 ちょっとネタバレを食らってしまったけれど、ちゃんと女装してくれたんだということは嬉しく思う。


 待ち合わせ場所について、最初に目についたのは一緒に写真を撮った人に対して「ありがとなのですよ」と満面の笑みを浮かべて手を振る魔女っぽい衣装の女の子。

 それから、その隣で静々とした様子で立っている同じく魔女っぽい衣装の女性。

 それで遊馬君はどこにいるのだろうか。

 とりあえず翠さんと希さんにどうすべきか話を聞こう思ったのだけれど、2人の目は先ほどの2人に固定されていた。


 いえ、わかってはいました。そうだろうなと、リディアーヌとリゼットのキャラクターは、残念ながらそこまで覚えていなかったけれど、もしかしたらなと。


 固まってしまった声優組を連れて、女の子と女性の方へと足を向けると、こちらに気が付いた女性が微笑みながら軽くこちらに手を振っている。


「えっと、遊馬君?」


 わたしが問いかけると、女性は困ったように眉をひそめてから、隣の女の子を呼んで耳打ちする。

 それに頷いた女の子が「その通りなのですよ」と答えてくれた。

 そしたら後ろから「トリックオアトリート」という希さんの声が聞こえてきて、いつの間にか5人で記念写真を撮ることになった。



 待ち合わせ場所からほど近い、休憩所に移動する。

 こうやって近くで見てみると、遊馬君の面影はあるのだけれど、焦点をぼかすというか遠くから見ると本当に男の人には見えない。

 桜ちゃんの方は、いつもとは違いすぎる表情でびっくりしたけれど、流石にもうわかる。


「先輩。もう喋っていいですよ」

「ああ。って言っても、今更喋ることはないと思うんだが」

「「!?」」


 遊馬君が喋ったら、翠さんと希さんが驚いたような姿を見せた。

 それを見て、桜ちゃんがとても楽しそうに笑う。


「喋った意味ありましたね」

「あったな」

「えっと、遊馬君。お久しぶりだね」


 気を取り直して、遊馬君に話しかける。遊馬君はわたしの方を見て、「久しぶりだな」というけれど、見た目との違和感がすごい。


「自分でやっといてだが、ここまで驚かれるとは」

「いやいや遊馬君。なんでそんなに冷静なの? どう見ても女性だよリディアーヌだよ!?

 桜ちゃんのリゼットにも驚いたけど、そんな見た目からなんで遊馬君の声が出るの?」


 翠さんがテンション高く、リディアーヌ――遊馬君に迫る。


「俺の場合、雰囲気で誤魔化しているだけですから、よく見たら平凡な顔してますよ」

「身振りだけで女性らしさを出していますもんね。試しにその演技止めたらどうですか?」


 遊馬君と桜ちゃんの解説のあと、遊馬君が「そうだな」といって、姿勢を崩す。

 すると、先ほどまであった優雅さとか、女性らしさがなくなって、パッとしない感じになってしまった。


「でも、その雰囲気だけで女性らしさを出すっていうのも、難しいよね?」

「ユメがいつもやっていることをマネするだけですから。今回はキャラに寄せていますけど」

「なるほど、女性らしい仕草自体は、遊馬君は普通にできるんだね」


 翠さんと遊馬君のやり取りを聞いて、そういえばそうか、と納得できた。

 さっきから黙っている希さんは、フリーズから解除されて、遊馬君と桜ちゃんを目に焼き付けるのに忙しそうにしている。


「だからこそ、皆さんにも隠していたんですけどね。

 皆さんが来るまで、遊馬先輩大人気でしたよ? 何枚写真撮られたのかわかりません」

「わたしとしては、そもそも遊馬君が女装を嫌がりそうだなって思っていたんだけど……」

「積極的にやりたいとは思わないけどな。一応初代ドリムだった以上、興味が全くなかったわけじゃないし、後輩の妙な誤解も解けるかもしれないし。

 何よりやると言った以上、やらない選択肢はなかったわけだ。そうなったら、中途半端にやったほうがシラケるだろうから、頑張ってみた」

「そうなんだね。そういえば、リディアーヌにしたのは喋らなくていいから?」


 わたしが問いかけると、遊馬君ではなくて桜ちゃんが答えを返してくれる。


「それもありますが、遊馬先輩の見た目だとコスプレを選ぶんですよ。写真見ますか?」


 桜ちゃんの言葉に希さんがいち早く近づいていく。

 桜ちゃんの携帯に映し出されていたのは、わたしの衣装を着ている女性――というか遊馬君だろうけど――で、身長のせいかメイクのせいか、なんとも似合っていない。

 その他にもいくつか見せられたけれど、大の大人がランドセルを背負っているような、ちぐはぐとした印象を受けた。


「ネタで行くなら、これらでもよかったんですけど。遊馬先輩を見る限り、本気でやらせた方が面白そうだったので、リディアーヌを選びました」

「むしろ桜ちゃんがリゼットをやっていたのも驚きだけど」

「そうですかぁ? そんなことないと思いますです」

「上手なんだけどね。普段のキャラとの違いが大きいから」

「遊馬先輩に女装させるなら、それくらいの代償は必要かなと思いまして」


 確かに桜ちゃんの言うこともわかる。わたしもコスプレはしてきたけれど、余りキャラは意識していなかった。でも、今の遊馬君の隣に立とうと思ったら、キャラに寄せた対応が必要かもしれない。

 わたしはできるのかなと不安に思っていたら、翠さんと希さんがひそひそと話していた。


「もしかして私達、遊馬君より女っぽくない?」

「むしろ、遊馬君が不自然なくらい完璧なのでは?」


 はいはい。2人ともお綺麗ですから、遊馬君をあがめるのをやめてください。




※遊馬視点




 休憩所を出る時に一度、舞たちと別れる。

 別れた理由は、憧子ちゃんとの待ち合わせがあるため。正直舞達に会うよりも、こちらの方がメインで来ている。誤解を解く協力をしてもらうことが、引き受けた最大の理由でもあるから。

 待ち合わせといっても、さっきまでいた場所に変えるだけ。

 当然俺はリディアーヌを演じるので、休憩所を出てからは声を出していない。

 そして、声を出さないのに、なぜか写真を要求されるトリックオアトリートされる


『遊馬人気だよね』

「桜ちゃんとコンビだから、これだけの人気があるんだと思うけどな」

『リゼットとリディアーヌだからってことだね。確かにソロっていると、一人よりも目立つしね』

「それに、人気って言っても、作品を知っている人がちょくちょく来るぐらいだしな」

『たぶん遊馬が普通に話していたら、もっと人気者になれるよ』

「ピエロかなんかにはなれそうだな」


 物珍しさで集まられても困る。電話のフリして、小声でユメと話すけれど、これにももう慣れたものだ。

 ちょくちょく、女装している男性は見かけるけれど、もしかしたら女性にしか見えない人の中にも男性がいたのだろうか。


「ししょう。来たみたいですよ」


 桜ちゃんが俺の袖を引っ張って指をさす。

 そこまで演技する必要はないだろうに。と思いながら、指をさされた方を見ると、キョロキョロしながら歩いてくるカボチャお化けみたいなのがいた。

 周りも似たようなものだから衣装では浮いていないけれど、明らかに場慣れしていない様子がして見つけやすい。


 思いっきり手を振っている桜ちゃんと目が合うと、驚いたような顔をして、改めてキョロキョロしだす。他に誰もいないだろうに。

 それから、俺の方に視線を移して、また驚いたような顔を見せる。

 そしてまたキョロキョロしだす。いったい何なのだろうか。

 見ている分には面白いからいいけれど、本人は疲れそうだ。


 それからスタタタタとばかりに、走ってきたかと思うと、「あのぉ……この辺りで、男女の二人組を見ませんでしたか?」と恐る恐る尋ねてくる。

 その目は「まさか」とか「そんな」みたいな驚愕が浮かんでいるので、どうやら現実逃避をしているらしい。

 仕方がないので、桜ちゃんに耳打ちして、話してもらう。


「目の前にいますですよ」

「目の……前……?」


 桜ちゃんの方に移していた視線を俺の方に持ってきて、目があったので、にっこりとほほ笑んでおく。そしたら、指を刺された。視線も桜ちゃんの方に戻った。


「男性?」

「はいです」

「遊馬先輩ですか?」

「その通りですよ」


 もう一度こちらに目線を持ってきた憧子ちゃんは、大きな目を二度ぱちくりさせる。

 それから「えー!」っと今日一番いいリアクションを見せてくれた。



 憧子ちゃんが叫んだことで、周りから注目されたので、再度休憩所へ逃げる。

 改めて俺と相対した憧子ちゃんは、恐る恐る口を開いた。


「あの、遊馬先輩ですか」

「そうだよ」

「えっと、ご趣味で……?」

「いいや。今回はラジオのネタ作りに手伝わされているだけだな。

 できればやりたくない」


 俺と憧子ちゃんの中で、例の下着はあいまいなままになっているので、なんとも会話がぎくしゃくする。

 だから、さっさと桜ちゃんに助けを求めることにした。


「基本的に桜に付きあわせているんですよ。こっそりイベントに参加するのが好きですからね」

「あ、えっと。SAKURAさん、ですか?」

「はい。ななゆめの桜です。初めまして、先輩の後輩さん」

「いいいい、いえ。おあ、お会いできて光栄です。渡林憧子って言います。わたしとしてははじめまして……ではないんですけど、はじめまして」

「渡林さんですね。先輩からいろいろ聞いているので、桜もそこそこ知っていますよ。なんだか、先輩とギクシャクしていることも」


 そういえば、こうやって2人が会うのは初めてなのか。それにしては、桜ちゃんは憧子ちゃんの容姿を知っていたけれど。

 それに、どうやってここまで呼び出したのだろう。

 でも、桜ちゃんなら、出来そうな気もするから、突っ込むのはやめておこう。

 たぶん、サークルのメンバーを間に挟んだんだろう。


「あの、えっと……もしかして、遊馬先輩の衣装はSAKURAさんが用意したんですか?」

「小物1つから、下着まで桜が準備しましたよ」


 桜ちゃんの発言に、憧子ちゃんがうろたえる。

 そんな挙動不審な憧子ちゃんを、桜ちゃんが拉致っていく。そして取り残される俺。


『わたしもいるけどね』

「それについては本当に助かるよ。この格好で1人はさすがに辛い」

『鏡見る?』

「遠慮する。何にしても、これで丸く収まってくれればいいんだが」

『桜ちゃんに任せたし、うまくいくんじゃないかな?』

「そこは信頼しているけど、面倒臭いことにもなりそうなんだよな」

『確かにね』


 ユメは笑うけれど、俺としてはとても笑えそうにない。

 しばらくユメと小声で雑談していたら、2人が戻ってきたので、居住まい正した。


 俺の前までやってきた憧子ちゃんは、頭を地面に打ち付けるかのような勢いで頭を下げた。


「先輩ごめんなさい。わたしずっと、先輩のこと悪い人かもって疑ってました」

「何か勘ぐられているんじゃないかとは思ってたよ」

「それでえっと……勝手にカバンの中を漁ってしまったこともごめんなさい。

 信じてもらえないかもしれないけど、態とじゃなかったんです」


 一応桜ちゃんの方に目を向けると、頷いていたので、桜ちゃんは態とじゃないと判断したんだろう。俺としても、そんなことをする子じゃないとは思うので、頭を上げるように言った。


「今度から気を付けてくれればいいよ。」

「もちろんです。次からは自分だけで判断しないようにも気をつけます」


 これで、なんとも言えなかった空気が解消されるならいいか。

 後に引いたところで、良いことはないだろうし。

 そう思っていたら、何やら憧子ちゃんがうずうずとした、好奇心旺盛な目をこちらに向けていることに気が付いた。


「先輩。このイベントがどういうものかはわかっているんですよね?」

「一応な。なぜだか人が寄ってくるしな」

「トリックオアトリートです」

「は?」

「トリックオアトリートです。とりっくおあ、とりぃとーです。

 トリックオアトリート、トリックオアトリート……」


 急にトリックオアトリートを連呼し始めて何事かと思ったけれど、その手は言った回数を数えているらしい。


「これで10回言いましたから、10回写真を撮りましょう。100回撮りましょう」


 何かから解放されたように、テンションを挙げた憧子ちゃんが、舞と遭遇してさらにおかしくなるのは、もう少し後の話。

 そして誤解は解けたのに、度々憧子ちゃんからイベント行かないんですか? と訊かれるようになるのはさらに先の話になる。

「そう言えば、遊馬君が女装した状態で、夢ちゃんと替わったらどうなるの?」

「やっぱり気になるよね」

「それなら見て見ますか? 写真は撮っていますよ」


 そこがやはり気になるのか、舞と翠さんはもちろん、希さんも桜ちゃんのところに集まる。

 家で着せ替え人形になっているときに、色々なことを試してみたけれど、女装での入れ替わりもその1つ。

 いま見せられた舞たちが、なんだか微妙な顔をしているけれど、今の状態でユメに戻るとどんな表現をしていいのかわからない、変な状態になる。


 元がユメなので悪くはないのだけれど、メイクのせいでちぐはぐだし、ユメとの入れ替わりを前提としていない服なので、ぶかぶか。

 評するなら「個性的ですね」ってやつだ。


        ※※※



 上記はどこかにいれようかと思っていたけれど、結局いれられなかった何かです。

 誰か女装メイクをした状態で、男→女のTSをして、どうなるのか教えてください(

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[一言] 一応パンツ見られたときから時系列にはなってたのか
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