もしも2人が別の人物だったら
1100pt記念その1。その2があるかは現在未定です。
凍えるような寒さだった冬が終わり、徐々に春めいてきたのを感じるのと同時に、俺たちの卒業式も近づいてきたのかと思うと、通い慣れた音楽室もなんだか感慨深く感じる。
特に今日みたいに、俺とユメしかいないときだと、なおさら。ユメがいるから、必要以上に哀愁を感じずに済んでいるのかもしれない。
『春になってきたね』
「そうだな」
『入試も終わって、なんだかぼーっとしてるよね』
「そうだな」
『練習もないのに音楽室に来たもんね』
「ああ、そうだな」
同じことを言っているのだけれど、俺の気分は少しずつ落ち込んでいることを聡く感じているのか、ユメは俺の適当な返しにも何も言わない。
ユメも何も言わなかったということは、同罪なのだから、何も言えないというのが正しいかもしれないけれど。
間違えたのだから、すぐに帰ればいいんだろうけれど、ここのところ忙しかったのでこうやってのんびりできる時間を満喫したいという感じもする。
「ユメ、何か歌うか?」
『遊馬が良いなら歌うけど、良いの?』
「最近はカラオケに行っている余裕もなかったからな。
たまにはユメと二人だけで、歌を楽しむのもいいだろう?」
『ふふ。了解』
ユメに了承してもらえたので、入れ替わる。
視線が低くなるのにも慣れたもので、いつもならこのまま着替えるのだろうけれど、今日は練習があるわけでもないので男物の制服のままユメが歌いだす。
開けた窓から澄んだ声が外へと流れだしているけれど、かわりに吹き込んでくる風が春の陽気にあてられた肌に気持ちがいい。
風が吹く中歌うのはどうなんだとも思うけれど、帰りに道でも普通に歌うユメ――俺もだが――に言ったところで今更だ。
誰かに聞かせるわけでもないので、ぽつりぽつりとユメが歌っていたら、ふいに音楽室の扉が開いた。
ユメがゆっくりそちらをみると、綺歩が目を丸くしてこちらを見ている。
「綺歩、今日は練習ないよ?」
「それはわかっていたんだけど、誰かいるみたいだったから、様子を見に来たんだよ。
ユメちゃんも……練習って感じじゃないよね?」
「わたし達は練習がないって忘れてて、せっかく鍵を借りたから、歌ってたんだよ」
「遊君は特に、最近忙しかったもんね」
「綺歩や一誠の頭の出来がおかしいだけだと思うよ?」
俺に勉強を教えながらだったのに、どうしてあんなにすんなり入試ができるのか、俺にはわからない。
おかげで手ごたえはあるので、文句を言うつもりはないけれど。
綺歩はユメの隣までくると、腰を下ろした。
「せっかくだから、ユメちゃんと遊君に話を聞きたいんだけどいいかな?」
「勉強の話は嫌だよ?」
俺の気持ちを読んだのか、ユメもそう思っているのか、ユメがとても嫌そうな顔をする。
綺歩は苦笑してから、首を左右に振った。
「曲を作るのに、二人の話を聞きたいなって思って。
ちょっと、聞きづらいことなんだけど、もうすぐ卒業だし聞かせて欲しいかなって」
「どんな事?」
「えっと、もしも二人が別々の人だったら、どうなっていたと思う?」
「それって、付き合っていたかってこと?」
「そこまでは訊かないけれど、どんな風に出会うのかなとかは気になるかな」
綺歩が持ち込んだのが、爆弾でなくて本当に良かった。
ユメが付き合っていたといってしまえば、今の関係にしこりが残りそうだし、付き合わなかったと言われれば、普通に傷つく。
ユメはうーんと、考えてから口を開く。
「正直イメージがわかないんだよね。やっぱりわたしは、遊馬ありきの存在だと思うから。
今はわたしはわたしだけれど、遊馬スタートなのは変わらないし」
「やっぱり難しい?」
「仮にの話で1から考えてみても、たぶん綺歩が思い描くような応えはできないと思うよ。遊馬もそう思うよね?」
『まあ、そうだな』
曲に使うといっていたし、たぶん感動的な出会いを求められているかもしれないけれど、現実を考えるとそんなことにはならない。
『まず俺はどう足掻いても、ネットからカラオケコースだな』
「逆にわたしはネットに走る必要ないから、遊馬の存在を知ることってないと思うんだよね。
カラオケは行くかもしれないけれど、仮にそこでニヤミスしても、うまい人がいるなくらいで終わりそう」
『俺から見ても、歌が上手な女の子がいるなで終わるな。あえて話しかけようとはしない』
「しいて言うなら、遊馬の動画がかなり再生数があるから、何かしらの方法でわたしが知ったうえでって 感じになりそうだけど……やっぱり、うまい人がいるんだなーで終わっちゃうと思うんだよね」
こんな感じでユメと俺の意見をまとめて、ユメが綺歩に伝えると妙に納得した様子でうなずいていた。
「なんだか期待外れでごめんね」
「ううん。こっちこそ、変なこと聞いちゃったね。
ところで帰りはどうするの? ユメちゃんになったってことは、そのまま帰れないよね?」
綺歩に言われて、ユメがぱちぱちと瞬かせる。
言われて気が付いたけれど、ユメになったら二時間は戻れない。さすがに二時間は長い。
ということは、ユメで帰らないといけないのか。
「ぼーっとしてたね」
『ぼーっとしてたな』
「綺歩、着替えてくるから少し待っててくれる? 一緒に帰ろう?」
「待ってるね」
綺歩に手を振って、ユメが準備室にある簡易更衣室に駆け込む。
あと何回使うことになるのかはわからないけれど、この更衣室を使うのも後少しかと思うと、不思議な感じがした。
本当はifストーリー的なものを望まれていたのだと思うのですが、流石にそれをやるには気力が足りなかったので、1500ptとか2000pt記念とかでやりたいです(逃
あと、久しぶりに書くと、それぞれのキャラの口調とかさっぱりでした(