Lv-1
この番外編は『両声類だった俺は両性類にLvUPした』の続編のつもりで書いた嘘予告みたいなものです。
※ご覧いただいているものは開発中の物です実際の作品とは異なる場合がありますのでご注意ください って奴です。
詳しくは後書きに書こうと思いますので、先に本編をどうぞ。
今や男の声と女の声どちらも出せる、両声類という人たちはネットの中では、それなりの市民権を得たと言っても過言ではない。
ネット社会とも言える昨今、同時に現実世界での認知度も高まっている。
その両声類という人たちが広まる一つのきっかけが、二年ほど前にネットを賑わせた事件で、初代ドリムと言う有名な女性歌い手が、実は男だったと言う話。
そのドリムと言う人について、オレはさほど詳しくはないのだが、どうやら声変わりがきっかけで歌うのを止めたと言う事らしい。
何故それが両声類が広まるきっかけになったかと言えば、そのドリムという人物が両声類だという噂がたったからだ。
投稿された動画がドリムが中学生の時、それならばすでに声変わりをしていたんじゃないか、という話があったらしい。
その話は結局、結論が出ないままで終わってしまっているが、オレは確信している、ドリムは確実に両声類なのだと。
何故ならオレ、和気碧人が両声類だからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
中学生をようやく終えて、高校生はもう間もなく。
オレは楽しみで楽しみで仕方がなかった。
オレの入学が決まっている高校には、この辺りにしてみれば、珍しく軽音楽部がある。
両声類であるオレが、その部に入れば、話題性や完璧な女声によって人気者間違いなし。
別にこれは、夢見てそんな事を言っているわけではなく、ちゃんと根拠がある。
オレは初代ドリム――二代目は本当に女の人らしいが――よりも可愛い声が出せるのだ。
そのドリムがネットであそこまで話題になるのだから、それ以上に可愛い声を出せるオレは、ドリムと同じくらい、いや、それ以上に有名になる事は何ら変な事ではない。
そうなればオレの高校生活は、最高のものとなるだろう。
もしかすれば、どこかのレコード会社なんかからオファーが来て、一躍時の人になれる可能性だってある。
その最初の一歩、それが高校の軽音楽部。その軽音楽部がどれほど有名かは知らないが、もし知名度が無かったとしても、三年もあれば、十分全国に轟く部活にさせる事も出来るだろう。何せ、ドリム以上のオレが居るのだから。
オレの功績で部が有名なれば、学校からも感謝され、オレの高校生活にさらに花が添えられると言うわけだ。
つまりどう転んでもオレの高校生活はバラ色。可愛い彼女も出来て、全国の高校生がうらやむような生活を送るのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
待ちに待った入学式の朝、意気揚々と学校に向かっている途中で、見知った顔がいたので声をかける。
「おーい、朝」
「あ、碧君おはよう。今日からやっと高校生だね」
そう言って笑う幼馴染の真庭朝。百六十センチのオレと同じくらいの身長の女の子で、基本的にニコニコおっとりしている。
「そうだな。良く、二人とも入学できたよな」
「だよねー。わたし達成績あんまりよくなかったし、そう言えば、何で碧君は此処の高校に入ろうと思ったの?」
そう言われて思い出す。同じくらいの成績で同じ学校を目指すと言う事で一緒に勉強なんかはしたが、結局オレも朝もお互い何でこんなに頑張っているのかという事には触れてこなかった。
流石に同級生の女の子の前でスターの階段を駆け上がるためだ、なんて言えないし、もとよりオレが両声類だと言う事も言っていないから当たり前なのだが。
「入りたい部活があったからな」
しかし、不思議そうにこちらを見つめる、大きな二つの目に何かを言わないといけないと思い、ぼんやりとした答えを返した。
そんな答えでも朝は手を叩いて楽しそうに口を開く。
「そうなんだ。私と一緒だね。そうだよね。この高校沢山面白そうな部活あるもんね」
オレは軽音楽部以外目に入っていなかったので殆ど知らないのだが、言われてみると、確かに学校紹介のパンフレットの部活動紹介には、かなりの数の部活が紹介されていた。
とは言え中学時代帰宅部だった朝が、わざわざ必死に勉強してまで入りたい部活とは何だろうか。
少し気になる。帰宅部と言うと、オレだって帰宅部だったけれど。
「朝はどの部活に入りたいんだ?」
「え? 私?」
朝はそう言って驚いた顔をすると「えっとねー」と照れたように勿体つける。
「軽音楽部に入りたくって」
「へえ、オレと一緒か」
朝の答えにオレはあまり驚かなかった。オレ達の住んでいる地域から行ける高校で、軽音楽部があるのはこの高校しかないないから。朝が音楽に興味があったと言うのは正直、意外ではあったが。
しかし、まあ、そうだいうことはオレの声のファン第一号になるのは朝かもしれない。
幼馴染がそうなると考えると気恥ずかしいところもあるが、それも悪くない。
そんな風に思っていると朝が大きな目を丸くしてこちらを見ていた。
「蒼君楽器出来たんだ」
「いいや、楽器は弾けないな」
「歌は……普通だったよね? 音楽の時間で聞いたけど」
「まあ、オレには秘策があるからな。それに、高校入学時からちゃんと楽器弾ける人間も少ないだろうし、皆素人スタートじゃないか?」
勿論、その中でオレがいち早く抜きんでてやる事には、違いないが。
しかし、朝の表情は何故か曇る一方で、首を傾げずにはいられない。
「ねえ、蒼君。この学校の軽音楽部がどんなところなのか調べたのかな?」
「部員数四人の小規模部活だろ?」
その少人数故、弱小じゃないかと言う想定もしてある。
有名な部活ならもっと部員居てもが良そうなものではあるし、弱小校を全国に引っ張っていくと言うのは何ともドラマ性があって心が躍る。
部活紹介に書いてあった事をそのまま伝えたはずのオレの言葉は、どうやら朝を納得させることが出来なかったらしく、何か言いたそうな顔をしていた。
「えっとね……蒼君……」
「何だ?」
「ううん。なんでも……」
まあ、確かに音楽未経験のオレが、急に軽音楽部なんて言うから、朝も困惑しているだけだろう。
何せ、朝はオレの秘密をまだ知らないから。
「そうだ、入学式が終わったら早速軽音楽部の部室行こうと思うんだけど、朝も一緒に行くか?」
「え? 部室に?」
「善は急げって言うだろ?」
「それはそうなんだけど……」
先ほどからはっきりしない朝に少しイライラしてきたので「じゃあ、オレ一人で行くから」と言うと、朝は慌てたように「私も行くよ」と答えが返って来た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
正直、入学式は殆ど頭に入ってこなかった。校長や生徒会長や新入生代表の話なんかがあった気がするが、オレの頭の中はこれからの輝ける日々しかなかった。
ようやく最後のホームルームまで終わって学校と言うしがらみから解放される。
幸か不幸か朝とは同じクラスになれたので、声をかけて学校の中を歩き出した。
歩き出して数分オレは一つ重大な事に気が付いてしまった。
「朝……部室知ってるか?」
「え? 知らないよ。だって今日入学したんだよ?
と、言うか蒼君はあんなに自信満々に歩いていたのに、知らなかったの?」
そう言って、朝が非難の目を向けて来るが、知らないのなら仕方がない。誰かに聞くしかないかと辺りを見渡す。
どうやら、教室がある所とはまた別の棟に来てしまったらしく――というか、音楽室だろうなと思って特別教室がありそうなところに来たのだ。別に考えなしに歩いていたわけではない――廊下にはあまり人がいない。
誰か良い人はいないかと、キョロキョロしていたせいか、不意に背後から声をかけられた。
「君たちどうしたの?」
女の人の声。落ち着いた、如何にも学校に慣れたような感じの声に、先輩だろうなと辺りをつけて振り返ると、よく似た顔の二人の女子生徒が立っていた。
たぶん、双子だとは思うのだけれど、髪型が全く違う――一人は髪を結っていて、一人はそのまま伸ばしている――ので見間違えると言う事はなさそうだ。あと、悔しいがオレよりも身長は少し高そう。
「一年生っぽいけどこっちには下駄箱は無いよ?」
「いえ、一年生なのはあってるんですけど、オレ達、軽音楽部の部室に行こうと思ってまして、場所分かりますか?」
向こうから声をかけてくれたのであるならこれ幸いと、用事を済ませてしまう。
「そうなの? 私た……」
「藍」
髪を結んでいない方の先輩が何かを言おうとしたところで、髪を後ろで一つに結んでいる方の先輩がそれを制した。
「優どうしたの?」と首を傾げる最初の先輩にもう一人の先輩が悪戯っぽい笑いを見せる。
何だか蚊帳の外感が否めないが、それよりもこの双子の先輩の容姿に目が行ってしまう。
煌びやかと言うか何というか、全校生徒の憧れの的にもなりそうなほどに整っている。
隣にいる朝と比べても、一目瞭然。朝が悪いわけじゃないが、先輩達のレベルが高すぎる。
うん。改めて考えてみると入学当初からこんな先輩方に声をかけて貰えるとは、幸先がいいのではないのだろうか。
出来ればお近づきになりたいが、いずれなれるだろうと将来に対する期待値をあげていると、髪を結っている方の先輩が口を開いた。
「軽音楽部はこの棟の最上階の音楽室で活動してるみたいだから、行ってみたらいいよ」
「ありがとうございます」
「それじゃあね」
そう言って、もう一人の先輩の手を引いて階段を上って行ってしまった。
連れられて言った先輩が、何か言いたそうだった気がするのだけれど、気のせいだったのだろうか。
目的地も分かった事だし、気を取り直して、先に行こうかと朝の方を見ると、何故か呆けた顔をして、階段の先を見つめていた。
「とーもー。どうしたんだ?」
「あ、え。蒼君知らないの?」
「知らないって何をだ?」
「う、ううん。何でもないよ。さっきの先輩達綺麗だったなって」
やはり、女子の目から見ても綺麗なのか。それは本当に得をした。
自らの幸運に満足したので「じゃあ、行くか」と朝に声をかけて歩き出す。
しかし、階段を数段上ったところで「蒼君」と声をかけられた。
見ると、一段も階段を上っていない朝が、両手を胸のあたりで組んでこちらを見ている。
「やっぱり、行くの止めにしない?」
「なにを今さら」
「入学式から行くのは変だよ。来週から正式に体験入部とかもあるのに……」
「まあ、行き難いよな。でも、オレは行くよ」
そう言って後ろを向く。朝には悪いが、オレはあふれ出る衝動を抑えることが出来ない。
一分でも一秒でも早く、オレの名前を全国に轟かせたいのだ。
そんなオレの決意を感じ取ってくれたのか、朝が「分かった。私も行く」と言ってくれた。
階段を上がるにつれて、何故か朝がどんどん緊張していくのが分かった。
入学式の日からこうやって学校を徘徊していると言うのは、確かにドキドキものだとは思うのだが、それを差し引いても朝の緊張具合は異常な気がする。
「そんな、有名人と会うわけじゃないんだから、そんなに緊張しなくてもいいだろ」
「あ、えっと。うん、そう……だね」
声をかけると目を合わせる朝が、徐々に視線を逸らしていく、どこか遠くでも見るかのように。
何でそんな顔をするのかわからないが、構わず足を進めていくと、不思議な事に……不思議な事なのかはわからないが、三階に到着したところで廊下に誰も人がいなくなってしまった。
単純に、この階に用事がある人がいないのか、何なのか。今のオレには関係ないので、何となくそう思った程度だが。
三階を抜けて最上階である四階へ。
音楽室と書かれたプレートが付いた教室の前で立ち止まると、朝が深呼吸する音が聞こえる。
先輩とは言え同じ高校生、そこまで緊張する必要はないと思うのだけれど。
しかし、緊張している朝を無視して中に入る事も出来ないので、一度声をかける事にした。
「朝、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫」
緊張した表情は変わらないが、大丈夫だと言う事なので、音楽室のドアをノックする。
それから「失礼します」と言いながらドアを開けた。
「ようやく来ましたね。ようこそ軽音楽部へ」
中学校の頃とそう変わらない普通の音楽室。
開けて最初に顔を覗かせたオレを迎えてくれたのは、先ほどの先輩達と同じくらいの身長で、ふわふわのセミロングの髪の笑顔が猫っぽい先輩だった。
こんにちは、と挨拶をしようかと思った所で、よくよく教室を見てみると、他にも四人の人がいてそのうちの二人を、オレは知っている。
後ろにいるであろう、朝も知っている。と、言うかさっき、この場所を教えてくれた先輩方だ。髪を結った方の先輩が楽しそうにこちらに手を振っている。
残り二人は初めて見る人。一人は背が低く幼い顔をしている人で、小動物的可愛さを持っている。
もう一人はきりっとした鋭い表情をした人で、背はこの中で一番高いが、それに反して胸に関してはオレよりもあるかどうかというレベル。
それから皆それぞれに魅力的で、学校のレベルが高い女子を集めたみたいなそんな印象を受ける。
ふと、朝の方を見ると、口をパクパクとさせて何か言いたそうな感じなのだけれど、何も言わないのでオレが先に声を出すことにした。
「こんにちは。体験入部……と言うか、入部したくて来たんですけど」
「何でしょう。今年の一年生は皆気が早いみたいですね」
先輩が面白そうに、言って別の人に話を振る。何というか接しやすそうな先輩で、朝の緊張も無駄だったように思うのだけれど、どういうわけか朝の緊張はなくなりそうにない。
朝の事は置いておいて、先輩の言葉から察するに少なくとも、もう一人一年生がいるようだが、あの背の低い子だろうか?
そう思ったのだがその子が「桜ちゃんも大して変わらなかったと思うよ」と笑うので恐らく違う。
最初に会った人たちも先輩っぽかったと言う事は、一番背が高い人が一年生ということになるのだろうか。
「すみません……いてもたってもいられなくって……」
そう言って、申し訳なさそうな顔をするので、背が一番高い人が一年生って事で間違いないだろう。
「良いんですよ。ただ、さっきも言いましたけど桜達はあまり相手してあげられないですよ?」
「それは仕方ないです。むしろアタシに構って本業がおろそかにされたら困ります。
アタシはたまに相手して貰えるだけで十分です」
何故、この同級生はそんなに必死なのだろうか。ただの先輩後輩という以上、師匠と弟子みたいなそんな感じを受ける。
あと、この一年生見た事があるような気が……。
「ごめんね、ちょっと放置気味になっちゃって」
一年生の話が終わったところで、背の低い先輩がそう言ってオレ達の方にやってくる。
それに対して朝がようやく「そ、そんな事ないです」と口を開いた。
それに対して先輩は笑顔を返す。
「えっと、あたしがここの部長でギターをしている、初春鼓です。それからあの子が……」
初春先輩がそう言って後ろの先ほどまで話していた先輩を示すと、その先輩が続けて話す。
「副部長の忠海桜です。楽器はベースですね。とは言っても大体何でもできますが。
一応誤解がないように言っておきますと、つつみんは三年生ですからね」
「桜ちゃん」
初春先輩が忠海先輩の言葉に怒った顔をする。流石に部長だし、忠海先輩にため口を聞いているし、三年生だとは分かっていたが、確かに外見の情報だけだと一年生と見紛うに違いない、と言うかさっきそうだった。
忠海先輩が反省した様子もなく続ける。
「桜達三年生は学外のバンドにも参加しているので、そっちの活動があればそっちを優先しますから、気を付けておいてください。
まあ、あっても月に一回あるかどうかくらいだとは思いますが」
学外のバンド何て言うのもあるのか。そんな事を考えている間に先輩達の自己紹介が続く。
次は双子の先輩の髪の毛を結っている方の人で、最後が髪を伸ばしている方の先輩。
「二年の三原優希。担当はギター兼ボーカル。
教えてあげたからすぐに来ると思ったけど、大丈夫? ここまで迷わなかった?」
「同じく二年の三原藍です。担当はドラム兼ボーカルです。
優とは双子なんだけど、多分どっちがどっちかは分かるよね」
髪を結っている方の優希先輩に「大丈夫です。迷いませんでした」と返すと「よかった」と返って来た。
この流れもしかして次はオレが自己紹介をする場かと思ったので口を開く。
「オレは一年の和気碧人です。ボーカルをやりたくて来ました」
「音楽経験とかはあるんですか?」
オレの自己紹介に、忠海先輩が不思議そうな顔で尋ねて来るので「ないです」と首を振る。
それを聞いて、少し悩んだような顔をしたかと思うと、先輩は続けて尋ねてきた。
「軽音楽部に入って何をしたいかって考えてます?」
「オレの歌でこの部もっと上に……全国レベルにして見せます。オレ、声には自信ありますから」
オレの言葉に、忠海先輩が堪えられないと言った様子で笑う。他の先輩も困惑したり、笑ったりしているが、まあ、今は仕方がないだろう。すぐにその評価が間違っていたと分かってもらえるだろうから。
それとは別に、朝がオレの腕にしがみついて何かを言おうとしたのだが、先にまだ少し笑っている忠海先輩からの言葉が入る。
「そこまで言い切ると言う事は、和気君は歌に自信があるんですね」
「勿論です。こう見えてもあの初代ドリムよりも可愛い声を出せますから」
もう少し勿体つけるつもりだったが、仕方ないだろうと言う事で、とっておきの言葉を言うと忠海先輩が少し真剣な表情になった。
いや、忠海先輩だけじゃなくて、他の先輩も心なしかオレを見る目が変わったように思う。
なるほど、少なくともオレの言葉が嘘じゃないかもと思えて貰えたのか。
「そういうことなら、今から一曲適当に歌って貰ってもいいですか?」
口を開いた忠海先輩にオレは「何でもいいんですよね?」と返した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この人数の前でしかもアカペラで歌うと言うのは恥ずかしいものがあったが、有名になればこういう機会も増えるだろうと思い切って歌ってやった。
今日は声の調子も良く、ここ最近でも上位に入るほど可愛い声だったと言う自信もある。
しかし、先輩方の表情はすぐれない。忠海先輩だけは、何だか楽しそうな、何かを堪えられないと言った表情をしているが。
「なるほど、確かに可愛い声でしたね」
「どうですか」
「でも、可愛いだけですよね」
忠海先輩が何を言いたいのかが分からない。何となく是非うちの部活に来てくれ、という雰囲気でないのは分かるけれど。
そう思っていると、先ほどから何か言いたくして仕方がないようにしていた朝が、急に大声を出した
「あ、あの。ごめんなさい。蒼君音楽とかほとんど知らなくて」
「良いと思いますよ、ユメ先輩だって音楽全然詳しくなかったですし」
「なあ、朝。なんで謝ってるんだ?」
せっかく人が最高の歌を聞かせたと言うのに。そう言えばユメと言う言葉には聞き覚えがある。でも、そんなに珍しい名前でもないか。
こちらを向いた朝は、珍しく怒ったような顔で口を開いた。
「蒼君、“ななゆめ”って知ってる?」
「いや、オレでも流石にそれくらいは聞いたことあるけど」
ここ一年くらいで有名になったバンドで、殆どテレビに出てこないが、ドラマの主題歌も歌っていたようなバンドだったと思うのだが、そのグループの名前がなんで今出て来るのだろうか。
「そのななゆめで、ギターとベースをやってるのが、初春先輩と忠海先輩なんだよ」
「……はあ?」
なんだその話は突飛すぎないか。しかし、朝が冗談を言っているような気配はない。
「いやあ、そんな風に言われると桜も流石に照れますね」
忠海先輩も朝の言葉を冗談とは言わない。初春先輩も困ったような笑顔を見せるだけ。
オレの頭が混乱している間に、名も知らぬ一年生が、強い口調で話し出した。
「しかも、忠海先輩は作曲家のSAKURAその人。そんな事も知らないでやって来ただけじゃなくて、あんな馬鹿みたいなことを言ったの?」
SAKURAなる人物は知らないが、どうやら有名な作曲家らしい。
これまでの話を総合すると、オレは本物のプロ相手に大きなことを言った上その前で歌った。
しかもその歌に対する評価は高くないと言う事か。
なるほど通りで朝が緊張していたわけだ。有名人に会いに来たわけだからな。
何だろう。もう、穴があったら入りたい。急に人生がハードモードに変わった気がする。
「朝さん……でいいですか?」
「は、はいっ」
オレの存在など無いかのように忠海先輩が朝に話しかける。
「朝さんも入部希望なんですよね?」
「えっと、出来れば……」
「希望パートとかありますか?」
「はい、初春先輩に憧れてギターを……ちょこっとしか弾けないんですけど……」
朝の言葉を聞いて忠海先輩がうんうんと頷く。
それに対して初春先輩が「桜ちゃん、変なこと考えてない?」と怪訝そうな目を向けた。
「別に変な事じゃないと思いますよ。折角面白い子たちが着ましたし、三人でバンドを組ませようくらいにしか」
「ちょっと待ってください。アタシは嫌ですよ」
「じゃあ、入部は止めときますか? 一応全員のテストって事にしますので誰か一人でも抜けたらその時点でアウトって事にします……って事でつつみんどうでしょう?」
「あたしは良いと思いますよ。面白そうですし」
初春先輩への問いに何故か優希先輩が答える。と、言うかこの話が通ると、オレは逃げられなくなるんじゃないだろうか。
「ちょっと強引だけど、確かにある程度自分たちでやってもらえる子じゃないと、この先大変そうだから……取りあえずって事で」
こうしてオレの高校生活は自分でもよくわからない所からよくわからない方向へと進みだしてしまった。
そう言うわけで続編擬きの高校生編パートです。これより先はありません。
あくまでも、彼らがあの先どうなるのかと、言うものをちょこっとだけ書いた形です。
私のやる気と時間と体力と展開力があれば先を書くかもしれませんが、可能性はかなり低いと思っておいてください。
作品の時期的には、ほぼ本編終了直後でしょうか。
三人の新キャラ全員に名前を付けましたが、一人出る前に終わりました。
残り一人の名前は井原鈴華です。
両声類要素が皆無だった本編の両声類要素です(適当
高校生編という事で、大学生編も考えてはいます。
ですが、今全く手を付けていない状態なので、一週間か二週間ほどお時間を頂ければと思います。
そんな訳で次で、番外編もラストになると思いますのでよろしくお願いいたします。