Lv119~エピローグ~
俺がユメに振られてから一年の月日が経った。
あの後、部室でユメの時間が伸びつつあること、それはもうどうすることも出来ず俺もそれでいいと思っている事なんかを言うと、最初驚かれたが皆わかってくれたようではあった。
と、言うよりもそんなこと言われてもどうとも返せなかったのだと思う。
それ以降は特にその事に触れる事もなく普通に部活の毎日――とは言え二日に一回だが――が続いた。
その中で変わった事と言えば、部員が増えた事。増えたと言っても妹達が入部しただけなのでユメの事がばれるとかそんな事もなく、また、ななゆめのメンバーが増えるという事もなかった――妹達はななゆめに入ると言うわけではなくて桜ちゃんと鼓ちゃんと新しくバンドを組んだ形。桜ちゃんと鼓ちゃんは大変だったろうなと思う――。
ともかくこれで少なくとも人数が足りなくて部活が無くなるという事態は免れたという事で、妹達もそれも目的で入部したらしい。
「卒業ライブって何時からだったかしら?」
「十四時から三時間かな」
通い慣れた音楽室。稜子の退屈そうな声に綺歩が答える。
言われた稜子がチラッと時計がある方を見ると溜息をついた。
理由としては後一時間以上もあるからだろう。
その稜子の態度に困ったような笑顔を見せながら鼓ちゃんが声を出す。
「それにしても、三時間ってすごいですよね。今年度は前年度よりも色々なところでライブしましたけど、一番長いんじゃないですか?」
「確かに長いけれど、問題はそこじゃないわよ」
「何でオレ達の卒業で行われる卒業ライブにオレ達が“ゲスト”として呼ばれたかって事だよねい。稜子嬢」
「それもこれも稜子先輩のせいだとは思うんですけどね」
そう言って桜ちゃんが楽しそうに笑う。
それに対して稜子が不満そうな顔をして、それから諦めたように溜息をついた。
実際桜ちゃんの言う通りなのだから、周りからフォローもされない。
この一年間、稜子の頼みで対外的な活動が多かった。
その理由は、稜子が卒業したら音楽活動をすると決めていたから。
卒業前から実績があればその分活動もしやすくなるだろうと言う事で俺達も協力すると言う形になった。
こちとら受験があるのに、と言いたいところだが、稜子はその受験をするつもりはなかったわけだし、一誠と綺歩は心配しなくても十分上位の大学に入学できるし、本当に困るのは俺だけ。
代わりに綺歩やら一誠やらが勉強を教えてくれるとのことでしぶしぶ折れた。
結果、全員が希望した進路に行けた――行けそう――のだから文句もない。
そう言うわけで積極化したななゆめ音楽活動はそれこそ順調と言っても差支えなかった。
まあ、そもそも実績のある桜ちゃんがいて、舞だって応援してくれていて、メンバーのレベルも高いのに何とかならないわけがあるはずもなく、結構有名になったんだと思う。
で、有名になって度々イベントに呼ばれるようになっていたところ、何故か自分達が所属する学校からオファーが来たと言うそんな話。
「まあ、ななゆめが離れ離れになる前、最後のライブなんだから、良い機会じゃないか?」
「別に解散するわけじゃないから、そうでもないと思うんだけど……まあ、そうね」
稜子が頷いてくれたのを見て、一安心する。
無いとは思うがライブの時にやる気をなくされても困るし。
「離れ離れって言っても遊君たちと、稜子だけだよね。
稜子はまだしも、遊君が遠くの大学に行くって言いだした時は驚いたな」
「遠くって言っても日帰りで遊びに行ける距離だろ。
それに、ユメと決めたことだからな」
『自分達で何とかできるようにするってね』
今まではメンバーや事情を知っている人たちの力を借り過ぎていたと思ったから、敢えてそこから抜け出してみようとユメと決めたのだ。
どう足掻いても綺歩や一誠の受ける大学には受かる気がしなかったって言うのもあるけれど。
俺の話を聞いて桜ちゃんが横やりを入れてくる。
「でも、結局ユメ先輩と入れ替わって二時間は元に戻れなくなったんですよね?
予想していたよりも短かったとはいえ、サポートなしでやっていけるんですか?」
「サポートなしでやっていけるようになるのがそもそもの目標だからな。
それに二時間って事はユメに授業受けてもらえる可能性もあるから大学だと便利じゃないか?」
『受けろって言われたら受けるけど、最初からあてにされるのは嫌だな』
「普通に授業を受けてみたいって言ったのはユメだけどな」
『それはそうなんだけど……』
「そう言えば何で二時間なんでしょうね?」
そう言って鼓ちゃんが首を傾げるので、この間巡先輩に言われた事を思い出しながら答える。
「もともと、十五分でもユメって一日表に出ていようと思えば出ていられたからな。
ユメの時間が長くなったのが、心が離れた分肉体の方が密接になったと考えるとそのバランスが取れるのが二時間だったって事なんだろうな」
「難しいですね」
「まあ、俺達もよくわかっていないからな。
とはいえ、ここ数カ月は時間が伸びる事もなかったしこれで確定じゃないかとも言われたから安心だろう」
ちょうどそう返したところで、だるそうに座っていた稜子がスッと立ち上がって手を叩いた。
ふと時計を見るとライブまであと三十分ほど、準備をしに行かないといけない時間。
「さあ、準備に行くわよ。遊馬はさっさとユメと替わってちょうだい。
アタシ達は先に行っているから、鍵はかけてくること」
「はいはい、了解」
そう適当に返事をしていつものように準備室に引っ込む。
『これが高校最後のライブかと思うとちょっとさびしいね』
「春休みも何処かでなんて思ったが、引っ越しとかで忙しいからな」
『特に稜子がね』
「稜子が持っていくのって楽器だけだろうから、そこまで大変じゃないんじゃないか?」
『例え楽器だけでもわたし達とは距離が違うからそれだけで十分大変だと思うんだけどね』
「それもそうだな」
そこまで話してユメと入れ替わる。
ユメはすぐに簡易カーテンに入ると慣れたように目を閉じたまま着替えを済ませる。
「さて、今日も張り切って歌うよ」
『今日も楽しませてもらおうかな』
「ねえ、遊馬」
『どうした?』
「これからもよろしくね」
『ああ、よろしくな』
ユメは照れながらも満足そうな顔で音楽室を後にした。
(完)
皆様お疲れ様でした。
これを持って『両声類だった俺は両性類にLvUPした』は完結になります。
約一年と一カ月ほど続けてきたシリーズを無事(?)終わらせることが出来てホッとしています。
ここまで読んで頂けました事本当に感謝感激です。
さて、一応完結したこのシリーズですが、一周年記念とか何とかでアンケート的なものを取りました時思いのほかに反響があったので、その中から幾つか応えていきたいなと思っています。
知らない方向けにもう一度言っておきますと、要するに「両性類を別視点(遊馬以外の視点)で見てみよう」みたいな感じです。
それで、番外編として別視点の話を書いてみようと思っているのですが、それがいつになるのかは現在は分かりません。個人的には次回作を投稿し始めてそれが軌道に乗ったらとか思っていますが、そうなると何カ月も先になることもあるので予めご了承ください。
番外編を投稿する際、新しく連載小説にするか、ここに付け加えるかという問題もありますが、どちらにするかは今は分かりません。
本編が完結したという事でこのエピローグを持って完結設定にしていますが、後者の場合それを一度解いて番外編をすべて投稿し終わり次第再度完結設定にすることになりますが、それはあまり良くない気もしますが、前者の場合探すのが面倒と思われる方もいるかもしれません。
難しい問題なので今は未決定という事にしておいてください。
さて、業務連絡も終わったので以下私の無駄に長いであろう執筆後の感想が続きます。
もしもお付き合いくださる方がいらっしゃいましたら、もう少しお付き合いください。
そんなの知らんと言う方はここまで本当にありがとうございました。
そんな訳で、恒例の私の後書きです。思った事を徒然書きます。
ですが何から書けばいいのやらと思わなくもないのですw
とりあえず、一年以上続けてきてやっと終わったって感じでしょうか。
2013年の二月からやっている作品だってありはするんですけどねw
実はこの終わりを予想している方って結構いるんじゃないかなと思うんですよね。ユメが告白をどうするかってだけで二択ではありますけどw
特に過去に私の作品を読んでくださった方ならたぶん「またこんな話か」と思われるかもしれません。
本当はもっとラブコメさせるつもりだったんですが、コメディは何処かの時空に忘れてきたらしいです。
あと、両声類要素どこに行ったんでしょうね、本当に。
作品全体と言うか、この作品と言えばという事になるとは思うのですが、歌詞を考えるのが非常に面倒でしたw
私歌詞を書いたことが無いどころか、バンド経験はもちろん、ライブにまともに参加した記憶が無いんですよね。
一応楽器経験はあるのですが、中途半端で辞めてしまった感じはしますし、ちょっとジャンル違いだったりします。
そんな奴がどうしてこういう作品を書きわざわざ歌詞まで考えたのか。まあ、歌詞に関しては単純に権利的問題が大きいですが。
どうしてこういう作品を書いたかと言いますと単純に歌が好きだからです。
一人でカラオケ何時間と行けるくらい歌う事が好きなんです。
なんでここまで好きかはわかりませんが、もしも私の書いた駄歌詞に曲をつけてくれる酔狂な方がいたら歌いたい所存です。
何度も言っているかもしれない話ですが、この作品ここまで長くするつもりもこんなに頻繁に更新するつもりも一回の更新の字数をここまで多くするつもりもなかったです。
それにはちょっとリアル的事情があるのですが、ここまで長くなって週二で更新して途中から一話の字数目標が4000字以上になったので何やっていたんだろうなと思わなくもないですw
少しくらい作品の話をしましょう。
と、言ってもだいぶ言いつくした感じはするのですが、先ずはキャラクターについて。
ななゆめメンバーの半分以上は知り合いに考えて貰いました。
名前を考えるのが苦手なくせに名前が無いと書き始められないと言う私の仕様により、試しに知り合いにメールしたら帰ってきたので使わせてもらいました。
綺歩とか鼓とか言い名前を考えるなと思った次第です。
ちゃんと使用許可は貰ってます。やってねえよ思ったら連絡ください頭下げに行きます。
遊馬は単純に「ユメ」と読める男の子っぽい名前を考えていたら出てきました。
桜は鼓の相方という事でタンポポの対極を考えた時に桜が浮かんだので桜になりました。
それぞれ苗字である三原と忠海ですが読み方は違えどどちらも地名からとりました。どちらも同じ県にあります。
実はテーマくらいしか決まっていなかったまだ遊馬なんて名前が無かった頃の主人公の一人称は「僕」でした。
今のユメに相当する人は「私」。そんな訳で「僕は私に恋をした」が一番最初の仮タイトルとしてどうこうって話は割と最近の活動報告でしたので割愛します。
そう言えばこれでも伏線は全部回収したと思うのですが、結局わからずじまいだったと言う所は無かったでしょうか?
あれば感想なりメッセージなりで連絡くれたら答えられる範囲でお答えいたします。
小ネタで行くと、Lv111で綺歩が大吉を引いたのは私のかなり性質の悪い皮肉です。
伏線等々に限らず何か私に言いたいことがあれば何かしらの方法で気軽に連絡くれたらやはり可能な限りお答えします。
と、言った所で、お暇させていただきましょうか。
ではでは『両声類だった俺は両性類にLvUPした』を最後までお読みいただきありがとうございました。