雲丹、自由の女神、クレジットカード【バレンタインver】
「陽菜は俺に雲丹くれないの?」
「普通はあげないよ、うん」
バレンタインでも平常運転の凪である。
ちなみに雲丹は凪の好物だ。
「なんでチョコなんだろうね。途中で飽きるんだけど」
クラスメイトにもらった手作りのチョコやクッキーを目の前に並べて凪が言った。
「とか言ってまいととかいって毎年ちゃんと全部食べてるくせに」
今だって手作りブラウニーをもぐもぐと頬張っている。
「だって美味いし」
「じゃあいいじゃないですか」
そういって陽菜も友人と交換してきたトリュフを一粒口にした。
「あ、陽菜それちょうだい」
「嫌。ってかそれだけもらってたらトリュフのひとつやふたつないの?」
凪は(中身は別として)外見は悪くないのでそこそこ人気がある。そのため毎年大量のチョコやクッキーを持ち帰ってくるのだ。
「もう食べたもん」
「うん絶対あげない」
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「それにしても、またたくさんもらってきたねぇ…」
目の前にあるお菓子の山をみて陽菜が半ば呆れ気味に言う。
手作り以外にも有名なものから変わり種まで色々な既製品のお菓子もあった。
「これたぶん一番の変わり種」
そういって凪がひとつの箱を差し出した。
「え、でかくないすか凪さん」
直径5センチ、高さ30センチほどの円筒である。水筒に間違えかねない大きさだった。
「まあ開けてみろって」
そういって凪は"OPEN"とご丁寧にかかれた蓋を指差した。
恐る恐る陽菜が蓋を開けたそこには。
「…すたちゅーおぶりばてぃーですね」
自由の女神が立っていた。チョコの。
「これどうやって食べるの?」
「とかしてチョコフォンデュにする」
「女神の扱いひどいなおい」
******
「ペース早くないすか凪くんよ」
凪の前のお菓子は殆どなくなりつつあった。
…段ボール一箱分はあっただろうに。
「そう?」
当の本人はけろっとしている。
「てかごみ片付けるよー」
といって陽菜は(普通の)ごみ箱にぽいぽいとお菓子の残骸を入れていく。と、その時。
「ん?なにこれ」
ごみに紛れてプラスチックの板があった。バーコードなどが書かれていて…
「クレジットカード…」
みるからに貴重品である。ごみに紛れていていい代物ではない。
「凪、これ…」
「ん?あぁ、それはね」
凪にたずねると、それをひょいと受け取り…折った。
「え、ちょ、凪、え」
狼狽える陽菜を気にせず、凪は割れたクレジットカードの半分を差し出した。
「チョコ、食べたいんじゃなかったの?」
「紛らわしいわあああああああ!!!」
******
「あ、凪」
帰り際に陽菜が言った。
「ん?なになにー」
殆どのお菓子を食べ尽くした凪が振り返る。
「毎年の、陽菜流ハッピーバレンタイン」
といって、ぽいと袋を投げた。
中身は…ポテトチップス雲丹醤油味。
「さすが陽菜!毎年ありやす!」
「いえいえー」
「毎年これがあるからお菓子全部食べれるんだよなー」
ある年に凪が「甘い!塩っ辛いのがいい!陽菜だけしかこれ言えないから!」と言い出し、毎年バレンタインに陽菜は凪にポテトチップスを渡しているのだった。
「とかいって普通にそこまで食べてるじゃん」
と、陽菜は笑った。
─このポテトチップスが本命か義理かは、ご想像にお任せする。