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BLACK ROSE  作者: 久保田マイ
ChapterⅡ O
18/18

XIV. Insanity

第14話 「狂気」


《ストーリー上、R15の暴力・流血、エロティックな表現、好ましくない言葉遣い、宗教的な描写などが一部含まれることがあります。と言っても、マイの書くものなので大したことはないとは思いますが……念のため。これらが苦手な方はご注意下さいませ》※バイオレンス&グロテスクな描写があるので、苦手な方は特に注意です!!※







 † Insanity

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 恐怖は愛より強き感情なり。

    プリニウス二世






 やがて、動かなくなった。

 その娘の身体が、ズチャリと濡れた音を立てて浴槽(バスタブ)から引きずり上げられ、ぞんざいに投げ捨てられる。

 顔中体中からのぞく、蜂の巣程の数の傷口から滴る血の絞り残り(、、、、)が、排水口へと流れて赤いマーブル模様を描く。


 四方を冷たいコンクリートの壁で囲まれた空間(ハコ)の中は、一面が血の海だった。

 壁も、床のタイルも、何もかもが。

 そんな真っ赤な地下室(くうかん)において、それよりも一層赤い、否、赤黒いもの。

 それは、中央に鎮座する、優美な猫脚(カブリオールレッグ)バスタブの中に溜められた生き血であった。今しがた採取した(、、、、)ばかりの。

 随分と待ちくたびれた。

 それもあの小娘が無駄に抵抗した所為だ。活きがいいのは良い事ではあるが。

 その血溜まりの中に嬉々として身を浸し、ぬめる液体を掬って肌にまんべんなくかける。

 天井に吊り下がる豪奢なシャンデリアに照らされる鮮血は、まるで皮膚の上で虹色に輝いているように見える。大変喜ばしい。指についた血塊を舌で舐めとりながら、目が自然と三日月型に細まった。

 周囲に充満する鉄錆じみた臭気でさえも、熟れた果実酒の香りにも似て芳しいものに思える。

 そうして、恍惚とした表情でひとしきり沐浴を楽しみ、ゆっくりとバスタブから上がる。

 すると間を置かず、従者(、、)によって(シルク)のバスローブがかけられた。

 それを簡単に羽織って、少し離れた所に置かれた赤モケットのアンティーク寝椅子(カウチ)の肘にもたれかかって座る。

 あの娘の死に様を先程ここから鑑賞していたが、その娯楽の代わりに今度は、サロンサイドテーブルの上に用意されている物がある。鏡のように磨かれたクリスタルグラスに注がれた、ドロリとした深紅色の液体(、、、、、、)だ。ワインの香りを楽しむ社交人のようにグラスをまわ(スワリング)して、そして唇をつける。

「……殺されたようですね、“金切り声(リゲイアー)”は」

 傍らに控えていた寡黙な従者が、何かを感じ取ったのか、徐に口を開いた。

「その話はよい」

 皆まで待たずそれを遮り、もう一口口内に含んでから言の葉を続ける。

「アレは思った以上に役に立たなんだ。(まこと)、失望させてくれたものよ。まあ……この際もうよい――」

 遊び飽きたフランス人形をくずかごに押し込むような物言いで切り捨て、次なる好奇の視線を足下、床へと落とす。

 そこにあるのは――召喚魔法陣(サークル)。ギザギザとした線が噛み合って6つの三角形を構成している。“竜の牙”の紋章だ。

 裸足の指の腹で、夥しい量の血痕が描くその赤い紋様をなぞれば、それは()の喚び掛けに呼応して怪しく発光し始める。

 そして俄に、その中心から現れ出てる存在(モノ)があった。

 それは、喰らう者(イーター)金切り声(リゲイアー)のように実体を伴わない。黒い霧の如き、澱んだ瘴気の如き姿をしている。しかしそれ自体が一個の意識を持つ生命体であるかのように棚引き、従順に主の足元に纏わりついて陽炎のように揺らめくのであった。

「――この次はどうするのか……見物ではないか。魔術師(ウィザード)にも予言者(オラクル)にも手の出せぬ(あいて)に対してな」


 狂気に満ちた、邪悪な笑みを浮かべたのは、一体誰だったのか。



「ディセンバー……。お前は私の物だ。たとえその血の一滴でさえも、全て」



「ども。遅ればせながら、自分が今回の黒幕っす(°д°)ノ」


格言は毎度こちらのサイト様から引用させて頂いております。

→《世界傑作格言集》 http://kakugen.aikotoba.jp/fear.htm


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