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トリスティアの怪しい魔法使い  作者: 安籐 巧
序章:Now Loading...
6/22

チュートリアル:ボス戦  前

笑えるのは最初だけです。

今回かなりシリアス。

*『アーマースキン』を『ライフアーマー』に変更しました。

 ソルジャートレントはアポカリプス・オンラインの上級者向けフィールドのトレントの森に現れるトレント族の戦士だ。トレント族は一様に樹木の体に一つ目がついた姿をしていてこいつらもまた例外ではない。

 トレント族の中でも近接戦闘と集団戦闘に長けた彼らはトレントの森を攻略するにあたっての最初の関門だ。上級フィールドの魔物なだけありなかなかのステータスを持つ彼らは数と連携でプレイヤーを圧倒する。

 ……そのくせ落とすのは初心者の友『トレント戦士の木剣』である。ふざけるな。


 そんなソルジャートレントが数匹、私たちを囲むように構えている。思考に没頭していたとはいえここまで近寄られるまで気が付かないとは、と地味に落ち込んでいると……


「んむー!むごー!」


 ソルジャートレントから守るために抱きかかえたアレス君からの抗議が来た。たわわに実った私の胸にしっかり埋まり息ができないもよう。とりあえず彼を離し自身は取り出した『ブラスティングロッド』を右手に構える。


「ぶはっ!げほっ、げほ」


 口を解放されてむせているアレス君は放っておいて互いに牽制しあう私とソルジャートレントたち。囲まれている状況は不利、と思いこちらからしかける。


――〈ショック・ウェーブ〉


 前方のソルジャートレントに向けて放つ、ただし狙いは地面。ソルジャートレント相手では〈ショック・ウェーブ〉はたいしてダメージを与えられないため土煙を起こし目くらましにする。いまだ復帰できないアレス君の襟首をひっつかみ反対側を突破する。


――〈スイング〉


 こちらを止めようとするソルジャートレントの攻撃に合わせ〈スイング〉で迎撃する。攻撃はそれ、私はその隙に包囲網を抜ける。


「ふげっ!」


 そこで掴んでいた襟首を離してやれば受け身も取れず地面に着地。無様な悲鳴を上げてぐったりしている。

 それを無視して再びソルジャートレントと対峙する。包囲網を抜けても数は減っていないため状況は変わらずこちらが不利である。

 とはいえこちらの動きを見て注意する必要があると思ったのかソルジャートレントも一気に襲い掛かってくるということはなかった。じりじり間合いを見ながらのにらみ合いになる。さてどうするべきか、と悩んでいると……


「きゃーーーーー!」


 建物の反対側、出口の方から悲鳴が上がる。この状況で声をあげられるのは彼女しかいまい。


「アニー!」


 さっきまでぐったりしていたのが嘘のように起き上がるアレス君。

 妹の悲鳴にすぐさま駆けつけようとしている。

 しかしソルジャートレントが建物側にいるためアニーの方にいくには奴らを倒さねばならない。

 再びアレス君の襟首をつかみおしとどめていると……


「っ!てめぇ!アニーを離せえええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 建物の陰からソルジャートレントより一回り大きいトレント族が出てきた。

 そしてそのトレント族の太い樹の手の中にはアニーが捕えられていた。そのアニーを抱える魔物もまた私には見覚えのある魔物である。


「ガーディアントレントまでいるのか……」


 ガーディアントレントはソルジャートレントよりもレベルが高いうえに能力は防御力に優れている。ソルジャートレントよりもはるかに倒しにくい敵だ。

 しかし一番注目するべきはガーディアントレント自体の強さではなく、ガーディアントレントはある魔物(・・・・)の取り巻きだということである。


(まさかあれがこの森に!)


 思い浮かんだ可能性に戦慄しているうちに状況は変わっていった。

 ガーディアントレントが森の中に消えていくと同時に手を離してしまったアレス君もまたそれを追いかけに駆け出した。

 まずい、と思うも止めることはかなわずアレス君はガーディアントレントを追いかける。途中にいるソルジャートレントはアレス君に見向きもせずそのまま見逃した。しかし自分も追いかけようとするとこいつらも動く。こいつらは私の足止め役らしい。


「なめられたものだな……!」


 足手まといがいなければこの程度の敵に遅れはとらない。アレス君を追いかけるべくソルジャートレントの殲滅を開始した。




 * * * * *




(畜生!畜生!アニーが、アニーが……)


 アニーを抱える樹の化け物を追い森を走る。あれが噂のエルディアの森のトレントなのだろうか、噂よりも圧倒的に強そうだった。


(なんでアニーに待ってろなんて言っちまったんだ!あいつがあの状況で待ってられるわけないのに!)


 俺の心は後悔でいっぱいだった。家族思いのアニーがあの状況でおとなしく休めるわけがないというのに、なかなか帰ってこない俺を探しに部屋を出ることなど自明の理だったというのに!


(アニー!アニー!畜生!絶対に守るって誓ったのに!)


 思い出すのは捕まった直後、まだ両親も一緒に牢屋に入れられていた時のことだ。お袋がアニーを抱え眠らしている横で親父は静かに俺に言い聞かせた。


『いいかアレス。俺とあいつが死んだら、アニーを守れるのはお前だけだ。お前は兄ちゃんなんだからな、しっかりあいつを守ってやれ』


 そういって俺に頼む親父の姿は初めて見るものだ。今まで親父が俺に頼みごとをするなんてことはなかった。思えばもうこのとき親父は自らの未来を予測していたのかもしれない。俺は親父が頼みごとをするということに驚きながらもしっかり約束した。


『ああ、絶対に守るよ。俺はあいつの兄ちゃんだし、男は女と約束は絶対に守らなきゃならないんだろ』


 親父によく言い聞かせられたことといっしょに誓えば、親父は一瞬驚いた顔をした後、微笑んだ。そして次の日に親父とお袋は盗賊どもに連れてかれ、戻ってこなかった。

 アニーは泣いた。でも俺は泣かなかった。約束をしたから、親父の分までアニーを守ると、そう誓った以上俺は絶対にアニーの前で泣かないと決めた。アニーの前で弱った姿を見せれば、優しいアニーは俺を頼ることを遠慮するだろうから。だというのに……


「待、待て、よ……。アニーを、アニーを離せ、よ……」


 森の中で化け物を追いかける。それは想像以上に過酷だった。

 木々は生い茂り月明かりを隠し足元はよく見えない。さらに化け物を見失わないためには前を向かなければならず、そのせいで幾度も転び体力を消耗した。

 そして同時に気づいた。あの化け物は明らかに俺を誘っている。俺が追えるぎりぎりの速度で走っているくせに、俺が転んだ時は俺が見失わないぐらいの速度に調整している。

 アニーを餌に俺もいただこうというのか。けれど追いかけないという選択肢は存在しない。


 「はぁ、はぁ、ア、アニー……、ぜぇ、ぜぇ」


 もはや一歩も動けなくなりそうな疲れが全身を覆うなか、ついに化け物は目的地に着いたようだ。


 そこは森が円形に開かれたような場所だ。木々どころか下生えすらなく土がむき出しである。その円形の中央にはアニーをここまで運んできた化け物が小さく見えるほどの大樹があり……



   大樹の幹の中央が割れ血走った目がこちらを睨んだ。



 死んだ。

 一瞬比喩抜きで自分が死んだように感じた。向こうは単にこちらを見ただけだろう。しかしそれだけで俺の心臓が止まってしまいそうになるほどの重圧を感じた。


 「くくくく、今度の贄は子供が二人か……。悪くないな、悪くないぞ」


 重厚感のある声が周囲一帯に響く。どうやらあの大樹が喋っているらしい。不気味な目の下に裂け目ができている。おそらくは口なのだろう。

 それよりも今奴は何と言ったか、贄と聞こえたが。


 俺が呆然としているうちにアニーを抱えた化け物がこの広場の一角に近づく。俺は化け物が進む方向を見て……


    一瞬完全に思考が止まり、次に今までにない激情が心から湧き上がる。


「お、親父ーーーーーーーーーーーーー!!」


 広場の一角は何かが小山をなし、その小山からは若い木が生えていた。しかしよく見ればその小山は人の死体であり、そしてその頂上には親父とお袋が変わり果てた姿でいた。


「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 激情のままに駆け出す。狙いはアニーを運ぶ化け物か、それとも親父の骸に生える木だったのかは俺にもわからない。どちらにせよ、俺は途中で大樹が飛ばした葉が刺さり倒れ伏してしまったからだ。


「ぐ、ぐぎ……、げ……!」


 体に力が入らず立ち上がるどころかまともにしゃべることすらかなわない。

 大樹が飛ばした葉には麻痺の効果があったのか、そういった毒を持つ植物系モンスターは確かに多い。


「まったくもって煩わしい小蠅だな。せっかく我が機嫌よくしているというのに……」


 忌々しそうな調子で大樹が声を出す。

 小蠅とは俺のことだろう。だがどういわれようと譲れないものがある。


「ぐ……!い、いも…………う、とを……、ど……す、る……」


 首を少し動かすぐらいが限界でまともに言葉を紡げない。

 どんなに絞り出してもまさしく蠅が出す程度の声量しか出なかった。

 しかし大樹はしっかり聞こえたらしい。樹の表情などわからないが、こちらをあざ笑っている雰囲気はひしひしと伝わってくる。


「どうする、か。くくくく。まあ、どちらにせよ貴様もそこの女も同じ運命だから我が親切に教えてやろう。貴様らは我らの子の苗床となるのだ」


 そういって大樹の枝の一本が動き小山を指す。

 あの小山に生える木々はそれの一本一本がトレント族であり、死体はそれの肥料である、と大樹は笑う。


「忌々しき人間どもを根絶やしにし世界を神に捧げるために、我が眷属の数を増やすのだ。やはり餌となる苗床があった方が数が増えやすいからな」


 一本一本が人よりはるかに太い枝を激しく揺らしながら大樹は叫ぶ。


 それを聞いて俺は思う


   ふざけるな。


ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!


 親父を、お袋を、アニーをたかが(・・・)そんなことのために殺そうというのか!


 そう叫んでやりたいが、しかし体は動かない。


「そのためにこの森に迷い込んできよった愚か者に我が眷属の武器を与え外から人間を運ばせた。ひじょうに上手くいったぞ。奴らは我欲にまみれ己らの行動がいかなる結末を招くか全く考えなかった。おかげで我が眷属はここまで増えた!」


 その叫びに呼応するように全周囲からざわざわと葉がすれる音が近づいてくる。一つ一つは小さな音だろう。だがそれが幾千、幾万と重なることで嵐のような轟音となる。まるでこの森の木々すべてがトレントになっているかのようだ。


「もはや我が世界を支配する時代はすぐそこだ!手始めにこの近くの都市を我が眷属たちで陥落させ、そこの人間たちを苗床にしさらに我の眷属は増える!もはや人間にこの流れは止められん!」


 話しながら興奮しているのだろう、大樹が奏でる葉音は周囲を囲む幾万のそれよりも大きい。


「さあ、ここまで親切に話してやったのだ。後はおとなしく眷属の苗床になるがいい」


 その声とともに立ち止っていたアニーを抱えた化け物が動き出す。

 さらには同じ化け物が一体自分にも近づいてきた。


 アニーが殺され苗床になる。そんなことは許容できない。


 しかし心がどんなに訴えようと体は全く応えない。


 化け物が進むたび、妹と自分の死期が近づいている。


 それがわかってもなにもできない自分を殺したくなる。


 そして祈りだす。誰でもいい、悪魔でもいい、妹を助けてほしい。


 たとえ何を代償にしても妹を助けられるのなら構わない、その祈りに応えるように……



 天より氷の槍が降り注ぐ。槍は二体の化け物の腕と幹を貫き絶命させた。




 * * * * *




 ソルジャートレントを倒しローブに着替え終えたころにはアレス君はもう見えなかった。

 しかし方向はわかっているし、予測が正しければガーディアントレントが行く先には必ず()がいる。


――〈フライ〉


 飛行魔法で木々の上に出る。魔力の消耗を度外視し高く上り()を探す。


 そして目立つ位置にそれはいた。


 やはりアレス君が消えた方向、その先に木々がなくなり土がむき出しの広場がある。そしてその中央にはほかの木々と比べものにならないほどに巨大な樹があった。


 エルダートレント・ロード!


 老いたトレントであるエルダートレント、その中でも特に力を得た森の王。

 アポカリプス・オンライン内ではあくまで倒されるためのボスにすぎなかったそれがここでは悠然とそびえたつ。その威容は画面越しでみるそれとは比べものにならない。

 目立つ目印めがけて飛ぶ。エルダートレント・ロードは機嫌よく大きな声で語るため空の上のこちらまで声が聞こえてくる。その内容はやはりこの魔物はゲームのそれと同じとは考えない方がいいと確信させるものだ。


 トレント族を植林して森を広げる……。ゲームじゃありえないな……


 エルダートレント・ロードの声に呼応し周囲からトレントが集まってくる。トレントは森の中においてはレーダーを無効にするステルス性能を持つが動けばそれは消える。

 いま私のレーダーは周囲一帯を覆い尽くすトレントの反応で埋め尽くされている。


(なんだこの数は!千や万ではきかないぞ!)


 周囲一帯を比喩抜きで覆い尽くしているのだ。さすがにこの森の木々すべてという訳ではないものの、かなりの割合でなり代わっていたと思われる。おそらくはトレント族の中でも最弱のレッサートレントだろうがこの数は異常だ。

 そうこうしているうちに大演説は終わる。アレス君とアニーちゃんが殺される。


――〈ピアースアイシクル〉


 発動するのは五等級魔法〈ピアースアイシクル〉。生み出された五本の氷柱の槍は狙いたがわずガーディアントレントたちを殺害する。

 〈フライ〉で出せる最大のスピードで下降する。死んだガーディアントレントの腕からアニーちゃんを救いアレス君のもとへ向かう。


「ア、ニー……、ア……」


 まともにしゃべれなくなっている。おそらくは植物系モンスターがよく持つ麻痺毒の効果だろう。ゲーム内ではただキャラが動かせなくなるだけのそれだが、リアルになればそれは死に至らしめられる攻撃手段だ。すぐにアイテムボックスから麻痺ポーションを取り出し口に突っ込む。


「っ!ぶぐっ!うげほっ、げほっ!」


 いきなり突っ込んだため咽ているが動けるようにはなったようだ。それを確認しアニーちゃんを地面に横たえる。


「ア、アニー!アニー!しっかりしろ!アニー!」


「………………お、お兄ちゃん?」


 まだしびれが残る体で必死に妹を揺さぶり声をかける。ただ気絶させられていただけなのだろう、すぐに兄の声に反応した。


「アニーっ!よかった、生きててくれて、本当に……」


「お前だな、我が用意した盗賊どもを皆殺しにしたのは」


 エルダートレント・ロードが殺気を含んだ声で私に話しかけてくる。直接向けられたわけではないアレス君も完全に固まってしまっている。私もこの世界に来てから味わったことのないほどの重圧に耐えかねていた。


 これが上級ボスの殺気……。戦闘時は冷静になるとおもったけど、あくまで圧倒的な戦力差を察知したからこその余裕ってだけだったのか……


 この世界に来て初めての今の自分を殺しうる者からの殺気。自分が面白いくらいに動揺していることがわかる。とはいえ、動揺している理由はエルダートレント・ロードの殺気だけではないのだが……


「ふん、興ざめだな。眷属たちが警戒しているからどれほどのものかと思えば、我の殺気に震える程度のものとは……」


 今、自分は震えているのか。それすらわからなくなっていた自身の動揺ぐあいを自覚する。


「我が出るまでもない。行け、我が親衛隊」


 周囲の木々からガーディアントレントが十数匹も出てくる。ゲーム内では五匹だけだったというのに……

 呆然としていても敵は待ってくれない。ガーディアントレントたちは巨体に似合わぬ俊敏さでこちらに迫ってくる。


「くっ!」


――〈ピアースアイシクル〉


 急いで足止めするために魔法を放つ。放たれた氷柱は何匹かにあたるが絶命させることはできなかった。少し足を止めるものの、植物系モンスターは痛覚がないためそのまま進んでくる。


 失敗だった!この距離なら詠唱してもいいから上級魔法でいっきに決めるべきだった!


 こんなところにも自分の動揺が見えてくる。このままでは奴らはそのままこちらへたどり着くだろう。それではアレス君とアニーちゃんを巻き込んでしまう。


「ちっくしょう!」


 不利を承知の上で前に進む。二人がいる場所から離れた場所で奴らとぶつかるしかない。この時ばかりはタンカーの職業を選ばなかった過去の自分がうらめしい。


「はーーーーっ!」


――〈フルスイング〉


 〈スイング〉の威力が向上した〈フルスイング〉で接敵したガーディアントレントを殴る。しかしソルジャートレントと違い防御力に特化したガーディアントレントは倒れない。


「ぐぶっ!」


 むしろ逆に後ろに回った個体に殴られた。この世界に来て初めて感じた痛みはとてもひどかった。真後ろから腰のあたりを殴られて空を飛ぶ。まるで体を両断されたかのようにも感じた。


「がはっ!ぐっ!があああぁぁぁぁぁ!」


 倒れ伏した私にもガーディアントレントたちは容赦しない。私を囲みひたすらに殴打する。激痛が全身を襲い、何度自身の死を錯覚したかわからない。

 しかし不思議なことに痛みを感じるものの、肉体には具体的な欠損はなかった。


「ふん、『ライフアーマー』か……。忌々しいものだ」


 エルダートレント・ロードが何かいっているが自分の頭には入ってこなかった。


 エルダートレント・ロードはこの世界の人類を滅ぼそうとしている……


 頭に浮かぶは先ほどの演説と数多のトレントたち。


 そんなところに偶然(・・)私が現れた?


 この世界に来たときから考えていた疑問。はたしてこれは超自然的現象なのか、あるいは何者かの意図による人為的なものなのか。

 超自然的な現象だというなら悪魔的偶然としか言えないだろう。しかしそう仮定するよりもっと説得力のある仮説がある。


 何者かが私をこの事態に対応させるために呼び出した。


 そう考える方が自然だろう。異世界の危機に偶然超常的な力を持った英雄が偶然来たというより、誰かが危機に対応させるために呼び出したといった方がよっぽど信用できる。この世界には魔法という不思議な力があるのだ、不可能とは言い切れない。


 なら、私があの少年たちを助けて、こうしてエルダートレント・ロードの前に立っているのは誰の意志なのか?


 実は自分で考えているように錯覚しているだけで何かが自分を操作しているのではないか。体がごっそり変わっているのだ、被害妄想などと笑っていられない。


 だとしたらこの苦痛に耐えながら戦うことに意味はあるのだろうか? すぐにあきらめて楽になるのが一番賢い選択しなんじゃないだろうか? 


 痛みからか、それとも精神状況からか視界が暗くなったように感じる。

 殴り続ける樹の腕がうっとおしいのは変わらないものの、それに抵抗しようと思う気持ちが萎えていく。


「随分と頑丈な羽虫だな。いい加減に飽きてきた、我が直接やってやろう。貴様ら、そいつの両腕をもて」


 ガーディアントレントが私の両腕を持ち引っ張る。

 まるで十字架に張り付けられた生贄のようなかっこうだ。

 エルダートレント・ロードの尖った枝が一本こちらに向けられる。


「わが腕で直々に貫いてやる。いかにお前の『ライフアーマー』が頑強だろうと我の一撃なら確実に貫ける」


 『ライフアーマー』?と疑問に思うがすぐにそれもどうでもいいや、と思い直す。次の一撃で私を殺すつもりなのだろうが、もはや何もやる気にならない私にはどうでもいい。こうやって抑え込まなくてもおとなしく貫かれることだろう。


「我が腕にかかり死ねることをあの世で誇るがいい!はぁっ!」


 エルダートレント・ロードの腕が飛ぶ。

 伸ばすんじゃないんだ、とあほなことを考えてしまい笑ってしまう。

 そんな薄く笑った私に死を与えるべく一撃は迫り……















             間に入ったアレス君を貫いた。






 書き直したらあまりに長くなりすぎたので前後に分けます。

 後編は明日の12時ごろ更新予定。


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