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トリスティアの怪しい魔法使い  作者: 安籐 巧
第一章:自由交易都市トリスティア
15/22

第六話 怪しい姿

 前話においての感想数の少なさ、みなさんは私にこう言いたいんですよね。


野郎アレスなんてどうでもいい、とっとと濡れ場(風呂でアニーにいじられるヴィヴィアン)を書け」


 そうだよね!


10/16 擬音が不評のために差し替え。

 町を出て全力で走り続けた。

 ひたすら走り続けて走れない場所は空を飛び気配の方向に一直線に進む。

 途中から森の中に入ったが、そこでは飢えた魔物たちが襲い掛かってきた。

 さて戦闘風景のダイジェスト。


 キシャーーー!


「邪魔!」


 杖を叩きつける。



 ギャオオオ!×複数


「お前ら邪魔!」


 杖を振り回しながら走る。 


 魔法使いとは思えない戦闘である。レベルを上げて物理で殴る、それだけである。

 飛びかかってきたところをカウンター気味に叩き落とすだけで十分だった。

 見晴らしの悪い森の中とはいえ私にはレーダーがあるがゆえに不意打ちは意味がない。

 ゲームではそれをごまかす能力、ハイディングを持った敵も結構いたのだがここらにはそういった魔物はいないらしい。

 さらに言えばこのあたりの魔物は対して強くなく、ひたすらに魔力を伸ばしていた私の筋力でも殴り倒せるレベルだ。

 回復薬で回復できるとはいっても魔力の消費は抑えるべきなので助かる。

 木々が茂り、そのうえ夜にさしかかりさらに暗くなった森の中をひたすらに走った先には洞窟があった。そしてアレス君の気配はこの洞窟の中だった。


 洞窟とはいっても入口は岩や草などによって偽装されていて、注意深く観察しなければ気づけないようにされていた。

 さらには魔物も周囲にいるためにここを発見するには最初からあたりをつけて探さなければ不可能だっただろう。

 床は斜めになっておりだんだん地下に降りていく形だ。

 入口から見る洞窟は奥の方は暗くなっており良く見えない。

 夜にさしかかりさらに深くなった森の暗さと相まってとても不気味である。

 そんな洞窟の中に私はためらいなく飛び込んだ。





 そんな洞窟であったが明かりがないのは最初の方だけであった。

 少し進めば壁に光る魔具が取り付けられ明かりが取ってあった。

 さらにはところどころに木箱などが置いてあったりしている。


「……ぉ…………てだ……から……」


「いや……ょうのい…………」


「っ!」


 これはまずい!

 進んでいるうちに人の声が聞こえてきた。

 まだ遠く離れているために聞こえづらいが確かに人の声だった。

 近くの木箱の間に無理やり入り込み、気休め程度だが見つかりにくいようにする。

 さすがに木箱をかぶっているほどの余裕はない。


「…………ったく、早……ん…任務…………かね。こん………な穴倉にこも…………れの面倒……るなんて嫌になるってんだ」


「まあ………うなよ。こ……務が成…………当評価が高……るはずだ、な………の邪魔な都……滅………んだからな」


 話声はだんだん近づいてくる。

 自分の心臓も音が聞こえそうなぐらいばくばくいっているのがわかる。

 たとえ力があってもこういう時には不安になってしまうものだ。

 そしてついに彼らが私のすぐそばにまで近づいてきた。


「そうなればあの巫女姫様にもお会いできる機会があるかもしれないぞ。毎日こんな暗い場所で暗い上司の顔を見てるよりもよっぽどいい日々になりそうだ」


「おいおい、誰が聞いてるんだかわかんねえんだから口は慎めよ。あの上司様はプライド高いんだからさ」


 任務、本部、上司。

 彼らはどうやら何かしらの組織、それもそれなりに大きなものに属しているのだろう。

 彼らはそれから任務を受けてここにいるらしい。

 だとしたらその任務とはなんなのか?

 彼らは傍にいる私に気づかずに話を続けている。


「暗い顔ってとこ否定しない時点で同罪だろ。リルガン様の実力は疑うべくもないんだが、あの性格がなあ……。すさまじくプライド高いうえにねちっこいからなぁ、あの人に目を付けられた奴は悲惨な最期を迎えることでも有名だし……」


「あの方の禁呪は本当にすさまじいからな。どんな強かろうとリルガン様に目を付けられたら終わりだろうよ」


 上司の名前はリルガンというようだ。

 そいつはただ単に階級が上というだけではなく力、それも魔法に秀でているようだ。

 禁呪なんてものはゲームでは聞いたことがないがいったいどういう……


「今回娘といっしょにさらったあの少年も哀れなもんだな。今頃はきっとさぞひどい目に……」


 アレス君!

 まさに自分が探しているアレス君の事らしき情報を話し始めた男たち。

 先ほどまでも集中して聞いていたが、今までよりもさらに聞き逃せない情報に思わず身をのりだし……

 ガチャン、と陶器が割れる音が響いた。


「なんだ!」


「どこから聞こえた!」


 うわっ、うわわわっ!

 狭い木箱の隙間で動こうとしたせいで、木箱が揺れて上に載っていたものが落ちたらしい。

 おかげで何かあると思った彼らが慌てだしたのがわかる。

 と、とりあえず自分もどこか別の場所に……


「貴様っ!何者だっ!」


 移動しようと飛び出したところをすぐ近くに来ていた男たちに見つかった。

 そりゃもう近くまで来てんだからこうなって当然である。

 どれだけ慌ててるんだ、それも現在進行形で。


 目の前に現れた男二人は黒いローブをしっかり着込んでいる。

 さらにはそのローブについている同色のフードもしっかり被っていて、うん、なんか最近見慣れてきたあるものに似ているというか……


「この怪しい奴め!」


…………………あー。


 一歩で近づき男の懐に飛び込み、


 反応できていない男にしっかり狙いを定めて、


 持っていた『ブラスティングロッド』をよりしっかり握りしめて、


 全身全霊を込めて顔に叩き込んだ! 


 失礼なことを叫んだ男は吹き飛び、いっしょに来た男を巻き込み壁にぶち当たり大きな音を立てた。

 男たちがたたきつけられたあたりには蜘蛛の巣のようにひびが走りぱらぱらと石片が落ちている。

 うん、我ながらやり過ぎ。

 確かに自分が怪しい格好という自覚はある。

 あるけども、さすがに同じような格好の誘拐犯に言われるのは我慢ならない。

 おかげで反射的に全力でぶん殴ってしまった。

 最初の音は私が全力で近づいた音であり、次は杖でぶん殴った音、さらには吹き飛んだ男が壁に叩きつけられた轟音が続き、最後は叩きつけられた洞穴の壁が崩れる音だ。

 魔法使いといえどカンストレベルならばその腕力は馬鹿にはできない。

 今装備している杖は接近戦でいろいろボーナスがつく物なのでなおさらなのだ。

 道中魔物相手にもいかんなく発揮された腕力は人が相手であろうといかんなく発揮された。

 おかげで男は崩れた壁に埋もれながら完全にのびてしまっている。

 とりあえず死んではいないようだ。


「なんだ!何があった!」


「こっちだ!今の音はこっちの方からだ!」


 しかし今の攻撃で起こった轟音がほかの人にも聞こえてしまったようだ。

 ばたばた慌ただしく走る音が近づいてきている。

 今は一回キレたおかげで比較的落ち着いて思考できる。

 さてどうするべきか、シーフ系に見られるような隠匿系のスキルなど持っていないしそれに類する魔法も持っていない。

 しかしここから撤退するという選択肢はありえない。

 アレス君の気配は奥から感じるから進めば見つかることは間違いないだろう。

 ならばどうするべきか……


「なんだこれは!いったい何が……!」


「貴様何者だ!」


 そうこう考えているうちに今さっき倒した男の仲間らしき奴が来てしまった。

 二人組のさっきの二人と同じような格好の男たちが手に武器を持ち現れた。

 しかしたった二人である、これならばなんとか……


「怪しい奴め!」


――〈ショックウェーブ〉


「グハッ!」


「なっ!」


 ブラスティングロッドの能力で衝撃波を飛ばす。

 杖から放たれた衝撃波は狙いたがわず私に不本意な言葉をのたまった怪しい格好の男を直撃する。

 さきほどの光景の焼き直しのように吹っ飛び壁に叩きつけられ動かなくなった。


 うん、またやっちまった。でも後悔はしていない。

 さすがに同じような格好をした誘拐犯に言われるのは我慢ならない。

 さっきも同じことを言ったが大事なことでもう一度。

 同じような格好の誘拐犯に言われるのは我慢ならないのだ!


「何が…………、ガフッ!」


 いきなり吹き飛んだ仲間に気を取られた男に一瞬で近づき再び杖をフルスイング。

 もはや慣れてきた叩く感触を感じつつ杖を振りぬく。

 結果は言うまでもなく、後に残るのは気絶した男が三人だけである。


「さて……」


 完璧に気絶した男たちはしばらく起きないだろうし、目覚めたところでまともに動けないだろうが放置すると後でどう悪影響になるかわからない。

 ここから出る時にはアレス君とリシアちゃんを連れて歩かなければならないのだ。

 こいつらを放置しておけばその時妨害に来るかもしれないため、ここで魔法を使い動きを封じておく。


「〈アイスロック〉」


 〈アイスロック〉は九等級という低いレベルの拘束魔法だ。

 最近は無詠唱で行うばかりだったが今回はそれを詠唱省略で行う。


 魔法を発動させる方法には普通に詠唱、詠唱省略、無詠唱と三通りの方法がある。

 普通に詠唱はそのままの意味であり、詠唱省略は長い詠唱を省略して短い時間で使えるようにしたもの、そして無詠唱は詠唱自体をしない形だ。

 詠唱省略と無詠唱の違いは詠唱があるか否かであり、詠唱省略の場合短いながら詠唱があるため攻撃されれば魔法は発動しなくなり、さらには相手に次に来る魔法を教えてしまう。

 その代わりに無詠唱ほど魔力消費は大きくないし必要な技量(レベル)も低い。

 今ならまわりから妨害されることもないので詠唱省略で行った方が魔力の温存になるからいいのだ。


 そしてその結果倒れた男の手足が氷に覆われていく。

 地面に張り付く形の氷は分厚いうえ硬く、彼らが起きて力をこめてもまったく問題ないだろう。

 それを四回繰り返せばもはや彼らは私が魔法を解くまではどうしようもない状態になる。

 大した手間ではないが一息をついたところでまたばたばたと音が聞こえてきた。


 まだ遠いが確実に人が近づいてきている。

 しかしアレス君の気配がするのもまた同じ方向である、だからこの足音の主たちとは必ず出会ってしまうだろう。

 気づかれずにアレス君を見つけるのは不可能、ならば敵が私の狙いに気づく前にとっととアレス君を確保しなければならない。

 ゆえにこれから先は急がねばなるまい、そう決意を固め走り出す。





「貴様!怪しい奴め……」


 横っ面を張り飛ばすように杖を振りぬく!


「こっちだ!こっちに怪しい格好の……」


 顎下から救い上げるように杖を振り上げる!!


「あや……」


 顔面のど真ん中を貫くように杖を突きだす!!!


…………………………。

 さっきから出会うやつらが私の事を怪しい奴としか言わないのだがどうすればいいのだろう。

 おかげで出会った連中は例外なく必要以上の力で壁に埋まることになってしまった。

 殴る+〈アイスロック〉のコンボにより無力化させながら走る。

 時折道が分かれている箇所もあったがひとまずはアレス君の気配を感じる方向にまっすぐ進んでいく。


 入口付近はところどころに松明をつけている程度の場所であったがだんだんと模様をつけた扉があったり、明かりが装飾つきの燭台になったりと雰囲気が変わってくる。

 それなりに奥の方に来たということだろう。

 とはいっても次々に出くわす黒ローブは変わらず一撃で昏倒させているわけだが。


 そうして走っているうちにアレス君の気配はすぐ近くになっている。

 後もう少し、というあたりで再び見慣れた黒ローブが現れた。

 現れた黒ローブは手に持った棍棒を……


「グブゥ……」


 持ち上げる前に私の杖が腹にめり込む。

 アレス君の気配は本当にすぐそばまで近づいているのだ、こんな奴にかまっていられない。


「今日は、厄日、か…………」


 なんだかしゃべっているが無視して進む。

 進む私の前に金属製の扉が目に入った。


「なんだ私の楽しみの間は静かにしていろと言っていただろうに。いったい何事だ!何があった!」


 扉からそんな声が響く。

 そしてアレス君の気配もまたその中から感じられて……


「いた……!」


 急いで扉を開けて踏み入ればそこには探していたアレス君の姿があった。


「ほう、何者かは知らんがここまで来るとはなかなかの腕のようだな」


 だがアレス君は無事とは言い難い格好でもあった。

 手は後ろ手に縛られて地面に転がされている。

 さらには黒ローブの男がアレス君の頭に足を乗っけている。


「っ!だが私は『傀儡師』のリルガン、貴様がそこらへんで戦った信徒どもとは格が違うのだ。むろん貴様ともな!」


 狭苦しい部屋に頑丈そうな扉、ここは牢屋代わりの部屋なのだろう。

 しかしアレス君以外の人影はないようだ、いっしょにさらわれたというクライドさんの娘さんはいったいどこに……


「っっっ!!!おい貴様、私の事をいつまで……」


「うるさい」


「ゲブゥッ!」


 考えている最中にうるさい何かをぶん殴る。

 何かのたまっていた黒ローブさんは道中の黒ローブと同じように吹き飛び壁に叩きつけられた。


「ぐぅぅぅ……。貴様、そのなりで……」


――〈ショックウェーブ〉


「ゲボォッ!」


 しかし自信ありげにしていただけのことはあり一撃で気絶とまではいかなかったようだ。

 微妙にぷるぷる震えている足で立ち上がる何とかさんに追撃の〈ショックウェーブ〉を放つ。

 さすがにふらふらな状態への追撃はきつかったらしく倒れたままうめいている。


 倒れた傀儡の人は捨て置いてアレス君を縛る縄をほどく。

 ナイフがあればすっぱり切るのだが今は持ってないから手間をかけることになった。

 魔法で切るとなったら切れ味が良すぎて余計な物まで切りかねないので怖い。

とりあえず帰ったら武具屋でナイフを買おうと思う。


「大丈夫かアレス君?」


「だ、大丈夫です。けどリシアが……」


 ここにはアレス君を探しに来たわけだが、クライドさんの娘を置いていくわけにはいかない。


「アニーちゃんから話は聞いている。リシアちゃんはどこに?」


「さっきこいつがここにいるとしゃべりました。けど、どこにいるかは……」


 そういい力なくうつむく。

 正直に言えばアレス君といっしょに閉じ込められているものかと思っていたのであてが外れた。

 この洞窟はそこそこ広いうえに道中もいくつかの分かれ道や扉を見過ごしてきた。

 さすがにすべてを探すとなると時間がかかりすぎる。

 ならばここは知っている人に尋ねるべきだろう。


「ヴィヴィアンさん?」


 私の雰囲気が変わったのを察して声をかけてくるアレス君。

 それを無視して倒れているリルガンに近づく。


「ぐうぅぅぅぅ…………、この……、俺が……!」


 リルガンはあれだけ攻撃されたにも関わらず、意識ははっきりとしているようだ。

 以前試した時には樹をへし折った〈ショックウェーブ〉が直撃したというのに傷らしい傷は見えない。

 おそらくはこの男も『ライフアーマー』を持っているのだろう。

 とはいえ立ち上がれない様子を見るにダメージは零ではないようだが。


「おい」


「はっ、なんだ。話すことなど何も……」


 無言でこぶしを近くの岩壁に突き立てる。

 相手の言葉を遮るように轟音が響いた。

 牢屋の壁を生身の拳で殴り砕いた音は想像以上にやかましかった。

 岩を殴れば自身の手の方が傷つきそうなものだがこの体はその程度ではびくともしない。

 とはいえ『ライフアーマー』が削れた感覚があったのでこれからは自重しよう。


「ひぃ!!」


 まさか拳で殴り砕くと思っていなかったのだろう、驚きと恐怖の入り混じった顔でぱらぱらと降る砕かれた壁の破片を体に浴びるリルガン。

 そんなリルガンに対して淡々と告げる。


「私が知りたいのはお前たちがさらったほかの子の行方だ。いう気がないならその気になるまで殴らせてもらう。お前の『ライフアーマー』はもう限界だろう、どれくらいの間耐えていられるか、試してみるか?」


 『ライフアーマー』はダメージが許容量を超えれば効果を失うそうだ。

 そうなれば長時間休まなければ『ライフアーマー』は元に戻らないらしい。

 しかも『ライフアーマー』が消失した場合には体に力が入らず、魔法やその他のスキルの類も使えない、いわゆる戦闘不能状態になるのだ。

 つまりは今のリルガンはまな板の上の鯉だ。

 

 それがわかっているためかどんどん顔色が悪くなっていく。

 あまり時間はかけられないためさらに畳み掛ける。


「しゃべるには口があれば充分だからな。まずは……」


「お、奥だ!こいつといっしょにさらった女はこの洞窟の奥に閉じ込めてある!」


 意識的に冷たい目で片足を見やれば、リルガンは震えながら情報を吐いた。

 彼は震えながらその方向を指差す。

 どうやら入り口とは反対方向、言った通りに奥なのだろう。

 何発か殴る羽目になりそうだったので拍子抜けである。

 というよりあっさり過ぎて嘘の可能性を考慮せざるを得ない。


「う、嘘じゃない!本当に奥に閉じ込めてあるんだ!!」


 こいつ嘘いってんじゃないだろうな、と思いながら見やればその感情を察したのだろう。

 私の顔で見える場所は目だけなのでなおさら苛立ちがわかりやすかったのかもしれない。

 必死に本当のことを言っていると主張してきている。


 まあこいつが正直に言っているか確認することはできないし、あったとしても時間がもったいない。

 仮に嘘を言われているなら虱潰しに探す羽目になるだろうがこれまでであったような連中ばかりなら何の問題もない。

 唯一心配なのはアレス君やリシアちゃんが人質に取られることだけである。


「アレス君、いっしょについてきて。彼女を助けに行くから」


「あ、ああ」


 その危険を少しでも減らすためにアレス君にはいっしょについてきてもらう。

 ここまで来るまでに見つけた男たちはすべて昏倒させているが、全ての道を確認したわけではないので残っている奴がいるかもしれない。

 ここにアレス君を置いておくとまた捕まる可能性もある。

 それなら戦いの中でも、少なくとも私の手の届く範囲に居てもらった方が安全だろう。


――〈アイスロック〉


 とりあえずリルガンの手足をこれまでの男たち同様凍らせておく。

 こいつには私の目標を知られてしまったのでほかの奴らと合流させるわけにはいかないのだ。


「行くぞ、アレス君」


「…………」


「アレス君?」


「……はい、お願いしますヴィヴィアンさん」


 アレス君が覚悟を決めるように自身の頬を叩いた。

 それを見やりながら私は走り出す。

 後ろにアレス君の気配を感じながら岩壁の道を駆け抜けた。




 * * * * *




「くそぉ、この私が……!これほどの屈辱をぉ…………!」


 あまりの屈辱に怒りが収まらず歯ぎしりをしてしまう。

 灰色のローブを纏った男と少年が走り去って部屋には私しか残っていない。

 だが私の体を覆うこの氷は今まで見たことのある〈アイスロック〉とは比べものにならないほどに硬い。

 いくら暴れようともこの氷から抜け出すことはかなわないだろう。

 さらには氷の枷は抜け出そうともがくものを冷気で攻撃する。

 下手に抗おうとすればそのまま凍死体になるだけだ。


 しかし〈アイスロック〉は抗おうとしない者に対してはただの枷でしかない。

 そしてこういった枷の魔法は術者が死ぬと同時に効果が切れるものだ。

 それならば私が何かをする必要はない。

 なぜなら……


「くくく、もうすぐあれ(・・)の食事の時間だからなぁ……。奴らもそれで……」


 あの小娘は今祭壇に置かれている。

 今日のこの時間にあれ(・・)は我らが捧げる供物を食べにくる。

 あれ(・・)は獲物を分けることなどありはしない、もしこの時間に祭壇に入ってしまえば、たとえ我らが同士であろうと問答無用で食い殺されるだろう。

 つまりは奴らも容赦なく喰われるだろう。

 そしていかに強かろうとあれ(・・)にはかなう筈もないのだ。

 だからこそさらった娘の位置を正しく教えてやったのだ。


「くくく、お前らの死に顔が見れないことだけが残念だよ、あははははははははははははは!」


 これだけのことをしてくれたあの男に手ずから復讐してやれないのは残念だが、あれ(・・)に目をつけられた時の奴らの顔を想像するだけでも十分だ。

 狭い部屋の中、私の笑い声だけが響いている。



  NGシーン


「おい」


「はっ、なんだ。話すことなど何も……」


 バキィ!


「ゲハァッ!」


 全力でリルガンの顔をぶん殴る。


「え、あ、あの……、ヴィヴィアンさん?」


 アレス君が引き気味に話しかけてくるが気にせず殴る。


 バキッ、ドゴッ、メキャッ、ドゴォッ…………


「お前が、しゃべるまで、殴るのを、止めない……!」


 メキィッ、ベキャァ、バキャ、ガンガンガスッ、ベキ、グチャッ………………

 

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