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トリスティアの怪しい魔法使い  作者: 安籐 巧
第一章:自由交易都市トリスティア
12/22

第三話 『ライフアーマー』と魔具

前話からストーリーが変わってます。



 『歓喜の魚亭』の一幕から一晩が過ぎ、私は早朝の人の少ない通りを歩いていた。

 朝起きたときや、こうして歩いているときにふと寂しさを覚える。

 それはしばらく一緒に過ごした兄妹がいないせいだろうか。


 我ながら何を甘えているんだか……


 あの二人は私に一方的に助けられたように感じているのかもしれないが、私もまた彼らにかなり助けられていたということだろう。

 異世界から来たというこの世界で誰一人として知らないという状況で、ああいった純粋に好意でつきあってくれる子供たちに出会えたことは、かなり私の精神衛生上助けになっていた。

 仮に彼らに出会わなかったら自分の体への違和感やら何やらで絶対に落ち込んでいただろうから。


 しかしだからといって彼らとずっと一緒にいることは考えられない。

 私の目的は地球への帰還であり、そのためにこの世界のボスモンスターを討伐することである。

 そのためにはいろいろな所へ旅をする必要があるだろう。

 それに彼らをつきあわせることなどできない。


 というより元の世界に帰るということは彼らとは別れるということである。

 別れるための旅なのに寂しいからついてきてほしいなど本末転倒だろう。


「…………。でも、様子を見に行くくらいなら……」


 ぽつりと呟く。

 自分でも煮え切らない態度だと思うが気になってしょうがないのだ。


 別れ際にまたね、と言ったしな。


 そこまで深く付き合わずとも時々会いに行くぐらいなら問題ないだろう。

 一通り用事を済ませたらあの宿屋にアレス君たちに会いに行こう。

 そう予定をたてながら人の少ない通りを歩いた。




 * * * * *




「おはようアニー」


「…………おはよう、お兄ちゃん」


 ヴィヴィアンさんと別れて一晩が経ったが、アニーが予想以上に落ち込んでいる。

 昨日の夜もいろいろ話したがだからといってアニーの落ち込み具合が良くなるかといえばほとんど変わりない。

 というか悪くなってる。


「あー……。元気出せよアニー」


「うん……」


 しかしアニーは肩を下げたまま暗い声で返事をする。

 だめだこりゃ、俺にはどうにもならんね……


「アニー、別にヴィヴィアンさんと会えなくなったわけじゃないんだ。あの人もしばらくはこの町にいるだろうし今度俺たちからでも会いに行こうぜ。たぶんクライドおじさんが教えた宿に泊まってるだろうしな」


「…………そうだね、そうだよねお兄ちゃん」


 ようやくいつもみたいな会話になる。

 まあヴィヴィアンさんも今日で冒険者カードを手に入れられるだろうし、そうなればこの宿でいっしょに泊まるよう説得しやすくなるだろう。

 アニーがこうなった原因はヴィヴィアンさんにもあるのだし、彼女には頑張ってもらいたい。


「んじゃ、食堂行こうぜ。朝飯はもうできてるだろ」


「わかった」





「あ、アレスにアニーじゃない」


 部屋を出た俺とアニーにそう声をかけてきたのはクライドさんの娘であるリシアだ。

 俺と同い年の彼女は猫獣人の特徴たる耳と尻尾を立てながら近づいてくる。


「ひさしぶりリシア」


「お久しぶりです、リシアさん」


「うん久しぶりね。それと、聞いたわ、おじさんたちのこと……」


 そういい目をふせるリシア。

 昨晩のうちに盗賊の一件のことはクライドさんから聞いたのだろう。


「これから大変だろうとは思うけど、私もお父さんもあんたたちの味方だからね!だから頑張んなさいよ!」


 そういいながら食堂に走っていくリシア。

 いつも道りの元気っぷりだ。


「クライドおじさんもリシアさんもいい人だよね」


「そうだな」


 何度もここに泊まって彼らの性格は良くわかってる。

 たとえ金にならなくてもあの人たちは俺たちによくしてくれるだろう。

 だがあまり頼りきりになるのも問題だろう。

 これからどうするか、しっかり考えなければならない。

 そのために……


「とりあえず朝飯を食べたら、次は商工ギルドに行こうな」


「わかったよお兄ちゃん」


 まずはご飯をしっかり食べようか。




 * * * * *

 



 そして最初に来たのが昨日と同じ冒険者ギルド。

 しかし昨日と少し違い……


「いらっしゃいませー!冒険者ギルドへようこそー!」


 受付の人がやたらハイテンションな女性に変わっていた。

 昨日の人はにこりともしない人だったがこの人は最初から全力の笑顔である。


「本日はどういったご用件ですかー?」


「あ、ああ。昨日登録を済ませて証明書を受け取りに来いと言われたのだが……」


「わっかりましたー。お名前を教えてください」


「ヴィヴィアンだ」


 そう告げれば席を立ちなにやらごそごそ探し始めた。

 彼女が行った方向を見ればいろいろと山積みになっている。

 彼女はその中から青銅で縁取りされた手のひらほどのカードをとって戻ってきた。


「はいはいありましたよ~。本人確認させていただきますね~」


 言いながら私の手を握りカードを押し付ける。

 強く押し付けられたカードは金属製のためかひんやり冷たく、しかし次の瞬間ほんのりあたたかくなり発光した。


「はい、ご本人の確認が取れましたのでこの冒険者カードを渡しますね~。これはあなたの魔力に反応して発光するためこれからあなたの身分証明書にもなります。このカードであなたの身分を証明できますので、少なくともトリスティア内ではだいたいの施設が使えるようになりま~す」


 近くの武具屋や図書館なんか主にそうですよ、といいながら手を握ってぶんぶん振ってくる。

 なんというか昨日の人とは別のベクトルで受付やってていいのかこの人。


「これでヴィヴィアンさんはめでたく冒険者ギルドの冒険者の一人になりました。なので今から冒険者の心得を伝授しますねー」


 そこでいきなり彼女は真面目な顔になった。

 そして一気に話し続ける。


「素材はこの町の各門そばにある素材買取所にて行っております。魔物の死骸を街中で運ばれては困りますしね。当然のことながら持ち込んだ素材の種類によって値段は異なります。慣れないうちは鉱石などの採取にしておくのがお勧めです。需要が多いから常に買い取り額がぶれないし、なにより安全です」


 素人は魔物に突っ込んで死んでくる人多いんですよね、と一言。

 ここらへんはゲームでも同じような感じだろう。

 弱いうちは調子に乗らないというのは命の危険がある以上当然だ。


「それと冒険者になったのなら自分の馬車などを買った方がいいですよ。死骸にせよ鉱石にせよ重いしかさばりますからね、ギルドカードを見せればローン組めますから楽ですよ」


 私はアイテムボックスが使えるから輸送手段はいらないのだが移動手段は確かに欲しいところだ。

 〈フライ〉は速いが持続力がないし、かといって歩きだけでは少々つらい。


「冒険者さんは基本的に自由に働いてもらってますが、けがをしたなどの場合を除き一定期間以上素材を売らなかった場合には罰がくだります。さらにめったにありませんが魔物を討伐するために冒険者たちに召集がかけられることがあります。そういったときに無視したりするとやっぱり罰を受けます」


 これぐらいですが何か質問は?と問いかけてくる受付さん。

 説明中は真面目な顔になっていたがまた元通りになってしまった。

 その落差に驚き少し固まっていると質問はないと判断したのか今度は世間話を始めてしまった。


「そうそう討伐といえば、知ってます?最近エルディアの森に盗賊のアジトが見つかったらしいんですよ」


 ねえねえ知ってる、という副音声が聞こえそうなほど嬉しそうに話す彼女。

 うん、数日前にそこにいたから、とは言えない。

 固まってしまった私を気にせず仕入れた情報を嬉々として語る受付さん。


「いやぁ~、なんでも数日前にそばを通った人がドラゴンらしき咆哮を聞いたって話でしてね。それを調べに冒険者を派遣したらなんと怪しげな建物を発見しちゃったわけですよ。中には生活していた跡はあれど誰もいない、もしかしたら盗賊が戻ってくるかもと見張っても結局誰も現れなかったそうです」


 それは私が跡形も残さず全滅させちゃったから、とはやっぱり言えない。

 ローブの中で冷や汗を流す私をまったく気にせず受付さんは語り続ける。


「とりあえず盗賊はここにいたけど、もう移動したかあるい別口に傭兵グループにでも討伐されたかってことでまとまったんですけどね。でも結局この発見の元になったドラゴンの咆哮に関してはなんにもわからなかったんです。仮にドラゴンがきていれば森が更地になっててもおかしくはないので聞いた人の聞き間違いじゃないかと思うんですけどね」


 そのドラゴンの咆哮は私が召喚した龍の咆哮ですから確かに聞き間違いですね。

 アポカリプス・オンライン内での竜と龍の違いを考えつつ現実逃避をする。


「とはいえ、ここらへんを騒がせていた盗賊騒ぎが治まるならほんと助かるんですけどね。なんせ誘拐事件の方もなんとかしなきゃいけないんだし、これでこっちにもっと兵士を回せるようになればいいんですけど……」


 ここまでひたすら楽しそうに話していた受付さんだったが最後の話は少し真面目になっていた。

 少し気になったので聞いてみることにした。


「誘拐事件っていうのは?」


「ん、ああ、最近来たばかりの人なら知らないはずですよね。ここ数年都市内で行方不明者が出てるんですよ。しかも若い人ばかりです」


 そういい心底嫌そうな顔で語りだす。


「前までは数か月に一回程度の割合だったんですけどね。ここ最近なにやら急に行方不明発生件数が増えてまして、これは同一の誘拐事件じゃないかと話にはなってるんですが……」


 なんだか話が長くなりそうだ。

 なんというか、このままこの場にいるとこの人は際限なく話を続ける気がする。

 ここは戦略的撤退をはかるべきだろう。


「すいません!用事があるので失礼しますね!」


「……行方不明者は全員街の外に出ない人ばかりだから少しは情報がありそうなのにないんですよね、もしかしたら高位の魔法使いが関与してるかも……」


 話が佳境に入ったのか話すことに没頭している受付さんを置いて駆け出す。

 図書館の場所は露天の人にでも聞けばいいだろう。

 少なくともあの人には話しかけない方がいい。

 

 本日の教訓、暇をしているおしゃべりには隙を見せない。





 トリスティアという町は魔具の町である。

 武器から日用雑貨までたくさんの種類があるが冒険者にとっては装備としての魔具のほうが重要だろう。

 この町は冒険者ギルドの本部があるだけあってそういった武具屋が充実している。

 私が次に向かったのはそういった冒険者向けの武具屋である。


 並べられた武器や防具を眺めていて最初に思うことは……


「本当に防具として機能するのか……」


 本当に防具なのかどうか疑ってしまう類のものも並べられているということだ。


 わかりやすく言えば、漫画やゲームで見るような肌が露出した鎧なども普通においてあるのだ。

 触ってみれば確かに鎧として機能するだけの硬度は持っていそうなのだが、しかし首元や心臓のあたりむき出しとか防具になるのだろうか……

 それらをじー、と見つめながらここはまさかコスプレ専門店なのか、とか真剣に悩んでしまっていると……


「おいあんた。新人だろう」


 近くにいた男が声をかけてきた。

 男は板金で作られたプレートアーマーを身に着けている。そこまで重厚なものではないがそこらへんにおいてあるものより確実に防御力がありそうである。少しほっとした。


「そうだけど、なぜ?」


「なぜってそりゃあ冒険者の新人はたいてい同じようにそこらへんの防具を見るからさ」


 そういってコスプレにしか見えない鎧たちを指差す男。

 どうやらこれらを見て疑問を抱くのは私だけではないようだ。


「そいつらは『ライフアーマー』を会得してしる冒険者用の防具だ。新人には薦めらんねえな」


「『ライフアーマー』?」


 聞き覚えのある言葉だ。

 あのエルダートレント・ロードが私が殴られているときに言っていた気がする。


「一般的な言葉じゃねえからな、新人なら知ってなくても無理はねえ。『ライフアーマー』つうのは冒険者に与えられる加護の名だ。これがあるかないかで戦闘力はがらりと変わるな」


 疑問の声を上げた私に説明をしてくれる男。

 なんだかわからないがすごく親切な人だ。


「人間の肌なんて些細なことで傷つくものだが、『ライフアーマー』があれば話が変わる。どの程度まで耐えられるかは人によって差が激しいが、とにかく金属の鎧だろうが一撃で切り裂くような魔物の一撃に人間が耐えられるようになるといえばどれだけすごいかはわかるだろう」


「なら『ライフアーマー』持っている人は鎧なんて必要ないんじゃないか?」


「そうはいかないんだ。この『ライフアーマー』にも限界がある。攻撃を受け続ければ加護が弱まるのかだんだんダメージを受けやすくなるし、さすがに人の肌ではいくら神の加護だろうが防げる攻撃には限界がある。むき出しの肌にナイフを受ければ致命傷は負わなくても少し刺さるくらいはあるからな。ここらへんの防具は『ライフアーマー』を強化してくれたり『ライフアーマー』に応じて防御力が上がったりする防具なんだよ」


 言うまでもなく人間は脆い。金属どころかそこらへんの石でも致命傷を負うし、頭や首に傷を負えばあっという間に死にかねない。火にだって耐えられなければ冷気にだって弱い。つまり、人間の体では強い魔物の攻撃なんて防御したところで決して耐えられないということだ。

 それを覆し、人間が魔物と戦えるようにするのが『ライフアーマー』ということだろう。大木をへし折る一撃を骨の一本すら折らずに受け止められるようにする。トレントどもにぼこぼこ叩かれてたのに痛いだけですんだのは間違いなく『ライフアーマー』のおかげだったのだろう。

 ファンタジーらしい便利な不思議パワーである。こんな柔肌で地面を割る一撃に耐えられるようになるとか嘘のようだ。

 しかしこの人は『ライフアーマー』を加護と言ったけど、加護ということはつまりそれを与える存在がいるということだろうか。それなら……


「しっかしあんたのそのローブも随分とけったいな装備だなあ。そんなに着込んで暑くねえのか?」


「え?いえ、それほど暑くありませんけど……」


 と考えてる内に彼が次の話を振ってきてしまった。いったん考え事をうち切って、今自分が来ているローブを見てみる。

 実際このローブの着心地はありえないほどいい。

 かなりしっかり着込んでいるというのに服の中が蒸れるということもなくずっと着込んでいてもなんの支障もない。

 昨日からずっと着っぱなしだというのに全然問題ないくらいだ。


「ほー……。じゃあそれもやっぱり魔具なのか。道りでそんな変な格好で歩き回ってんだな。『ライフアーマー』については知らなかったみたいだが、魔具はそれがなくても通常の武具より強いからな」


「へ?」


「着ていても不具合を感じさせないってのは結構いい魔具ってことだな。お前さんけっこう目立ってるぜ。冒険者ってのは変な格好してる奴も多いから誰も指摘しないがそんなローブ着てる奴はさすがに見たことないしな。そんな格好で常にいるのはそれが高級な魔具なんじゃないかって思うやつは多いぜ」


 まじでか……

 これをつけていればトラブルを避けられるかと思ったが、これはこれで別のトラブルを呼び込む可能性も出てくるとは……

 しかしこれを脱いだらもっとやばい気もするし、いったいどうすれば……


「じゃ、じゃあ私はこれで」


 とりあえずここから出よう。

 とりあえずここから離れて、別の事を考えることにしよう。

 調べなきゃならないことはまだあるんだし……




「おう、じゃあな。………………なんつうかアンバランスな奴だな。あれぐらいの奴を持ってるのに『ライフアーマー』も知らなかったようだし……」




 * * * * *




 アニーとともに商工ギルドへ行った帰り道、いつもより人の少ない通りを歩きながらアニーと話す。


「うんだからね、次に会った時にはしっかり教え込まなきゃって思ってるの」


「ははははは……」


 ヴィヴィアンさん頑張って……


 最後は心の中で呟く。

 昨日の別れ方が気に入らなかったアニーはどうやらその分の埋め合わせとしてヴィヴィアンさんに次会ったときに徹底的に女性としての心得を仕込もうと考えているらしい。

 道中のお風呂でのことからも逃げ回っていたヴィヴィアンさんには苦行だろう。

 しかし原因はあんな別れ方をしたヴィヴィアンさんにあるので彼女には頑張ってもらいたい。


「まあガンバレヨ……。ん、あれリシアか?」


「え?ああ、リシアさんだね。リシアさ~ん!」


 俺たちより少し離れた位置を歩いているリシアにアニーが声をかける。

 しかしリシアは何もこたえず、道を曲がって路地裏に消えてしまった。


「あれ、聞こえなかったのかな?しかしリシアさんどこにいこうとしてるのかな?」


「…………」


 リシアが消えていった先には特に店などはなかったと思う。

 トリスティアに来るのはひさしぶりだからその間になにか店ができたのかもしれないが、それにしたってリシアの様子は少しおかしかった気がする。

 あの距離でアニーの声に気づかないのもそうだし、なんだかこころなしふらふらしていたような……


「アニー、先帰っててくれ」


「え、お兄ちゃんはどうするの?」


「ちょっとリシアの様子を見てくる。俺もすぐ帰るから心配するなよ」


「へ?」


 それだけ言ってリシアが消えた路地裏に俺もとびこんだ。

 後ろからアニーが俺を呼ぶ声も聞こえたが気にせず走る。

 なんだか嫌な予感がする……



ネーミングって難しいですね。


6/14 ライフアーマーの設定を変更

9/21 武具屋でであった冒険者を少し変更

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