第一話 冒険者ギルド
今回、ほとんどギルドの説明。
※最後の部分を少し修正。
自由交易都市トリスティア。
この世界、アーネスにおいて唯一の国に所属しない都市であり、有数の発展を遂げている都市である。
大陸には五つの国があり、トリスティアはそのうちの四国と交易をしている。
トリスティアは高品質の魔具を作ることで有名で、それは常に高い需要を誇り他国からもそれを買いに多数の商人がくる。
それがアニーちゃんに教わったトリスティアの情報である。
そんな商人でにぎわうはずの場所であるが……
「人、いないな……」
思わずつぶやいてしまうほどに人がいない。
現在、日が頂点を過ぎたころ、私たちはトリスティアの正門をくぐったところだ。
トリスティアは門番は立っているものの検閲や都市に入るための徴税などはない。自由交易都市の名にふさわしく、来る者を拒まない街なのだ。
そうでなければ『隠者のローブ』で全身隠す怪しい奴(私)など即座に兵士に呼び止められるだろう。
とはいえ別になんでもやれるというわけではなく、悪事を働けばしっかり兵士が駆けつけてくるらしいが……
「いつもならかなりの人で賑わうんだがな……」
「最近このあたりで行方不明になる人が多くて、かなり凶悪な盗賊が現れたのではないかと噂にはなっていたんです……」
私が全滅させた盗賊たち。彼らはこのトリスティアを目指す商人たちを狙い金品を奪い、さらには生きた人間をトレントたちに捧げていた。
あの盗賊たちはかなり好き勝手やっていたらしくアレスくんたちもその噂は聞いていたらしい。
おかげで普段は賑わうらしい街道も随分人が少なかった。
「まずはヴィヴィアンさんの冒険者登録を済ませてしまいましょう」
彼らに自分が路銀を持ってないことを話したところ、この都市で冒険者をすることを勧められた。
この世界における冒険者とは魔物との戦いを生業とする人のことだ。
彼らの主な収入源は倒した魔物の体や、魔物の住処からとれる素材の売却である。
そういった素材は特殊な加工を施すことで特別な武具になるそうだ。
トリスティアで作られる高品質の魔具の中にはこういった武具も含まれており、そのため己の命を預ける武具を求めにここへ来る冒険者も多いらしい。
この町に冒険者ギルド本部があることもあり、トリスティアは商人の町であると同時に冒険者の町でもある。
「冒険者か……。私にできるか……」
「ヴィヴィアンさんなら問題ないと思います。ね、お兄ちゃん」
「……………………」
「お兄ちゃん?」
ふと横を見ればなにやら考え込んでいるアレスくん。
何を考えているかはわからないが、かなり深く考え込んでいるようでアニーちゃんの言葉にも反応を返さない。
「お兄ちゃん?お兄ちゃんってば!」
「うわっ!な、なんだよ。どうした、アニー?」
「どうした、はこっちのセリフだよ!なにを考えこんでいたの?」
「……なんでもないよ」
そう返すアレスくんの顔がなんでもなくないことを語っている。
とはいえ彼に話す気はないようでそのまま足を速めてしまった。
「なんなんだろうな?」
「なんなんでしょうね?」
アニーちゃんと首をかしげつつアレスくんを追いかける。
二人ともトリスティアには何度か来たことがあるらしいので迷うことなく冒険者ギルドへ向かう。
トリスティアと冒険者ギルドの歴史は意外に浅い。
かつては冒険者というのはあくまで自称であって、誰かが立場を保障しているものではなかった。
しかし今の冒険者ギルド長が二〇年ほど前にこの土地を王国から貰いうけ、多額の資金を投じトリスティアを作り、そして冒険者ギルドを作り出した。
当時のこの土地は魔物たちがあふれ人が住める場所ではなく、だからこそ王国もこの土地を手放すことをさほどためらわなかったそうだ。
なぜそんな土地に町を作ろうとしたかはさだかではないが、たくさんの冒険者たちを雇い魔物を駆逐し彼らを初期メンバーとして冒険者ギルドは作られた。
そして今では冒険者といえば冒険者ギルドに所属しているものを指すようになったのだ。
そんな冒険者ギルドの本部だが……
「なんというか……」
「普通、ですか?」
「初めて見た奴はたいていそう感じるらしいな」
なんというか、普通のお役所といったかんじの建物だった。
石で作られた、頑丈そうではあるがそれ以外に特徴があるわけでもない。
想像していたような荒くれたちが酒を飲んで管を巻いてるとかいうこともなかった。
「魔物の素材の買い取りなんかは別の場所でやってるからな、たいていの奴が想像する冒険者ギルドはそっちの方だな」
「こっちは冒険者の登録だとかもろもろの手続きのための施設なので、普段はあまり冒険者の人はこないんです」
そういって扉を開けるアレスくんといっしょにギルドの中に入る。
中には人が何人かいるものの戦闘職とは思えない人ばかりだ。
「登録受付はあっちですね。それじゃヴィヴィアンさん、登録いってきてください」
「わかった。すぐに済ませてくる」
冒険者登録受付にはどこか冷たい感じのする女性がいた。
「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件ですか?」
丁寧な言葉使いだがまったく笑っていない。
この人受付向いていないんじゃないか、と思いつつ話す。
「ああ、私の冒険者登録をしたい」
「冒険者の規定は知っていますか?知らないのでしたらここで講習をしますがよろしいですか?」
「お願いします」
アレスくんたちには聞いていないのでここで聞かせてもらう。
「この冒険者ギルドでは冒険者たちが手に入れた素材の買い取りを行っています。冒険者登録とはギルドにしか素材を売らない代わりに様々な支援を受けられるようにする契約です。
登録した際の利点はいつでも売ることができるということ、そして冒険者ランクによっては関連業者からの魔具の購入代金が安くなったりします。
冒険者ランクはギルドからの信頼度といってもよいです。ランクは下から、ブロンズ、アイアン、シルバー、ゴールド、ミスリルの五つです。常に素材を持ち込んでくださる方の信頼度は上がりますが、逆に不定期な納品を繰り返したり、あるいは素行が悪かったりするとランクを下げられる場合もあります。
それと時々間違えている方がおりますが、ランクが高いからといって強いとは限りません。強さも目安ではありますが、仮に強くても素行の悪さが目立てば昇格はありません。
登録などに経費はかかりませんが、冒険者登録をして一定期間以上の間素材の売却がない場合には警告があり、無視した場合には罰金、あるいは登録破棄などの罰則があります。
以上ですが、質問はありますか?」
「ギルドへ持ち込む素材は自分が取ってきたものでなくても構わないのか?」
一つ質問をする。
仮にそれが可能であれば他人が手に入れたのを買って納品するのもあり、ということになるからだ。
「はい、特に問題ありません。たとえそれが誰が狩ったものであろうと納品した方の功績となります。ギルドとしてはきちんと義務を果たせるのであれば、方法が剣であろうとお金であろうと手段は問いません。とはいえ脅迫などの犯罪行為が判明した場合には相応の対処はいたしますが」
そういってほかに質問は、と問いかけてくる。
それ以上聞くことはないので話を進めてもらう。
「ではこの用紙にお名前の記入をお願いいたします。代筆が必要なら別途料金が必要ですが?」
そういいながらこちらに紙と鉛筆を渡してくる。
文字はなぜか書けるのでヴィヴィアンと記入し手渡す。
「……では次にこちらの板に手をしばらく押し付けてください」
そういって手の形にくぼんだ金属製の板を取り出しこちらに手渡す。
その板に手を押し付ければ、板がほんのり発光し温かくなる。
しばらくするとそれも収まり手を離せば受付の人がそれを回収した。
「魔力反応を登録しましたのでこれをもとにあなたの冒険者証明書を発行します。冒険者証明書はあなた以外に反応しないのであなた以外が持っていても意味がありません。なので他人に預けるなどは極力しないようにしてください」
そういいながら板をしまう彼女に問いかける。
「登録はこれで終わりか?」
「はい、登録はこれで終わりです。しかし冒険者証明書の発行は明日になりますので明日もう一度ここへいらしてください。証明書を受け取るまでなら証明書の作成代はもらいますが登録を取りやめることは可能です」
そういうとあっさりこちらに背を向けてなにやら処理を始めてしまった。
こんな格好で来た以上、何かしら言われるかと思ったが何事もなく登録が終わってしまった。
とはいえこれ以上いてもしょうがないので入口で待っているアレスくんたちのもとへ戻る。
「終わりました?」
「ああ、無事に登録は済んだ」
アニーちゃんの問いかけに答える。
こんな格好でもあっさりできる登録に思うところがあることを察したのかアレスくんが言う。
「冒険者ギルドはとりあえず素材を持ってくる奴なら大概の連中を受け入れるらしいからな。実際に高位の冒険者としての名を得るために金を払って素材を買ってギルドに卸している奴もいるらしいぜ」
とはいえ犯罪者とかはさすがに受け入れないようだけどな、としめるアレスくん。
冒険者ギルドは割と大雑把な組織なようだ。
こんな格好でもそのまま登録できることは素直に喜ぶべきなのだろうが、今までよく続けられるものだ。
何かしら問題が起こってもおかしくないだろうに。
「これでヴィヴィアンさんの用事も終わりましたし、宿に行きましょうか」
「そうだな、とりあえず俺たちがいつも泊まってた宿が近くにあるからそっちにいこうと思う。ヴィヴィアンさんもそれでいいか?」
「ん、ああ。私はそれでいいけど……」
この町のことは宿のことは何一つ知らないため、彼らが泊まったことがある宿にするのに異存はない。
この町の散策は宿を取った後にしようと彼らと宿に向かう。
* * * * *
全身をローブで隠した怪しい人が扉から出て行くのを見ながら受付の女は嘆息する。
残していった名前『ヴィヴィアン』を見ながら上司の命令を思い浮かべた。
今日ひたすらに怪しい奴が来るから何も聞かずに登録を進めるように、という命令。
それがなければフードを外させて顔の確認をしたのだが、あの上司の命令ならば致し方ない。
「なるほど、あれがそうなのですか……。確かに怪しいとしかいいようがないですね……」
本当に申請を通してよかったんだろうか、ちょっと悩みどころだ。
とりあえず早く登録作業を終わらせよう、と思考を切り替え仕事に戻った。
お金のことだとかは次回。
※別に受け付けの人がヴィヴィアンの性別を知っている必要はないので変えました。
たんに彼女の上司がヴィヴィアンについて知っていることがわかればいいです。