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トリスティアの怪しい魔法使い  作者: 安籐 巧
序章:Now Loading...
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 『アポカリプス・オンライン』

 それはとあるMMORPGの名前である。

 王道的な剣と魔法のファンタジー。

 世界は滅びの危機に瀕している。

 君はこの世界の一員として世界を滅びから救うのだ、というありがちなキャッチフレーズ。しかしそのできは非常によかった。

 ネットゲームとしては特に斬新な要素はないものの、多種多様なスキルや豊富な素材により思うが儘にキャラを作れる自由度の高さで人気がでた。

 王道な戦士や魔法使いだけでも様々な種類が作れ、さらには鍛冶師や薬草師といった生産職、加えて農民や遊び人などの結局何ができるかよくわからないものまでプレイできる。

 種類が多いのはプレイヤーキャラだけではない。

 フィールドは森や洞窟などは様々な種類があるし、火山や氷山といったものまである。

 敵となるモンスターはフィールドごとに違い、それらも数々の特殊能力やスキルを持つ。

 そういったモンスター毎に異なった攻略法を見つけ出すのもまた楽しみの一つだ。

 キャラの育て方が数えきれないほどあるがゆえに、これが強いあれが便利といった論争は常に絶えない。

 同時に職業のなかには特殊な条件を満たさねばなれないものもありそういったものが見つかったときには祭りになった。


  私もまたそのアポカリプス・オンラインで遊んでいる一人だった。




 * * * * *




 銀髪の女が森の中で戦っている。


 敵は巨大な樹の化け物。

 名前はエルダートレント・ロード。

 年をとり強力になったトレント族であるエルダートレント、その中でも特に力を得てトレント族はおろか森にすむ他のモンスターをも従えるようになったトレントの王である。


 名前にロードとつくモンスターは基本的に常に取り巻きがくっついている。

 エルダートレント・ロードもまたトレント族の戦士を数体引き連れていた。

 対する女は一人きり。

 それも装備は杖にドレスと明らかに魔法職。

 どちらが勝つかなど考えるまでもない、そう思える状況だが……


 『おのれ!たかが人間ごときが!』


 ファンタジーにおけるなかばお約束なセリフを叫ぶエルダートレント・ロード。

 押されているのはエルダートレント・ロードの方であった。

 取り巻きはすでに倒され、残るは彼のみ。

 しかも唯一残った彼にしてもその体力は半分以上削られていた。


 『我は偉大なる森の王!人間ごときに負けるわけがない!我が真の力の前に屈するがいい!!』


――〈ピラー・オブ・ジ・アイス〉


 体力が半分以下になったため攻撃パターンが変更されたエルダートレント・ロードに対し、女は即座に魔法で返す。敵の攻撃に対しほぼ同じ速度で魔法を繰り出し続ける。

 それが最初から彼女が優位に立っている理由である。

 魔法職が前衛を必要とするのは詠唱中、代わりに攻撃を受けてもらう盾がいるからだ。

だというのに彼女は戦いは火力だといわんばかりに魔法を連打している。

 そのため取り巻きは全滅し、エルダートレント・ロードもまたその攻撃を魔法で迎撃され有効打をあたえられない。さらには氷属性の攻撃は植物タイプのモンスターの再生を阻害する力を持つため一方的な戦いとなっていた。


 『褒めてやるぞ!森の王たる我にここまでさせることぉぉぉぉぉ!』


――〈アイスキャノン〉

――〈アイスキャノン〉

――〈アイスキャノン〉


 残り体力が15%を切った場合に起こる最終形態への変形。

 ただでさえ大きかった体がさらに一回り大きく、樹皮は色を濃くしより固くなる。

 加えて枝から刃と化した葉を飛ばすようになる。

 その攻撃は麻痺効果をもつため一度食らえばそのまま刃の雨にさらされる恐ろしい攻撃だ。

 それに対し女は淡々と迎撃の準備をする。

 使う魔法は〈アイスキャノン〉。

 氷の固定砲台を作る魔法であり、撃つたびに魔力を消費し弾を再装填する必要があるが、代わりに任意のタイミングで好きなだけぶっぱなせる火力大好きな魔法使い御用達の魔法だ。

 しかし欠点として固定砲台のため動かせず、射程範囲から敵がでるとただの飾りになること。

 加えて砲台は少ししか動かないため射程範囲から出るのはさほど難しくないこと。

 更には攻撃され設定されたHPを消費し尽くすと壊れることだ。


 『死ぬがいい!』


――〈グレートアイスウォール〉


 そしてエルダートレント・ロードの変身完了と同時に再び戦いが始まる。

 エルダートレント・ロードは刃の葉を雨の如く飛ばし、女は氷属性の上級防壁である〈グレート・アイスウォール〉を使い迫りくる葉を防ぎ、砲撃をがんがん飛ばす。

 エルダートレント・ロードの攻撃は届かず、再び一方的な展開である。

 とはいえ苛烈な攻撃にさらされてなおエルダートレント・ロードはまだ生きている。

 変身後の彼は属性攻撃に対し、若干ながら耐性をえるため最初ほど魔法が効いていないのだ。

 しかしそんなことは関係ないといわんばかりに撃ちまくる女。いくら耐性があろうともこれではエルダー・トレント・ロードの命も時間の問題である。


 『*********、*********』


 エルダー・トレント・ロードの体力が残り僅かとなったところで女は何かを唱え始める。唱えているのはわかるが、何と唱えているのかはわからない。


 『*********、*********』


 刃の雨が氷の壁に遮られるなか女は朗々と詠唱する。削り取られる氷の壁が光を反射し幻想的な光景を作り出す。


 『*********、**********、〈サモン・フロストドラゴン〉』


 詠唱が終わる。

 現れたのは全身が氷で構成された蒼い龍である。

 その大きさはエルダートレント・ロードに勝るとも劣らない。

 それが一直線にエルダートレント・ロードに襲い掛かった。


 『ぐうううぅうぉぉぉぉぉ!』


 体力が尽きるとともに断末魔をあげるエルダートレント・ロード。

 龍の一撃は残りの体力を残さず奪い取り、大樹の体を消し飛ばす。

 その場に残ったのはフィールドボス討伐の報酬といくつかのドロップアイテムだけであった。




 * * * * *




 「これで上級者向けフィールド『トレントの森』もクリアー。ドロップアイテムを『鑑定のモノクル』でチェック…………。『エルダートレント・ロードの心材』が手に入ってる、ラッキー」


 ボス攻略が終わったので帰還アイテムを使い町の中の拠点へ戻る画面の中の美女、私のプレイヤーキャラであるヴィヴィアンを見つつ呟く。

 今回の目標であった未踏破ダンジョンのクリアとともに、副目標であったレアドロップアイテムも手に入りご満悦だ。ここまで自分の望み通りに進むことはネットゲーム内では珍しい。

心の内で歓声をあげつつ拠点帰還のロード時間を過ごす。


 「とりあえずこれで必要アイテムはあと二つ。この調子ならすぐに制覇できるかもしれない」


 当然のことながらこの場所は森の中でもなければ、私は銀髪の美女という訳でもない。

 ここは日本のごく普通の一部屋の中である。自分はそこでネットゲームをしているごくごく普通な男子(・・)大学生である。


 「とりあえず手に入った金でなにしよう。この前見かけたネタ装備でも買ってみるべきか。だがしばらく先になるだろうとはいえあれを作るのにはお金が大量にかかるし……。まあ悩んでもしょうがないし、露天眺めながら決めようかなー」


 拠点への転移が終わる。

 拠点から街に出てヴィヴィアンを動かしそのままプレイヤー達が露天を広げる広場は足を向ける。

 露天をひやかしていると知り合いに声をかけら(チャットさ)れた。


 『おひさー。元気してたー?今日も元気いっぱいにハントしてたかー?うちはしっかり稼いできたー!』


 『景気がよさそうでなにより、しぇいど。私の方もかなり収穫があった』


 『ノンノン!しぇいどじゃなくて✝しぇいど✝!間違えちゃだめだよ!』


 『はいはい✝しぇいど✝、これでいい?』


 はなしかけてきたのは✝しぇいど✝という名のトッププレイヤーの一人。

 グリムリーパーという職業についている。

 アサシン系の職業の最終職業であり、短刀や短剣は言うに及ばず毒に麻痺に呪いに即死攻撃といやらしい攻撃ばっかりな職業である。

 装備は真っ黒い若干大きめのコートにフードをかぶり、同じく黒いマフラーで顔を鼻の位置まで覆っている。

キャラは本人いわく美少女らしいが目しか見えない。

 付き合いはけっこう長いが私は顔を見たことがない。

 ✝しぇいど✝が語るところによれば、アサシンといったら黒いコートとマフラーで普段は見えない顔がマフラーをとればすごい美少女っていうのが(以下略)らしい。

 自分にはよくわからないこだわりだ。


 『せっかく作ったキャラをほとんど隠しちゃうなんてもったいない』


 『わかってないねーヴィヴィっち。普段隠しているものがかわいければかわいいほどそれを明かした時の萌え度が上がるのさ!ツンデレと同じだよ!想像するがいい、執拗に顔を隠す美少女が恥ずかしがりながら顔を見せてくれる瞬間を!あるいは普段クールな美少女がかわいいぬいぐるみを見ながら口元を緩める瞬間を!!理解できたら返事にはサーつけてわかりましただ!!!』


 『ハイハイ、サーワカリマシタサー』


 『ていうかキャラづくりの点でいえばヴィヴィっちに人をとやかく言う権利はないっしょ。なんせキャラづくりのためだけに魔法職のソロプレイなんて苦行(マゾ)プレイやっちゃってるんだから』


 ソロプレイとはつまり自分ひとりで戦う孤高のプレイである。

 一部の前衛型のキャラならばともかく、魔法職がそれをするのは無謀といっていい。

 だいたいの魔法職は一撃が重い代わりに準備が大変である。

 強い魔法は相応の詠唱時間を必要とし、詠唱中に攻撃をくらえば詠唱は最初からやり直し。

 さらには重い防具はつけられないため打たれ弱く囲まれれば最後、相手がどんな弱かろうと一方的にたこなぐりである。とはいえ、高レベルプレイヤーは一部の魔法を詠唱省略や無詠唱化、詠唱時間を短くしたりなくしたり魔法職用の近接スキルといったものを会得したりするのだが、だからといって魔法職の貧弱さは変わらない。

 魔法職が一人で歩いていたら、たとえ適性レベルだとしてもモンスターにとってはカモである。


 ならなぜ私がそんな魔法職のソロプレイをしているかといえば、




―――だって孤高の魔法使いってかっこいいじゃないか!




 ただ単にそれだけである。

 女キャラである理由は、男の尻を追っかけるよりも美女を着飾らせる方が楽しいからだ、ここ大事。

 それはともかく、私は馬鹿と思われようが孤高の魔法使いのロールプレイをやってみたくてしょうがなかったのだ。ゲームの楽しみ方など人それぞれ、私は苦行だろうとなんだろうととにかくやりたかったのだ。

 結果、とても大変だった。

 詠唱省略や無詠唱化ができないころは魔法職用近接スキルを使い自分より格下のモンスターを殴り続ける日々。

 私は殴りメイジになりたいわけではないので魔法攻撃力のために筋力にはステータスポイントをふるわけにはいかない。

 ゆえに殴り殺すためには時間がかかるため適性レベルのモンスター相手では競り負けてしまう。

 ただひたすらに自分より弱いはずのモンスターたちと泥沼の殴り合いを行うのは確かに苦行だった。

 ときおり通りすがりのヒーラーにかけてもらう回復が心に沁みた……。

 詠唱省略ができるようになっても楽ではない。

 このレベルになるとモンスター達は基本的に徒党を組むようになる。

 一体を選んで狙い撃ちにしても、おまえらどんだけ仲いいんだ、と突っ込みたくなるほどに全員で迎えうってくる。

 仮に私が囮だとしたら大成功なんだろうなと思いながら近づかれるまで魔法撃ちっぱなし、近づかれたらとんずらの繰り返しである。

 タイミングを誤れば逃げられず囲まれてリンチ、という極限の状況ばかり。

 やはり苦行だった。


 そこまでやってもやっと中堅どころに届くか届かないかといったところだったが、しかし(GM)は私を見放さなかった。


 『ヴィヴィっちの神話級装備はほんとすごいよね~。おかげで前人未到の魔法職ソロプレイカンストだよ。パネェ、神話級マジパネェ』


 『まぁ神話級の能力がすごいのもあるけど、私が取得した魔法がまさにこれの性能にあったものだったっていうのが一番大きいと思う』


 神話級装備とはアポカリプス・オンラインにおける最強の装備のことである。

 アポカリプス・オンライン内では装備のレベルやレア度により遺産級や宝具級などにわけられるのだが、神話級はその分類の中で一番上のものである。

 そのレア度はゲーム内に一つしか存在しない、文字通りのオンリーアイテムなのだ。

 自分はそのうちの一つを偶然手に入れ、ソロプレイによるトッププレイヤーを実現したのだ。

 とはいえ一つしかないレア装備ゆえに運営側からの依頼によりプレイ日記の公開などが義務付けられている。

 新規顧客の獲得のために運営もいろいろ頑張っているのだ。

 まあその程度であこがれのロールプレイが可能になるというのだから安い代償である。


 『まぁ、それでもソロプレイゆえの限界はあるがな。上位のフィールドは相性しだいでどうにかなるが、最上位のフィールドはさすがにどうにもならないし……』


 『冥府の桟橋とか燃え盛る氷河とかトップギルドの連中もまだてこずってるらしいね~。桟橋はともかく氷河の方なら結構いいとこいけんじゃない?』


 『無茶を言わない。道中はともかくボスが無理。今材料集めてる杖が完成すれば話は別だけど』


 『まだ作れてなかったの、あれ。パーティー組めば乱獲してすぐに終わらせられるだろうにね~。これだからソロプレイ縛りは……』


 「装備のグラフィックが気に入ったからって数十レベル下のもの装備しっぱなしの君にいわれたくない」


 相手に通じないことを承知の上でチャットではなく口で呟く。

言っていることは正しいが、私はそれこみでソロプレイを楽しんでいるのだ。とやかく言われる筋合いはない。


 『まぁこういうのは作るまでの過程も楽しむものだと思ってるから。ところでシャドウ、君はどこで狩りをしてきたの?』


 『シャドウじゃなくて✝しぇいど✝だ!ここ大事だからまちがえないように!うちはパーティーで宮殿で邪神王様狩ってきた。ドロップもなかなかだったしけっこういい儲けだったよー』


 『邪神王の宮殿にいってきたのか。結構難しいという話を聞いたけど』


 邪神の宮殿は最上級一歩手前の上級フィールドである。そこのボスを狩ってきたということは彼女のパーティーはレベルが高かったということだ。ちなみに私はまだ行ったことがない。


 『お恥ずかしながら何人か死んじゃったけどね。さすが邪神の王様。強い、汚い、しぶといの三拍子でじりじり追い詰められちってね。真っ先に回復役が死んで10人で行ったのに帰りは半分になっちゃった♪』


 『笑いごとなのか、それは。とはいえ高レベルパーティーがそれなら私には無理だな。近寄らないようにしよう』


 ソロでのトッププレイヤーとして名をはせようと限界はある。

 上級のフィールドも一部クリアできそうにないものがあるし、最上級なんて廃人が徒党を組んで挑むような魔境は考えるまでもない。

 ゲーマーとしては未踏のフィールドを前に諦めるなど悔恨の極みだがいまさらソロプレイをやめるつもりはない。


『そうそう、邪神様で思い出したんだけどね。なんとこのたび、このわたくし、邪神様からチケットをたまわったのだーー!』


『ほお、チケット。何チケットだ?』


 アポカリプス・オンラインのボスはレアドロップとして○○へのチケットという転移アイテムを落とす。

確認できているだけでも数種類あるこのチケット系アイテムは、使えばそのチケットでしか行けないフィールドに転移する。

 そしてそのフィールド内にはそこでしか手に入らない装備やアイテムが存在するのだ。

 チケット系アイテムは本当に極稀にしか落とされないため、それらのアイテムも当然貴重である。

 つまりチケット系アイテムは普通のプレイヤーならだれでも欲しがる貴重品なのである。


 『名前は異界へのチケット。wikiにはまだ載ってないチケットだね。行く場所は異界って書いてある。』


 『wikiには載ってないチケットか。新しく作られたフィールドかな……。それでいつ行くんだ?』


 『それなんだけど、ヴィヴィっちこれいらない?』


 予想だにしない返しがきた。いったいこいつはなにをいっているんだ?

 

 『それは本気で言っているのか?まだ誰もいってない新フィールドへの一番乗りの権利を私に譲ると?』


 『うん本気。理由は単純にこのアイテムは一人しか転移できないんだよね』


 『だからソロプレイの私に譲ると、また随分太っ腹だな』


 『女の子相手に太っ腹はないよヴィヴィっち。それにお礼として、行った先で手に入れたものは私と山分けしてもらうよ、あとついでにこれ受け取れ』


 トレードを申し込まれ反射的にはいと応える。アイテムボックスには異界へのチケットと……


 『なぜこれを……』


 『なんども顔隠し系ヒロインの良さを語っても学んでくれないので用意しました。ぜひ着てください』


 押し付けられたものの名は隠者のローブ。とある理由により不人気な装備だ。


 『これは返す』


 『じゃあ用事は済んだし帰るねサラダバー!儲けはしっかり折半だからなー!』


 トレードで送り返そうとした瞬間あっという間に逃げ出してしまった。斥候職は伊達ではないということか……。


 「それはともかく、こっちをどうするか」


 独り言をしながら考えるのは先ほどもらった異界へのチケットのことだ。

 ソロプレイは事前情報がとても大事である。

 事前にモンスターを調べ有効な魔法を選んでおくこと。

 それが出来ねばソロプレイなどできはしない。

 だが今回の場所は事前情報は何一つない。無謀にもほどがある。あるのだが……


 「wikiにも載ってない新フィールド……。攻略したとなれば伝説になれる……!」


 そんなことはどうでもよかった。

 自分が心血を注いで作ったヴィヴィアンがこのアポカリプス・オンラインで伝説になれるのなら多少の無茶無謀など些細なことだ、と興奮に茹った頭で考えた。

 幸いトレントの森での攻略は上手くいき過ぎたくらいで回復アイテムなどはあまり減っていない。

本来なら万全を期すために拠点に戻り補充すべきだろうが興奮しきっている今はそんな悠長なことをするつもりはない。

 早くしなければ誰かに先を越されるかも、と根拠のない焦りを感じつつ異界へのチケットを使う。

 画面が転移待機状態に変わる。

 Now Loading…とメッセージが流れているその時間すら煩わしい。

 急げ急いでと口ずさみながら待っていると、


 「ああ、もう! 早く早く、いつものことだけどロード時間がうざった……」


 唐突に意識が遠のく。

 何の前触れもなく視界が暗くなっていく。

 あまりにもあんまりなタイミングの意識喪失に憤りを感じつつ意識を落とした。




 * * * * *




 意識を落とした男の前で画面には変わらずNow Loading…と流れている。



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