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妻問う龍と夢見る乙女  作者: なかゆん きなこ
第一章 龍の花嫁
9/12

第二話(3)

 

 昂の言葉の甲斐あってか、織子は傍目には落ち着きを取り戻したように見えた。

 抵抗することも無く、逃げ出そうとすることも無く、ただ大人しく座っている。

 しかし言葉を発することこそ無かったが、その分だけ心の中でずっと考え込んでいた。

 夢の中で出会った龍が、何故か織子に求婚し、その証として片目を額に埋め込んだ。龍の瞳には霊力があり、それを狙って、また不本意ながらも龍神の妻たる自分を、多くの者が狙ってくるという。

(…守るって…言われても…)

 織子はちらりと、隣に座る少年の顔を見た。

(こんな小さな子に…)

 辰見家の事は知っている。それこそ、名前と、古くからある名家だということくらいだが。

 そんな彼らが、龍神の下僕しもべで、織子を守る…と言う。

 だから心配はいらないのだと言われても、信じられない。それに、そういう問題ではないのだ。

 狙われるのは、確かに怖い。

 でも、何よりも自分が受け入れがたいのは…。

(…あの、龍……)

 初めて出会った時の恐怖を、織子は忘れられない。

 あの紅い眼に見つめられるだけで、体が竦んでしまう。

(…無理…絶対…無理だよ……)

 また、涙が滲んできた。

(…だから…、)

 ぎゅっと、手を握り締める。

 勇気を奮い立たせるように。

(…言わないと…。ちゃんと…)




 三人を乗せた車はしばらく山道を登り、山背の辰見家へと到着した。

 車の窓から見る辰見家は、織子の想像以上だった。

 広く張り巡らされた塀の奥に見える、広大な屋敷。

 母屋は日本家屋だが、少し離れたところに洋館も建っている。

 茫然と外を見つめる織子を置いて、先に重國が、そして昂が外へ出る。

 一度車のドアを閉めてしまって、重國が小さく囁いた。

「意外でした」

「何が…です?」

「貴方が織子様に優しいお言葉をかけるとは…」

 しかし昂は、重國の言葉をふっと鼻で笑った。

「いつまでも駄々を捏ねられては困る…です。だからちょっと、優しくしてやっただけ…です」

 幼い顔に似合わない、大人びた表情。

 わかっていてもはっとさせられる。そうだ、彼は人間ではないのだ。

 幼い少年の姿をした、人ではないモノ。

「それはそれは…」

 酷い方だ、と重國は苦笑する。

「そうしたらほら、大人しくなって、扱いやすくなった…です。安心して、主様ぬしさまの所へ嫁ぐ…ですよ」

 昂はニイっと笑った。

(そんなにうまくいきますかねえ…)

 と、重國は思ったけれど口には出さなかった。

 少年の姿をした神使が、あまりに得意げに言うので。

「それに、僕があの御方を守るのは嘘じゃない…です」

 主様がそれを御望みですから、と昂。

「…そうですね。ではお連れしましょうか。我らが主の元へ」

(…けれど昂殿。人の心という物は、そう単純ではないのですよ…)

 心の中でそう呟き、重國は恭しく、車のドアを開いた。




 二人の会話など知る由もなく、織子はただ昂に手を引かれるがままに辰見家の敷地を歩いた。向かうのは母屋の奥に広がる、広大な森。

 その先に、龍神の社があるのだと言う。

「…山背に神社があるなんて、初めて知りました」

(…本当に龍神、神様がいるってことも、思いもしなかったけど…)

「銀星様の御社は、一族が私的に祀っているものですからね。もちろん、一般の参拝者も来ませんよ」

 その割に、社へと続く道は綺麗に石畳で舗装されていた。

 そして森の入口に建つ鳥居も、綺麗に朱く染められている。家の近くにある神社よりよほど立派に整えられていた。それだけ、辰見一族が銀星を手厚く祀っているということだろう。

(…嫌だ…なあ…)

 この鳥居をくぐってしまえば、いよいよ戻れないような気がする。

 そっと脳裏を掠めた恐怖に、織子はふるっと体を震わせた。

(……本当は、行きたくない…)

 行きたくない。会いたくない。

 全部夢だったらいいのにと、今でも思う。

 本当はまだ夢を見ているんじゃないかと。

 でもそれと同じだけ、これが現実で、泣いたって喚いたって状況は何も変わらないのだとも悟っている。だから、

 織子は一歩、足を踏み出した。


昂の性格はちょっとねじれています。まあ人の子ではないので。

前の話だけ読むとなんだか昂が織子に心を許してるみたいな印象を受けますが、全然そんなことはありません。


でも今はこんな昂ですが、だんだん、変わっていきます。

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