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妻問う龍と夢見る乙女  作者: なかゆん きなこ
第一章 龍の花嫁
3/12

第一話(2)

 

 いつも同級生達で賑わう教室は、時間が早いこともあって静かだった。

「おはよう」

 誰ともなしに声を掛けて中に入ると、数人の同級生が驚いたようにこちらを見る。

「珍しい。どうしたの織子」

 友人の一人、香川紀子かがわのりこがくすくすと笑う。

 織子はぷうっと頬を膨らませ、心外だわ、と少し乱暴に席についた。

「お母さんも紀子も、同じことを言うんだから」

「だってあんた、いつも遅刻ギリギリじゃない」

「今日は早く目が覚めたの」

「へえ~。寝起きの悪いあんたがねえ…。いつもこれくらい早ければいいのに」

「今日は特別。なんだか変な夢を見たの。あ、そうだ紀子。おでこ、赤いの目立つかな?」

「え?」

 紀子はまじまじと、織子の額を見つめた。

「痣? そんなもの、ついてないわよ?」

「え?」

 あははっと笑って、紀子は織子の額をぺちりと叩く。

「いつもどーり。真っ白くてつるっとしたおでこよ」

「えええ?」

(そんな早く色が引くのかな…。あんなにくっきり痣になっていたのに)

 織子は慌てて、鞄からコンパクトミラーを取り出した。

「もう。寝ぼけてるの?」

 呆れる友人を横目に、織子は鏡を見つめた。

(え…、どうして…?)

 紀子は織子の額に痣など無いと言う。

 なのにどうして…。

(私には…はっきり痣が見えるの…)

 鏡の向こう、驚く自分の額には確かに、


 赤い痣があった。



 あれから、誰に聞いても皆一様に織子の額に痣など無いと言う。

 その度に織子は鏡を見るが、赤い痣は変わらず額にあった。

(私の目がおかしいのかな…)

 織子はしょんぼりとうなだれて、廊下を歩く。

 次は移動教室。先ほどまで教室で一緒にいた友人達は、織子がいつまでも鏡とにらめっこするのに呆れて先に行ってしまったのだ。

(保健室に行った方がいいのかな…。でもなんて説明すればいいんだろう? 他人には見えないけど、額に痣が見えます…って? そんな症状聞いたことないよ)

 はあ、とため息を吐く。

 その時、

「あっ」

 とんっと、誰かに肩がぶつかってしまった。

 その拍子に、持っていた教科書とノート、ペンケースがばらっと床に散らばる。

「あああああごめんなさい」

 慌てて謝り、ノートや教科書を拾い集める。

 すると横からすっと手が伸びて、ペンケースを拾い上げた。

「はい、これ」

「あ、ありがとうございます」

 それは織子がぶつかった相手の、男子学生だった。

 少し色素の薄い髪に、穏やかで端正な面立ち。彼は親切に、拾ってくれたペンケースを差し出した。

「それと、ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃって」

「いいよ、気にしないで。僕もちょっと不注意だった。ごめんね」

「いえいえいえそんな」

 よかった、ぶつかった相手が優しそうな人で。

 織子はほっと胸を撫で下ろす。

「橘…オリコさん?」

「あ、シキコです。橘織子」

 ノートに書かれた名前を見て、男子学生が呟く。

「そっか。僕は三組の風切二葉かざきりふたば。次、化学でしょ? あの先生遅刻するとうるさいからね。早く行った方がいいよ」

「うん。ありがとう、風切くん」

 ぺこりと一礼して、織子はたたっと廊下を駈け出した。

 その後ろ姿を見つめて、二葉はにこにこと笑っている。

「…二葉」

 そんな二葉に声をかけたのは、鏡に映したように同じ顔をした少年。

 しかし微笑を浮かべる二葉に対し、彼は仏頂面と言っても良いほど不機嫌顔だ。

 まったく同じ姿かたちなのに、受ける印象はまったく違う。

一葉かずは

「どうしたんだ? そんなにご機嫌そうな顔をして」

 もうすぐ授業始まるぞ、と呼びに来た彼は、二葉の双子の兄、風切一葉である。

「うん。今、すご~くいいモノを見つけたんだよ」

「?」

「橘織子さん…か」

 ふふっと、二葉は笑った。

(ねえ、織子さん。どうして…、)


 昨日までは普通の人間だった君が、額にそんなモノをつけているの?


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