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妻問う龍と夢見る乙女  作者: なかゆん きなこ
第一章 龍の花嫁
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第二話(5)

 

 

 

 その後も、織子は引かなかった。

 そして同じくらい、銀星も引かなかった。

 妻にはならないという織子と、妻になってもいいと思ってもらえるよう努力するという銀星。二人の主張は平行線のまま。それこそ、見かねた重國が口を出すまでずっと、お互い一歩も引かなかった。

「お二人とも、落ち着いてください。織子様、」

「は、はいっ…」

 両親と同年代の重國に諭すように名を呼ばれ、織子は反射的にかしこまる。

「こうして言い争っていても埒があきません。ここはひとまず、貴女は銀星様の『花嫁候補』ということで、いかかでしょう?」

「いかがでしょうって…」

「こうなると、銀星様は引きませんよ。けれど、貴女の意思を無視することもありません。貴女がこの先も嫌と言い続け、他に好いた方ができたなら、銀星様も諦めましょう」

「…………………仕方がない」

 諦めようと、渋々銀星が呟く。

(…今、とっても間が空いていたけど…)

 もし織子に他に好きな男ができたら、この龍はまた雷でも落とすのではないだろうか。

 織子はそんな不安にかられた。

「しかし、貴女の額に銀星様の瞳があることも、また変えようのない事実です」

「……はい」

 龍の妻になるのは嫌だけれど、だからといって命を捨てて瞳を返すのも無理だ。

「ですから、私達が貴女を守ろうとすることを、お許しください」

「…でも、どうやって?」

 また雷を落とすの? と尋ねる織子に、重國は苦笑する。

「さすがに、毎回それをやられては困ります。よろしいですね? 銀星様」

「………わかっている。だが、危急の場合は容赦はせんぞ」

 下僕しもべ達が織子を守り切れず、その身に何かあれば容赦なく雷を落とすという。

 織子は思わず体を震わせたが、重國は怖れる風でも無くただ穏やかに頭を下げた。

「心得てございます。昂殿」

「はい…です」

 呼ばれて、昂が織子の傍へ来る。その顔が不機嫌そうなのは、織子がめいいっぱい彼の主を拒んでいるからだろう。

「昂殿が、貴女の護衛役を務めます」

「えっ」

 だってこの子、どう見ても小学生で…。

 そう言って指差すと、昂はニイっと不敵な笑みを浮かべた。

「昂殿は…」

「!?」

 重國が言葉を続けるよりも早く、ふっと昂の姿がかき消える。

 そして昂が立っていた場所に、

「きゃあっ!!!」

『失礼な!! 僕の姿を見て悲鳴を上げるなんて失礼…です!!』

 真っ白い蛇が一匹。

 その目は黒く、チロチロと紅い舌を出しながら、昂と同じ声で話す。

「へ…蛇っ…」

「昂殿は銀星様の眷族、蛇の神使しんしです。神使とは、神に仕える妖者あやかしもののことで…」

『フンッ。あまり調子に乗るな…ですよ、人間。主様ぬしさまの奥方と思えばこそ、色々目をつぶってやったですが…ぐえっ』

 織子にシャアッと食ってかかる昂の細長い体躯を、銀星が容赦なくぎゅっと掴み上げる。

「昂、織子は俺の想い人なのだ。無礼は許さん」

『…ご、ごめんなさい…です』

 そしてそのまま、ぐったりする昂をずいっと織子の眼前に差し出した。

 とても良い笑顔で。

「織子、こうして蛇の姿をした昂ならばいつでも傍に…」

「嫌ですっ!」

 というか無理ですと、織子は涙声で拒絶する。

 織子は蛇が苦手だ。写真でさえ触るのが拒むくらいに。

 今だって、蛇の姿をした昂が眼前にいるのが怖くてたまらない。

 たとえしっかり掴まれ、ぐったりしているのだとしても、突然俊敏に動き出しそうで怖いのだ。

「…やはり、若い娘さんにその姿は酷ですね…。では、昂殿」

『ちっ。しょうがない…です』

 そして昂は、また姿を消し、瞬く間に人の姿に変わった。

 最初に見た時と同じ、小学生くらいの少年の姿に。

「これなら問題ないだろ…です」

「ええ。昂殿にはこれからずっと、織子様の御傍について頂きます」

「え!? ずっとって、そんな…、無理でしょう…?」

 だって、学校はどうするの?

 家族にはなんて説明すればいいの。

 しかし重國は、大丈夫ですよと微笑んだ。


「私にお任せください」




長くなってしまったのでここで一度切ります。

次でようやく一章が終わります。


今回書いていて一番楽しかったのは、昂の『ぐえっ』です(笑)

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