雑貨屋バルト
皆さんブクマ ☆評価していただいてありがとうございます!!!!!!!!
ギルドを出たあと。
三人とは入口で別れた。
カイルは「明日も空いてるからな」とか言いながら手を振り、ミアは何か言い足りなさそうにこちらを見て、レンはそれを横で面白そうに眺めていた。
そのやり取りの余韻だけが、少し背中に残る。
――騒がしいのに、どこか軽い。
それを振り切るように、俺は一人で歩き出した。
夕暮れの街。
石畳はまだ昼の熱を残していて、足裏にじんわりと伝わる。
人通りは多いが、昼間とは違う空気だ。
仕事終わりの疲れた顔、酒場へ向かう軽い足取り、家へ急ぐ人々。
全部が混ざって、“一日の終わり”を作っている。
屋台からは肉の焼ける匂い。
どこかから笑い声が聞こえた。
(……いつも通りだな)
そう思いながら歩いていると、ふと足が止まる。
裏通りへ続く細い道。
人通りが一気に減る。
古びた建物が並び、壁は剥がれ、影が濃い。
昼でも薄暗い場所だが、今は夕方。
ほとんど夜の気配だ。
(……久しぶりにあそこに行くか)
自然と、足が向く。
古びた建物の一角。
小さな店。
色褪せた看板は、ほとんど読めない。
――雑貨屋。
(変わってないな)
軽く息を吐き、扉を押す。
からん、と鈴が鳴った。
「おう、いらっしゃ――……」
奥から声が飛んでくる。
低くて太い、ぶっきらぼうな声。
「……なんだ?、見ねえ顔だな」
カウンターの奥。
無精ひげの大男が、じろりとこちらを睨んでいる。
店主――バルド。
腕を組み、露骨に値踏みする目。
(……相変わらずだな)
「見てくなら勝手に見ろ!」
すぐに続く。
「ただし壊したら倍で買い取りだ、分かったな?」
(最初からそれか)
店内を見渡す。
棚には雑多なものが並ぶ。
錆びた工具。
割れた装飾品。
用途不明の金属片。
そして――
(……あるな)
乾電池。
空き缶。
どう見ても、この世界のものじゃない。
値札は雑に書かれている。
“銅貨一枚”
(ほんと適当だな)
思わず口元が緩む。
――五歳の頃。
歪んだ金具を、石で叩いて直した。
それを握りしめて、この店に来た。
「ガキ!こんなガラクタ持ってきてどうすんだ!」
怒鳴られた。
怖かった。
でも、引かなかった。
震える手で差し出した。
すると――
無言で、銅貨二枚が置かれた。
(……売れた)
あの瞬間。
ここは、“使える場所”になった。
「……で?」
現実に引き戻される。
バルドが腕を組んだまま睨んでいる。
「いつまで突っ立ってんだ。冷やかしなら帰れ」
(……気づいてないのか)
「久しぶりだな」
そう言うと、
「は?」
即座に返る。
「初対面だろうが。何言ってやがる」
一歩、カウンターへ。
「銅貨一枚で売ろうとしてた箱」
「……あ?」
「黒い四角。前にレンズが付いてたやつ」
バルドの目が、ぴくりと動く。
「俺が使い方教えただろ」
沈黙。
さらに続ける。
「“押せば絵が残る”って言ったら、お前、それを領主のところに持ってって――」
「――おい待て待て待て!!」
バルドが慌てて手を振る。
顔が引きつっている。
「それ以上言うな!分かった!分かったから!!」
(確定だな)
「……お前、ユウか?」
「そうだ」
バルドはじっとこちらを見る。
頭から足まで、何度も視線を往復させる。
「……いや待て」
額に手を当てる。
「顔も違うし、体つきも違うし……声も微妙に違うぞ」
「それでも本人だって言うのか?」
「そう言ってるだろ」
「……はぁ!?」
「なんだその姿!!どうなってんだそれ!!」
「色々あった」
「雑すぎるだろ説明が!」
頭をガシガシ掻く。
「お前また変なもん触ったな!?」
(……否定できない)
「前もあっただろ!」
指を突きつけてくる。
「変な靴履いて動けなくなって――」
「束縛の呪いか」
「そうそれだ!!2日ぐらいまともに動けなかっただろ!」
「結局教会行って、金すっからかんになってただろ!」
「……そんなこともあったな」
「“あったな”じゃねえ!!」
店に声が響く。
「ほんっと学ばねえなお前は,,,,,」
「そんで」
バルドが一歩近づく。
「今回は何やらかした」
「これだ」
指輪を見せる。
ピンク色の魔石。
バルドの顔が一瞬で変わる。
「……チッ」
「やっぱりな。お前鑑定してねえだろ」
「してない」
「だろうな!!」
指輪を手に取り、じっと見る。
「……ピンク、ねえ」
軽く弾く。
カツン、と乾いた音が響く。
バルドは指輪を机に置き直し、目を細めた。
「どこで拾った」
「ピンクのスライム倒したら出た」
その瞬間、空気が一拍だけ止まる。
「……は?」
バルドの眉がぴくりと動く。
沈黙。
店の中で、外の街のざわめきだけが遠くに聞こえた。
そのあと、バルドは肩を揺らして低く笑った。
「はは……マジかよ」
指で指輪を弾き、乾いた音がもう一度響く。
「お前さ、ほんとにそういうとこだけ運いいよな」
「ピンク色の魔物ってのはな……普通は“厄介枠”だぞ」
腕を組み、天井の梁を見上げる。
「昔、流れてきた話なんだが――」
少し間を置いて、言葉を選ぶように続けた。
「南の方にある国だ。宝石が名産で、王都の市場なんかは光って見えるくらい派手でな」
(……無駄に詳しいな)
「その国の城で、事件があった」
バルドは視線を戻す。
「宝物庫に、正体不明の首飾りが混じってたらしい」
指で自分の首元をなぞる。
「でかいピンクの石が付いててな。妙に綺麗で、妙な光り方をしてたって話だ」
(嫌な表現だな、それ)
「そこの女王がな」
バルドは少し口元を緩めた。
「好奇心が強すぎたんだろうな」
「“少しくらいなら問題ないだろう”って、その場で首にかけた」
その瞬間、ユウの背中に嫌な予感が走る。
「結果は一瞬だ」
バルドは指を鳴らす。
「つけた瞬間、男になった」
空気が少しだけ重くなる。
「しかもただ変わったんじゃねえ」
バルドは指を一本立てる。
「骨格、筋肉、声、全部一気に変わった」
「服は当然合わなくなって、侍女は悲鳴上げて、護衛は剣抜いて、城の中は大混乱になった」
(それは……まあそうなる)
「で、すぐに戻そうとした」
バルドの声が少し低くなる。
「魔術師、神官、呪具師、ありとあらゆる連中を呼んでな」
「解呪、解析、封印解除……できることは全部やった」
「だが全部ダメだったらしい」
(面倒なタイプの呪いだな……)
「で、どうなったと思う?」
バルドがこちらを見る。
「知らん」
即答すると、バルドは鼻で笑った。
「だろうな」
「その女王そのあと開き直ったよ」
「“これも運命なのだろう”ってな」
(強引すぎるだろ)
「そのまま王として居座り続けた」
バルドは肩をすくめる。
「そしたら不思議なもんでな」
「その国、前より安定し始めた」
「内政は妙にスムーズになるし、戦争も起こさなくなった」
(……偶然か?)
「中身が変わったんじゃねえかって噂もあった」
バルドはわざとらしく肩を揺らす。
「真相は知らんがな」
指輪を軽く叩く。
「ただ一つ言える」
視線が鋭くなる。
「ピンク系の魔物や呪具は、“一回で終わらねえ”」
「効果が重なるタイプが多い。しかもだいたい、ろくでもねえ方向に」
「で?」
バルドが顎をしゃくる。
「それで、お前はどうなった」
ユウは短く答えた。
「見ての通り女になった」
一瞬の間。
「だろうな!!」
バルドは大きく息を吐き、額を押さえる。
「いいか」
指を突きつける。
「そういう類の呪具はな、“条件付き”だ」
「魔力、時間、感情、行動……何かしらトリガーがある」
「適当に扱うなよ」
目が一瞬だけ真剣になる。
「最悪、戻れなくなる」
(……)
ユウは指輪を見る。
淡い光が、脈打つように揺れていた。
「……分かった」
短く答える。
バルドはその反応を見て、ふっと力を抜いた。
「……まあでもよ」
視線を外し、乱雑に積まれた棚へと目をやる。
「お前、久しぶりに顔出したな」
ぶっきらぼうに吐き捨てるように言って、それ以上は続けない。
「前よりは面倒事が増えてそうだがな」
バルドはそれ以上興味なさそうに肩をすくめた。
視線は棚へと逸れ、そこで会話を切るように一拍置く。
「また来い」
短く言い捨てるように続ける。
ユウは少し間を置いてから、軽く鼻を鳴らした。
「気が向いたらな」
それだけ返すと、ユウは店を出た。
外はすでに夜に近い。
街灯の魔石が淡く光り、石畳に長い影を落としている。
露店は片付けを始め、屋台の煙だけがまだ細く空に伸びていた。
人の声は減り、代わりに遠くの酒場の笑い声だけが響いている。
(……指輪の情報は、まあ十分か)
ポケットの中で指輪を転がす。
ひんやりとした感触が、やけに現実的だった。
(ろくでもないのは確定だな)
魔力か、時間か、それとも別の条件か。
いずれにしても、試すしかない。
小さく息を吐く。
(……どうせ放っておいても、勝手に動くタイプだ)
指輪が、わずかに淡く脈打っている気がした。
(まぁいいか)
そう結論だけ置いて、ユウは夜の通りへ歩き出した。
次はバルトとユウの過去編にする?
ブクマと評価がとちょっとずつ増えるのうれしい!!ほんとにありがとうございます”




