街への帰り道
一日一投稿に変わります。よろしくお願いいたします。
過去最高のpvになってました。嬉しいです、 ユウの過去編も後々書きますのでお楽しみに
森からの帰り道。
夕方の光が、木々の隙間から斜めに差し込んでいる。
高い枝葉のあいだから漏れた光は、まっすぐではなく、細かく分断されて地面に落ちていた。踏み固められた土の道の上に、まだらな明るさと影が揺れている。風が吹くたびにその形がゆっくり変わって、同じ景色なのにどこか落ち着かない。
四人は自然と列を作って歩いていた。
先頭を歩くカイルは、さっきまでの疲れを引きずりながらも足取りはしっかりしている。少し後ろのレンは周囲に気を配りながら、一定のリズムで歩いていた。
そのさらに後ろ。
俺とミアが並ぶ形になる。
足音は土に吸われて小さく、代わりに耳に残るのは、葉が擦れる音と、遠くで鳴く鳥の声、それからときどき枝を踏んだときの乾いた音くらいだった。
勝負の余韻は残っているが、さっきまでの騒がしさはもうない。
静かな帰り道だった。
「……ねえ、ユーナさん」
少し間を空けて、ミアが声をかけてきた。
さっきまでよりも声のトーンが落ちている。無理に明るくしていない、考えながら話そうとしている声だった。
「なんだ」
横を見る。
ミアは前を見たまま、少しだけ視線を落としていた。
「さっきの……すごかったね」
「……結果だけ見ればな」
短く返す。
ミアはすぐに首を横に振った。
「ううん、違うと思う」
歩きながら、少しだけ言葉を選ぶ間があってから続ける。
「だって、あの素材の状態……普通じゃなかった」
(見てなくても分かるか)
素材の質はごまかせない。どれだけ丁寧に倒したか、どれだけ無駄な動きをしたかは、そのまま形に出る。
「……私さ」
ミアは一度視線を足元に落とした。
「さっき、自分の袋見直したんだけど」
小さく苦笑する。
「ほとんど傷だらけだった」
歩いている途中、小さな枝を踏んでしまう。ぱき、と軽い音が鳴る。
それに気づいて、ミアは少しだけ足元を気にするように歩き方を変えた。
「戦ってるときってさ、ほんと余裕ないんだよね」
「まあな」
「目の前の敵だけでいっぱいになって、
他のこと全然見えなくなるし……」
少し考えてから、言葉を補足する。
「倒すことしか考えてなかった」
声は小さいが、はっきりしている。
「だからさ」
ミアが顔を上げる。
「ユーナさんの結果見て――」
そこで一度言葉を止める。
すぐには続けず、呼吸を一つ挟んでから言い直す。
「……見て、分かったんだよ」
「“ちゃんと戦えてる人”って、こういうことなんだなって」
少しだけ息を吐く。
「なんかさ……悔しいっていうか」
苦笑する。
「……焦るっていうか」
(そう思ってたのか)
ただの感情じゃなくて、ちゃんと自分に向けてる。
「私、このままでいいのかなって思った」
一瞬だけ足が緩むが、すぐに元のリズムに戻る。
「……本当はさ」
声が少し小さくなる。
「ユーナさんのこと、誘おうと思ってたんだ」
(やっぱりな)
「ちゃんとパーティー組めたらいいなって思ってた」
少しだけ笑う。
「レンと三人でもいいし……」
そこで言葉が止まる。
そのまま続けず、小さく首を振る。
「……でも」
間を置く。
「今日見て思ったの」
視線がまっすぐになる。
「私、まだ全然足りてない」
はっきり言い切る。
「このまま誘っても、断られるかもって思った」
「……別に」
短く返す。
「断るとは言ってない」
ミアが少し驚いた顔でこちらを見る。
「え?」
「ただ」
少し考えてから言う。
「今のままだと、多分続かないと思う」
正直に。
「……そっか」
ミアは小さく頷いた。
否定しない。
その代わり、目の色が変わる。
「じゃあさ」
一歩、距離を詰めてくる。
「追いつく」
迷いなく言う。
「ちゃんと周り見えるようになるし、無駄な動きも減らす」
一つずつ確認するように言葉を重ねる。
「素材もちゃんと残せるようになるから」
そして、
「その上で、もう一回誘う」
少しだけ笑う。
でも目は真剣なまま。
(……いいな)
少し間を置いて、
「……分かった」
それだけ返す。
ミアの表情が一気に明るくなる。
「よし!」
小さく拳を握る。
「やること決まった!」
迷いは消えていた。
――その直後だった。
足元に張り出していた木の根に、ミアの足先が引っかかる。
踏み出した体重がそのまま前に流れて、
「――あっ」
体が崩れる。
反射で腕を掴む。
そのまま引き寄せる。
バランスを崩した体同士が、そのままぶつかる形になる。
「っと――」
次の瞬間。
ミアの顔が、私の胸元にそのまま埋まった。
柔らかい感触が、はっきりと伝わる。
服越しでも分かるくらい、顔を押し当てられている。
(……は?)
予想していなかった距離。
逃げ場がない。
というか、完全に当たっている。
ミアの額と頬が、胸に押し付けられている状態で、そのまま止まる。
体温が近い。
呼吸も分かる。
(……なんか、あったかいな)
思ったより柔らかくて、妙に現実感がある。
ミアの動きが止まる。
「…………」
無言。
数秒、そのまま。
普通ならすぐ離れるはずなのに、なぜか動かない。
(……長くないか?)
そのまま、
――すり。
わずかに動く。
(……今、動いたな)
もう一度。
――すりすり。
顔の位置を、ほんの少しだけ調整している。
押し付ける角度を変えているような動き。
(何してんだこいつ)
「……あ」
ようやく気づいたらしい。
ゆっくり顔を上げる。
距離が近い。
ほぼ目の前。
一瞬だけ目が合う。
「ご、ごめん!!」
慌てて離れる。
顔が一気に赤くなる。
「いやその!転びそうで!不可抗力で!事故で!」
言葉が崩壊している。
その途中で、視線が落ちる。
――胸元。
ぴたりと止まる。
さらに顔が赤くなる。
「……やわらか……」
ぽつりと漏れる。
(聞こえてる)
「何か言ったか」
「な、何も言ってない!!」
即答。完全に裏返っている。
しばらくして、観念したように肩を落とす。
「……その」
ちらっと見る。
すぐ逸らす。
また見る。
「……ちょっとだけ、その……安心感すごかった」
(どういう感想だよ)
「包まれるっていうか……あったかいっていうか……」
自分で言って恥ずかしくなったのか、頭を抱える。
「うわあああ何言ってんの私!!」
その場でしゃがみ込む。
(ほんと忙しいな)
少ししてから、顔を上げる。
「……でもさ」
少し笑う。
「なんか、ちょっと元気出たかも」
さっきとは違う声。
前向きなやつ。
「悔しいのは変わらないけど」
拳を軽く握る。
「だから頑張ろうって思えた」
まっすぐこっちを見る。
「ちゃんと強くなる」
前を歩いていたカイルが振り返る。
「おい、遅いぞー」
レンも苦笑する。
「大丈夫?転んだ?」
ミアはすぐに立ち上がる。
「だいじょーぶ!!」
それから振り返って、
「行こ、ユーナさん!」
軽く笑う。
その足取りは、さっきよりもしっかりしていた。
その背中を見ながら、俺は一歩遅れて歩き出す。
森の出口が少しずつ近づいてくる。
木々の密度が薄くなり、差し込む光が強くなる。さっきまで斑に落ちていた影が消えて、足元の土の色もはっきり見えるようになっていた。
遠くから、人の声がかすかに聞こえる。
もうすぐ町だ。
風の匂いも変わる。湿った土と葉の匂いに混じって、どこか乾いた空気が流れ込んでくる。
前を歩く三人の足取りも、少しだけ軽くなっていた。
ミアはさっきのことなんてなかったみたいに、カイルに何か話しかけている。カイルは大げさに返して、レンが横で苦笑していた。
そのやり取りを、少し後ろから眺める。
騒がしい。
でも、さっきまでより妙に静かに感じるのは、自分の中の意識が落ち着いたせいかもしれない。
(……まあいい)
考えるのをやめる。
森を抜ける。
視界が一気に開けて、見慣れた町の外壁が見えた。
そのまま、三人の後を追って歩く。
ユウ「もっとああいうシーン増やしてくれ」
??? 「そんなんむりよ、何も考えずに今突き進んでんだよ」




