第8話 強面騎士は妄想で自爆する
――グレン視点――
「ポピー。今度、モーガン嬢が結婚するらしい……。しかも相手がトーマスだ」
大型犬をブラッシングしながら、ゆっくりと語りかける。
少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。
モーガン嬢に会えないからか。
――騎士は反対だが……トーマスならば……。
穏やかな性格で、協調性もある。
女性を裏切るような人物ではない。
「結婚式に呼ばれるな、きっと」
ポピーは俺の膝に頭を乗せてこちらを見あげてくる。
「花嫁姿の彼女……の隣に……」
きっと美しいドレス姿だ。
そこに別の男が並ぶのか??
さらには誓いのキス?
彼女が――。
将来を誓い合い、ずっと誰かと一緒に暮らす。
しかも、俺の部下と??
衝動的に身体が動いた。
「ポピーいくぞ!駄目だ!よくわからんがトーマスでも許せない」
「ワン!」
滅多に吠えないポピーが俺の背中を押してくれている。場所は把握済みだ。まだ間に合う。
俺は、ポピーのリードを持って家を飛び出した。
◇◇◇
私とトーマス副長は、苦笑いで席に着いた。
断る前提でのお見合い。
少し面白い状況に、自然と笑みが浮かぶ。
「そういえば、最近のポピーはどうです?」
「あぁ、元気そうです。ただ、飼い主の方がね……。死にそうなんで……」
あまりの発言にテーブルに両手をついた。
「死にそう!?何かあったんですか」
いくら、危険と隣り合わせの騎士でも王都勤務の今の状況で……。
何かの病気だろうか。
不安と後悔が胸に押し寄せ、もっと詳しく聞かなければ納得できなかった。
「最近は、あまり食事も取れず、不眠症状まで出ているようです。……あれは重症ですね」
「そんな……!」
私が避けている間に、そんなことになっていたなんて。
こんな事ならば、身を引くんじゃなかった。
嫌われても疎まれても側にいたかった。
膝の上で拳を握りしめる。
お茶なんてしている場合ではなかった。
早く、様子を見に――。
席を立とうとした、その瞬間。
「その見合い待ったーー!!」
聞き慣れた低い声が耳に響いた。
いや、店中に。
「キャーー!」
「うわーー!!!」
――軍用犬を連れた大柄な騎士が店に乱入してきたのだ。
大パニックだった。
トーマス副長は、手で目元を覆い――すぐに、グレン隊長の所に向かっていった。
「あんた馬鹿だわー!!さすがにここまでの大惨事を引き起こすと思わないですよ!」
私も口元を覆って、周りを見渡す。
テーブルや椅子がひっくり返り、カップや皿、料理が床を汚していた。
この惨状。
目眩を起こしそうだ。
思わずフラリと倒れ込みそうになると、グレン隊長が走ってきて支えてくれた。
しかし私は、今まで溜まっていたものが一気に噴き出したかのように、彼に詰め寄っていた。
「今まで避けてたのに、なんなんですか!?」
あれ……。なんで私、こんなに腹立たしくて泣きたい気持ちになるの――。
そんな疑問が頭をよぎるが、今は怒りが勝る。
「騎士が民間の店に突入するなんて問題になります!それに、お見合い!?私のことなんて嫌っていたじゃないですか!」
「違うんだ……。君が、俺なんかを相手にするわけがないと思っていた」
グレン隊長は、そこでトーマス副長を指差した。
「こいつと結婚するくらいなら、俺のほうが……!」
「「しませんよ?」」
静まり帰った店のなかで、ポピーの元気な息遣いだけがやけに大きく聞こえた。
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