第6話 強面騎士の知らないところで話が進んでいる
「トーマス副長、こんな所に呼び出して申し訳ありません」
「あー……いや。後が怖いだけで大丈夫ですよ」
そこは騎士団の本部から少し離れた所にある、静かな喫茶店だった。
この雰囲気が落ち着く、と密かに人気がある。
しかし、隊服を着ている男性はここでは目立っていた。
場所の選択を間違えたか、と少し後悔したが話を続けることにした。
「あの、ポピーと……グレン隊長の事なんですが。私、何かご迷惑をおかけしてしまいましたか?最近は目も合わせてくださらなくて、だいぶ嫌われてしまったみたいです……」
お茶のカップを両手で包み込み、そこに映った情けない姿が波打っているのを見ながら聞いた。
顔を上げられなかった。
「……だから言ったのにあの馬鹿は」
「え?」
小さな呟きが聞き取れなくて、思わず視線を向けた。
そこには、いつも通りのトーマス副長が笑顔で座っているだけだ。
何か不穏な単語が聞こえた気がしたが――。
「いえ。……あの人、ただの鈍い大馬鹿で、頭が筋肉で出来ているから、もう考えることが浅はかすぎるだけなんですよ。サラさんにはご迷惑をおかけしていますが」
やはり、聞き間違いどころか、罵詈雑言の嵐が来た。仲が良さそうに見えるのに。
「あ、あの。さすがに、言い過ぎですよ??」
「このくらい、いつものやり取りなので平気ですよ。ちなみに、もう愛想が尽きたとか、そういう話ですか?」
「違います!」
思わず、声が大きくなってしまった。
――気まずい。
周囲を伺いながら、誤解されないように説明する。
「ただ、あまり私は関わらないほうがいい気がして。それで、ポピーの事は全面的にお任せしようかと。最初から間違っていたのかもしれません」
懐いてくれている姿を思い出すと胸が痛くなるが、私がいなくても大丈夫だろう。
「……来たるべき時がついに。――サラさんはお付き合いしている方は?」
「は?いませんが……。え!?」
この流れで、ありえない質問が飛んできて、またしても驚く。
しかし当のトーマス副長本人は、気にした様子もなく話を続けた。
「実は、実家の母からお見合いをせっつかれていまして……。困ってるんですよね」
「そうなんですか……」
要領を得ない発言に、一応相づちを打つ。
世間話にしてもそんなにプライベートな会話をする仲でもないのに不思議だった。
「実は、釣書にあなたの名前を発見しまして」
「……!」
あ~。お節介な身内がまた勝手なことをしていたらしい。
まだ仕事がしたい、相手は自分で選ぶと伝えているのに。確かに心配をかけているのかもしれない。
でも、どうしてもまだ考えられなかった。
「それは……本当にご迷惑をおかけして。いえ、家族が勝手に送りつけたものです。お断りしてください」
私が、あまりの恥ずかしさに頭を下げると――、
「いえ。俺の方は強制的でして。……サラさん、お断りを前提に付き合ってくださいません?」
明らかに文脈がおかしいが、トーマス副長の態度に笑ってしまった。大真面目な顔をしているが、彼の瞳は面白がっているようだ。
――いいかもしれない。一回お見合いして、上手くいかなかった。
そう説明すれば家族も納得するだろう。
しばらくはそれで誤魔化せそうだ。
「じゃあ、お断りを前提に。ふふふ。それじゃあ、ポピーの事はお願いしますね」
「わかりました。お任せください。……それと、今のうちに謝っておきますね」
意味ありげなセリフを残すトーマス副長。
私たちは、そのまま和やかな雰囲気で世間話を続けた。彼は、とても気さくで話しやすい。
このすぐ後に、嵐のような大騒動が巻き起こるとは知らずに――。
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