第5話 強面騎士は好きな子を避けてしまう
「……ああ」
グレン隊長は、そんな返答だけで帰っていってしまった。
まただ。
以前は、もっと会話をしてくれていたのに――。
やはり、私は避けられている……。
理由のわからないもどかしさに胸が締めつけられた。
最近は、視線も合わず、偶然出会っても他人行儀ですぐに去ってしまう。
これは明らかに嫌われている。
もっとポピーの話をしたかった。
彼の落ち着いた低い声が好きだったのに……。
「あれ、先輩。グレン隊長、怒ってました??いつもより怖いんですが……」
「……そうなのかも」
後輩にも指摘される。
やはり何か彼の怒りを買ってしまったのかもしれない。
でも優しい人だから、私が嫌でも無理しているのかも――。そう考えたら止まらなくなった。
「大丈夫ですよ、先輩!グレン隊長が民間人に危害を与えた事はないらしいですから。いざとなったら、トーマス副長の所に逃げ込めばいいんですよ」
――いや、危害とか、猛獣じゃないんだから……。
と思いながらも、確かにトーマス副長に相談するというのは盲点だった。
ポピーは、訓練場でもおとなしくしているらしい。
このまま副長に引き継ぐのもいいかもしれない。
「そうだね。嫌われてたら……どうしょうもないよね」
後輩はすでにその場に居なかったが、自分の声が、やけに耳の奥に響いた。
――お昼休憩の時間。
騎士目当ての事務員は、差し入れに持って、演習場に向かって行く。
私は意を決して、その中に紛れ込んだ。
周りからは意外な目を向けられて心地がわるい。
そして、目当ての人物が出てきた。
彼は、人当たりの良さから人気もある。
ドリンクや、ただの声がけまで様々だけれど、私も隙を見て話しかけたい。
しかし……近づけない。
手を伸ばして、騒がしい中で声を上げてみる。
「トーマス副長!少し、時間ありますか!?」
ばちり、と確実に目が合った。
一瞬の戸惑いの後に、少しだけ、彼が頷いた気がした。
◇◇◇
――グレン視点――
少し離れた場所で、聞き慣れた女性の声が聞こえた。
ポピーに食事を持っていく途中だった。
自分から頼んでおいて、モーガン嬢を避け続ける俺を、トーマスと軍犬の訓練士にも注意されていた。
あまりにも理不尽な対応だと。
だから、ポピーの世話は、なるべく彼女の負担にならないように全て自分ですると伝えていた。
トーマスを呼ぶ、彼女の声。
騒がしい中でも確実に拾った。
そして、斜め後ろを見れば、トーマスにも聞こえていたのだろう。
あいつも、モーガン嬢に返事をしていた。
一瞬、頭の中が真っ白になり足が止まってしまった。
周囲の人間――特にトーマスが、やけにこちらを気にして視線を寄越してくる。
――いや、自分から望んだことだ。
騎士なのは気にかかるが、トーマスは面倒見が良くて、部下からの信頼も厚い。
それならば……言うことは何もない。
そのはずだ。
無理やり身体を動かして、その場をあとにした。
しかし何をしていても、彼女の声が頭から離れず、理由のわからない焦燥だけが募っていった。
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