第4話 強面騎士はまだ恋だと気づいていない
――グレン視点――
「今度、事務員の彼女と結婚するんだ」
「うわ!お前、うまいことやったな、羨ましい」
演習場に行くと、騎士たちの会話が聞こえてきた。
――結婚?事務員の彼女?
「ポピー、走るぞ。ゴー!」
俺は、ポピーのリードを離し、奴らに近づいて尋ねた。
今しがた、結婚報告をしていた部下の胸ぐらをつかむ。
「お前、誰に手を出した?まさか――」
「ひっ!グレン隊長!?」
「え!?手を出したって……!俺は本気で」
そこで、慌ててトーマスが割り込んでくる。
「なにやってんすか!馬鹿ですか!?いや、馬鹿だけど!彼女の話じゃないですよ……!こいつの結婚相手は別の女性です」
「……よし。――結婚おめでとう」
俺はぱっと手を離し、彼の肩に手を置いた。
「いや、ありがとうございます……??」
――しかし、なぜ自分はいきなりこんな行動を……。
いや。
そうだ。
彼女には、こいつじゃ勿体ない。
もっと相応しい人物がいると思ったからだ。
騎士は粗暴だし、女性関係もだらしない奴が多い。
家庭には向かないし、いつ死ぬかわからない。
そんな奴が彼女と結婚していいはずがない。
……俺もそうだ。
モーガン嬢にはもっと――。
そう納得したが、胸のざらつきが残り続けた。
◇◇◇
「よし、今日の訓練は俺も混ざるぞ。まずは演習場を倒れる寸前まで走る事にする。一番早く脱落した奴は追加コースだ、いくぞ!」
とにかく身体を動かしていないとおかしな思考に陥ってしまう。とりあえず倒れる寸前まで走ろうと思い、部下に命じた。
「いや……!まずは、何周走ればいいのか決めてくださいよーー!」
「まずい、隊長が走り出したぞ!続け……!」
「これ、終わりが見えないんですがーー!」
最初に脱落したメンバーは、壁際で一旦休ませ、素振りを追加させることにする。
「いや……!俺、最近は書類仕事……、ばっかりだったから……もう無理っ!」
これまで何周走ったのか数えていないが――。
トーマスが倒れ込み、俺はそこでストップをかけた。
周りを見れば、立っているのは数人だけだった。
後は、倒れ込んだり、座り込んだりと様々だった。
――ここまでにするか。
そう思った時に、前脚で催促された。
一緒に走っていたポピーだ。
視線を向ければ、まだまだ走り足りないと訴えているポピーの瞳。
よし。
「ポピー、もう少し走るぞ!ついてこられた奴だけ、素振り免除だ」
「いやいやいや!犬と競争とか馬鹿でしょう!?あんた!」
誰かの絶叫が聞こえたが、あえて無視する。
『……隊長と軍犬の相性がエグすぎる……』
『今日、家に帰れる気がしない……』
『……騎士ってなんだっけ……犬だったかな……』
――そこで、大切なことを思い出した。
「ああ、さっき結婚報告をしたやつは休んでいていい。後で詳しい経緯を報告させるからな。前払いだ」
そこで倒れている部下を指名して休ませる。
祝うにしても、詳しい事情は聞いておきたい。
ただの興味だ。
そう、上司としてこれは必要なことだ。
「……え、俺!?尋問ですか……!?なぜ……!」
「尋問じゃない。ただ、出会いから結婚までの話を聞いてみたいだけだ」
((――それ、自分の都合じゃない……?))
演習場にいた騎士全員の心の声が、重なった瞬間だった。
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