第3話 強面騎士は距離の取り方が下手
「……あ!グレン隊長、ポピーはまだ訓練場に……」
「……」
彼と目が合ったので、話しかけたが――、そのまま遠ざかっていく。
最近はいつもこうだ。
「私、何かしちゃったかしら……」
時計を見ると、騎士団の退勤時間が近い。
ポピーを迎えに行って、グレン隊長に手渡して……。
――嫌われたのか、それとも、お節介だったのか。
私は、自分の行動を何度も振り返りながらポピーを迎えに行った。
軍用犬の訓練場では嬉しそうに寄ってきてくれるポピー。
撫でて欲しいと言うようにお腹を見せて転がった。
「ポピーは赤ちゃんの頃から私に懐いてくれてるね。……でも、あなたのご主人様には嫌われちゃったみたい……」
そのお腹を、わしゃわしゃと撫でてあげる。
鼻を鳴らして喜んでくれた。
――何年か前に、生まれたばかりの子犬を預かった事がある。
訓練前の子犬を預かるボランティアだった。
その時の子がポピーだ。
だから――あの日、ポピーを処分するという決裁書。
それを取り上げていった彼に、自分も救われた気がしたのだ。
「仲良くなりたかったのにな」
◇◇◇
――グレン視点――
モーガン嬢から、ポピーを引き取ってきた。
――やはり、彼女の前では何を話していいかわからなくなる。
すると、トーマスが待ち構えてたように声をかけてきた。
本当に迷惑な奴だ。
「サラさん、健気ですね」
「……彼女には感謝している」
――さっきの彼女の言葉。
それをこいつも聞いていたのか、と溜め息をついた。
「団員にも結構人気あるんですよね。優しいし美人だし。狙ってるやつも多いでしょうねぇ」
「さっきから、煩いぞ」
何故か心が落ち着かない。
――騎士と彼女が?
「いやー、ポピーは素直でいいですね。飼い主は捻くれてるのに」
それに答えるようにポピーがトーマスに尻尾を振る。
「別に捻くれてはいない。……どうしていいか全然わからないだけだ」
「うわ……。隊長って歳いくつでしたっけ。悩みが思春期みたいでこっちが恥ずかしいです」
「彼女には騎士なんてもったいないだろう。野蛮な脳筋ばかりだぞ」
「ふーん。じゃあ、お上品な貴族か文官ならいいんですか?でも、独身の騎士の為に上層部が女性を多く雇ってるみたいですし」
「………」
想像しかけて、無理やり頭から引き剥がす。
――今日の訓練は少し厳しくするか。
浮ついた考えの部下も多いらしい。
「そんな事にうつつを抜かす余裕がないように、スケジュールを変えるか……」
「うわ、見苦しい男の嫉妬。いや……縄張り争いかな?」
「何か言ったか」
トーマスは、慌てて首を振った。
「いいえ、浮ついたやつはぶん殴り候補ですね!」
「ああ。久しぶりに俺が直接指導しよう」
今日の訓練内容を組み立てていると、横でぼそりと呟かれる声。
「……それ、もう恋ですよ。拗らせも大概にしないと、サラさんに嫌われますからね」
見透かすような発言をするのが気に食わない。
俺と関わって、彼女の仕事に支障が出ないように――、
少し離れた距離を保っているだけだ。
「――モーガン嬢は尊敬できる人物だ。そんな軽い感情じゃない」
そう。『恋』なんて、軽くて曖昧なものではない。
しかし、そこでトーマスが肩を竦めた。
ポピーにも、なぜか溜め息をつかれた気がする。
――その日の演習場は、阿鼻叫喚だった。
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