第1話 強面騎士と傷だらけの番犬
王都騎士団で一番怖いと噂の隊長に、私は嫌われている――そう思っていた。
机の上にある書類の束。
大きな手が私の顔のすぐ横をすり抜けて、一番上の紙を取り上げていった。
――それは、怪我をして任務に就けなくなった、軍用犬を処分するための決裁書だった。
その後、その犬は引き取られていった。
騎士団の中でも、強面で――、
『戦場の番犬』の異名で呼ばれる、その人。
王都騎士団 三番隊隊長 グレン隊長だった。
◇◇◇
その日から、グレン隊長が王都を大型犬を連れ歩いているのが目撃された。
流石に元、軍用犬だ。
あまりにも大きな体躯に、引き締まった筋肉、眼光も鋭いためにグレン隊長とセットで目撃すると固まる人が多いという。
「グレン隊長、地獄の番犬コンビって王都で噂になってますよ」
「……コンビ?」
金髪を纏めた男性が身振りで説明している。
「ほら、あの軍用犬!厳つい顔面でしょう。……それで引き取った理由は?」
「ポピーは忠犬だ。勇敢に戦った戦士を見捨てられない」
低い声でそう断言する黒髪で長身な男性。
――グレン隊長。
「隊長ならそうですよねぇ。でも見た目が凶悪すぎて、王都民からの苦情がこんなに」
そこには、紙の束が置いてあった。
「じゃあ、騎士団の中なら問題ないんじゃ?演習中は私が見ていましょうか?」
二人が同時に振り向く。
トーマス副長と、グレン隊長の視線がこちらに向けられた。
「サラさん。そこにいたの?」
「大きな声だったので……。会話に入り込んでごめんなさい」
私は不躾な態度を謝った。
頭を下げながら、今の話は処分予定だった『ポピー』の話だと安堵していた。
あの日、書類には
片足を負傷して速く走れなくなったと書いてあった。
それだけの理由で無用とされてしまった軍用犬。
――あの日から、ポピーは大切にされている。
心の奥底が温かくなった。
「……いや。仕事の迷惑になるのではないか」
「訓練された子ですよね?大丈夫だと思いますよ」
不器用な人だと思った。
自分の功績も言いふらさず、厳つい顔と雰囲気で誤解されている。
ポピーと同じだ。
厳しい訓練を受けて、任務で勇敢に戦った。
それだけでも立派なのに。
「それなら、任せても大丈夫だろうか」
「ええ。これでも騎士団の一員ですから!ふふ。事務員ですけれど」
彼は一瞬、黙り込んだ。
そして、視線を外しながら低く呟く。
「いや……。感謝する、モーガン嬢」
「いいえ。まず、専門の訓練士から許可をもらってきましょうか。そうしたら、事務員や他の方も安心すると思いますよ?」
私の提案に納得したように、トーマス副長が頷いた。
「なるほど!確かに、見た目だけで損する生き物も多いですからね、いい案だ」
――まるで当てつけのように、グレン隊長を横目で見ながら言っている。
その姿が面白くて、つい、口角が上がってしまった。
「そうですね。――本当は優しいのに、もったいないです」
ポピーの顔についた、大きな傷跡を撫でた。
嬉しそうに目を細めて尻尾を振ってくれている。
硬めの毛質が手に馴染んだ。
そして次の朝。
グレン隊長とポピーが一緒に騎士団に出勤する姿に、次々と悲鳴を堪える事務員が続出した。
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