第9章:迫り来る嵐と、揺るぎなき絆の光
『アメリアの庭』の評判が王都に広がるにつれて、宰相ザカリー・ブラックウッドの警戒は、やがて明確な妨害工作へと変わっていった。
「辺境の食材など、不潔で危険な代物だ」「あの店の料理は、怪しげな魔術を使っているらしい」「食中毒が出たという噂だぞ」
ありもしない質の悪い噂が、王都の貴族社会に流布され始めた。アメリアが仕入れる予定だった契約農家が急に取引を中止したり、質の悪い食材がわざと混入されたりといった実害も出始めた。さらには、定期的にレストランの衛生検査官と名乗る者たちがやってきては、些細なことで難癖をつけ、営業妨害を繰り返すようになった。
「くっ……何てこと!」
アメリアは、立て続けに起こる困難に歯噛みした。しかし、彼女はもう一人ではなかった。
「お嬢様、ご心配なく。新たな仕入れ先は私が当たります。この辺境にも、あなたを支える者たちは大勢います」
レオンハルトが、持ち前の広いつてと、村長としての顔で新たな流通ルートを確保してくれた。彼の素朴で誠実な人柄は、周りの村人たちからの信頼も厚く、彼の協力は絶大だった。質の悪い食材を見抜くのはルイスの鋭い目利きがあったからこそだった。彼は、自身の過去の経験から、貴族社会の裏側にも通じており、妨害の背後に隠された意図を見抜いた。
「卑劣な真似を……しかし、お嬢様が築き上げたこの楽園は、決して穢させません」
ルイスは、アメリアのためにとことん尽くした。村人たちもまた、自分たちが心を込めて育てた作物を貶められ、アメリアが苦しめられていることに憤りを感じ、これまで以上に結束を強めた。レストランの安全を守るために自警団を結成したり、情報収集に協力したりと、彼らの支えはアメリアの大きな力となった。アメリアは何度も困難に直面しながらも、レオンハルトの知恵、ルイスの技術、そして村人たちの揺るぎない信頼と協力によって、一つ一つの問題を乗り越えていった。
困難を共に乗り越える中で、アメリアとレオンハルトの絆は、自然と深まっていった。土と向き合い、村を愛する彼の真っ直ぐな瞳。そして、アメリアが苦しむ時に、真っ先に駆けつけて支えてくれる温かさ。アメリアは、いつしかレオンハルトに、淡い恋心を抱くようになっていた。彼もまた、公爵令嬢としての煌びやかな仮面を脱ぎ捨て、泥まみれになりながらも懸命に生き、村人たちのために尽くすアメリアの姿に、心を奪われていた。二人の視線が合うたびに、そこには言葉にできないほどの温かい感情が流れるようになっていった。
一方、王都では。宰相ザカリーがアメリアへの妨害工作を続けていることを知った王子エドワードは、内心の疑惑をさらに深めていた。「なぜ、そこまで執拗にアメリアを追い詰める必要があるのか?」 ザカリーの言動は、どう見ても過剰だった。そして、この一連の妨害工作が、かつてアメリアを追放した事件の裏に、何か大きな陰謀があるのではないかと、エドワードは疑いを強めていった。彼は密かに、アメリアの追放事件の再調査を命じた。真実が、少しずつ闇の中から顔を出し始めていた。




