番外編2:ルイスの隠された過去と、再生の味わい
「料理は、人を幸せにするためにある」
かつて、そう信じていた。宮廷料理人ルイス・グランデとして、私は常に最高の食材を求め、最高の腕を振るい、王族や貴族たちをその味で唸らせてきた。私の料理は、王国の誇りだった。
しかし、宮廷という場所は、華やかな表舞台の裏で、常に権謀術数が渦巻いている。宰相ザカリー・ブラックウッド。あの男に目をつけられたのが、私の不幸の始まりだった。彼の企みに巻き込まれ、濡れ衣を着せられた私は、料理に毒を盛ろうとした罪で追われる身となった。真実を知っていた者は誰もいなかった。命からがら王都を逃げ出し、私はこの辺境の地に身を隠した。
私の料理は、もはや誰も幸せにしない。毒を盛ろうとした、という濡れ衣は、私の料理人としての誇りを根底から打ち砕いた。私は包丁を握る気力も失い、ただ過去に囚われて、ひっそりと生きていた。食べるために簡単な料理はするが、そこには何の喜びも、情熱もなかった。料理への情熱は、あの忌まわしい事件と共に、私の心から消え去っていたのだ。
そんな私を拾い上げてくれたのが、アメリア様だった。初めて彼女の畑を見た時、私は衝撃を受けた。辺境の荒れ地から、まるで奇跡のように湧き出る生命力。そして、彼女が作った素朴な料理を口にした時、私は涙が止まらなかった。
それは、私の作った、技巧を凝らした宮廷料理とは全く違う、シンプルな料理だった。だが、そこには、土の香りがし、太陽の温かさが凝縮されているような、魂を揺さぶる感動があった。私が忘れ去っていた、「料理は、人を幸せにするためにある」という、最も大切なことを、彼女の料理が思い出させてくれたのだ。
「ルイスさん。私のレストランで、料理長として力を貸していただけませんか?」
彼女のまっすぐな瞳は、私の心の奥底に眠っていた料理への情熱を呼び覚ました。私は再び包丁を握ることを決意した。アメリア様が育てる奇跡の食材と、私の培った技術。それが融合することで、私は新たな料理の地平を見出した。
「このレタスは、そのままの瑞々しさを活かすべきです」「このトマトは、ゆっくり煮込んで甘みを引き出しましょう」
彼女は、素材の持つ「声」を聞き、その魅力を最大限に引き出すことに関しては、私よりも遥かに優れていた。私は、彼女のその感性を尊重し、私の技術でそれを形にした。彼女の料理哲学は、私の料理の腕に新たな息吹を与え、これまで私が知らなかった「再生の味」を生み出したのだ。
『アメリアの庭』は、まさに私自身の「庭」でもあった。ここで私は、料理人としての人生を再生させ、再び人々に「美味しい」という笑顔を届ける喜びを見出した。アメリア様への感謝と忠誠は、決して揺らぐことはない。この命が尽きるまで、私は彼女の傍で、幸福の料理を作り続けるだろう。




