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追放令嬢は辺境の廃村で美食の楽園を創る〜土と炎で紡ぐ、真の幸福レストラン〜  作者: 緋村ルナ


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第1章:王都に響く断罪の鐘と、公爵令嬢の絶望

【登場人物紹介】

◆アメリア・フォン・ヴァレンシュタイン

物語の主人公。ヴァレンシュタイン公爵令嬢。完璧主義者ゆえに高慢だと誤解されがちだが、根は純粋で真面目。第一王子エドワードに濡れ衣を着せられ辺境に追放される。過酷な辺境での生活を通して、農業と料理の才能を開花させ、たくましく成長していく。料理への情熱と、人々に笑顔を届けたいという優しい心を持つ。


◆レオンハルト・ストーンウォール

辺境の「グリムロック村」の若き村長。無骨で口数が少ないが、非常に正義感が強く、温かい心の持ち主。追放されたアメリアを最初は警戒するが、彼女のひたむきな努力と才能に触れ、やがて最大の協力者となり、深い愛情を抱くようになる。土を愛し、村を守ることに人生を捧げている。


◆エドワード・アースガルド

王国の第一王子。アメリアの元婚約者。聖女カレンの言葉を安易に信じ、アメリアを追放してしまう。しかし、その後に自身の行動を深く後悔し、アメリアの真の姿を知ることで大きく成長していく。国を憂う心は本物だが、時に判断を誤ることがある。


◆カレン・リシュモン

王国に現れた「聖女」と呼ばれる少女。純粋で人を信じやすい性格のため、自身の周囲に潜む策士たち、特に宰相ザカリーに利用され、結果的にアメリアを陥れる片棒を担いでしまう。しかし、アメリアの真の姿を知り、自身の過ちに苦悩する中で、真実と向き合う勇気を持つ。


◆ルイス・グランデ

かつて宮廷に仕えていた料理人。ある事情から辺境に身を隠している。アメリアの料理への情熱と、素材の持ち味を最大限に引き出す才能を見抜き、彼女のレストラン『アメリアの庭』の料理長となる。卓越した技術と、深く優しい心を持つ。


◆ザカリー・ブラックウッド

王国の宰相。アメリアを陥れた事件の真の黒幕。自身の権力と富を拡大するため、エドワード王子や聖女カレンを利用し、巧みに陰謀を巡らせる。冷酷で野心家。

「アメリア・フォン・ヴァレンシュタイン! 貴様を、我が国の第一王子エドワードへの毒物混入未遂、聖女カレンへの理不尽な嫌がらせの罪により、公爵令嬢の地位を剥奪し、辺境グリムロック村への追放を命じる!」


 国王の低い声が、謁見の間に響き渡る。まるで氷点下の風が吹き抜けたかのように、背筋を凍らせるその響きに、アメリアはただ立ち尽くしていた。華やかな王都の宮廷。磨き上げられた大理石の床、天井には見事なシャンデリアが輝き、周囲には着飾った貴族たちがひしめき合っている。その誰もが、アメリアを見下ろす冷たい視線を送っていた。


 アメリア・フォン・ヴァレンシュタイン。公爵令嬢として生まれ、何一つ不自由なく育った。教育は完璧で、立ち居振る舞いは淑女の模範。常に最上を求め、自らにも他人にも厳しかった。それがいつしか、『高慢な氷の公爵令嬢』と陰口を叩かれるようになったことを、アメリアは知っていた。それでも、己の誇りをかけて、公爵令嬢としての務めを果たしてきたつもりだった。完璧であろうとすればするほど、周囲からは距離を置かれ、その心の奥底にはいつも、拭いきれない孤独感が募っていた。


「お待ちください! そのような濡れ衣、私には全く身に覚えがございません!」


 震える声で叫んだ。信じられなかった。エドワード王子への毒物混入未遂など、ありえない。聖女カレンへの嫌がらせも、とんでもない言いがかりだ。アメリアは混乱と憤りの中、目の前に立つ王子に視線を向けた。彼こそが、アメリアの婚約者、エドワード・アースガルド第一王子だった。その整った顔には、アメリアへ向けられた冷徹な光が宿っていた。


「アメリア。君の弁明など、聞くに値しない」


 エドワード王子の声は、かつてないほど冷え切っていた。その隣には、純白の衣をまとった少女が立っている。カレン・リシュモン、王国に現れた『聖女』と呼ばれる少女だ。カレンはアメリアの視線に怯えるように、エドワードの腕にしがみついている。その可憐な姿は、アメリアの悪行をより一層際立たせているように見えた。


「聖女カレンの言葉を疑うなど、不敬にもほどがある!」「悪逆の令嬢め!」「追放されて当然だ!」


 民衆の声が、嘲りの声となってアメリアに降り注ぐ。つい数ヶ月前までは、社交界の華と称えられていたはずなのに。誰もが、アメリアの言葉に耳を傾けようとはしなかった。アメリアの弁明は、誰にも届かない。真実を知るのは、アメリア自身と、そしてこの状況を裏で操る者だけだ。だが、その操る者の存在を、今の疲弊しきったアメリアは知る由もない。


 なぜ、こんなことになったのか。華やかな日々を送っていたはずの人生が、一瞬にして瓦解していく。信頼していたはずの婚約者は、冷たい視線を投げかけ、周囲の貴族たちは、まるで罪人を見るかのようにアメリアを蔑んだ。王都を囲む城壁が、巨大な檻のように感じられる。アメリアはただ、無力に唇を噛み締めることしかできなかった。


 国王の命令は絶対だ。辺境グリムロック村への追放。その地がどんな場所か、アメリアは知っている。荒れ果て、王国で最も厳しい自然環境を持つと言われる場所。そこへ、公爵令嬢が何の支度もなく放り出されるのだ。これは、追放という名の、死刑宣告にも等しい。


「……ッ」


 胸の奥から込み上げる理不尽さへの怒りと、これから訪れるであろう過酷な未来への絶望。それらを押し殺すように、アメリアは深く息を吐いた。最後の瞬間、王子の顔をもう一度見たが、そこにはただ、感情のない仮面があった。アメリアは、王都の華やかな景色に背を向け、一人の衛兵に付き添われながら、ゆっくりと宮廷を後にした。馬車の窓から見えるのは、あっという間に遠ざかっていく、憧れ続けた王都の光景。心の中には、燃えるような憤りと、底なしの孤独感が広がっていた。


「くっ……必ず、必ず生きてやる。そして、この理不尽を晴らしてみせる……」


 そう心の中で誓い、アメリアは涙をこらえた。貴族の誇りを打ち砕かれた今、残されたのは、己の命だけだった。それが、新しい人生の始まりだとは、まだ知る由もなかった。

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