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身代わりで嫁いだ死神侯爵に、異常なほど溺愛されています ~虐げられ令嬢は最恐英雄の唯一の花嫁でした~  作者: 新川さとし


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第4話 初めての友だち

 出立の日は、驚くほどあっさり決まった。


 王家の使者が来てから、わずか二日後。


 貴族の娘が嫁ぐにはあまりにも短期間だが、王宮から返ってきたのは「歓迎する」という、あまりにも簡単な言葉だけだった。


 早速、侯爵閣下からの迎えの馬車が手配されるという通知があったらしい。


 義母の私に対する表情が変わった。


 猜疑心に満ちた目。明らかに「脱走」を恐れていた。


 私が逃げれば、今度は本当の「娘」を死神に差し出さねばならないと、思い込んでいるからだ。


 メイドの仕事をさせるよりも、部屋に閉じ込めることを選んだのだろう。


 若いメイドを監視役として同室させ、夜は外から扉にカンヌキを掛けられた。


 同室させられたメイドは、最近雇われた子。名前はミハルという。


 ミハルとは、これまで一度も言葉を交わしたことがなかった。「メイド」であっても私だけが特別扱いなのは、みんなが知っていること。


 私に親切にすると、必ず、義母は凄まじい折檻をする。


 だから、他のメイドからすると「触らぬ神に祟りなし」となる。普段、私と喋るどころか、私のウワサすらメイドたちは避ける。


 義母が来て以来、家で働く人が短期間で辞める人が多くなったこともあって、ミハルも私が伯爵の実の娘であることを知らないらしい。


「アンタが何をやったのか知らないけど、ずっと見張ってろってさ。とんだトバっちりだよ」


 ただし、言葉ほどに不満そうではないのは、私を見張っている仕事を任された都合上、他の仕事をサボれたからだ。


 食事も、他のメイドと同じモノを出されたのは、私にとってはラッキーなことだった。


 久し振りに、温かいスープを飲んだ。


 使用人用の食事は、硬く焼かれたパン。そして、質の悪い野菜とホンのちょっぴりのお肉の入った塩味のスープが基本。


 だけど、どれほど美味しく感じただろう!


「なあ、あんた?」


 私が食べ始めると、ミハルは興味津々で尋ねてきた。


「ここに来る前は、よっぽどだったのかい?」

「あら? どうして?」

「だって、こんなにマジぃスープを、こーんなに美味そうに飲むなんてさ」

「そうね。温かいっていうだけでも、私にとってはご馳走なの」

「アンタ、あたい……じゃなかった、あ、えっと、わたしよりもここに長くいるんだろ? 今までどうしてたんだい?」


 そこにあるのは心配というよりも、素直な「興味」らしい。けれども、その純粋な好奇心の方が、今の私には心地よく感じた。


「私が食べてるところ、見たことある?」


 見たことがあるはずがない。みんなが起きてくる前に、冷えたままの残り物を食べているのだから。


「いや、初めてだけど。すげぇ、上品な飲み方だよな。まるでお貴族様だな」


 そしてミハルは顔を近づけてきた。


「ウチのお嬢様よりも、よっぽど、お嬢様ぽいぞ」

「あら。ふふふ。ありがとう、ミハル」


 私は、久し振りに人と喋れるのが嬉しかった。それに、ミハルから聞く街の暮らしが、すごく楽しそうだった。


 けれども、私は自分の心がわかってる。


 この後で待つ「恐怖」を少しでも忘れたかっただけなのかもしれない。


 ミハルとは、二日間一緒だったけど案外、仲良くなれた。


 迎えの馬車が着く直前に、初めての友だちになれたのかもしれないミハルに、ちょっとだけ、イタズラをした。


「あのね」

「お嬢、なに?」


 すべてがお嬢様っぽいということで、私に「お嬢」とあだ名を付けたミハル。


 私は、コソッと耳打ちした。


「私、これからお嫁入りなのよ」

「え! そりゃめでたい…… わけじゃないのか?」


 素朴だけど、人の情に厚いミハルは私の表情で何かを察したのだろう。それ以上、聞こうとはしなかった。


「そうね。きっと、おめでたいことなんだわ」


 その時の私は笑えていたんだろうか。


「元気でな」

「ありがとう、ミハル。どこかで、また」

「大丈夫さ。元気なら、また会えるさ」


 そこで、ドアが開いた。


「用意は出来てるね?」

「はい。準備は終わってます」


 義母は私に旅支度を命じたが、その内容は「支度」と呼ぶにはあまりに簡素だった。


 小さなトランクに、着替えは一着だけ。


 外套も、まともな防寒具もない。


「向こうで全部揃えてもらえるでしょう。侯爵家なんですもの」


 そう言って、義母は私の荷を確認することすらしなかった。


 クラリスは遠くから、その様子を見ていた。視線が合うと、怯えたように、すぐに目を逸らす。


 怖いんだよね?


 私が嫁ぐ先が、ではない。

 自分が行かずに済んだことを、心のどこかで恐れている。


 馬車は、伯爵家のものではなかった。

 王家が手配した、黒塗りの馬車。逃げ道など最初から用意されていない。


 私は、誰にも見送られずに乗り込んだ。


 振り返っても、屋敷の窓に人影はない。

 それでいい、と自分に言い聞かせる。


 ここは、私の帰る場所ではなかったのだから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


第4話は、エレーナにとって初めて「対等に話せる相手」が現れた回でした。

次話では、いよいよ侯爵家へ到着し、

「死神侯爵」と噂されるカシアンが登場します。

この先は溺愛展開ですので、安心してお読みください。

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