寿命の短い神様
人に恋した神様の寿命は短い。
人間の寿命に合わせようとして命を削るものもいる。
先立たれた相手を想うあまりに命を絶つものもいる。
時には縁もゆかりも無い相手に『人間だから』とかつての面影を求めるように無理に力を貸して死ぬものもいる。
馬鹿な者たちだ。
少なくとも私はそう思う。
「お前がそう思うのは」
赤黒い大きな腕が私の体を引き寄せる。
「恋をしたことがないからだ」
着飾った着物が虚しい。
どうせすぐに破られる。
私の肌と同じで。
あんぐりと大口を開けた角の生えた神様へ問う。
「お前は何故こんなにも長生きをしている?」
赤黒い肌を持ち、いくつもの角を持つ神様。
人間に恋をして、故にこそ村から妻を娶る。
幾度も幾度も。
数え切れないほど。
「何故、伴侶と添い遂げない? 何故、次から次へと妻を娶る?」
人間に恋しているのではなかったか?
人間に恋をしているからこうして村から嫁を娶るのではないのか?
そう言う意味を込めて。
「生きている神が人間に恋しているわけがなかろう」
分かりきった言葉を聞いて私は笑う。
分かりきっていたことだ。
こいつは神様じゃない。
神様を名乗り人間を喰らうただの化け物。
「返す言葉もない」
口が閉じる。
身体が裂ける。
意識が解けていく。
長く長く生きた末路がこれか。
そう自嘲する最中にむせこむ音が聞こえた。
強い勢いで私が吐き出される。
真っ先に映ったのは自らの半身。
腹から下。
器用に人間に化けて数百年以上。
最早、元々の形さえも忘れてしまっていた。
「貴様」
赤黒い化け物がこちらを睨む。
人間ならば死んでいる傷。
死体に話をしても仕方ない。
つまり。
「人間ではないな」
苦悶の表情を浮かべたままの化け物へ言う。
赤黒い肌が段々とどす黒くなる。
記憶が定かならば私は毒を持っていた。
生まれつき、命を奪う毒を。
「その通り。おかげで無駄に生きていたのだ」
だから感謝する。
ようやく死ねる。
ようやくあの人の元へ逝ける。
「なぜ、こんなことを?」
泥のように薄汚く、岩のように硬くなったまま化け物が問う。
人間など食い物程度にしか思っていなかった存在にこの気持ちが分かるはずもない。
だけど、教えてやる。
「人に恋した神の寿命は短いんだ」
あの人が消えてもう久しいけれど。
あの人と同じ生き物が苦しんでいるのを見捨ててはおけなかった。
ただそれだけだ。
「馬鹿な」
岩とも化け物とも区別のつかない物が倒れながら呟く。
「俺は人間に恋してなぞいない」
今際の言葉がそれか。
私は笑って告げた。
「お前は神じゃない。それだけだ」
目を閉じる。
死を受け入れる。
かつて恋した相手に再会できると確信しながら。




