第0話 プロローグ
「・・・・・・クソが」
とある高校の体育館裏、時間は放課後。
世間一般でいう“告白スポット”に不良スタイルでフルリム・カニ目型の伊達眼鏡を掛けた高校生、竹澤 潤は立っていた。その足元には彼と同じく制服を着崩し、日本人には似合いそうに無いくらい派手な金髪の不良たちがうずくまっている。ある者はみぞおちを押さえて、またある者は顔を真っ赤に腫らして。
喧嘩・・・と言えば語弊があるだろう。最早、これは彼による一方的暴力。不良たちは彼の前に成す術がなかったのだ。
何故このようなことが起きたのか。
実に簡単。不良たちが彼の逆鱗に触れたからである。
潤は制服の胸ポケットから携帯電話を取り出し、味気の無いフォントで表示されている電話帳の名前の中から、“黒田 文弥”を選び電話を掛けた。
4回の呼出音の後、その相手が電話に出た。
「もしもし・・・文弥サン・・・・・・」
『おや、潤クン。一体どうしたんだい? わざわざ電話なんか』
黒田 文弥は潤の育て親だ。実親は潤が10歳の時に交通事故で亡くなり、身寄りの無かった彼をグループホームを運営していた文弥が引き取り今に至る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬、潤はこのことを言おうか躊躇った。しかしいずれは知られてしまうのだから、と開き直る。つばを飲み込み、潤は口を開いた。
「また・・・・・・やっちまいました」
そっか、と文弥は分かったように返事をした。
『あえて理由は訊かないけど・・・・・・それは潤クン、自己満足のためだけにやったことなのかい?』
「それは、違います・・・・・・!」
潤はハッキリと答えた。
『うん。ならいいんだ。僕は潤クンがとんでもない暴君に変貌したのかと思っちゃったよ』
「それはないですけど・・・・・・たぶん・・・退学かも」
『ありゃ~・・・そいつは困った』
「由乃サンに酷く怒られそうで、ちょっと帰りづらいです」
『ん? ああ、大丈夫。由乃には言わないでおくから』
由乃は文弥の妻で、二人でグループホームを運営している。
「いや、さすがに今回も黙り続けるってのは・・・・・・」
『由乃は言わなくても分かってくれるよ。潤クンの様子を一目見ただけで』
「そんなこと、今カミングアウトされても・・・・・・それじゃあ中学ん時の隠し事ってばれてるんじゃないですか?」
『う~ん・・・・・・たぶん、ね』
過去、中学時代にも同じ騒動で転校したことがあったのだが、その時も文弥は由乃に真意を伝えていない。
『分かっていて、口に出さない。それでいて君の事を後押ししてくれるんだ。感謝くらいはしといたほうがいいよ?』
「それはもう重々・・・」
『よし、それじゃあ転校先の高校を探そうか。善は急げってね』
「善・・・・・・なんですか?」
潤のツッコミを無視して、文弥は何かを考える時のようにウンウンと唸りだした。そしてその何かを思いついたようだった。
『僕の考えではね、潤クン。さすがに今回の事でここいらの高校に転校したりすると、噂とかで有名人になっちゃうでしょ?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『だから、ここは思い切って潤クンの昔住んでた所の高校はどうだろう?』
「え・・・・・・?」
予想もしない提案に驚く潤。だが電話越しの文弥はそんな様子もいざ知らず、淡々とその結論を口にした。
『潤クンの故郷、北海道に!』
「・・・・・・・・・・・・そうですね」
今まで、楽しい思い出と辛い思い出が入り混じり、自らその関わりを絶っていた。いや、彼にとってかなり遠回しではあるが両親を奪った地として、関わりたくないと思っていたのだろう。
『潤クンは勉強出来るから、一応どこでもいいよね? 高校』
「それは構わないですけど・・・・・・全く知らない場所に通うんですか?」
『まっさか~! 潤クンが住んでた町の高校に決まってるじゃないか』
「な・・・・・・!?」
一番ありがた迷惑な予想が的中してしまった・・・・・・、と潤は思った。
『向こうでアパート経営してる知り合いがいるから、下宿先は心配しなくていいからね。潤クンは転入試験を頑張るだけでいいから』
「そ、そんな大事な話を・・・・・・どうして今、電話で!?」
『通話料無料なんだよ? もっと活用しなきゃね。・・・・・・それに』
「?」
『潤クンが帰ってきてから教えてくれたんじゃなくて、今わざわざ電話を掛けて教えてくれたんだ。僕の勝手な解釈だけど、きっと反省の気持ちが強かったんだよね? 潤クンがどれだけ真剣なのか・・・・・・伝わらないわけないじゃない。だから、僕としてもその気持ちにいち早く応えるべきだと思ったんだ』
「文弥サン・・・・・・」
『だから、潤クンは自分のことを責めちゃいけない。いい?』
「はい・・・・・・!」
・・・・・・こうして簡潔ではあるものの、潤は10歳まで暮らしていた北海道へ行くことが内定したのだった。
初めての“語り手が一人称じゃない”
初めての“学園モノ”
初めての“勢いで書いてます”
両立は難しいですが、頑張ってみます。