動き出す調査
放課後、早坂と俺はファミレスの隅にいた。
学校帰りの学生で賑わう中、俺たちはノートを広げて、まるで勉強会のようなふりをしていた。
「で、そいつ――鷲尾ってのは、どうやって会社に入り込んできたんだ?」
「どうやら、助成金とか経費削減のアドバイスを持ちかけてきたらしい。最初は無料相談って形で。で、今は毎週のように来てる」
「なるほどな。経営者って、金回りの話には弱いからな」
早坂はアイスティーを一口飲んでから、ペンを走らせる。
「詐欺師の常套手段だよ。まずは信頼させて、何かにサインさせる。契約書とか、共有名義の書類とか」
俺は頷いた。早坂の勘の良さと理解力には、素直に驚かされる。
「それで、証拠は何か掴めそうか?」
「うちの会社の書類、明日の夜こっそり見てみる。父さんが最近、妙に嬉しそうな顔してるんだ。“助成金が通るかもしれない”って」
「怪しいな。その書類、コピー取れるか?」
「たぶん。母さんが気を利かせて晩ごはんを作ってる間にでも……」
俺は言いながら、自分でも信じられないくらい冷静だった。
前世なら、怖くて動けなかったかもしれない。でも、今は違う。早坂という仲間がそばにいる。誰かと一緒に立ち向かうだけで、こんなにも心強いものなんだ。
「じゃ、俺はその鷲尾について、ネットで調べてみるよ。名前と顔がわかれば、SNSとか口コミサイトに何かあるかもしれない」
「助かる」
二人で小さく拳を合わせる。
まだ小さな一歩だけれど、確かに今、俺たちは動き出した。