鷲尾という男
放課後、校門を出た俺は、真っ直ぐ家へ向かった。心に引っかかるものを抱えたまま。
最近、両親の顔が少しずつ曇っている。会社のことだ。小さな広告制作会社“天城企画”は、俺たち家族にとって、ただの職場じゃない。家そのものみたいな存在だ。
「ただいま」
玄関を開けると、見慣れない革靴が丁寧に揃えて置かれていた。来客だ。リビングから、穏やかな声が聞こえる。
ドアを開けると、父と母の向かいに、スーツ姿の男がいた。整った身なりに、営業スマイル。いかにも仕事のできそうな印象だ。
「ああ、蓮。ちょうどよかった」
父が笑顔で手招きする。
「こちら、鷲尾さん。うちの会社の相談役をしてくれてる方だ」
「初めまして、鷲尾健吾です」
鷲尾と名乗った男が立ち上がり、柔らかな笑みを浮かべながら手を差し出す。俺も表情を崩さず握手を返した――その瞬間、視界の端に文字が浮かぶ。
> 【名前】:鷲尾 健吾
> 【年齢】:38
> 【職業】:経営コンサルタント(自称)
> 【表情】:友好的(偽装)
> 【好感度】:−67
> 【心の声】:「カモがまた一匹。じっくり料理してやるか」
……やっぱり。
こいつは、ただのコンサルじゃない。悪質な詐欺師だ。
「よろしくお願いします」
何事もなかったように微笑みながら、俺は静かに席についた。
「蓮も座りなさい。将来、家業を継ぐかもしれないんだから」
母に促されて、俺は頷く。
「素晴らしい。若いうちから経営に興味を持つのは大切ですよ」
鷲尾の言葉は滑らかで、いかにも善人然としている。
> 【心の声】:「息子は面倒くさそうだな。うまく遠ざけないと」
俺は表面だけの会話に耳を傾けながら、頭の中で戦略を練る。
――まずは、証拠を集めないと。
鑑定だけじゃ、親を説得できない。