見学の日、はじめての空気
週末の午前中、事務所のドアがそっと開いた。
「こんにちは……佐倉美月です」
玄関先に立つ彼女は、制服にジャケットを羽織り、小さなトートバッグを肩にかけていた。
緊張で動きが硬いのが、見てすぐに分かる。
「来てくれてありがとう。こっち、案内するよ」
俺は笑顔で迎えながら、受付から会議室へと案内した。
「他のメンバーも今、準備してるから、よかったら資料見ながら待ってて」
「……はい」
会議室のテーブルに並んだ商店会の資料を、美月は静かに眺めていた。
光の描いたレイアウト案に、じっと目を留める。
「色が……すこし、浮いて見えるかも」
ぽつりと、彼女が呟いた。
ちょうどそのタイミングで、ドアが開く。
「あ、美月さん。こんにちは」
「今日は見に来てくれてありがとうっす」
光と早坂が入ってきて、美月が姿勢を正す。
軽く頭を下げるふたりに、美月も小さく会釈を返す。
光が資料に目を通しながら、ふと口を開いた。
「……今、俺のレイアウトのこと、何か言ってた?」
「えっ……あ、ちょっとだけ。色が……浮いてるかもしれないって」
「やっぱそうか。自分でも少し気になってたんだ」
「……すみません、勝手に見ちゃって」
「いや、むしろ助かる。どうしたらいいと思う?」
美月は一瞬だけ迷ったが、意を決したように指を動かした。
「ここに、中間色を入れると、視線の流れが自然になると思います。
あと、見出しの位置をもう少し内側に寄せると、読みやすくなるかも」
光がうなずきながらメモを取る。
「……なるほど。試してみるよ」
───《鑑定結果》────
名前:佐倉 美月(17)
感情:緊張 →集中(本心)
内心:「怖い。でも、ちょっと……楽しい」
信頼度:+36(上昇中)
スキル傾向:構成整理:A / 読解誘導:B
特性:文字設計/情報整理/構造補正
向いている職業:エディトリアルデザイナー/文書構成アシスタント
将来性:実践の場に立つことで、協調と自信の芽が伸びていく段階へ。
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見に来ただけのはずだった彼女が、すでに“役割”を果たし始めていた。
誰かの言葉が、誰かを支える。
それだけで、チームは少しずつ形を成していく。




