鑑定の目、再び
「大丈夫か? 聞こえるか?」
目の前の救急隊員が、懸命に俺の肩を叩いている。だが俺の視界には、それとは別のものが映っていた。
【名前】:杉原 拓也
【年齢】:34
【職業】:救急隊員
【表情】:心配(本心)
【好感度】:+26
……なんだ、これ。
頭がまだぼんやりしているのに、目の前の人間の情報が“文字”として浮かび上がっている。懐かしい感覚――まさか。
これは、前世で使っていたスキル、鑑定。
その人の名前、年齢、気持ち、場合によっては“心の声”までがわかる特殊能力。
俺は、前世でこれを使って人を見極め、静かに暮らしていた。戦士でも魔法使いでもなく、ただの鑑定士。それが俺だった。
事故で失った意識の中、思い出したのはその記憶と、スキルの感覚。そして、最期に信じていた仲間の裏切りだった。無力な自分が、死の間際に見た、あの冷たい視線は今も忘れられない。
でも今は違う。ここは現代日本。剣も魔法もない世界。
だけど――スキルは、消えていなかった。
「意識戻ったみたいですね。念のため病院へ運びます」
「あ、はい……」
声を返しながら、俺は冷静に考えていた。
この力が使えるなら、今度こそ騙されずに生きていける。家族も、仲間も、守れる。
守りたかったあのときの後悔を、今ならきっと超えられる。
救急車の窓から見える春の空は、まるで新しい人生のはじまりを祝っているようだった。
その夜、病院のベッドで目を覚ました俺を、両親と妹――そして、思わぬ人物が迎えに来ていた。