目覚めた朝に、世界が変わった
春の朝は、まだ少し冷える。
制服のジャケットを羽織りながら、自転車のペダルをこいで坂道を下る。街路樹の桜はすでに満開で、風が吹くたびに花びらがふわりと舞った。まるで、俺の新生活を祝ってくれているかのように。
「……よし、今日は遅刻しない!」
小さく気合を入れて、スピードを上げた。
今日から高校生。なんてことない日常のはずだった。でも、その当たり前が一瞬で崩れる。
交差点に差しかかったその時、視界の端に“何か”が見えた。車だ。出会い頭の右折。ブレーキ音。
まずい――と思った瞬間、世界がぐらりと揺れた。
衝撃と共に、身体が宙に浮いた。
時間が止まったような感覚。風の音も、心臓の鼓動も、すべてが遠くなっていく。
そして、意識の奥で――
声がした。
「……また……おまえか……」
「信じたのに……どうして……」
誰かの、懐かしい、そして痛みのある声。
頭の奥が焼けるように熱くなり、暗闇の中で光があふれた。
――そうだ。
俺は、騙されて、死んだんだ。
あの異世界で、“鑑定士”として生きて、そして裏切られて……。
光と闇が交差する中、誰かの顔が浮かび上がる。剣。血。約束。裏切り。
だがそれは、もう過去のこと。
今の俺は、天城蓮。高校一年生だ。
……だが、記憶だけじゃない。
俺の“目”が、何かを捉えている。
――鑑定、起動。
目の前の救急隊員に、なぜか見覚えのない“文字”が浮かんでいた。