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覗き見る異世界観測録  作者: 石の上にも三年
《ゴブリン戦記》ダーク×SF×ファンタジー
7/8

A階位3名の戦闘記録


《記録:ドレック郊外第九西区再制圧戦》

──抜粋:戦地記録官マレク・シェルツ


そいつは【黒帯級ブラックタグ】として企業連合より討伐依頼が出されていた個体だった。

推定180cm、金属質の骨格が剥き出しとなった下半身。膨張した上肢には廃棄ロボットの油圧ピストンが食い込んでいる。

両腕に持ち構えたのは、長さ2メートル近い刺突槍。刃ではなく、鉄杭を束ねた2本の凶器。

特殊型の通称︰双槍──既存の重装型からさらに変異し、速度と破壊力を両立した個体。


対するは、一際目立つ巨躯の男。

遠く離れた所からでも認識できる、常人の倍の肩幅。筋肉で張り詰めた肉体に、黄金の“咆哮装束”を纏う。

斧を担ぎ、顔を上げ、笑った。


「さァ!良い殺し合いしよう!」



そう吠えた瞬間。

彼の全身が駆動した。

グラハム・ザイデル──A階位、“盾喰い”が疾走する。


全力の踏み込みにより、舗装路がめくれあがる。

彼の足取りは、重量という言葉を否定するかのように速く、重く、躊躇がなかった。


異形のゴブリンも即座に反応。両手の槍を交差させ、迎撃の構え。

然しグラハムに後出しは通用しない。


《グラット・ノヴァ》が槍の交差点に振り叩きつけられる。

“双槍”は足を踏ん張り耐えようとするも鉄杭は歪み、ゴブリンの両肩が砕けた。

それでも超重量の一撃では即死しなかった、“双槍”は反撃の刺突を放つ。砕けてもなお鋭く、速い。正確な“殺しの一手”だ。


だが、その槍はグラハムの腹を貫かず、戦場にはあまりにも似つかわしくない輝きを放つ装束の装甲に突き刺さり、止まった。

その直後──


「破ァ!!!」


咆哮が荒野に響いた。

《ラグスト・ファング》が全身出力を開放。筋力と反応速度が跳ね上がる。


押し込む“双槍”の腕を、グラハムは片手で掴み返した。

抑え込み、捻る。

その動作ひとつに、異形の関節が奇怪な悲鳴をあげる。


「そんなもんかァ!?」


《グラット・ノヴァ》が二撃目を描く。

今度は右斜めから、ゴブリンの上半身を狙って振り下ろされた。

槍で受けようとしたが、増幅器と補正ギアが火を噴くように回転し、間に合わずにそのまま敵の腕ごと斬り割った。


刃は止まらずに胴体へ。

破砕音が辺りに広がり、骨を砕き、肉を引き裂いた。刃が滑り落ちるにつれて、臓物が露わになり、おぞましい音と共に機械油と混ざった鮮血が噴き出す。、“双槍”は呻き声一つ上げられず、その場に崩れ落ちた

怪物級の一撃により小規模のクレーターができていた。



---


戦闘終了までの時間、約47秒。

A階位“盾喰い”は、文字通りの“力”で異形を打ち砕いた。

その姿に私は一人呟いた。


「……あれは戦術の組み込んではいけない。“暴力”そのものだ」




---




《戦術記録:作戦コード “シェイド=リザレクション”》


──記録提供:ヴァラノス戦場観測局


▷ 作戦概要


地点:第四封鎖区・旧エネルギー施設跡


敵構成:ゴブリン一般型多数、飛翔型8体、指揮官型1体


味方派遣兵力:単独──A階位ミルガン・アーク


任務:敵集結拠点の単独制圧




---


《記録開始》


施設の入口には2体の一般型ゴブリン。指揮官型から受けた命令を完全には理解してないのか、片方は半分寝落ちしながら立っていた



前方から何かが見える。まだ起きていたもう片方の一般型は何が来ているのか認識しようとするが、視点が斜めなる。


「グギャ...?」


首が斜めに裂け、倒れるまで自身の死に気づいていなかった。


続けて、寝落ちしかけている奴の首も落ちる。

背後から切り落とされ、壁に寄りかかったまま念願の眠りにつくことができた。。


侵入には誰も気づかない。


---


中央区画、爆薬貯蔵室。

5体の一般型が交代で巡回していたが、そのうち3体が同時に倒れる。


頭頂部から肩へ、斬撃の痕跡が浮かぶ。

《イグナイト・レヴ》の刃遮断処理により空間に何かが走った痕跡すら残さず、血だけが後から滴った。


休息部屋にて眠りについていた十数体の元に瞬間毒ガスグレネードを投下。吸ったものが次々と口から血を吐き出す。瞬間的にショック死させるA階位以上でしか発売提供されない代物だ。


既に8割のゴブリンの死滅が確認。


---


上空、滑空中の飛翔型が休息部屋から漏れ出る紫色のガスに気づき警戒を広げる。

だが、照明が数度点滅したその瞬間──3体が首元から一直線に裂けて墜落。


残る5体は散開して包囲を試みる。

しかし、中央にあった酸素供給管が突如破裂。


流れ出た蒸気の中、“誰かがいたような”気配が1体の脳裏を掠め──その刹那、背面から肩が裂かれる。


ついに残るは、最奥の指揮官型のみ


瘤のように肥大化した頭部と、筋肉質の四肢。

その身から放たれる制御波により、全体のゴブリンの統制をしていた。


が、その意識ネットワークに──生きているものは誰も該当しない。。


「グギ……グルゥ……?」


指揮官型が身を起こした瞬間、右腕が斬れ落ちた。

続けて視界を貫くように、一条の微細な光の裂け目。


だが、何もいない。


音も、熱も、影すらも──

ただ、一撃だけが走る。


瞬間、首が落ちた。


指揮官型は、自身が死んだ理由を最後まで理解できなかった。



---


▷ 結果報告


敵兵力:約50体、全滅(死体はすべて即時処理済)


斬撃回数:9回


任務:完全達成


ミルガン・アーク:無傷、生体反応安定。発話なし、帰還ログのみ




---



《作戦記録:大陸東未踏区防衛線──コードネーム「焦土の箱庭」》


担当指揮:A階位 “前線の策謀師”ルディア・ハーケン

所属:戦術遊撃隊《フォキュラ》

状況:未踏区域から出現したゴブリン群──推定350体以上、複数型混成部隊



---


灰色の大地。科学と工学の時代となってから誰も足を踏み入れたことの無い未踏区域。

瓦礫の狭間から現れたのは、押し寄せるゴブリンの濁流。

一般型が先鋒を固め、飛翔型が上空を舞い、重装型が背後から迫る。

さらに後方には、指揮官型と推測される異様な頭部を持つ個体が、制御波を発していた。


だが、ルディア・ハーケンは動じない。

部下の数は3分の1にも満たない。戦力差は明白。

だが、彼女の手にあるのは《タクティカル・ナヴァル》と──


「《レミット》、全域拡散」


「全員、点火位置に――配置完了、三、二、一」


──“万全な布陣”である。



---


突撃を開始するゴブリンたち。

それを迎えるは、大量の不可視の遮蔽幕スプレッド・シールド

設置地点を瞬時に塞ぐその障壁は、進行を“限定させ”、隊列を“絞る”。


「今」

《ナヴァル》が発するのは、閃光弾と電磁弾の連続切替。

目と耳、そして敵の通信網すら焼く衝撃。

中央を突破せんとする個体は、その瞬間に“情報を失う”。


そこへ集中火力が注がれる。

“彼女が点けた火点”に、部下が一斉に撃ち込む。


重火器、狙撃、榴弾。

あらゆる攻撃が、彼女の設計通りに“重なる”。



---


攻撃を耐えきった重装型が迫る。装甲片を纏い、咆哮と共に前進する。


だが、ルディアは言う。


「道具を壊すには、道具を壊せばいいの」

《ナヴァル》から放たれたのは、微細電磁波弾。

重装型が纏った脚部動力フレームが誤作動を起こし爆発する。


混乱するゴブリン群。だが、指揮官型が制御波から再編を命じる。


そこへ、小型ドローン《レミット》群が一斉に突入。


小型ドローン内に取り付けられていた拡散乱制御波が起動。それによって制御波そのものが乱され、ゴブリンたちに命令が届かなくなる。


「そして、あんたが死ねば崩れる」



ルディアが発したのは、一点集中型の直射貫通弾。

狙いは指揮官型の頭部。混乱しながらも銃口がこちらに向いていることに気づいた指揮官型は、重装型に直接命令し割り込ませるが、

その直前、スプレッド・シールドが発射線を曲げる。


結果――貫通弾は“回り込み”、真横から脳幹を貫いた。



---


指揮系統が崩壊した瞬間、ゴブリンの動きは“騒乱”と化す。


「じゃあ、“焼き払う”段階ね。総員火力準備」


最終信号が部隊に送られる。

B階位でも選りすぐりの火力部隊から放たれる、小型迫撃火器、遠距離展開火炎網、化学炸裂弾の一斉展開。

指揮系統が破壊されたゴブリンには為す術もなかった。



やがて、灰と煙が満ちた荒野に、炎が舌を這わせる。

焼かれた敵の残骸と、溶けた装甲が地表に滲む。


それを成したのは無傷の策謀師。


「予定通り。死んだのは敵だけ。今日はいつもより良い火のつき方だったわね」



---


■結果:


敵勢力:ゴブリン計354体、全滅


味方損耗:軽傷2名、戦死0名


使用火点:27箇所




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