階位別戦場兵装要覧 ─第一項─
それは、戦場という名の舞台に立つ者たちが纏う“意志の象徴”。
人は兵装を手にすることで兵士となり、階位を与えられることで戦力へと変貌する。
ここに記すは、傭兵都市《ドレック》と城塞都市《ヴァラノス》において――
「階位」という明確な格付けに基づき得た兵装体系の一部。
装備は力の全てではない。
だが、この世界では力なき者に装備は与えられない。
---
◤S階位の兵装◢
【《ヴァラノス》所属】
主兵装:《断裂式機槍〈フラクチュラ〉》
→分割可変型の長槍機構兵器。
跳躍中に刃が分離・再接続し、複数目標への同時制圧を可能とする。
特製の“慣性推進ユニット”により、槍本体が推進兵装として機能し、突きのたびに加速を続ける設計。
名の由来は、敵陣と戦線を“断裂"させることから
製造元:ケルド重機構設計局
特徴:突き・薙ぎ・砕きの三段変形/槍身制御式跳躍補正ブースト搭載
通称:《フラク》と呼ばれる
---
◆副兵装:
《脚部跳躍制御装具〈クロスレールMk.V〉》
→ 三次元跳躍制御と反転機動を可能にするスラスター補助装置。
《機能拡張外套〈ヴァントレイル〉》
→ 熱・振動・視覚干渉に対応した制圧用の特製外套。電波妨害無効化機能付き。特別任務用。
---
【《ドレック》所属 S階位】
主兵装:《自傷覚悟式大剣〈ハウリング・レイス〉》
→自らの血液を引き換えに、一時的に所持者の限界を突破する刀身兵装。
刀身は振動波動加工処理済みの高熱展開式であり、斬撃の軌道に微弱な“空間歪み”が発生する。
最大出力時には、敵味方識別不能な必死の一撃を前方180度に展開。
製造元:ダロス戦略技研連盟(試作兵器部)
特徴:斬撃反動を吸収する高密度かつ柔軟な筋肉でなければ一撃で身体が破裂する。
通称:《レイス》、“喰らう剣”とも称される
---
副兵装:
《神経覚醒インジェクター〈スプラスト〉》
→ 身体能力上昇と神経系高速化を一時的に起動。副作用として身体が裂けるリスクあり。
《多層反応装甲〈カトラス装甲Ⅲ型〉》
→ 軽量ながら斬撃との相性を前提に調整された反動拡散型防具。常時不可視の防護バリアを展開。
---
◤S階位兵装の特徴◢
専用設計/他者使用不可
整備・再調整に国家級技術者チームを要する
ヴァラノス︰
制御と精密性を極めた設計で、どう製作されたのかは国家機密級。
使用者の戦術眼・制圧力を最大化する構成。
兵装そのものが**“戦域を変える”力**を持つ。
ドレック︰
自傷・空間干渉・異常出力など常軌を逸した仕様。
兵の生命すら代償として織り込む破壊設計思想。
持ち主の名と共に兵装が都市の象徴となるレベル。
---
◤A階位の兵装◢
【《ヴァラノス》所属】
主兵装:《戦術展開銃〈タクティカル・ナヴァル〉》
→ 情報制圧・陽動・対陣地制圧に特化した多目的投射兵器。
発煙・閃光・電磁・実弾を同一マガジンで切替可能。
拡張装着式の小型ドローン《レミット》を連動使用。
副兵装:《多重指向幕〈スプレッド・シールド〉》
→ 小型展開型のフィールド遮蔽装置。一瞬の遮断で移動線を制御する。
---
主兵装:《高速振動刃〈イグナイト・レヴ〉》
→ “見えない斬撃”を可能にする、振動・遮断波長処理済みの斬撃兵器。
刃は高周波で視認困難、斬撃の振動音すら情報ノイズで遮断される。
“処理落ち”を起こさせる特殊戦術と併用する。
副兵装:《感覚遮断マント〈イヴェイド=ゼロ〉》
→ 五感の一部を遮断し、“自らの存在を認識させない”装備。視認ではなく“存在感”を消す。
---
主兵装:《多弾頭指向砲〈アズラエル=コード〉》
→ 砲身を可変展開し、複数の砲撃モード(徹甲・焼夷・炸裂・震撃)を即座に切り替える機構を持つ。
衛星リンクと自前の測量機構で、「一度撃ち込まれた場所には二度と人は立てない」と言われる精密性。
副兵装:《敵点照準機構〈ユグドシス〉》
→ 味方の索敵網を利用してリアルタイム戦術投射。僅かな敵反応でも“敵配置図”を瞬時に更新する。
---
【《ドレック》所属】
主兵装:《重火器複合兵装〈グラビト=ブレイカー〉》
→ 大口径反応砲と徹甲榴弾砲の連結装備。短距離支援と突破撃破を両立。
反動制御のため、脚部フレームと連動させた機動装甲を併用。
副兵装:《展開型反応装甲《ラフト・ギアⅢ》》
→ 攻撃を受ける直前に一部を“反射・拡散”する層を形成する装甲。
---
主兵装:《超振動戦刀〈ハイト・クラッシュ〉》
→ 振動共鳴を斬撃に乗せ、装甲・肉体・構造物を同時に切断。
斬撃には残響のような“波動”が残り、追撃効果を持つ。
副兵装:《動力補助装具〈クロスカット・ブースター〉》
→ 腰部から肩部にかけて接続された斬撃支援用ブーストパック。斬撃の軌道を調整し、空中連撃や飛び込み斬撃を可能にする。
---
主兵装:《破砕戦斧〈グラット・ノヴァ〉》
→ 装甲破砕・強制打撃・重心連打に特化した超重量斧。
内蔵型の衝撃増幅器と遠心補正ギアにより、一撃で装甲車を両断した記録もある。
使いこなせる者はごく限られ、本人も何度か骨を折っている。
副兵装:《対衝撃強化装束〈ラグスト・ファング〉》
→ 痛覚フィードバック抑制+筋力ブースト+血流安定剤を組み込んだ“狂戦士”用スーツ。
激戦時には本人の咆哮に反応して、自動で全身アクチュエーターが最大出力になる。
---
◤A階位兵装の特徴◢
“広戦場規模での任務遂行”を前提に設計
戦術・機動・遮断・砲撃・斬撃と、特化構成の傾向が強い
A階位の兵装は「戦場任務を完遂するための一点突破・支援・連携型」。
そのため結果的に火力、戦術範囲、戦法が“視覚的に派手”になるため記録に残りやすい。
---
◤B階位の兵装◢
【《ヴァラノス》所属】
正規軍式の支給装備を主軸に、「防衛・持久・戦術連携」を意識した構成。
◆主兵装:
突撃銃〈TRC-89系列〉
→ 口径拡張式の標準小銃。対ゴブリン戦を想定し、部位貫通・弾倉連結機能を搭載。
信頼性が高く、整備性に優れる。変異型ゴブリンに対しても徹甲弾換装で対応可能。
近接格闘用ブレード〈M13戦術短剣〉
→ 極限環境でも錆びにくい特殊合金。脊髄・関節狙いを前提とした形状。
支援装備:多機能ヘッドギア〈“アウゲン”〉
→ 熱源探知、音声増幅、暗視、友軍マーカー照合を標準搭載。
---
◆副兵装:
小型展開シールド〈バリアントⅡ型〉:緊急防護用
個人用簡易爆薬〈KZ-15グレネード〉:陣地破壊・陽動用
連携信号装置〈タクライン〉:部隊連携戦術の基盤
---
【《ドレック》所属】
“実戦経験”を一番としてる都市なだけに、装備も「火力・速攻・改造性」に偏る。自由度も高い。
◆主兵装:
《新型アサルトライフル〈ツァスカ装研製ZL-4〉》
→ 各種市販・軍製パーツの混合モデル。部品の自由交換性と殺傷力を重視。
精度は落ちるが、火力と連射速度は高水準。対重装ゴブリン用炸裂弾を使う傭兵も多い。
トリガー付き戦闘鉈・強化棍棒・電撃ブレードなどの近接兵器
→ 個人の流派・流通によって千差万別。“一撃で殺せるなら何でも使え”が基本精神。
補助火器(独自製作のサブアーム)
→ 肩部や腰部から展開するワイヤーショット、内蔵グレネード、毒散布装置など
→ 整備性は最悪だが、刺されば致命。
---
◆副兵装:
都市型外骨格スーツ〈グラフ・マントⅡ〉
→ 筋力補助と軽量防弾を両立。換装式で拡張性に富む
感覚薬剤〈ハイ・パレス/スリープブレンド〉
→ 瞬間集中・痛覚遮断などの投与が常態化
交戦記録型ゴーグル〈ファストログ〉
→ 過去の戦闘映像をAI補完し、即応判断材料とする装備
---
◤B階位兵装の特徴◢
ヴァラノス︰
申請さえすれば個人兵装の所持が許可される。
支給された装備は精度・防御ともに向上しているが、個人改造は制限されている。
全体としては制度と統制を優先した規格準拠型。
ドレック︰
企業とのスポンサー契約が可能となる階位。
契約次第で最新兵装から二流品まで大きな格差が生まれる。そのため金で階位を買収してきた傭兵はここで詰まる。
多種多様の兵装が多く見られる。
---
◤C階位の兵装◢
【《ヴァラノス》所属】
軍政都市として、正規兵としての訓練課程を終えた兵士には標準装備が保障される。
主兵装:
《制式突撃銃〈MR-52C〉》:旧世代のモデル。信頼性はあるが火力不足。弾薬も旧規格。
《実戦用汎用短剣》:正規兵用の“最後の手段”。主に非戦闘時の備え。
副兵装:
《防弾ベスト〈GライトⅡ〉》:一部セラミックプレート内蔵。対ゴブリンには少し心許ない。
《戦場識別タグ》:部隊ごとに番号を振られた識別用。死亡時の回収目印でもある。
《小型支援キット》:止血・麻酔・小火薬投射などの最低限。
---
【《ドレック》所属 】
“C階位”とはいえ、その質は“金の差”でバラバラであり装備が劣悪な者は囮に使われることも多い。
主兵装:
《中古AR/各種寄せ集め改造銃》:暴発・誤作動のリスク常在。
機構に詳しい者は自分で調整して“準B階位級”の火力を出す者もいる。
《市場製近接武器》:金属斧、配管剥ぎ取りの鋸刃、等。
副兵装:
《使い捨て式爆薬包》:発火率・誘爆率高し。ギャンブル。
《自費購入の防具・パッチワーク防具》:見た目は恐ろしく不揃い。
《個人投薬セット》:疲労抑制剤、錯乱抑止剤、などの薬剤を常用。闇市場からの非正規品。
---
◤C階位兵装の特徴◢
ヴァラノス︰
訓練と統制を前提にした汎用兵装を装備。
信頼性重視だが、性能はあくまで標準以下。
連携を重視、識別・支援を優先した構成。
ドレック︰
改造・中古・闇市場製が主流で装備にバラつきあり。
火力や防御に極端な差が生まれる階位なのが特徴。
一部は薬物や即席爆薬に依存した戦闘スタイルを取る。
---
◤D階位の兵装◢
【《ヴァラノス》所属】
軍政訓練中の”訓練兵”が該当。非常時を除き実戦に出ることはないため非殺傷装備。実戦演習を行う際は正規軍装備が貸与される。
主兵装:
《訓練用簡易ライフル〈TR-1B〉》:木製と合成素材を組み合わせた模擬銃。
低威力の訓練用弾を発射可能。
《訓練用武器一式》:訓練用短剣、鉄棍等
副兵装:
《耐水布製ジャケット》:防弾なし。泥と血を防ぐためだけ。
《識別札》:身元確認のためのID。訓練時に首へ装着義務。
《基礎医療ポーチ》:止血布、消毒液、基本食糧1回分。
---
【《ドレック》所属】
それは“傭兵見習い”未満の“使い捨て要員”。
主兵装:
《闇市場型廉価銃器》:命中精度ゼロ。運が良ければ当たる。
《釘打ち銃/作業用ドリル》:作業員上がりの武器をそのまま戦場に。
副兵装:
《皮製ベスト》:銃弾も刃物も止まらないが、気休めになる。
《自作の迷彩外套》:生地は布、鉄くず、時に死体から剥いだ装備。
《“死亡時預託書”》:雇用契約における死後清算の証明。
---
◤D階位兵装の特徴◢
ヴァラノス︰
訓練専用の簡易兵装で実戦投入は想定外。
装備は耐久・威力ともに低く、あくまで訓練用。
識別札と医療ポーチなど基礎支援装備が中心。
ドレック︰
闇市場品・工業工具を流用した粗末な装備。
自作防具や死亡時契約書で最低限以下の命を保証。
実質的に使い捨て要員として戦場に投入される。
--
兵装は階位の象徴にして、生存の証明。
だが、どれほど優れた装備であれ、使う者が立ち続けねば意味はない。
戦場に名を刻むのは、鋼ではなく意志だ。
装備は道具、勝敗を決めるのは人間である。
記事名:《階位別戦場兵装要覧 ─第1項─》
筆記者:戦術記録官 イリア・メルト