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「皆さんお疲れさまでした。スープを作りましたので、お昼ご飯にしましょう」
二つの戦闘を終えた勇者御一行とレベッカは、さすがに休憩を取ろうということで安全な場所を見つけて食事をとることにした。
勇者アデルたちが防具の見直しや軽微な傷の治癒を行っている間、せっせとレベッカが何かを煮込んでいた。そこからは、草原に吹きわたる自然な風にまじってかぐわしい匂いがしてきている。
フィールドにおいてまともな食事にありつけることはまれなので、四人の目が自然と期待にきらめく。
「レベッカさん、お料理上手なんですね」
早速スープをよそってもらい、一口食べたところでメリッサがレベッカに話しかける。心なしか、その距離はやや近づいていた。
「黒狼たちにエサ遣りをするので自然と……」
「あ、そうですか」
近くなった距離がまた離れたメリッサと、つまりこれは給餌か……とつぶやくアデル。
「人といるのは苦手なはずなんですけどね。不思議ですね、皆さんとは少し気にせず話せます」
「そうなんですね」
メリッサがまた距離を近づけている横で、「ねぇねぇ、アデル。レベッカさんって変な人だけど、意外と悪い人じゃないのかもしれないわね」「いや、騙されるな」とアデルとリアナがこそこそ話しているが、ちゃっかりとスープは飲んでいる。
メリッサは、チームの中でも寡黙で普段はほとんど話さない。しかし、今はモジモジしながらも自分からレベッカに近寄って話しかけていた。
「レベッカさんの言った通り、私たち仲良くなれるのかもしれませんね。不思議です。まだ一日もたっていないのに」
そしてもはや憧憬の眼差しで見つめながらレベッカの手を握る。
「テイムしているからでしょうか」
「あ、そうですか」
まるでコントのように近づいたり離れたりをしているメリッサを、抜け目なく観察しているアデルが、お椀を一気にあおってから、レベッカに問いかける。
「ところで、あんたの目的はなんなんだ?」
アデルは『劇場型人間』とステータスに書かれるくらい演技がかった仕草をする男だが、そのためなのか、筋書きというものを読むのも得意だと自負していた。
近くにずっといたメリッサはすでにレベッカに懐いてしまっている。リアナも最初の警戒心はないようだ。
逆にダフは微笑みながらも一定の距離をレベッカから置いているようだった。以前から抜け目のない男だとアデルは思っていたが、さすがの対応だ。
(おそらくテイムの影響力と距離は、比例している)
アデルはそう推測していた。
たまたま距離を置く配置だったアデルは、冷静にこの状況をこう読んでいた。レベッカは、アデルを魔王討専属勇者にしようとしているのだ、と。
「えっと、先ほど申しましたように、あなたたちを上級に……」
「いや、それは手段だろう。俺たちを上級にして、何がしたい」
「……。私は、テイマーになりたいのです。あなた達が上級になれば、きっと父に認めてもらえる。テイマーになって、フィールドで活動する冒険者に」
「それが最終目的か? その後はないのか」
冒険者の、その後。そこまで考えていなかったレベッカは、予想外の言葉にしばし黙り込む。
「そう、ですね。私には、夢があるのです」
冒険者の夢。それは、フィールドに眠る秘宝を探し当てること。そしてそれをつかんで、魔王を討伐し、富と名声を手に入れること。
そんな夢を、このフィールドという魔物の巣食う地で活躍する冒険者たちは心の何処かに抱いているものである。
オドオドしていたレベッカが、しばしの黙考のあと、キッと目線をあげる。
その強い力の宿る瞳に、アデルもつい引き込まれる。ダフですら、腕組みをほどいてその様子を見守っていた。
魔王との対峙。そんなだいそれた夢も、レベッカとなら。このわけの分からないが底しれぬ力を感じさせる人物となら。身を乗り出してそう感じていたアデル達に、レベッカは告げる。
「魔獣ちゃんたちを街で放し飼いにして、みんなでお世話をする楽園を作りたいのです!」
黒狼にエサ遣りをしてきますと、その場を離れた隙にアベルたちはこの後の作戦会議をすることにした。
「みんなの気持ちは一致したはずだ」
車座になって頷く一同。
「レベッカはテイマーにしてはいけない。人のうえに立たせてはいけない人間だ」
うっかり身も心もテイムされかけた勇者御一行だが、レベッカの夢のおかげで目が覚めた瞬間であった。




