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「勇者御一行をテイムすればいいのよ!」
そう叫んでからは早かった。
呪文を唱え、手のひらをかざし、相手に魔法を放つレベッカ。その流れはあまりにもスムーズで、まるでテイマー上級者だ。
「うわ、わ! 何するんだ、こいつ。敵か!?」
突然のことに慌てふためく勇者たち。同業者たちに襲われることもあり得るので、攻撃魔法かと思ったのだ。
しかし、外傷はない。毒状態でもない。なんなら、少しばかりステータスが上昇しているようにも思える。
勇者たちが自分たちの体を確認している中で、
「ふ、ふ、ふは! 成功したわ!! 初テイムよ」
妙な笑い方をしながらレベッカが茂みから姿を現す。
「は? テイム、だと? お前俺たちをテイムしたっていうのか。正気か!」
当然のごとく怒りを向ける勇者たち四人。
「そもそも、人間ってテイムできるの? 聞いたことないわよ、そんな話」
「しらねえよ、そんなの。できたとしても違法だろ」
ヒーラーと勇者が怒りながら疑問を口にする。
「あの、みなさん。ちょっといいですか?」
怒り心頭な勇者たちをよそに、一人のんびりとした口調で話し出すレベッカ。
「皆さん、ジョブステータスは上級までいっていますか?」
不安そうに眉を下げてそう尋ねる。まるで雨の日に傘を持たない人を心配しているかのような優しい声だが、現実はテイムした人間に対して「あなたの能力は低いのではないですか?」と問うているわけだ。
侮辱されたと捉えても仕方ない言葉をかけられて、さらに激昂する勇者御一行。
攻撃魔法ではないにせよ、訳のわからない魔法をかけられたのだ。気分がよいものではない。あげく侮辱されたのであれば、臨戦態勢になるのも仕方がないだろう。
「まあ」
そんな、激怒しながらそれぞれの得物を構える勇者御一行に対して、レベッカは口元に手を当てて驚く。子どもが地面に転がって癇癪を起こすのを見た貴婦人のように。貴婦人にしては身なりはボロボロだが。
そしておもむろに手をかざす。優雅にかざされた手から、温かな光があふれる。その光が勇者たちのところに届いたと同時に、四人の手元から武器が落ちる。
「な、何をした! 何をしてるんだ、俺たちに」
勇者は叫びながらも、さらに勝手に跪くのを止められない。後ろで叫ぶ弓使い、ヒーラー、タンクも同じく膝を落とす。
「なんだかうるさいわね。テイムってこんなものなのかしら」
わあわあと喚く四人がだんだんと煩わしくなってきたレベッカは、さらに魔法で四人の口を塞ぐ。
「ステータスも見られるのね。でも、困ったわ。やっぱりこの人たち、まだ中級じゃない。どうしましょう。お父様から指示されたのは、上級よ」
テイムできる数は、術者の技術に応じて異なるのだ。誰彼構わずテイムすればいいわけではないと気付く。
「術を解いて他の人をテイムし直すのもいいけれど……。テイムしてすぐに術を解くと、襲われることもあると教科書には書いてあったし……」
一人でブツブツと独り言を言うレベッカ。
ひざまずかされて、口も閉ざされ軟禁状態の四人は、この目の前の狂人が何を言い出すのか、戦慄の表情で見守る。自分たちの運命をもはやこの人物に委ねられることを薄々受け入れ始め、せめてまともな展開を期待して、目と耳に神経を集中させてレベッカを凝視していた。
「そうね、面倒だわ。このままテイムしておいて、この人間を鍛えてしまいましょう」
そしてさらりと恐ろしいことを告げる。
「今日中に上級になっちゃいましょうね」
口を開くことのできない勇者たちは、あまりの無茶ぶりに目を見開いて固まってしまったのであった。




